“Think GAIA”のビジョンのもと、中期経営計画において「環境・エナジー先進メーカー」への変革を掲げている三洋電機にとって、太陽電池事業は、それを実現するためのコア事業の1つだ。
同社では、2008年には、全世界電力の0.1%に過ぎない太陽光発電が、2040年には25%にまで成長すると予測。そのなかで、長期的な取り組みとして、HIT太陽電池および薄膜太陽電池技術により、2010年には世界シェアの10%、2020年には10~15%を獲得し、4GWの生産能力にまで高める計画を掲げている。
三洋電機は、今後、太陽電池事業をどう成長させようとしているのだろうか。
● 2010年度には600MWの生産能力にまで拡大
三洋電機の太陽電池のシェアは、2007年生産量実績で全世界で4.3%。世界では第7位。国産メーカーでは、シャープ、京セラに続き、3番目の位置にある。
同社では、同社独自のHIT太陽電池の生産能力を、2007年度で260MWであったものを、2008年度にはこれを340MWに引き上げる計画。さらに、2010年には、2007年度の約2.5倍となる600MWにまで拡大する計画を掲げている。
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2007年の種類別太陽電池生産シェア
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三洋電機の太陽電池の開発・製造・販売体制
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生産能力増強計画
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三洋電機ソーラー事業部事業企画部担当部長の脇坂健一郎氏
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三洋電機ソーラー事業部事業企画部担当部長の脇坂健一郎氏は、「三洋電機は、独自のHIT太陽電池を差別化した技術と位置づけ、これを前面に出した事業展開を進めている。またウェハーからシステム、ハウスメーカーまで、グループとして一貫した事業化を推進できる体制を整えているのは、国内では当社だけ。さらに、世界最高、最大レベルの研究開発陣により、世界初、世界最高といった技術成果を創出し続けている強みを発揮する。現在は、海外事業比率が7割を占めており、日本における太陽電池市場は、元気がない状況にある。だが、今後、政府の施策などを通じて、また日本が設置量で世界ナンバーワンになれると期待している。そうした市場の変化のなかで、太陽電池事業をコア事業として育てていく」と語る。
同社では、2008年度を初年度とする3カ年の中期経営計画で、HIT太陽電池の生産能力増強による海外拡販の推進を進め、同太陽電池の海外売上高を、現在の500億円規模から、2010年度には1,000億円に倍増させる計画を示している。短期的には需要が旺盛な欧州を中心とした海外事業に力を注ぐことになるが、日本における事業拡大にも意欲を見せる。
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HIT太陽電池のセル
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セルを持つ脇坂氏。セルの厚みは200ミクロン。髪の毛2本分だという
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海外においての生産拠点格外計画
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国内出荷実績
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● 三洋電機独自のHIT太陽電池とは
太陽光発電の仕組みは、最小単位の太陽電池となる「セル」と、多数のセルを直流で構成する「モジュール」、多数のモジュールで構成される「アレイ」、これらのアレイが組み合わせにより配置される「太陽光発電システム」というように構成させる。これに、パワーコンディショナーと呼ばれる直流から交流に転換するインバーターが接続されるという仕組みだ。
太陽電池は、素材や構造などの違いから「シリコン系」、「化合物系」、「色素増感」、「有機物系」という4つに大きく分類される。さらにシリコン系では、結晶系として、「単結晶」、「多結晶」があり、薄膜系として「アモルファス」、「薄膜多結晶、微結晶」がある。三洋電機のHITは、シリコン系に位置づけられるが、アモルファスと単結晶のハイブリッド化による三洋電機独自のものとなっている。
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太陽光発電の仕組み
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各種太陽電池
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2007年時点での種類別太陽電池シェア
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「HITは、Hetrojunction with Intrinsic Thin-layer Solar Cellの頭文字をとったもので、単結晶シリコンとアモルファスシリコンという異種の材料で太陽電池を構成。不純物がない薄膜層を入れることが特徴となっている」という。
製造面では、単結晶シリコンが900℃という高温での接合形成であるのに対して、HITでは約200℃での接合形成が可能。「この温度差が製造エネルギーの削減に寄与しており、製造コストの削減につながる」としたほか、製品としてのセル変換効率は19.7%、モジュール変換効率は17.0%と、業界トップクラスを達成。さらに両面発電を行なえる仕組みとすることで、駐車場の屋根などに設置した場合には、表面だけでなく、裏面への反射光も吸収することができるHITダブルにより、効率をさらに30%ほど高めることができるという。
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表面だけでなく裏面からも発電する両面発電型太陽電池
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太陽電池モジュールのラインナップ
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HIT太陽電池の構造
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三洋電機の主力差異化商品
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三洋電機のHIT太陽電池は高温特性が優れている
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また、設置するユーザーにとっては、業界トップクラスの変換効率が省スペース化につながることに加え、温度上昇による出力低下が少ない特性から、夏場などの高い温度下でも高出力を維持でき、年間発電量の最大化といったメリットが享受できるという。
