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西武のメットライフドーム、新しい照明で何が変わった? 打席に立って体験した
2021年12月15日 16:05
プロ野球・埼玉西武ライオンズの本拠地である「メットライフドーム」(埼玉県所沢市)。2017年12月~2021年に渡って大規模な改修が行なわれ、座席やフードエリアなど様々な面で大幅にリニューアルされた。その中でも注目なのは「照明のLED化」だ。
野球だけでなく、ももいろクローバーZのライブなどイベント会場としても知られているメットライフドームだが、近年のスタジアムは、ただ試合を観戦するためだけでなく、幅広い世代にとって楽しめるエンターテインメントの場である「ボールパーク」として生まれ変わるトレンドが、国内でも広まっている。
コロナ禍で近年は観戦の機会が減り、映像で家でも観戦できる手段も充実してきた一方、感染拡大の落ち着きに合わせて、待ち望んでいたスポーツファンを中心に、家族連れ客などを含めて、再びリアルでの観戦にも期待が高まってきた。
照明については、家庭でも蛍光灯や白熱電球からLEDへの切り替えが進んでいるように、スタジアムにおいても、従来の水銀灯からLEDに変える動きは既に始まっている。東京・調布の「味の素スタジアム(味スタ)」も、パナソニックがLED化を手掛けた一つの事例だ。
LEDに変える理由としてまず思いつくのは「省エネ」だが、実はそれだけではなく、プレーする選手や、周りの観客にとってもうれしいポイントがあるという。そこで実際にどんな照明に変わったのか、メットライフドームのフィールドや観客席で体験してきた。
明るいのにまぶしくない照明。ホームランで一体演出
スポーツ観戦で大事なことといえば、当たり前ではあるが「試合が見やすい」こと。ただ明るいというだけでなく、まぶしくないことや、明暗のムラがないことなども、見やすさの一つのカギとなる。
パナソニックは、スタジアム改修に合わせて、LED投光器「スタジアムビーム(挟角タイプ)」を納入。明るさ7万lmで、フィールド照明として508台、空間照明として40台を使用している。
新しい「4K8K放送」にも対応しており、高画質が求められるテレビ中継でも色を忠実に再現。スーパースロー時のチラつきも抑えられる。
見やすくするための工夫としては、まぶしさの原因となる“光の重なり”を減らしているのが特徴。照射する方向を分散させて光がカタマリになるのを防いでいる。これにより、選手にとっては光でボールが見えなくならないようにしたり、観客も見やすくすることに貢献している。
また、まぶしさを検証するため、事前に「LP-VR」というソフトを使った3次元CGシミュレーションを実施。最終的には選手やチーム関係者が確認してOKが出たことにより、この照明が完成したという。
もうひとつ照明の重要な役割は、試合の進行などに合わせた空間の演出。専用のライトなどを追加しなくても、既設の競技用照明がスクリーンの映像や音響と連動して、試合の盛り上がりをさらに高めてくれるというものだ。瞬時に点灯と消灯ができるLED照明だからできることでもある。
メットライフドームの照明では、最先端のDMX制御システムにより、100%~0%の調光をスムーズに行ない、ホームランや勝利時など様々な演出ができる。
メインの照明だけでなく、スタジアム内の売店や周囲にある広場などの施設も、こうした演出に連動。ホームランを打った時に、売店のメニュー表示モニターも、一時的にホームラン演出の特別表示になるなど、どの場所にいても試合の盛り上がりを途切れずに楽しめるようになった。これは、ドーム球場ながら密閉された空間ではなく周囲の場所へ移動しやすいメットライフドームならではの特徴でもある。
スコアなどを表示する大型の「Lビジョン」は、高さ13m、面積約600m2で従来の2倍に拡大。反対側のバックネット裏にも約57m2のサブビジョンを新設して、外野席からもスタッツやリプレイ映像を見られるようになった。
映像だけでなく音響も改善。従来は中央のLビジョンにあるスピーカーからの音声のみだったため、広いスタジアムでは聞こえ方に遅延が起き、一体感を作りにくくなっていた面があった。そこで、どこにいてもクリアなサウンドを届けられるという「分散型スピーカー」をドームの屋根に77台設置。外周エリアや屋内施設、ドーム前広場などにもスピーカーを置いて計223台(2018年当時は6台)に強化した。
運営する側にとって大事なコスト面においても、当然ながらLEDが貢献。改修後は照明の台数を従来の648台から548台に15%削減、年間電力費は従来の4,470万円から1,800万円へと約60%の削減を実現したという。約4万時間の長寿命でメンテナンスの面でも優れる点を特徴としている。
バッターボックスで体験。シート充実など含め見やすく楽しい空間に
現在は2021年シーズンを終えた後ではあるが、観客席からフィールドに降りて特別にバッターボックスにも立たせてもらい、体験してきた。
ホームランを打つと、中央の大きなLビジョンが派手に演出。それに合わせて、周囲の照明も打者がダイヤモンドを一周するのと同じ方向へぐるっと回るように点灯する。
試合に大きな動きが無い時は、明るいながらも、どこか一カ所がまぶしいということはなく、照明の方向を見ても目に光が刺さるような感覚にはならない。ピッチングマシンからのボールを打たせてもらったところ、打ち上げたボールも見失いそうになることもなく、見やすい印象だった。
メットライフドームを運営する西武ライオンズによれば、新しい照明や音響を導入したことで好意的な意見が多かったとのこと。特にLビジョンや、映像の連動、音響の改善などを評価する声もSNSで見られたという。
照明以外にも、柔らかく座りやすい座席や様々な種類のボックスシート、充実した飲食エリア、キッズフィールドなど多岐にわたるリニューアルが行なわれ、改修の総工費は約180億円。
西武ライオンズによれば、球場に足を運ぶ人は従来のコアな野球ファンだけでなく、家族連れや女性同士なども増えているという。試合観戦中はスタジアムが一体になって盛り上がり、席で見ている以外の時間も楽しく過ごせる、新しいスタジアムの形を体験できた。