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最新ウォシュレットはおしりをだます? トイレは便をスキャンする時代へ
2026年1月27日 08:05
いまやほとんどの家庭にある温水洗浄便座。「ウォシュレット」といった方がすぐ伝わるが、これはTOTOの登録商標だ。実はウォシュレットと呼べるのはTOTOの温水洗浄便座だけなのである。
最近では、なんと「便の状態を記録する」まで賢くなってきた。現代のトイレに至るまでの変遷を紐解くとともに、最新トイレを手掛ける開発者インタビューで聞いた、飽くなき探求心とこだわりをお届けする。
国産初の腰掛式水洗便器から半導体分野まで
TOTOの歴史は1876年にまで遡る。同年に創立した貿易会社・森村組が、陶磁器を自社製造して海外に輸出しようと1904年に日本陶器合名会社(現ノリタケ株式会社)を創立し、初代社長に就任したのが大倉和親、後にTOTOの初代社長にもなる人物だ。ちなみにノリタケはティーカップなどでおなじみの、あのノリタケだ。
当時の日本ではまだ汲み取り式が主流だったところ、大倉は海外視察で目にした衛生的な水洗便器を日本にも普及させようと衛生陶器の開発をスタートさせ、1914年に国産初の腰掛式水洗便器が誕生。その後、衛生陶器の製造販売を目的とした東洋陶器株式会社を1917年に創立、東陶機器への社名変更を経て、2007年に現在のTOTO株式会社へ社名を変更している。
現在はトイレやキッチン、バスルームなどの水まわりを中心とした住宅設備事業に加え、衛生陶器の製造で培った技術をもとに、半導体製造装置に用いられる「静電チャック」などの製造にも取り組んでいる。
節水性を進化させてきたトイレとウォシュレット
国内で洋式便器が普及しはじめたのは1960年頃。公団住宅で採用されたことがきっかけとなった。当時の便器は一度流すのに20Lの水を必要としていたが、以降節水性が大幅に進化。2012年には3.8Lで流せる便器が登場し、4.8Lのモデルとあわせて現在のスタンダードとなっている。
2Lペットボトル約8本分の削減と考えれば、いかに節水が進んだかわかりやすいだろう。節水化の背景には、世界的に洗浄水量が規制・規格化されていることも関係している。
ウォシュレットも同様に、節水性を進化させてきた。実は温水洗浄便座を作ったのは日本が初めてではなく、最初は輸入販売からスタート。TOTO初の温水洗浄便座「ウォシュレット」は1980年に登場している。
温水洗浄便座は水を温める方式によって「貯湯式」と「瞬間式」に分けられる。貯湯式は当時、便座の脇に大きなタンクを搭載していた。そのタンクに溜めた水を常に温めておく必要があるため電気代がかかるうえ、タンクの水を使い切ると湯切れとなり、温かい水が使えなくなってしまうという問題を抱えていた。
一方、使用時にすばやく温水を作る瞬間式は電気代は抑えられるものの、大量の水を温めるにはパワーが足りず、使える水量に制限があるため、少ない水量で十分に洗えるようにする必要があった。
それではどのようにウォシュレットの節水を進めてきたのか。そして最新のトイレについて、TOTOのウォシュレット開発第二部 ウェルネス・通信商品開発グループ グループリーダーの川田賢志さん、ウォシュレット開発第一部 商品開発第三グループ 主任技師の永田雄也さん、ウォシュレット開発第一部 商品開発第一グループの酒井雄太さんに聞いた。
おしりを「だます」節水と洗い心地の両立
ただ水を流して洗うのでは大流量が必要になってしまう。しかし、水量を減らしたことによって洗い心地が損なわれてもいけない。そこでTOTOは水に空気を混ぜ合わせたり、水を揺動させたりすることで、たっぷりの水で洗っている感覚はそのままに使用水量を減らしてきた。ノズルからまっすぐ出ているように見える水は、実はいくつもの水玉を連続して吐水させているのだという。
