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北海道ボールパークを支えるパナソニックの意外な一面を、家電おじさんが紹介

北広島の小高い丘の上に新球場「ES CON FIELD HOKKAIDO」を擁する「北海道ボールパーク」がある。新千歳空港から札幌に向かう電車で、北広島を過ぎると左手側によく見える

プロ野球の開幕に合わせてついに3月30日開業した、北海道日本ハムファイターズの新ホームグラウンド「ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコンフィールド北海道)」がある「北海道ボールパーク」。

札幌市内の限られた場所で作られた札幌ドームとは異なり、札幌のベッドタウンにするため開発されていた膨大な土地だけに、めっちゃデカイ球場。しかも球場はあくまで森林公園の中の施設のひとつというほどの規模だ。

そんな大自然の中に突如できた「北海道ボールパーク」に行ってきたので、家電おじさんの目からみた面白ポイントをご紹介しよう!

ファイターズが目指すは最高のエンターテインメント

ボールパークが先かファイターズが先かってぐらいに、どっちもエンターテインメント性がズバ抜けている。新庄監督は超エンターテイナーだし、WBCを見ていても元日ハム選手ばかり!

そしてファイターズファンみんなが踊れる「きつねダンス」がもうエンタメ。きつね耳をつけたファイターズガールが踊る「きつねダンス」が超かわいい! なんならこのダンス見たさに球場へ足を運ぶ観客もいるほどだ。

ダンスの時はきつね耳をつけて踊るかわいいファイターズガール。ゲームがない日はファイターズガールが場内を案内してくれるツアーも開催(有償)

一見するとこんなん流行るんかいな? と思っていたダンスなんだが、フリは簡単だし、ノッてる選手たちがマジで踊るので、思わず観客も体がうずいちゃうって戦法。そんなエンターテインメントを大切にするファイターズのホームだけに、ここは球場自体がエンターテインメント施設になっている。

まず球場に入って目に付くのが、パナソニックやドコモ、ANAのクラブラウンジだ。前者は階段を下りないと中の様子が分からないが、ANAラウンジは入り口から大きなバーカウンターが見え、明らかにワンランク上の空間でバックネット裏から観戦できる。階段を下りるとホテルレストランのような作りになっており、美味しい食事と酒をたしなみながら試合の様子が見られるというわけ。

ANAの優待客が利用できるラウンジはバックネット裏。お酒や料理を楽しみながら試合観戦できる

パナソニックラウンジは、階段を下りてドアを開けると高級感あふれるラウンジになっている。バーカウンターでお酒を楽しむもよし、奥にはビュッフェスタイルのレストランもある。

さらに外に出ると、3塁ビジター側ダグアウトのすぐ脇で、聞き耳を立てれば選手たちの話声さえ聞こえそうなぐらいに近い。打順待ちの選手やホームの選手の息づかいまで聞こえそうなほどに近いのだ。またドコモラウンジも、1塁側と3塁側の違いはあるものの同じような作りになっていた。

3塁側のパナソニックラウンジ。こちらもバーカウンターとビュッフェを備え、ダグアウトの声が聞こえそうなほど近くにある

またアメリカなどでムーブメントになっているのが「野球場」ではなく「ボールパーク」という考え方。「野球場に足を運ぶのは野球ファンだけ」というイメージを持つ人もいるかもしれないが、実は球場内には特色ある飲食店や子供の遊び場などを用意することで、「観戦はついで」の人でも遊べる公園(パーク)というかアトラクションとなっているのだ。国内の代表例「東京ドーム」のように飲食店が立ち並び、併設された遊園地で遊び、宿泊も可能。

北海道ボールパークもしかり。広大な敷地自体がジョギングコースになっていて、ロッジではBBQも楽しめるグランピング場なども備える。球場横にはちびっこが体を動かせるアスレチックがあり、MTBのコースやアスレチックなど、北海道ならではの自然を感じて遊べる施設も多数併設。

屋内外にあるキッズが遊べるスペース(有償)
こちらは大人が遊べる飲み屋横丁。寿司や炉端焼き、餃子に焼き鳥も味わえる。ちょこちょこ食べたいならすすきのより球場の方がいいかも?

