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洗濯機の名店ならぬメーカー「アクア」は想像以上に洗いのプロだった!
2019年2月18日 06:00
飲み屋や飲食店には「根強いファンがいる名店」や「長く愛されている老舗」というのをよく聞く。こういった店は取材お断りで、店主はまずこだわりの強い職人。その魅力は客同士の間で広まっていき、現在へと脈々と受け継がれている……。
こんな言葉は、店だけでなく宿や観光地にもよく使われるが、実は家電業界にもこの言葉がピッタリくるメーカーがある。
それが洗濯機一筋67年、洗いにこだわる頑固な職人が脈々と開発を続ける「アクア株式会社」だ。
洗いのプロが勢揃い! エポックメイキングな技術が光るアクアの洗濯機
洗濯機売り場で、特に縦型洗濯機を見に行ったことがある人なら、パナソニックや日立、シャープや東芝の洗濯機に混じって、AQUA(アクア)と銘打った洗濯機を見たことがあるはずだ。
販売店で人が一番多く通る中央通路側は、“高級”洗濯機が展示され、人が少ない壁のほうに進むごとに、普及型、低価格型が展示される。アクアの製品は、手の届きやすい価格にするために大手メーカーと比べて機能を絞っていることが多く、人が少ない壁の方へ展示されがちだ。
今回、開発拠点である京都のR&Dセンターでお話を伺った皆さんの中にも、アクアの前身である三洋電機時代からのエンジニアが多くいた。三洋時代の洗濯機の型番を言えば、特徴を延々説明できるという凄腕エンジニアぞろいなのだ。いや、マジで、びっくり!
20代よりも若い人は「三洋電機」や「SANYO」にはなじみがないかもしれないが、比較的新しく有名なブランドには「エネループ」がある。エネループを擁していた電池部門は、現在ではパナソニックと統合され、パナソニックのエネループとして販売されている。またパンにごはんを混ぜた「ごパン」を焼くホームベーカリー、高級炊飯器の元祖、かけた圧力を一気に抜きお米を踊らせる「おどり炊き」なんかも記憶に新しいだろう。
また40歳以降の読者なら、洗濯機は知らなくても、横に細長くスリムなラジカセ「サンヨー U4(ユーフォー)」を持っていたなんて方も多いはず。
チョイチョイ爆発的人気の製品を世に出し続けてきた三洋電機だが、パナソニックに統合された際、一部の事業が中国のHaier(ハイアール)に継承された。その際、一時的に社名の一部にHaierの表記があったため、日本のブランドではないと思う人が多いのだろう。
確かに社名はアクアになったが、これは中国の資本が入ってもその名が残っているシャープや東芝と一緒である。
Haier側から見てみれば、三洋の尖った技術者、とくに数々のエポックメイキング的な技術を持つ三洋電機の洗濯機が欲しかった。もちろん本家Haierでも世界に向けて洗濯機を製造・販売している。
ただまったく同じ製品というわけではないという。日本で標準装備の「風呂水ポンプ」は、世界からしてみると「汚い水で洗濯する日本はおかしい!」と外され、ドアは重かろうが開けばいいのでバネは入れず、しまればいいという考え方の機種もあるそうだ。
日本初・世界初の技術だらけの三洋電機 洗濯機部門=アクア洗濯機の歴史
アクアの前身、三洋電機は昔から尖ったエンジニアが多く、新しい技術を次々導入し時代の最先端を行く風潮があった。その代表例が、今でこそ当たり前のテレビのリモコンだ。世界で始めてテレビにリモコンを搭載したのは三洋なのだ。その名も「スバコン」(笑)。
まるで懐中電灯のようなリモコンは、テレビのON/OFF、音量、チャンネル(順送りのみ)が可能で、当時ダイヤル式だったチャンネルをモーターがガッチャンコ! と順に回し続けたのだ。