例えば、TOTOが2017年から採用している「エアインワンダーウェーブ洗浄」では1秒間に約100個の水玉を連射。洗浄水のスピードを周期的に変化させ、先に出た遅い水に、後から出た速い水がおしり付近で追いつくことで大きな水玉を作り出す。そして水玉には空気を含ませることでさらに粒を大きくし、「水がたっぷり当たっている感覚」を向上させている。また、吐水を水玉にして間引くことで、同時に節水も叶えているのだ。
「人の感覚を『だます』というと語弊があるかもしれませんが、水を間引いたりしながらも、常に水が当たっている感覚を与える吐水技術は永田が特に得意としているところです。こうして洗い心地や洗浄力を落とさずに、当初1.2~1.4L/分使用していた水量を430ml/分まで減らすことができました」(川田さん)
研究開発の過程で、開発者たちは手で水流に触れるだけで洗い心地などを確かめられるようになるという話も印象深かった。もちろん、実際にトイレに座って確認できる設備も整っているそうだ。
実際にウォシュレットを使う側として気になるのは、高いモデルと安いモデルの違いだろう。永田さんによると、それぞれポンプの有無と、搭載する洗浄方式の数が異なるという。
「上位モデルのネオレスト、アプリコットのノズルにはポンプを搭載していて、このポンプで水流を脈動させ、スピードを変化させることで水玉を作り出しています。もちろん、ポンプを搭載しない機種でも水玉吐水ができるように、かなりこだわって開発しています」
「また、上位モデルではおしり/おしりソフト/スポットビデ/ワイドビデと4種類の洗浄方式を採用していますが、普及モデルはおしり/やわらか/ビデの3種類です。どちらも工夫しておりますが、ネオレストやアプリコットはやはり洗い心地がいいという声を多くいただきます」(永田さん)
節水性が大きく進化した一方で、ウォシュレット開発当初から変わらないことがある。それはおしりの洗浄角度「43度」だ。これはおしりを洗浄した後の水がノズルにかかりにくく、なおかつ、おしりを効果的に洗い流せる最適な角度だという。
初代ウォシュレット開発時の1980年には、おしりの位置という基礎データが社内にまったくなかった。そこで多くの社員の協力を得て、自分の肛門の位置がどこか、便座に取り付けた針金の上に印を付けてもらい、おしりの位置のデータを蓄積していったとのことだ。
お話をうかがっていて、「これ以上ウォシュレットが進化する余地はあるのだろうか」と思ったが、永田さんいわく「まだまだ」あるとのこと。
「ひとつは節水と快適の追求です。日本の省エネ法もありますし、海外でも節水に関する規制がどんどん厳しくなっているので、引き続き研究を続けていきます。でも我々としては、その先を突き詰めていかなければならない。そのために取り組んでいることもあります。詳しくは言えませんが、今までにない価値、TOTOならではの価値をお客様に提供したいと思っています」(永田さん)
トイレするだけで健康習慣続けられる 最新トイレ開発秘話
このように進化を重ねてきたTOTOのトイレだが、2025年、一風変わったトイレが誕生した。「便スキャン」機能を搭載したウォシュレット一体形便器「ネオレストLS-W/AS-W」だ。
ウォシュレットに内蔵した便スキャンセンサーで落下中の便をスキャンし、便の形(硬さ)・色・量を自動で計測、データはアプリに自動転送され、毎日の便の状態や傾向をひと目で把握でき、便の傾向にあわせた生活アドバイスも受け取れる。普段通りトイレを使うだけで、無理なく健康習慣を続けられることが特徴となっている。
センサーには、バーコードの読み取りなどに用いられるラインセンサーが採用されている。落下中の便にLEDを投光し、便からの反射光をセンサーで受光することを繰り返し、便の形(硬さ)、便の色、便の量を計測する仕組みだ
ラインセンサーを採用した経緯について酒井さんは、「『便を見る』ということは2010年代からずっとやってきています。ただ、その便を『どうやって』見るかというところで試行錯誤をしてきました。今回のラインセンサーで見るというのは、2019年に着手しはじめました。リサーチの過程で特許などの情報を追っていた際に、ひとつの類似技術を見つけて、もしかしたらその技術を応用すればラインセンサーで便を見ることができるのではないか、と思ったのがきっかけです」と説明してくれた。