飲食店も球場とは思えない数の専門店。筆者が取材時にカウントしただけでも40店舗近くあり、ナイターを見ながらガッツリ食える店からライトミールやスナック、そしてスイーツまで。場内を歩いていて飲食店が見えない通路はないほどだ。札幌ドームにはなかった、日本ハムの直営店もありホットドッグやソーセージ&ビールなんて楽しみも。

中でも「七つ星横丁」と呼ばれるエリアは居酒屋街。北海道の美味しい肉、魚介、野菜をつまみに一杯やるのもあり。「ざんぎ(北海道民は唐揚げと違うと主張)」と「唐揚げ」の違いを哲学してみるのもいい。まぁ一番のおすすめは日本ハムのオリジナルレシピに、北海道限定のサッポロ クラシックがいいだろう。

飲食店の数々。寿司と焼きカキが球場で食べられるって、どんだけグルメさ? なまらビックリ!

そして度肝を抜かれるのは、外野席にあるタワーだ。なんとここには、試合を見ながら汗を流せるサウナが入っている。しかも外気浴ができる本格派。球場内にサウナがあるのは世界初とのことだ。試合が見られるサウナ室は男女共用でウェア着用。その手前には男女別のお風呂も用意されている。

さらに驚かされるのはホテル。なんと宿泊できるホテルの個室から試合観戦できるのだ。しかもサッシを開けるとベランダにも出られ、そこから生の打球音や観客の歓声を聞きながら楽しめる。ちなみに試合開催日の宿泊費は10万円程度、試合がない日は5万円程度で泊まれる(サウナ付き)とのこと。

球場の中にあるビル! 最上階はホテルでその下は温泉&サウナになっていて試合を見ながら、汗をかいたり泊まったりできる!
球場内ホテルは超スペシャル! ベランダに出て試合観戦するのもいいが、試合がない日に泊まるだけでも楽しめる
ホテルの屋上には宿泊者専用のBBQスペースまである

スポーツをより面白くするのに注力するパナソニック

来場客に最高のエンターテインメントを提供する北海道ボールパークだけに、試合を楽しみに来場するファイターズファンに向けたエンターテインメントも格別になっている。その役を担っているのがパナソニックだ。

野球をよりエンターテインメントに昇華させるため、場内を照らす照明設備と600台ある大型液晶テレビのデジタルサイネージで球場をバックアップする。

屋根開閉型という特殊な球場なので照明設備も難しい
場内の600台あるデジタルサイネージ。これらは制御室からまとめて管理できるようになっている

まず試合そのものを面白くするためには、選手が最高のパフォーマンスを発揮できる照明が欠かせない。屋外球場なら照明塔を設けられる。実は甲子園球場のカクテルライトと呼ばれる照明塔はパナソニックが納めている。

しかし北海道ボールパークは屋根付きのため照明塔が建てられない。一般的な屋根付きやドーム球場なら、その梁に照明を取り付けられる。これもパナソニックには導入実績があり、埼玉西武ライオンズの本拠地であるベルーナドームや、国立競技場をLED照明で明るく照らしている。

こちらは兵庫県の甲子園球場。オレンジと白をまぜた太陽光に近い色でグラウンドを照らすカクテル光線。屋外球場なので外野には照明塔を建てている
こちらはライオンズのベルーナドーム(撮影当時の名称はメットライフドーム)。ドーム型で円周にLED照明が設置されグラウンドを照らす
国立競技場のLED照明。こちらもパナソニックが手がけている

しかしながら、北海道ボールパークは屋根の事情が特殊。屋根を移動して完全にオープンにした状態にもできるし、雨の日は完全にクローズして屋内球場としても使える。つまり屋根の梁に照明を設置すると、開閉で照明が機能しなくなるのだ。

北海道ボールパークは三角屋根が開閉するだけでなく、右側の側面がすべてガラス張りなので、常に外光が入るという特殊な球場

照明が設置できるのは、外野側とホームベース上の数少ない梁のみ。しかし北海道ボールパークのオーダーは厳しく、選手ファーストでフライを追いかけてもまぶしくなく、かつグラウンド全体を均一に照らし、そのうえ野球中継をするハイスピードカメラで8K映像が撮影できる照度と高い色の再現性が求められた。

