大河原克行の「白物家電 業界展望」

業績不振のシャープが合計11人ものキャラクターを起用したワケ

 シャープが、今夏のプロモーションにおいて、きゃりーぱみゅぱみゅさん、吉永小百合さんなど、合計11人を起用した取り組みを開始している。

 シャープの2014年度の業績は、2,223億円の最終赤字。さらに、この上期中には国内3,500人の削減をはじめ、全世界で全社員の1割にあたる人員削減を実施。さらに、緊急人件費対策として役員報酬および従業員給与削減を実施している最中だ。

 そのシャープが、この時期に、11人もイメージキャラクターを起用するのは異例ともいえるが、今回の夏のプロモーションは、宣伝費用を増やさずに、広告効果を最大化するために、シャープが挑んだ新たな仕掛けだという。

きゃりーぱみゅぱみゅをAQUOSに起用

 シャープが今年夏のプロモーションに起用したイメージキャラクターの数は、過去最大規模となる。

 AQUOSでは、モデルであり、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんを初めて起用して、7月10日の発売が予定されているAQUOS 4K NEXTの魅力を訴求。6月26日~7月31日まで放映されるテレビCMでは、「美は細部に宿る」をキーメッセージに、8Kへのアップコンバート映像によって実現するなめらかな映像美を表現する。

AQUOS 4K NEXTでは、きゃりーぱみゅぱみゅさんをイメージキャラクターに採用した
シャープ 経営企画本部ブランド戦略部副部長兼表示コンプライアンス室室長の西野正彦氏

 シャープ 経営企画本部ブランド戦略部副部長兼表示コンプライアンス室室長の西野正彦氏は、「きゃりーぱみゅぱみゅさんによって、AQUOS 4K NEXTが特徴とする色再現性とファッション性を表現していただいた。また、きゃりーさんは、クールジャパンの象徴でもあり、AQUOSが日本を代表する液晶テレビであることもあわせて訴求している」とする。

 このテレビCMのなかでは、新曲「おしえてダンスフロア」を披露。きゃりーさんは、初めて社交ダンスにも挑戦したという。さらに、「miniきゃりーを探せ」といった特別問題も用意して、テレビCMを通じて、視聴者に新たな訴求を展開。特別問題の回答を見ることで、AQUOS 4K NEXTの高精細性が伝わることになる。

 一方、ヘルシオシリーズには、シャープの顔ともいえる吉永小百合さんが、「健康長寿」を切り口に訴求を行なう。6月1日~8月31日までテレビCMを展開。7月18日~31日までは、映画「HERO」の公開にあわせて、映画館でもCMを上映する。

 太極拳に初挑戦したとは思えない吉永さんの演技とともに、「毎日の健康は、シャープの願い」をキーワードに、ヘルシオによって実現する健康家電を紹介。ヘルシオ編のほか、ヘルシオジュースプレッソ編、ヘルシオお茶プレッソ編といったバリエーションを用意する。

ヘルシオシリーズでは、吉永小百合さんが「健康長寿」を切り口に訴求を行なう

 メガフリーザー冷蔵庫では、友近さん扮する大物演歌歌手の水谷千重子さんを起用。

 「水谷千重子、理想の冷蔵庫に出会う」をキーワードに、新曲「曇りのち...」の耳に残るフレーズを繰り返しながら、メガフリーザーを訴求する。こちらは、テレビCMはないが、ウェブや量販店店頭の販促プロモーションと連動した形で展開することになる。ウェブ用は横長の画面で表示するが、店頭プロモーション向けには、サイネージにあわせて縦長のバージョンを用意。2分41秒の映像を見終わった後は、曲のサビ部分が耳に残って仕方がないというほどのインパクトだ。

メガフリーザー冷蔵庫では、友近さん扮する大物演歌歌手の水谷千重子さんを起用

 「まだまだメガフリーザーの認知度が低い。水谷千重子さんの起用により、そのインパクトとともに、店頭に来た方々に対して、メガフリーザーの認知を高めるのが狙い」(シャープ・西野氏)だという。

