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日差し防ぐロールスクリーンで発電できる? LIXILで見てきた
2025年9月10日 08:05
自宅の窓から部屋に太陽の光が差し込んでくると「この光で発電したいな」と感じる人も多いだろう。筆者も、これだけの太陽エネルギーが注がれているのに、発電しないなんてもったいないと思ってしまう。
LIXILの「PV(太陽光発電)ロールスクリーンシステム」は、そうしたニーズに応える製品。名前のとおり、ロールスクリーン型のため、仕事をしていて「日が差してきたなぁ……眩しいなぁ」と思ったら、ボタンを押せば、ロールスクリーンが下がってきて、光を遮るだけでなく発電も始まる。
そんな、法人向けの受注販売が6月に始まったばかりの「PV(太陽光発電)ロールスクリーンシステム」を実際に見るべく、同社の研究開発拠点の1つにいる、開発者の石井久史さんを訪ねた。
薄膜PVセルを採用した、巻き取れる太陽光パネル
LIXILの研究開発拠点の1つが入っているビルに着いたのは9時少し前。ビルの東側へ行ってみると、太陽の光が直撃している。いつもなら「ここで仕事している人は陽差しが強くて大変そうだな」と思うかもしれないが、この時は「絶好の発電日和だな」と思った。ほとんどのフロアで一般的な日除けシェードが下がっているなか、1カ所だけLIXILの「PV(太陽光発電)ロールスクリーンシステム(展示用)」が置いてある。
同品は、ロールスクリーン状の屋内設置型の太陽光発電設備。リモコンのボタンを押すと、巻かれていたスクリーンがモーターによりスルスルスルと下がってくる。
スクリーンの2/3くらいが開くと、小さなLEDライトが光り、給電が開始できることを知らせてくれる。スクリーンを囲う枠の下部には、USB Type-CポートとDCポートがあり、それぞれケーブルをつなげれば、スマートフォンやポータブル電源などを直接充電できる。
スクリーンのサイズは設置する建物や窓にあわせて変わるが、最大出力はいずれも100W。もっと出力を上げることもできるそうだが、安全性などを考慮して、100Wに決めたという。
太陽電池の発電層には、薄膜系のPVセルテクノロジーが採用されている。薄膜PVセルは、よく屋上や平地に設置されているシリコンよりも薄い材料で、軽量かつフレキシブルな特性を持っている。そのため、スクリーンの表面に貼り付けてあっても巻き取れる。
巻いて収納できるということで、話題のペロブスカイトを使っているのかと思ったがそうではなかった。薄膜PVセルは既存技術。信頼性や耐久性が実証済みだ。まだ開発段階であり、実証が十分ではないペロブスカイトを採用するメリットは、現時点ではないと開発者の石井久史さんはいう。
その薄膜PVセルを使った同機は、どのくらい発電できるのか?
取材時、「PV(太陽光発電)ロールスクリーンシステム」には、別売……というか、家電量販店などに売っている市販の、容量256Whのポータブル電源が繋げられていた。発電量を確認した12時頃には、太陽は高く昇ったあとのこと。ビルの低層階の東面の窓際に設置された同機は、それでもリアルタイムで13W前後を発電していた。
「8時とか9時頃は、もっと直接光が当たるため、発電量も多いです。今日も、ほぼゼロだったポータブル電源が、今は70%(約180Wh)が充電された状態です」(石井さん)
スマートフォンの種類にもよるが、1枚のスクリーンで、少なくとも7〜10台くらいはフル充電できそうだ。なお、同機が搭載するUSB端子からも直接スマートフォンなどを充電することが可能。ただし、石井さんによれば、モバイルバッテリーやポータブル電源に充電したものを、オフィスの各デスクで使うという想定をしているそう。
「バッテリーや、電気を交流(AC)にするインバータを内蔵しないのか? という話もありますが、製品に内蔵させるよりも、家電量販店などでポータブル電源や容量が大きめのモバイルバッテリーを購入された方が断然安いです。それに内蔵させると、修理が必要になった時に、修理期間にスクリーンが使えなくなってしまいます。そのため、スクリーンに内蔵させるユーザーメリットがないんです」(石井さん)