あまりにも矛盾するオーダーにも思えるが、それに応える形でパナソニックのスポーツ照明技術の粋を集めて実現したのが、北海道ボールパークのLED照明設備というわけだ。

内野の4本の梁と外野の2本の梁、この6本でグラウンドすべてを均一に照らす。照明の向きなどはすべてコンピューター上でシミュレーションされ、選手が眩しくないようにしている
内野側の照明設備。ほかの球場と比べると設置スペースに極端な制限があることが分かる

しかもパナソニックの照明には、おまけも付いている。グラウンドを照らすのが本来の目的だが、選手入場やホームランなど、盛り上がりを見せるシーンでは、LED照明の反応の速さを利用して、フラッシュのような効果を持たせている。

さらに照明1機ごとに明るさや点灯タイミングをコンピューターで制御できるDMXというシステムを使い、流れ星のような閃光が球場を走ったり、グラウンドをぐるぐる回ったり、グラウンド上に動く光のウェーブを作ったりというアニメーション照明もできる。

これらの照明による演出はプレイボールやイニング間、ホームランや得点したときに観客の歓声とシンクロできるので、より試合をエンターテインメントとして盛り上げられるというわけだ。

またLED照明は一瞬で点灯し、一瞬で消えるので、一瞬にしてグラウンドを真っ暗闇にして、次の瞬間ホームベースのみをスポットで点灯し、ヒーローインタビューに切り替えるなどの舞台転換の照明としての働きもする。LED以外では光のフェードイン/アウトのラグがあるため、経験したことのない演出に感じるはずだ。

さらに球場内にある約600台のデジタルサイネージと、客席上部には世界最大級の大型ビジョンが2台、そして音響システムが導入されている。これらは一元管理され、普段は遅延0.5秒以下でリアルタイムの試合を配信したり、個別に球場案内や広告を表示できる。

ホームランが飛び出せば、場内すべてのビジョンが一斉にリンクし、これを称える映像に切り替わるなどの演出もある。デジタル映像配信なのに0.5秒以下の遅延しか発生しないので、モニター越しに観戦していてもスタンドの歓喜とともに分かち合える点が素晴らしい。

こうして低遅延で多数のサイネージを統括しているのはパナソニックの「KAIROS(ケイロス)」だ。この映像システムも全国のスポーツ施設に導入されており、スポーツをよりエンターテインメント化するパナソニックの注力ぶりがうかがえる。僕たちが見かける家電のパナソニックとは違う一面がそこにある。

パナソニックの「KAIROS」。大型ビジョンとデジタルサイネージ用の2系統を持ち、後者にはマルチチャンネルで映像配信。ちょっとしたケーブルテレビだ。これで遅延0.5秒は凄い!

ただ光るだけではない! 準美術館クラスの自然な色

北海道ボールパークのLED照明は、ただ単にグラウンドを照らすだけのものではない。実は準美術館クラスの色の再現性が高い照明を使っている。写真の数々を見てもお分かりかと思うが、芝の色がめちゃくちゃ自然な緑に見えるのはこのため。これはLED照明が日中の太陽光を100%としたときに、90%同じ色に照らせる「Ra90」という高規格の照明を使っているからだ。

ゴルフ中継のようにきれいな緑の芝に見える

学校や公共施設の体育館では、外で見るユニフォームと館内で見るユニフォームの色が微妙に違って見えたり、写真に色が移ってしまったりするのはRa値の低い照明だから。一般的なリビングの照明だとRa80台なので、料理をスマホで撮るとまずそうになってしまうのはこのため。

スーパーの鮮魚や精肉や野菜コーナーはどれだけ「おいしそう」に見えるかで売り上げが左右する。そのため高価だが高規格のRa90クラスの照明を使っていることが多いのだ。「鮮魚や精肉コーナーはオレンジに近い照明じゃないか!」と思う方も多いだろう。その通り! 実は精肉や鮮魚は少し夕暮れに近いオレンジの太陽光を100%としたときのRa90の照明になっているのだ。逆に野菜コーナーは緑が映えるように、日中の白い太陽を100%としてRa90の照明にしているところもある。