同じ風土で育った洗濯機もしかり。それまで容器の中についた羽が左右に動くだけの洗濯機だったが、1953年(昭和28年)には、洗濯機の側面にパルセーター(縦型洗濯機で水流を生み出す羽)をつけた「噴流式」も三洋が日本初。
さらに現在の縦型の原点となっているパルセーターが底についている洗濯機を、「渦巻き式」と名付けて販売したのも三洋が日本初なのだ。すげー! ほかにも一定時間おきに右回り・左回りするのも、2槽式を渦巻き式にしたのも、糸くずフィルターや洗濯コースをマイコンで選択できるようにしたのも三洋。
また今では当たり前の、洗濯物を入れると重さを量ってくれて、自動的に入れる洗剤量をガイドしてくれるようにしたのも三洋なのだ。
とにかく洗濯機の基礎技術となる日本初の機能が三洋電機時代に約20個もある。が、エンジニアは特許の申請よりも技術開発に余念がなかったので、スグに各メーカーに特許の抜け道を見つけ出されてしまい、真似されてしまったという(笑)。まぁ今でも「ペンを持つより工具を持て!」みたいな職人肌のエンジニアいますしね。
さらに世界初の技術も持っている。粉洗剤をすばやく溶かすために超音波を使ったり、縦型洗濯機だけど少しドラムを斜めにして節水と洗浄力を向上させたり、電解水を作って洗剤なしで洗濯・除菌したりという製品があるのだ。
パワフルさと生地へのやさしさを両立、「新」洗濯機登場!
アクアの民生機のこだわりは「洗いがパワフル」なのに「生地にやさしい」という点。これまでの洗濯機開発で培ってきた知見と技術を活かし、相反する課題の両方をクリアしている。
それが「衣類のアンチエイジング」を謳った洗濯機「GTWシリーズ」だ。頑固な泥や油汚れも落とせる縦型洗濯機で、外観は白一色にまとめられ、とてもシンプル。容量は10kgと9kgの2モデルだ。シルバーやアイボリーの機種が多い中、ピュアホワイトのボディは販売店でもかなり目立つだろう。
その外観を印象付けるのは、1枚の強化ガラスでできたトップドア。内側のドアも透明なガラスでできているため、洗濯中でも中が全部見渡せるというデザインだ。
さらに特徴的なのは、操作パネルが奥側にある点。通常は手前に配置するのがセオリーだが、コインランドリーのように操作部を奥に配置するも、洗濯槽を限界まで手前に配置している。こうすることで小さな女性でも洗濯槽の底まで見えるだけでなく、楽に底まで手が届くので、底に残りがちな靴下や小さなタオルまで楽に手が届くようになっている。
操作部のスイッチは、ドアを上げるとドアの手前に来るようになっておりドアを上げた状態での操作も可能。また表示パネルはドアのガラス越しに見えるようになっている。
ワイドな洗濯槽は底面までステンレス製で、カビや汚れがつきにくい構造。毎回のすすぎの水を利用して、洗濯槽を自動清掃しカビの発生を抑えるという。
さらに衣類を傷めないように、ステンレス槽の凸凹は立体的な曲線で構成され、脱水用の穴は小さく衣類が触れづらいようにくぼみに作られている。
水流の要となる底にあるパルセーターは、片面が急斜面、片面が緩斜面になっているのが特徴だ。おしゃれ着など手洗いのようにやさしく洗うには緩斜面で水流を作りやさしく洗う。頑固な泥汚れなどの場合は、逆回転させ急斜面側を使い強い水流を作り出し、繊維の置くから汚れをたたき出すようになっている。
さらに洗い工程の最後には、すすぎではなく、洗濯液を洗濯槽上部からシャワーのように流し、洗濯槽を回転させることで、衣類の汚れを繊維の中から搾り出すように機能する。