 さらに、同社スマホに搭載されているコミュニケーションツール「エモパー」では、GACKTさん、照英さん、デヴィ夫人、エスパー伊東さん、花澤香菜さんの5人を起用。こちらはウェブを通じて、それぞれの生活のなかでエモパーがどんな役割を果たすのかをストーリー仕立てで紹介している。

コミュニケーションツール「エモパー」では、GACKTさん、照英さん、デヴィ夫人、エスパー伊東さん、花澤香菜さんの5人を起用。ストーリー仕立てで、エモパーの役割を表現する
シャープ コーポレート統括本部ブランド戦略部国内宣伝制作グループ・大湊由紀子チーフ

 「テレビCMの30秒間では、エモパーの良さがなかなか理解していただけない。そこでそれぞれ約2分間のストーリーとすることで、生活のなかで、エモパーがどんな役割を果たすのかを、面白さを盛り込みながら表現した」(シャープ コーポレート統括本部ブランド戦略部国内宣伝制作グループ・大湊由紀子チーフ)という。

営業部門が展開するプロモーションも

 これらは本社ブランド戦略部が展開するプロモーションだが、このほかにも営業部門がブランド戦略部と連動したり、あるいは営業部門が独自に展開しているプロモーションもある。

 サイクロンふとん掃除機「Cornet(コロネ)」では、プロレスラー・本間朋晃選手を起用し、「世界で一番聞き取りにくい新商品PR!!」と題した映像をYouTubeで配信。「本間選手のダミ声と、コロネで取れるダニをかけた」というユニークな発想から、コロネの良さを訴求している。

 また、エアコンでは、沖縄県在住のよしもと芸人、空馬良樹さんを起用して、「特命ミッション in 沖縄」と題し、高温多湿でカビがはえやすい環境にある沖縄において、シャープのエアコンが清潔力を維持できるのかといったことを、ウェブを通じて検証を行なうプロモーションを展開。

 さらに、ACミラン在籍の本田圭佑選手のものまねで人気のじゅんいちタビッドソンさんを起用して、シャープがコンビニエンスストアに導入しているマルチコピー機サービスの利用促進を訴求。「それって、伸びしろですね」のお得意のセリフを使いながら、大学生に試験前のコピーは大学構内以外にもコンビニでも可能であることを訴えている。

 このように、シャープは今夏のプロモーションでは総勢11人というイメージキャラクターを起用し、同社製品およびサービスを訴求することになる。

 ちなみに、シャープでは、吉本興業が展開している「あなたの街に住みますプロジェクト」とも連動。全国で開催しているイベントで、シャープと連携して家電製品を紹介するといった取り組みも行なっている。ここでは全国47都道府県に住む、47組のお笑い芸人と連携することになる。

シャープの元気さをアピール

 では、なぜシャープは、夏のプロモーションにおいて、これだけ多くのキャラクターを起用しているのだろうか。

 シャープ経営企画本部ブランド戦略部副部長兼表示コンプライアンス室室長の西野正彦氏は、「シャープの元気さをアピールしたい」とする一方で、「製品だけではなかなかその良さを訴えられない環境が生まれてきたこと」をあげる。とくに、ウェブを通じたプロモーションに関しては、キャラクターの存在が不可欠であるという。

 「ウェブでは、製品だけの情報を流してもほとんど見てもらえない。だが、キャラクターと連動させることで一気に認知度があがる。ウェブで、製品の良さを訴求するには、キャラクターを起用して目を引く必要がある」とする。