1次元で撮影するラインセンサーに対して、2次元で撮影するカメラを検討したこともあったが、カメラは画角が広く、便以外のものも写り込んでしまうことで識別精度が下がる問題があった。
「あとは、実際には写らないようにできるんですけど、やはり人の気持ちとしてカメラが入っていると『撮られるんじゃないか』と不安に思うことが懸念されました」(酒井さん)
「お客様にとっては『普段通りにトイレを使うだけ』ということをコンセプトにしていて、自然な形で健康情報を取得して、お客様なりの新たな健康習慣を築いていただきたいという思いが強かったんです」(川田さん)
開発中は会社のトイレと、協力してくれる社員の自宅のトイレに試作機を設置してデータを集めた。標準的な便のデータが集まりやすい反面、コロコロした硬い便や液体状の便といった便秘や下痢状態のデータが少なかったため、開発者たちはサプリメントを摂取して便をゆるくするなど、苦労も多かったという。
だが、その過程で開発メンバーそれぞれが「なにを食べるとどんな便が出るか」といったことがわかるようになり、お腹の調子を継続して記録していくことのメリット、開発している製品の価値を再確認することにもつながった。
集めたデータ数は1,000にも及ぶ。さらにデータをもとにソフトウェアを制作するための「ルール作り」にも苦労したという。
「スキャンした便の分類は、ブリストルスケールと呼ばれる国際的な基準を参考にしているものの、定性的な言葉で表現されているものを数値的な情報に落とし込む作業は、ある程度代表的な形が見えてくるまでも時間がかかりますし、それをさらに汎用的に使えるルールにするのも大変でした」(川田さん)
ルール作りに際しては、会義室にラインセンサーで撮った画像と実際のカメラで撮った画像を壁一面に数百枚貼って、開発メンバーで集まって1つずつルールを書いていった。
「『この写真はこういう特徴がある』とか、『普通(の便)』『コロコロ』とか、特徴をピックアップして書き込みました。それをソフト開発部隊に『この特徴を使って識別率が一番高くなるように組んでください』と頼んで、組んで見直してを繰り返し。このプロセスが一番思い出深い、苦労した点になります。製品の肝となる部分だったので、ここがコケると全部がダメになってしまうということで、プレッシャーも感じながらやってきたところです」(酒井さん)
酒井さんによると、このように健康習慣に役立てられるトイレは、実は20年前から存在していたという。
「トイレ空間で尿糖値や体重を測れる『インテリジェンストイレ』を開発し、大和ハウス工業から2005年に発売、医療用トイレとして尿の量を測定する『フロースカイ』を2008年に発売しました。こちらは数は少ないものの、現在も医療現場に納めています。TOTOとしては、もう20年以上前から健康に対してアプローチしてきた経緯があります」
「製品だけではなく、測定する対象物(排泄物など)がどんなものかというのはずっと研究を続けています。社内だけではできないこともあるので、大学や分析を専門とする会社に、実際に排泄物を持ち込んでどういう成分なのかを見たりして、対象物を知る活動も行なっています」(酒井さん)
トイレで便をスキャンして健康習慣に役立てる。一風変わった機能に思えても、実は長年まじめに健康問題に取り組んだ結果なのだ。
ずっと健康でいたいとは思っても、毎日積極的にアクションを起こすのは難しい。TOTOのネオレストLS-W/AS-Wは座って用を足すだけと、健康習慣を続けるハードルを下げた製品ともいえるだろう。
新築やリフォームなどでトイレを選ぶときには、デザインや節水性が重視されがちだが、もしかしたら今後は、健康習慣に役立てられるかどうか、といった指標も出てくるかもしれない。TOTOがこれからどのように健康へのアプローチを発展させていくのか、注目し続けたい。


