面白いのは、糸くずフィルターの構造だ。糸くずフィルターは、まず水流を整えて、フィルター内に水を導く。次に内部にある羽状のバルブが水流に応じて片方だけ開き、フィルターに水を通すようになっている。水流が逆の場合は、バルブが逆支弁の役割を果たして、フィルターでキャッチした糸くずが洗濯槽内に逆流しないようになっている。この機能が絶大の威力を発揮するのは、ポケットにティッシュやレシートを入れたまま洗濯してしまったとき。
普通なら黒い衣服に白い点々とした紙の繊維がくっつてしまうが、アクアの場合は糸くずフィルターが完全にキャッチして、白の点々がまったくといっていいほどつかないのだ。
もちろん乾燥機能も装備していて、パルセーターの緩斜面と急斜面をうまく使い、衣類をうまく撹拌しながらふんわり仕上げてくれる。
気になる「衣類のアンチエイジング」については、実験結果をみるのが明らかだろう。「標準」コースでは、頑固な汚れを洗い落とすことを主としている。おしゃれ着などは「やさしく」コースを使うと、色あせや痛みが少なくなる。
このように、おしゃれ着や皮脂汚れだけの普段着は「やさしく」コースで生地をいたわり、子どもの運動着など泥や油汚れの多い洗濯物はしっかり汚れを落とす標準モードを使うといい。さらにシミや黄ばみなどは、「温め洗浄」や「つけおき」コースなどでしっかり汚れを落とせので、あらゆる衣類ケアの悩みを解決してくれる。
アクアの洗濯機はプロフェッショナル好み?
実はアクアの洗濯機が、日本市場を独占している場所がある。旅行好きや、一人暮らしの人は薄々感じているかもしれない。
そう「コインランドリー」の洗濯機の73%はアクア製なのだ(コインランドリー機器 出荷台数 2018年1月~6月において。アクア調べ)。しかもホテルやホステルのランドリールームに入っている洗濯機もアクア製が多い。いずれも業務用で頑丈なため、いまだに「SANYO」のロゴをつけた洗濯機が現役で使われているコインランドリーすらあるほど。
ちなみに筆者は、鉄道旅が大好きでこの前も年末から年明けまで2週間かけて、横浜から鹿児島まで西日本を各駅停車で一周してきた。そこでは外国人バックパッカーが宿泊するキッチン付きのホステルをよく利用するのだが、何日も旅をするにしても着替えは2着しか持って行かないので、必然的にコインランドリーのお世話になる。どこに行ってもアクアの洗濯機なので不思議に思っていたが、これらの話しを聞くと納得だ。
アクアがどれだけ強いかは、町のコインランドリーを覗いてその目で確かめて欲しい。赤や水色、黄色に色分けされたドラム式の洗濯機や乾燥機が並んでいるはずだ。ちなみにコインランドリーの色分けは、水色が洗濯専用機、赤が洗濯乾燥機、黄色が乾燥専用機となっている。
1971年(昭和46年)にコインランドリー用の洗濯機を開発した三洋電機。翌72年には乾燥機も。およそ半世紀にわたって三洋の洗濯機、アクアの洗濯機がコインランドリーでフル稼働しているのだ。
コインランドリーによっては「靴が洗えます」と謳っている店もある。子供の運動靴や上履きなど、明日までに乾かない!なんて場合は、コインランドリーに走ればいい。これもアクアの業務用機だ。しかも業界オンリーワン。
また大型スーパーなどの近くにあるコインランドリーは、会員カード兼プリペイドカードに対応した端末が設置されている店がある。
この端末は、ネットワークで接続されている店の洗濯機や乾燥機の支払いや領収書、クーポンの発行ができるだけでなく、洗濯や乾燥が終わると自分のスマートフォンにメールでお知らせしてくれるなどの機能を備えている。
いまやコインランドリーの洗濯機は、IoTの最先端を行く情報機器なのだ。
さらにグループホームや介護施設、宿泊施設に工事現場など、洗い物が大量に出る施設では、色分けされていないステンレス地がそのままの業務用機もある。