ウェブで、製品の良さを訴求するには、キャラクターを起用して目を引く必要があるという

 夏のキャンペーンで起用した11人はすべて、ウェブサイトを通じた訴求も行なっており、YouTubeやTwitterなども多用している。

テレビCMを絞り込む夏のプロモーション

きゃりーぱみゅぱみゅさんを起用したAQUOS 4K NEXTのCMは6月26日~7月5日までの期間だけの展開となる。その後は、スポット広告を展開する

 今回のシャープの夏のプロモーション展開には、3つのポイントがある。

 まずひとつめは、これだけの人数を起用しながらも、宣伝予算はほぼ前年並みという点だ。

 というのも、宣伝予算の多くを占めることになるテレビCMへの予算投下を極力絞り込んでいるのが、今夏のプロモーションの特徴であるからだ。

 テレビCMの中心となるのは、きゃりーぱみゅぱみゅさんを起用したAQUOS 4K NEXTになるが、同プロモーションでは、6月26日~7月5日までの期間だけ、全国CMを展開。わずか10日間に絞り込んでいる。その後は7月31日までスポット広告を展開することになっている。

 吉永小百合さんを起用したテレビCMは、複数のバージョンが制作され、6月1日~8月31日まで放映。だが、BS放送に限定した放映となる。

 テレビCMを絞り込む分、多くのキャラクターを起用し、テレビCM以外での露出を増やすという作戦だ。

 実際、今回のプロモーションでは、駅や空港などに設置されたデジタルサイネージや交通広告、ウェブ広告などへの展開が積極的に行なわれることになる。

 テレビCMは王道ともいえるものだが、「より幅広い広告メディアを活用することで、テレビCMと交通広告、ウェブとの連動成果や、店頭販促、フェアや合展と連動したトータルプロモーションの実施。ウェブを活用することでの話題性の創出や、瞬間で終わらせずに、引っ張ることでの認知度向上などにも期待している」と、シャープ・西野氏は語る。

15年ぶりにAQUOSのCMから離れた吉永小百合

 2つめには、この取り組みが年末商戦に向けた重要な布石になると考えている点だ。

 年間最大の需要期となる年末商戦では、実績があるテレビCMの数を絞り込み、ウェブなどを多用するといった新たな挑戦はやりにくい。だが、その一方で、家電業界以外では、テレビCMを行なわなくても、テレビCMを行なっている競合他社よりも販売成長が大きく、投資対効果のメリットを享受したという動きもある。こうした動きを捉えて、夏のプロモーションでは、テレビCM以外の多くのメディアを活用するという実験に踏み切ったという側面があったともいえる。

 「今回の成果を検証して、年末商戦におけるプロモーション施策に反映していきたい」(シャープ・西野氏)と語る。

 そして、3つめには、吉永小百合さんを、液晶テレビのイメージキャラクターから、15年ぶりに外したという点だ。吉永小百合さんが、シャープの液晶テレビのテレビCMに登場したのは、2000年1月1日。元日から4日連続で放映されたこのテレビCMは、「20世紀に、置いてゆくもの。21世紀に、持ってゆくもの」というキャッチフレーズとともに、ブラウン管テレビを風呂敷に包み、吉永さんが液晶テレビを抱えるという印象深いものであった。

 15年の間には、香取慎吾さんなどを併用した時期もあったが、液晶テレビのメインキャラクターは、ずっと吉永さんだった。

 それが、今回初めて、吉永さんが液晶テレビのCMには登場しないということになったのだ。吉永さんは、太陽光発電やヘルシオなどのプロモーションも担当したことがあるが、今年夏のプロモーションでは、健康寿命を訴求するヘルシオシリーズだけを担当することになる。

 シャープの西野氏は、「今後も吉永さんをテレビのイメージキャラクターに起用しないということではない」としながらも、「4Kテレビの購入層の裾野が広がっており、30代、40代の購入者が増加しはじめる時期に入ってきた。そこで、今回はきゃりーぱみゅぱみゅさんを起用し、若い人たちに訴求することを狙った」と語る。

きゃりーぱみゅぱみゅさんを起用し、若い人たちに訴求することを狙った

 ここにも夏のプロモーションにおけるシャープの新たな挑戦が感じられる。

 「2015年夏のプロモーションでは、シャープの元気と変化をみせ、目のつけどころがシャープな商品の認知拡大により、売り上げ向上、ブランドの再構築へとつなげたい」と語る。

大河原 克行