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スギ花粉の飛散防ぐ農薬、実用化近い? 花粉症重くしないためにできること

「スギ花粉飛散防止剤」の開発が進められている

今年も花粉症の人にとってはつらい季節がやってくる。全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査において、花粉症の有病率は2019年時点で42.5%という結果に。スギ花粉症については1998年から14.2%ポイント増加した38.8%で、ほぼ3人に1人がスギ花粉症となっている。

スギ花粉症患者が増えている背景には、戦後にスギが多く植えられたことが関係している。比較的成長が早く建築用材としても価値のあるスギは、戦後の荒廃した土地の緑化や、高度経済成長期の木材需要に応えるために好んで植えられたという。日本の国土面積3,780万haのうち、約1/4が人工林で、その4割がスギ林とのことだ。

スギは植栽から20~30年(4~5齢級)で花粉を飛散させる。日本のスギ人工林のうち97%が4齢級を過ぎたスギ

毎年、大量に飛散するスギ花粉への対策として、花粉の少ないスギの開発や植え替えが進められていることは知っている人もいるだろう。また、植栽から50年ほど経ち、利用期を迎えたスギの伐採も進んでいる。

そして現在、スギ花粉の飛散を防ぐ農薬が開発され、実用化に向けた取り組みが進められているという。花粉問題に取り組む産官学が集う「花粉問題対策事業者協議会(JAPOC)」による、花粉症重症化ゼロ作戦セミナーで発表された内容を紹介する。

微生物でスギ花粉の飛散を防止

「スギ花粉飛散防止剤」に用いられるのは、自然界に存在する「シドウィア菌」というカビの仲間。スギの雄花がこの菌に感染すると枯死して開花しないため、花粉が飛散しなくなる仕組みだ。

この研究を進めているのは、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域 主任研究員の高橋由紀子さん。

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域 主任研究員の高橋由紀子さん

高橋さんによると、シドウィア菌の胞子を培養し、より広がりやすくするために乳剤などを添加したスギ花粉飛散防止剤を地上で散布したところ、スギの花粉量が8~9割減少する結果が得られたという。

また、より広範囲に剤を撒くため、空中散布技術も開発。無人ヘリコプターによる散布では2~7割の雄花が枯死し、無人/有人ヘリコプターによる空中散布試験では、同様に2~7割の花粉飛散抑制効果が確認されている。

シドウィア菌を利用したスギ花粉飛散防止剤
シドウィア菌に感染するとスギの雄花は枯れ、花粉が飛散しない
地上散布では花粉量が8~9割減少
空中散布試験では2~7割の花粉飛散抑制効果を確認

空中散布では最大7割と高い抑制効果を発揮しているスギ花粉飛散防止剤。現在は実用化に向けて、農薬登録に関わる試験を進めている段階にあるという。農薬登録が済めば、実証試験などを経て実用化できるようになる。

なお現時点で人体には、単回経気道・静脈内投与の簡易試験ではほとんど影響がないほか、5年間の調査で、散布環境中の昆虫やきのこといった生物にも影響なしと確認されている。

高橋さんは「実際にはどのように社会実装を進めていくのかといった課題はありますが、技術的にはあと5年ほどで実現できるといいな、というところまできております」とコメントしている。

花粉症を重症化させないためにできること

「花粉症対策3本柱」として、日本政府は「発生源対策」「飛散対策」「発症・曝露対策」を掲げている。発生源対策、飛散対策は上述したような植え替え、花粉飛散防止剤の開発など。これらは国や事業者にまかせるとして、個人で取り組める発症等の対策にはどのようなものがあるだろうか。

花粉症対策の3本柱

まずは花粉に身をさらさないための「曝露対策」について。マスクなどが代表的だが、日本医科大学耳鼻咽喉科研究データによると、花粉症用マスクをすることで花粉曝露量を約16%に、花粉症用メガネをすることで約35%に低減できるという。

花粉問題対策事業者協議会 運営委員長の志賀彰さん(三菱電機)によると、こうしたマスクなどによる曝露対策と、建物内へ入ってしまった花粉の除去抑制、どちらが欠けてもよくないという。

スギ花粉の粒子サイズは20~30μmだが、建物内には粉砕されて細かくなった微細花粉片が入ってきやすい。そのため、空気清浄機などを用いて建物内の花粉を取り除くことも重要となる。

曝露対策と室内に侵入した花粉の除去が重要
JAPOCではマスクや空気清浄機、花粉侵入防止網戸といった対策アイテム第三者機関にて性能検証し、認証マークを付与する制度を設けている。花粉対策アイテムを購入する際に迷ったら、JAPOCマークが付いている製品から選ぶのもひとつの目安となりそうだ
Dyson「HushJet shizuka 空気清浄機」
パナソニックの空気清浄機「F-PX70C」

マスク、メガネ、空気清浄機といった曝露対策とあわせて「花粉症を重症化させないための対策」も心がけたい。

花粉症を重症化させないために、花粉が本格的に飛散する前から治療を開始する「初期療法」が大切だと語るのは、国際医療福祉大学 医学部耳鼻咽喉科学 教授で国際医療福祉大学成田病院 アレルギーセンター長の岡野光博先生。

国際医療福祉大学 医学部耳鼻咽喉科学 教授で国際医療福祉大学成田病院 アレルギーセンター長の岡野光博先生

岡野先生によると、通常は花粉が連続して飛ぶと鼻の粘膜に炎症が起こり、過敏性が上がって症状が出る。そしていったん花粉の量が少なくなると症状は収まるが、また連続して花粉が飛んだりすると悪化し、重症化していくという。

一方、初期療法を行なうことで発症を遅らせ、重症化を抑えることができるそうだ。初期療法には抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬がよく用いられ、抗ヒスタミン薬による初期療法では、花粉総飛散数が2,000個/cm2以下の少量~中等度飛散であれば、重症化ゼロが期待できるとしている。

初期療法によって重症化を抑えられる

花粉症の治療法には薬物療法のほか、鼻粘膜の過敏性を抑えるレーザー手術や、アレルゲンを投与する根治的治療の舌下免疫療法などがある。また、新しい治療法として皮下注射の抗IgE抗体療法が登場。これは標準治療を行なっても症状が残る重症患者に有効とのこと。鼻水や鼻づまりといった花粉症の症状による仕事や勉強能率の低下も回復するため、受験生などにもすすめられるという。

抗IgE抗体による労働生産性への効果

これからの花粉シーズン、まずはマスクやメガネで曝露対策をしつつ、毎年重症化してつらい人は初期療法も検討してみてはいかがだろうか。