三洋、変換効率“世界最高”の太陽電池セル

変換効率“世界最高”の太陽電池セル

 三洋電機は、変換効率23%のHIT太陽電池セルの開発に成功したことを発表した。10cm角以上の実用サイズにおいて、変換効率23%は世界最高の水準であるとして、今後、量産化を目指す。

 世界最高の変換効率を達成したのは、三洋電機が独自に開発を進めているHIT太陽電池セル。HIT太陽電池は、結晶シリコン基板とアモルファスシリコン薄膜を用いた混合型の結晶シリコン系太陽電池セル。発電効率が良い、両面発電が可能、温度上昇による出力低下が低いため、夏場に強いなどの特徴がある。また、単結晶系の太陽電池に比べ、本体が薄く、形成時の温度が低いため、製造時のエネルギーを抑えられるため、「環境に優しい」太陽電池としている。


HIT太陽電池の構造製造時のエネルギーが低く「環境に優しい」太陽電池としている三洋電機では、太陽電池生産の更なる投資と増強をすすめる

 新開発のHIT太陽電池セルでは、変換効率を“世界最高”の23%まで引き上げたのが最大の特徴。高効率化を可能にするために主に3つの点を重点的に改善した。

 1つ目は高品質の単結晶シリコン基板を新たに搭載し、アモルファスシリコン薄膜の結合部分の負荷を小さくした。これにより、2つの基板の界面での電荷ロスを小さくし、効率的になった。更に単結晶シリコン基板の品質を改善したことで、効率的な電荷の取り出しが可能になったろいう。

 2つ目は、光吸収損失を低減した。HIT太陽電池では、セル表面に到達した太陽光を、なるべくそのまま発電層である単結晶シリコンに導く必要がある。そのため、表面を覆う単結晶シリコン、裏面のアモルファスシリコン薄膜において光吸収が行なわれることはそのままエネルギーの損失になっていた。今回は、光吸収率の低い単結晶シリコンと、透明度の高い導電膜層を新たに開発し、光吸収を抑え、より多くの光を単結晶シリコンに導くことが可能になった。

 3つ目は、発電した電力を集め、外部に取り出すグリッド電極の形状と、材料を改善した。従来のグリッド電極は面積が広く、幅も広かったため、表面に影を作り発電効率の低下を招いていた。新開発の高アスペクトグリッド電極では、電極そのものを細く、高くすることで、電流がグリッド電力を流れる際の抵抗を少なくした。

 なお、いずれも研究段階の発表のため、素材や、詳しい数値などの詳細については未公開となっている。

接合部分の抵抗を少なくすることでロスが少なくなった新開発の単結晶シリコンと、透明度の高い導電膜層を搭載することで、光吸収損失の低減を図ったセル表面のグリッド電極の形状を改善し、効率化を図った
三洋電機 研究開発部 アドバンスエナジー研究所 所長 伊藤 靖彦史

 三洋電機は、2001年よりHIT太陽電池の開発を進めており、年々着実な成果を挙げてきている。三洋電機 研究開発部 アドバンスエナジー研究所 所長 伊藤 靖彦史は今回発表した変換効率23%は、本来2010年に掲げていた目標であるとして、「太陽電池を三洋電機の顔として今後もトップを走っていきたい」と、今後の更なる変換効率上昇に自信を見せた。


研究開発部 アドバンスエナジー研究所 ソーラーエナジー研究部 部長 工学博士 丸山 英治氏

 研究開発部 アドバンスエナジー研究所 ソーラーエナジー研究部 部長 工学博士 丸山
英治氏は、今後の研究について「HIT太陽電池にはまだまだ改善の余地がある。今後の改善次第で、更なる変換効率の上昇は充分見込める」と語り、構造そのものを換えるのではなく、既存の延長での研究を進めることを明言した。また、量産化については、「現時点では未定だが、それほど難しいことではないと考えている。2~3年後くらいを目標とする」と話した。






(阿部 夏子)

2009年5月22日 15:19