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床を踏むだけで発電? 小さなエネルギーを電気に変える三菱のチリツモ技術に驚いた

三菱電機は、超小型の電磁誘導発電モジュールを開発した

人の生活に欠かせなくなった電気を生み出すために、火力や太陽光、水力や風力……それに原子力と、様々な仕組みが使われている。そんななか、三菱電機が「自然界のわずかな動きや人の動作で効率よく発電する電磁誘導発電モジュールを開発した」と発表した。

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「わずかな動き」とは、そよ風や弱い水の流れ、人がドアや窓を開閉したり床を踏む動きなどだという。つまり日常的に、どこにでもある動きや力を使って発電できる、メガでもマイクロでもなく「ピコ発電」できる超小型の発電装置……発電モジュールが、どんな仕組みで、どんな可能性を秘めているのかを聞くべく、開発した三菱電機の先端技術総合研究所、武舎武史さんを訪ねた。

エアコンの風でも発電できる

前述のニュースリリースで発表された発電装置……発電モジュールを、武舎さんは次のように語る。

「分類で言うと、いわゆる電磁誘導発電です。ぐるぐると導線を巻いたコイルの中で磁石を動かすと、その動きによって電気を生み出すというのが電磁誘導による発電です」(武舎さん)

三菱電機の先端技術総合研究所、武舎武史さん

この電磁誘導による発電自体は、中学生の理科で習うほど一般的なもので、これまでも様々な用途で使われている。では、武舎さんが開発した「電磁誘導環境発電技術」を搭載した発電モジュールは、それらと何が違うのか。

「通常はコイルの中心は、鉄だったり空気だったりします。そのコイルの部分に、複合磁気ワイヤーという特殊な磁性材料を入れているのが大きな違いです。そして、複合磁気ワイヤーを入れることで、“わずかな動き”のエネルギーを利用して発電できるんです」(武舎さん)

そんな、“わずかな動き”でも発電できるモジュールを、2サイズ……2形状、開発した。

コイルの中で磁石を動かすと発電する、電磁誘導の仕組み。コイルの中心に複合磁気ワイヤーを採用した点が、一般的な電磁誘導との違い
同じ複合磁気ワイヤーを採用した2タイプ……形状の発電モジュールを開発した

小さい方の発電モジュールを組み込んだ、小さな箱を見せてくれた。箱を振ると中の磁石が動いて発電。その電気でLEDライトを点灯させるというデモ用のプロトタイプだ。

小型の発電モジュール。同モジュールを内蔵した箱を振ることで発電し、LEDライトを点灯させるデモ
小型発電モジュールを組み込んだ、LEDライトを点灯させるデモ用のプロトタイプ

ところで、“わずかな動き”を電気に変換できるメリットは、どんなところにあるのか。

「従来の電磁誘導では、ある程度以上、速く磁石を動かす必要がありました。一方で今回の発電モジュールは、ゆっくりとした速度でも動けば必ず発電します」(武舎さん)

例えば、デモ用として武舎さんが手作りした風力発電装置では、卓上のUSBファンの「弱」モードでも、大きな電気ではないが、発電できていた。風はそよ風というか、屋外で使っても風が起きていると気が付かないくらいの弱い風だ。

この装置は、新開発の発電モジュールを使った発電機のほかに、温湿度センサーを搭載する。もちろん乾電池などは備えていない。USBファンの微風を、装置に取り付けたプロペラが受けて軸を回すことで発電素子を動かし、わずかな電気を生み出すというもの。発電した電気により、温湿度センサーで取得したデータを、ワイヤレスでパソコンにどんどん送信していた。

「電磁誘導環境発電技術」の発電モジュールを実装させた風力発電装置。矢印の先のパーツが、発電モジュール
そよ風よりも弱い風で発電し、温湿度センサーで取得したデータをワイレス送信していた
パソコンが受信した温度と湿度のデータ

重複するが、風力や水力、圧力でも、エネルギーは問わず、従来の電磁誘導タイプの発電では、元となる風や水の流れなどにある程度以上のパワーが必要だった。その下限の制約が、新たな発電モジュールを使うことで、ググッと下げられたということ。

「エアコンの室外機のファンの風など、そのくらいのレベルの風でも発電できます。また水流であれば、これまでは小型の水力発電でも、小さな滝になっているような、ドンッと激しい水の流れが必要でしたが、これであれば、落差不要で発電できます」(武舎さん)