「とくに、日本の家屋は小さいことから、屋根への設置面積が限られる。だが、発電効率が高めることで、従来比25%以上の省スペースと軽量化を実現。これまで2.5kWのシステムしか設置できなかった屋根にも、3kWのシステムが設置できるようになった。また、温度係数では、多結晶シリコンでは、70℃程度の高温になると約2割も変換効率が下がるが、HITは10%程度しか下がらない」という。
変換効率では、10cm四方のダイサイズのセルで、研究レベルでは2006年に21.8%を達成。さらに、昨年は壁とされていた22%を初めて突破し、22.1%を達成。今年は22.3%にまで引き上げることに成功した。「結晶シリコン太陽電池は、現在の技術では、理論効率で29%が限界とされている。2010年には研究レベルで23%、量産レベルで22%を目指す」として、2010年度までに累計700億円以上の投資を行ない、世界最高の変換効率を維持する考えだ。
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量産セル変換効率22%以上を目指す
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高効率化を可能にする要素技術
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● 高効率化を実現する2つのポイント
高効率化に向けては、大きく2つのポイントがあるという。
1つは、単結晶シリコン基板と、アモルファスシリコン層との界面の高品質化だという。異種材料を採用しているHITにとって、この界面の清浄性をいかに高めることができるかが鍵になる。
「単結晶シリコンの表面の清浄性を、従来以上に高めることができる洗浄技術の開発、また、アモルファスシリコン層形成時の単結晶シリコン表面へのダメージを、従来以上に抑制する技術の開発が重要になる」とする。
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光閉じこめ技術の改善
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そしてもう1つは、光閉じ込め技術の改善である。HITのセル表面には、ミクロンレベルの凸凹が配置されている。これにより、シリコン表面の凸凹で光りを曲げ、内部を通る光を乱反射させ、光の通る距離を長くすることで効率を高める構造となっている。だが、突起の頂上部分には、シリコンが張り付けにくく、ここに三洋電機ならではの特許技術があるという。
「これまでにデッドコピーが出ていないのは、この技術ノウハウが要因となっている。突起の形状やサイズなどの改良により、光閉じ込め技術の最適化をすることに今後も取り組んでいく」とした。
● 次世代薄膜系や有機物系にも取り組む
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薄膜シリコン太陽電池
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先にも触れたように、太陽電池には、HITや薄膜系が含まれるシリコン系太陽電池のほか、化合物系太陽電池、色素増感太陽電池、有機物系太陽電池がある。
三洋電機では、「火事が発生した際に、化合物が流れ出す恐れがある化合物系太陽電池は考えていないが、シリコン系の薄膜系、有機技術を活用する有機物系太陽電池に取り組んでいく」とする。
当面の主力は、HIT太陽電池とするものの、2012年までには、微結晶シリコンタンデム型と呼ばれる薄膜シリコン太陽電池を商品化する計画であるほか、同社が蓄積してきた有機EL技術を使った有機物系太陽電池の開発を進め、2015年以降の商品化を目指すという。
微結晶シリコンタンデム型は、低コストであること、またアモルファス太陽電池よりも、高性能であることが特徴。三洋電機では、アモルファスシリコンによる短波長を吸収するとともに、微結晶シリコンで長波長を吸収するタンデム方式を採用している点が、同社独自のものとなる。
これまで、NEDOの委託研究事業として、生産性の向上、変換効率の向上などに取り組んでおり、今年4月に、ソーラーアークがある岐阜県の岐阜事業所内に設置した先進太陽光発電開発センターにおいて、次世代薄膜シリコン系太陽電池として、開発を加速させている段階だ。
「HITと、薄膜太陽電池は技術的にも類似している部分が多い。いつでも、どこでも、だれでもが太陽電池を使える時代を目指して、新たな技術開発にも投資をしていく」とする。
● コア事業としての成長を目指す
三洋電機の脇坂氏は、「日本の屋根、そして、世界の屋根を三洋電機の太陽電池で埋め尽くしたい」と、夢を語る。
「とくに要望が多いのが、災害時に太陽電池を活用したいというもの。緊急時の病院用電源や避難所用電源、通信基地局用、家庭用電源などにも活用できるだろう。また、変換効率が高まっていることから、ノートPCの天板に搭載するといったこともできるだろうが、常に新幹線で移動して、窓際で充電する人はともかく、オフィス内で利用しているだけという使い方では実用化できない。効率は高まっているが、利用環境を考えると限界がある」などとした。
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災害時の活用例
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病院や公共施設での活用も期待される
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携帯電話やラジオなど情報網での活用も期待される
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三洋電機の太陽光発電事業の変遷
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三洋電機は、1975年にアモルファス太陽電池の研究開発を開始。80年代には、これを電卓などに採用して実用化。さらに、90年にはHIT太陽電池の研究開発を開始し、97年からHIT太陽電池の量産、販売を開始した経緯がある。HITの量産化から10年を経過し、いよいよ太陽電池事業を、同社のコア事業へと位置づけようとしている段階にあるのだ。
太陽電池に関する研究開発、製造、販売体制を強化にも余念がなく、環境・エナジー先進メーカーとしての地盤が築き始められているといえよう。
これからの三洋電機の太陽電池事業の成長戦略がどう描かれるのか。同社の中長期的な業績を左右する事業としても見逃すことはできない。
■URL
三洋電機株式会社
http://www.sanyo.co.jp/
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2008/07/31 00:00
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