発電した電気を、モバイルバッテリーやポータブル電源に溜めておけば、スクリーンの近くでなくても、使いたい場所で電源を確保できる。また災害時に避難を要する場合にも、電源を持ち運べる。スクリーンにバッテリーを内蔵させるよりも、理にかなっているのだ。
開発イメージは、日本に古くからある簾(すだれ)
先述のとおり、1枚のスクリーンでの発電量を聞く限り、「ふぅ〜ん……そのくらいか」という感じだった。だが「PV(太陽光発電)ロールスクリーンシステム」が実現するのは、発電だけではない。発電効率だけを考えれば、太陽光パネルを建物の屋上に設置する方が格段に効率的で、太陽光パネルを窓際に立て掛けてもいいだろう。
だが実際には、屋上には太陽光パネルの設置スペースは既にない建物が多い。もしくは設置やメンテナンスなどのコストを考えると、なかなか導入できない。また太陽光パネルを窓際に立て掛ければ、室内は真っ暗になってしまい、窓のない地下室で働くような気分に陥ってしまうだろう。
石井さんがスクリーン型で開発を進めたのは、そのためでもある。開発イメージには、日本に古くからある簾(すだれ)があったという。同機は、完全に遮光するのではなく、太陽の強烈な光を和らげつつ、簾の隙間から漏れてくるような優しい光が部屋の中を明るくする。
さらに枠の左右にはガイドレールがあり、スクリーンがまっすぐに上下する。一般的なスクリーンのようにエアコンの風などで、ひらひらすることはない。また、スクリーンをぴったりと窓枠に収めることで、スクリーン間の隙間からまぶしい光が室内に差し込むこともないし、なにより断熱性の向上も図れる。
常にエアコンが効いているオフィスでは感じにくいが、自宅に籠もって仕事をしていると、エアコンで一旦室温を下げても、エアコンをオフにすると、夏であれば室温がぐんぐん上がっていくのを感じる。これは主に窓から外の熱が伝わってきているから。そのため多くの家ではカーテンなどを閉めて、夏には窓の外側から過剰に入ってくる光や熱を遮り、冬には室内の熱が窓の外側へ逃げるのを抑える。
同機も同じように、スクリーンとして日射を遮蔽するのはもちろん、遮熱にも役立つ。しかも優秀だ。
「既存の単板ガラスのみと比べて断熱性は2倍くらい向上します。つまり、熱の出入りを半減できるということです」(石井さん)
夏であれば、オフィスの広い窓から侵入してくる外の熱の多くを遮ってくれ、逆に冬であれば、暖かい室内の空気が失われにくくする。そのため、空調コストの省エネ化も期待できる。
室内を快適にするPVロールスクリーン
開発者の石井さんが狙ったのは、単に発電できるスクリーンの開発ではない。太陽の光を程よく制御し遮熱性を高め、さらに発電するスクリーンだ。太陽光で発電しつつ、その太陽光でまぶしさを感じさせない程度の心地良い光を取り込み、夏は室温が上がりにくくし冬は室温を下げにくくする。つまり、目指しているのは「室内を快適にするスクリーン」だ。
オフィスや事務所であれば仕事の効率を上げ、カフェであれば会話が弾むような空間が理想だ。しかもこれを、既存の建物で大げさな工事なしで、可能にする。
「ビルを所有する企業の多くが、壁面発電に関心を寄せています。壁面を使って少しでもゼロエミッションに近づけようとしているんです。新築であれば、発電機能を備えた建材を使うのも一つの方法ですが、既存のビルでは、そう簡単に取り替えられません。関係する役所に工事許可を申請したり、ビルの外側に足場を組んだりと、工期は何週間もかかります。その分、コストはかさみます。」
「そこで選択肢に上がるのが、今回のPV(太陽光発電)ロールスクリーンシステムだと考えています。大掛かりな工事は不要で、壁面を有効活用できるように変えられるからです」(石井さん)
同機の設置は、LIXILリニューアル社の専門スタッフが行なう。窓枠を測り、同機をぴったりと取り付けられるサイズに作り、後日に搬入して設置する。工期は、規模にもよるが1日〜数日で終わる。
「PV(太陽光発電)ロールスクリーンシステム」は、既存のビルを快適空間にサクッとリニューアルしつつ、ゼロエミッションにも近づけられる、一挙にいくつも得になるシステムと言える。既に福岡県宗像市の市役所や中学校に設置されている。今後さらに既存ビルへ導入されていくのが楽しみだ。







