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トイレはどう作られる? TOTO便器工場の職人技がすごかった
2025年12月23日 08:05
皆さんは普段使っている便器がどのように作られるかご存じだろうか。素材はメーカーによって異なるが、実はその多くが陶器でできた「焼き物」。お皿と同じように窯で焼かれて出来上がるのだ。
といっても、土を型に流し込んで固めて「ハイ、完成」とはいかず、複雑なパーツを貼り合わせたりする必要があり、自動化が進みつつある現在も職人による手作業で仕上げられている。
今回、温水洗浄便座「ウォシュレット」でも知られるTOTOの福岡県北九州市にある小倉第一工場を訪れ、その製造工程と職人の確かな技術を間近で見てきたため、その様子をレポートしたい。
トイレは「地産地消」 新製品の開発担う小倉工場
便器や洗面台といった水まわりに用いられる陶器のことを衛生陶器と呼び、TOTOの衛生陶器は日本を含む9つの国と地域で生産されている。世界に生産拠点を設けているものの、基本は「地産地消」。各国や地域に合った製品を現地で生産・供給している。
TOTOのマザー工場にあたるのが、今回訪れた小倉第一工場だ。グローバルで展開するウォシュレット一体形便器のフラッグシップ「ネオレストNX」の世界で唯一の生産拠点となっているほか、新製品の開発も担っている。
小倉第一工場では腰掛便器(洋式便器)のほか、男性用小便器、洗面器、乳児用バスといった製品を生産。国内で男性用小便器を生産しているのは小倉のみとなっており、同工場の1日の生産台数のうち、7割が男性用小便器とのこと。
ちなみに、最近ではあまり見かけなくなった和式便器も根強い需要があり、台数にしてTOTO全体の0.1%とごく少数だが、愛知工場で製造が続けられている。
熟練の職人による繊細な手作業
便器を含む衛生陶器の製造工程は大きく6つに分かれる。「調製」「成形」「乾燥・生素地点検」「施釉」「焼成」「検査・組立」だ。
調製工程では、原料となる粘土、長石、陶石など20種類以上の天然素材と水を直径4mのシリンダーミルに投入。約20時間回転させ、細かく粉砕して泥水状の泥漿(でいしょう)を調合する。
次に出来上がった泥漿を型に流し込み、便器を成形する。TOTOでは「石膏成形」と樹脂型を使用する「加圧成形」の2種類の成形方式を採用。石膏型は低コストで作れるものの、型自体の寿命が短く、1日に使用できる回数も2~3回と少ないため小ロット生産に向く。多品種小ロット生産の小倉第一工場では石膏成形を採用している。
石膏型に泥漿を流し込むと、石膏の吸水性により泥漿の水分が抜けて固まっていく。石膏型が1日に数回しか使えないのも、だんだん吸水性が落ちてしまうからだ。
泥漿はカチコチに固めず、まだ油粘土くらいのやわらかさの状態で取り出し、組み立て、人の手で便器の形に仕上げていく。各パーツはやわらかく変形しやすいため、ロボット化が難しいという。
組み立て時には、固める際にできたバリのようなものを削ったり、パーツの繋ぎ目をなめらかにしたりして、美しい表面に仕上げる。乾いてしまわないように素早く、でも丁寧に。職人の技が光るところだ。
今回、特別にミニチュアサイズの便器で体験させてもらったが、力を入れるとへこんでしまうやわらかさのものを加工するのは本当に難しい。簡単に変形してしまうため、素人では触れば触るほど汚くなる事態に陥ってしまった。
実際には何倍も大きくて重いのだから、扱いにくさはこの比ではないだろう。指導を担当してくれた職人も「やわらかいのでとにかく気を使う」と、製品を作る際の難しさを語っていた。
「焼くと縮む」問題 全数検査のこだわり
陶芸を体験したことがある人はわかるかもしれないが、陶器は焼くと縮む。まず乾燥時に約3%縮み、焼く際に10%も収縮。また、全体が均一に縮むわけではなく、重力などの影響を受けて部位ごとに収縮率が異なるという。
そのため、こうした変形を予測して型を作る必要がある。一例として男性用小便器であれば、天面がカーブするように膨らませて成形することで、焼いた後に平らになるのだそうだ。
成形した陶器は約2日かけて乾燥され、ひび割れがないか、目視で全数点検が行なわれる。
このまま焼くと「素焼き」となり、水分を吸ってしまうため、釉薬を吹きつける施釉工程へと進んでいく。小倉工場では小便器や一部の大便器の施釉はロボット化されているが、そのほかはスプレーガンを使って、人の手で丁寧に行なわれていた。こちらも、美しい見た目と均一な厚さを両立するため、熟練の技術が必要となる。