スーパーなどでは少し赤めの日光(大体2〜3時ごろだろうか?)に近い、Ra90のLED照明が使われている。写真は「コープさっぽろ そうえん店」。照明機器はパナソニック製

野球観戦ではそれほどRa値は気にならないかもしれないが、もし写真撮影OKなら外で撮影したものと色を見比べてみるといいだろう。より自然な色合いに見えるはずだ。

さて、Ra値が高い照明を使っている本当の目的は別にある。それは「試合中継をテレビで見ている人向け」なのだ。人間の目は、オレンジの光でも白の光でも「白は白に見えるように自動補正」する。カメラでいう「自動ホワイトバランス(AWB)」だ。

しかしスマホでオートで写真を撮ると、光の種類によっては、見た目とはちょっと色が違って見える場合がある。後からある程度ホワイトバランス調整もできるが、自然な色とは言い難い色になってしまうケースも見かける。特に芝生の緑はカメラを惑わせる。

そこでRa値の高いLED照明を使い、グラウンドの色温度(オレンジか白かを示す数値)は「4,800K(ケルビン)」と決めておく。撮影するカメラは個々が自動ホワイトバランスを使うことなく、手動で4,800Kにセットすれば、どのカメラで撮影しても同じ色合いになるというわけだ。

もし北海道ボールパークでコンサートや催し物がある場合は、このLED照明が威力を発揮するだろう。特に車の色などは屋内と屋外で見ると色が異なって見えるが、この照明なら外と変わらない色で見られるので、納車時に「えっ? 写真と違う?」となることもないだろう。

実際に使われているものと同形式のLED照明

また北海道ボールパーク独特の作りも太陽光に近い照明が求められる。なぜなら晴天時には天井を開けて日光を取り入れられるうえに、外野席側はガラス張りなので常に外光が入ってくるからだ。おそらくこれらの太陽光も加味して設計されているものと思われる。

ちなみに「北海道ボールパークは準美術館クラス」のRa90の照明と紹介したが、美術館ではさらに色に厳しい「Ra95」という照明が使われる。こちらは太陽光で見た色合いと95%近い色味を表現できる。本来Ra100が理想的だが、現在の技術ではRa95がほぼ限界だといわれている。

外野席側は全面ガラス張りになっていて、外光が眩しく差し込んでくる。グラウンドがオレンジに照らされているのは、天然芝の養生用照明

新駅も待ちつつ、北海道の新しい名所となることに期待

北海道ボールパークは2023年3月にオープンしたが、最寄り駅はJR北海道の「北広島駅」となる。もちろん徒歩でもアクセスできるが19分かかるうえに緩い上り坂なので、実際にはシャトルバスを利用する観客が多いだろう。そのためバスの停留所がある1塁側のエントランスがメイン入口となる。

しかし2028年の開業に向けてJR北海道が「北海道ボールパーク駅(仮称)」を建設予定で、同駅ができると徒歩で5〜8分ほどで着くと言われている3塁側がメインエントランスになりそうだ。

駅ができれば新千歳空港から乗り換えなしで球場まで行けるため、コンサートをはじめとしたイベントも盛んに開催され、ますますエンターテインメントに磨きがかかるだろう。さらにファイターズの試合を観戦するだけでなく、札幌から電車で15分なので、すすきのに行く感じでちょっと飲みに行ったりも。子供と公園で遊んだりという利用客も大きく増えるだろ。

ちょうど機関車がいるあたりに新駅が作られる予定。連絡通路を作っている最中だった
新駅完成後は3塁側のエントランスがメイン入口になるだろう

スタンドの協賛スポンサー名に、ホクレンやよつ葉乳業、セイコーマートや地元テレビ局の名前がなかったのは少し寂しくも感じたが、これから加わってくれると、より地元の一体感が強まるだろう。

ファイターズの活躍とともに、今後が楽しみな北海道ボールパークだ。

3月初旬の取材当時に撮影した写真。内野席側のスポンサー名も、これから増えていくはず