もっと身近な、家電製品で言えば、防犯用の窓やドアの開閉センサーに、武舎さん開発の発電技術を実装できたら便利だろう。誰かが窓やドアを開く……または開こうとすると、「〇〇の窓が開きました」とスマートフォンやパソコンに通知が届くといったことも可能になる。

「従来の電磁誘導発電とは異なり、窓をバンッ! と速く開閉しなくても、例えば侵入者が、そ〜っと窓を開いても発電できます。そうした防犯用の機器にも応用できるでしょう」(武舎さん)

何年も開閉しない、メンテナンスへも行かない、倉庫や空き家に取り付けたら便利そうだ。

塵も積もれば山となる発電

「電磁誘導環境発電技術」は、そよ風のような小さなエネルギーで、大きな電気を生み出す……といった魔法の発電技術ではない。そよ風であれば、それなりの小さな電気しか発電できないし、パワーが速く強いほど発電量も大きくなる。その発電量は、どれほどなのか?

「何ワットって言うほど出ません。このUSBファンの弱風であれば、無線でデータを発信できるレベルではあります」(武舎さん)

では、ソーラーパネルのような発電機の、代替になるほどの発電量は見込めないのかと言えば、そうでもないらしい。

「ソーラーパネル2枚分の一般的なスペースは2×1.5mくらいです。発電量は、およそ500Wだとします。その同じスペースに、現在目標にしている1台で4Wを発電できる、小型の風力発電機を18台設置すると、約72Wの発電量が見込めます。現在の発電システムを代替できるほどではなくても、補助的な役割を担えるんじゃないかと考えています」(武舎さん)

というのも、例えば風力発電は、太陽が出ていなくても風が吹けば発電できるのが利点だという。都心のビル街であれば、常にビル風が発生する場所もある。

「風の吹き方にもよりますが、1日や年間の総量で言うと、やり方によっては太陽光発電を超えられるかもしれません。また、ソーラーパネルの代替ではなく、ソーラーパネルといっしょに設置することで、補助的な役割を担えるとも考えています」(武舎さん)

例えば、小型の風力発電を何基も敷き詰めた上に、ソーラーパネルを設置するといったことも考えられるという。設置スペースの限られているビルの屋上などでは、そうして太陽光と風力を重層的に運用できれば、互いに補完できる。

また、武舎さんが自作した床発電も大型化していきたいと語る。今回、会議室で見せてもらったものは、床を踏むことで発電する10cm角のシステムのプロトタイプ。発電素子と磁石の発電ユニットが6セット組み込まれている。

床発電システムのプロトタイプ。10cm角の中に、6セット組み込まれている。これを50cm角にして内蔵ユニットを増やし、6Wの発電量を目指す
床発電システムのイメージ図

「人は歩く時に1秒間に2回、着地すると言います。その場合、10cm角のシステムのプロトタイプでは発電量は10mW程度、30cm角のシステムで200mW程度です。これだとまだ少ないですけれど、今後、サイズを50cm角に大型化して、内蔵する発電ユニットも増やすことで、6Wの発電を目指しています。この目標が達成されれば、10分間踏み続けることで、iPhone 13のバッテリーの10%程度、約8.64Whを充電できるようになります」(武舎さん)

10cm角の中に、6セットの発電ユニットを搭載した、床発電システムの試作品

そのくらい発電できれば、被災時の災害避難所での活用が見込めるのではないかという。

「よく手で回して発電するラジオがありますが、手回しで充電しようとすると、何十分も、ある一定の速さで回し続ける必要があります。使ったことがあれば分かると思いますが、とても重いですよね? 重いのは、従来型の電磁誘導技術を使っているためなのですが、いずれにしても手で回し続けるのは疲れるものです。でも、足踏みであれば体重も利用できますから、そうキツくはないと思います」(武舎さん)

見せてもらったプロトタイプは、「とりあえず動作するレベル」のものだが、今後需要が見込めれば、専用の設計や開発を行なう必要があるという。

「夢はどんどん広がりますが、目指しているのはメガでもマイクロでもないピコ発電です」(武舎さん)

今までは発電に使えないほど小さな、身の回りに常にあるパワーやエネルギーを活用する、新しい電磁誘導発電モジュール。今後、どのように進化し、社会実装されていくのか楽しみだ。

河原塚 英信