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新しくなった国立競技場の最新照明を「上から」見てきた

2019年に竣工した新しい国立競技場

東京2020オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとしての記憶も新しい、東京・新宿区の国立競技場。現在はサッカーJリーグや代表戦、ラグビーのリーグワンの試合が行なわれているこのスタジアムに採用された、新しい照明や放送設備などの内部が報道陣に公開された。

1,300台以上の照明を導入。観客と選手どちらも見やすい光とは?

1964年の東京オリンピック会場だった旧国立競技場が2015年に解体され、その跡地に建設されたのが今の新しい国立競技場。東京2020大会での開閉会式や陸上競技などに使用され、無観客ながらも盛り上がったオリンピック・パラリンピックの舞台となった。「杜のスタジアム」をコンセプトに、緑や木などの自然をとり入れ、最先端技術との調和を図ったデザインも特徴的だ。

国産の木を様々な場所にとり入れた

この新しい国立競技場には、大型ビジョンやスピーカーといったAV機器のほか、競技用照明器具、観客動員上必要となるスタジアム運営設備などをパナソニックが納入した。

メインビジョンとして、約9×32mサイズでフルハイビジョン画質のスクリーンを観客席の北側と南側に1面ずつ採用。競技用音響としてラインアレイスピーカーが全38基、導入された。観戦エリアには、観客に向けた情報提供を遠隔から制御できる約600枚のデジタルサイネージシステムを備える。

大型のメインビジョン

会場を明るく照らす照明器具は、競技用の約1,300台、観客用の約200台などを導入。テレビ撮影時に被写体の色を忠実に再現することに配慮した光源を採用した。

オリンピック時の照明を再現。夜でも周りがはっきり見える明るさだった
Jリーグ試合時の照明は雰囲気が大きく異なる

照明設備のLED投光器「スタジアムビーム」は、4K8K放送向けに、色再現性と画像の高速表示に適した照明器具。器具光束はショートアーク2kW相当で、挟角140,000lm、中角138,000lm。色温度は昼白色の5,600K、寿命は4万時間。

LED投光器のスタジアムビーム

地デジなどのハイビジョン放送よりも鮮やかな色まで再現できる4K8K放送に最適な光とするため、平均演色評価数が「Ra90」、赤色の特殊演色評価数「R980」を実現。さらに、不快なちらつきを抑制する点灯技術により、スーパースロー撮影などの高速表示にも対応している。

照明器具の設置構成は、国際陸上競技連盟(IAAF)や日本サッカー協会(JFA)の基準に沿って決定。スタジアムに求められる明るさなどの基準を満たした上で、光源を見上げたときのまぶしさも軽減した。パナソニックが設計した光学レンズは、独自の配光設計技術により、光源からの光を最適に絞って、まぶしさの原因となる光の重なりを減らし、グレア(まぶしさ)を抑制。選手の視界を鮮明にしながら、観戦からも競技を見やすい照明になったという。

1つ1つが微妙に異なる角度で配置され、まぶしさを低減

グレアは、サッカーなどのスポーツで選手がボールを見失ってしまう原因にもなる。その対策として、設置前のシミュレーションにVRを採用。サッカーのキーパー目線や、陸上100m選手の目線などまで細かく検証し、照明の角度などの調整を行なった。

思わず足がすくむ高所へ、照明を見てきた

今回の取材では設置された照明器具を見学するため、普段は足を踏み入れられない上層部分のキャットウォークも特別に公開。安全のためにヘルメットやハーネスを装着して現場を見てきた。

高さは地上約40mとのことで、以前取材した東京スカイツリーに比べると数字では大したものではないかもしれないが、競技場や観客席、下にいる人の姿がはっきり見える分、怖さはこちらの方がリアルに感じやすい。なかなか見る機会が無い場所なのでたくさんシャッターを切ったが、多くは手ブレしてしまっていた。

国立競技場では一般向けの見学も受け付けているが、さすがにこのキャットウォーク付近は入ることができず、作業などの特別な場合に使用されるとのことだ。

階段を上って細いキャットウォーク上を歩く。下がはっきり見えて足がすくむ。常にどこかの部分をつかんでいないと不安なほど。揺れは全くなかったが、もしこんな時に地震が起きたら座りこんで動けなかっただろう
ハーネスやヘルメットなどで安全第一の取材

照明器具は観客席から見上げると「小さな四角」という印象だが、近くで見ると結構な大きさで、これが天井に円を描くように大量に設置されているのは壮観だ。

設置された投光器
上から見たフィールドの様子

国立競技場を運営する独立行政法人 日本スポーツ振興センター 国立競技場 事業課 課長の渡部雅隆さんによると、これまでのイベントでは雨の日に実施されたデーゲームやナイターもあったが、選手からも「ピッチがクリアで見やすい」と好評だったという。

スポーツがメインの場所ではあるが、矢沢永吉のライブやTBS「音楽の日2022」など音楽イベントにも使用されてきたほか、競技場以外にも様々なエリアがあるため他のイベントでの活用も計画。高級車の展示会や、ファッションショー、さらには結婚式にも使えるようなスペースがあるとしており、スポーツ以外の活用も増えていくと見ている。

独立行政法人 日本スポーツ振興センター 国立競技場 事業課 課長の渡部雅隆さん。「国内スタジアムで一番トイレが多い」ことも国立競技場の特徴だという

照明や大型ビジョンをはじめとする様々な設備を納入したパナソニックのエレクトリックワーク社 ライティング事業部 屋外照明ECの栗本雅之さんは、世界のスタジアムと比較しても、これほどの照度や演色性、4K8K対応まで兼ね備えたのは現時点で国立競技場だけだと自負する。

競技場全体の明るさは、平均で2,000lx相当。特にオリンピックでは高い照度が求められたという。LEDは瞬時にオン/オフして会場演出にも活用できるなど多くのメリットがあるが、省エネ性の面では、従来光源に比べて、消費電力を約50%削減している。

パナソニック エレクトリックワーク社 ライティング事業部 屋外照明ECの栗本雅之さん

音響設備は、スピーカーから離れたフィールドでも音圧を確保するため、均一で明瞭な音を伝えることができるラインアレイスピーカーを全38基納入。

この他にも、パナソニックは自然冷媒を使用した大型空調システム(ナチュラルチラー)や、ガスヒートポンプエアコン(GHP)など、環境にも配慮した空調設備が採用された。

スピーカーなどもパナソニック製
大型ビジョンなど映像機器のコントロールルーム

サッカー代表やオリンピアンたちのサインも

オリンピックでIOCバッハ会長も観戦したという貴賓室や、選手のロッカールーム、サッカーのブラジル代表ネイマール選手らのサインが書かれた壁なども見ることができた。普段は入れない舞台裏の様子を写真でご紹介する。

フィールドに下りて撮影
ロッカールーム。各席に電源が用意されていた
ブラジル代表、日本代表各選手のサインがロッカールームへの通路に
外には、東京2020の国内外代表選手による約300のサインが書かれたサインウォールも
貴賓室。バッハ会長らもこの部屋で観戦したという