焼成工程では、全長100.5m、中心温度が約1,200℃にも達するトンネル窯で24時間かけて焼いていく。ひとつの窯で異なる形状の製品を同時に焼くため、火の回り方を考慮して製品の向きなどを変えて積み込むといった工夫がこらされている。
焼成後は資格を持った検査員が全数検査を実施。完成品をいくつか抜き取って検査するのではなく、製造したすべての製品をチェックしている。
検査では目視でサイズや傷がないかを確認するほか、「音」でチェックする打音検査も行なわれる。これは内部にクラック(ひび割れ)が生じていないか判別するもので、実際に聞いてみると、大きなクラックはなんとなくわかるものの、小さなクラックについては素人にはまったく聞き分けられなかった。
さらに実際に水を流してトイレとしての洗浄性能もチェック。こうして厳しい検査に合格した製品だけが届けられているのだ。
国を代表した熱き戦い 衛陶技能選手権に潜入
上述した通り、成形はやわらかいパーツを扱うため繊細な手作業が必要となり、職人の腕が問われる工程だ。この技術を向上させ、若い職人たちのモチベーションアップにもつなげようと、TOTOでは「衛陶技能選手権 成形の部」が実施されている。
同選手権は2012年に国内でスタートしたが、2014年には海外拠点からも参加し、国内外の職人たちが交流できる貴重な場にもなっている。2025年度大会には、国内は小倉、中津、滋賀、愛知の4拠点から、海外はアメリカやベトナム、中国をはじめとする9拠点から、合わせて28名が参加した。なお、選手権はほかにも「施釉の部」「原型の部」が開催されている。
大会では、ミニチュアサイズの便器を貯金箱に加工する技術が競われる。競技内容は、上面にコイン投入口と星型の穴をあけ、底にもコインを取り出す穴をあける。さらに、便器の胴を上下に切断し、高さを10mm以上カットして上下を接着。バリなどを処理し、接着部がわからないように表面をなめらかにして、1時間以内に完成させるといった流れ。各工程の仕上がりの正確さが評価されるという。
筆者が注目していたのは、昨年度チャンピオンを輩出したベトナム拠点の選手。職人になって7年というディン・ティエン・ズンさんはロボットのように正確な手つきで作業を進めており、完成度の高さが素人目にも明らかだった。
そして大会終盤に会場を沸かせたのがタイ拠点の選手たち。この大会では使用する道具はそれぞれが持参することになっているが、タイ勢はなんと化粧筆を持ち出し、最後の仕上げに使用していた。
その甲斐あってか、タイ拠点のトンチャイ・アムニピットさん、スパレーク・ジーンプラーンさんは大会の1位と3位の栄冠を手にした。2位はインド拠点のハサッド・ソランキさん、筆者が注目していたディン・ティエン・ズンさんは惜しくも4位。1位~3位の入賞者にはTOTOの田村信也社長から賞状が贈られた。
聞けば、海外拠点では日本に行くチャンスを勝ち取るため、100人規模の予選会が行なわれることもあるという。会場に集まったのは予選をくぐり抜けてきた精鋭というわけだ。
こうした選手権で職人たちが互いに切磋琢磨しあうことも、TOTOの技術力がグローバルで高水準を保ち続けている理由なのだろう。
「良品と均質」ブレやすい陶器とブレない考え
冒頭にもお伝えしたが、便器は焼き物。乾燥・焼成時の収縮などにより、どうしても仕上がりにブレが出やすい製品だ。そうしたブレを全数検査で厳しくチェックするところにTOTOのこだわりを見た。
抜き取りではなく全数を検査する。そのこだわりは、同社の社是のひとつ「良品と均質」に基づいている。これは5代目社長・江副孫右衛門が定めたもの。同氏は、1,000個に1個の不良があれば会社にとっては0.1%の不良となるが、購入した人にとっては100%の不良であると考え、社内に「良品と均質」を厳しく求めたという。60年以上が経った今も変わらず受け継がれている精神だ。
当たり前すぎて意識することは少ないかもしれないが、便器は人の生活において必需品である。普段、なにも考えずに安心して使えるのは、熟練の職人たちの手と徹底した検査を経ているから。それは今後も変わらず、ここ小倉第一工場から、人々の暮らしを支える衛生陶器が送り出されていくだろう。




















