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除菌消臭器に使われる「オゾン」は安全? 日本オゾン協会にきいてみた
2021年9月21日 08:05
一般家庭用の除菌・消臭器はいくつもある。活性炭を使った空気清浄機をはじめ、メーカーの独自イオン「プラズマクラスター(シャープ)」や「ナノイー(パナソニック)」を使った装置、次亜塩素酸を使ったものなどさまざまだ。中でも最近注目を集めているのは「オゾン」を使った除菌・消臭器。
数年前からマクセルが「オゾネオ」シリーズを発売し、ペットと一緒に暮らす人々から「トイレ臭がしなくなった」と評判だ。また、Kiralaがオゾン発生器つき空気清浄機を発売しこちらも人気を博している。
しかし「オゾンは怖い」というイメージも世間にあり、なかなか手を出しにくい製品でもある。そんな中、日本オゾン協会が取り組みはじめたのが、小型オゾン発生装置認定マーク制度。協会と大学の先生方、そして民間企業が協力して個々の製品の安全性を検証し、「安全と認められた製品のみ」に「小型オゾン発生装置認定」のマークを付与するというものだ。
今回の記事では「オゾンへの不安」をいろいろと協会に聞きながら、小型オゾン発生装置認定マーク制度がどのようなものであり、どうして私たち消費者が確実に安全な製品を購入できるしくみなのか取材したものをまとめた。
水道水やプールの浄化にも使われているオゾン
――オゾンと聞くと少し怖いイメージがあるのですが、安全性について教えてください。
オゾンは濃度さえ管理すれば安全です。例えば、上下水道の処理において、もう30年以上前から利用されています。オゾンの除菌・消臭効果により下水をキレイにして川に戻すのはもちろん、浄水場ではオゾンを使い水道水の浄化をしています。でもオゾンはすぐに分解してしまうので、ご自宅の蛇口まで除菌できません。そのため塩素と併用しています。東京に水を供給する利根川水源は昔「塩素臭い」といわれていましたが、今はそれほどでもありません。なぜならオゾンを使うようになり塩素の量を半分以下まで減らしたからなのです。
他にもスイミングプールや水族館、飲料品の製造ラインや野菜の洗浄、また漂白作用もあるので紙の漂白などにも使われています。さらに消毒作用もあるので食品工場や救急車の除菌・消臭、タクシーなどの清掃にも活用されています。
確かに高濃度オゾンは危険ですが、現在、一般家庭用に販売されているオゾン発生装置は低濃度なので危険性はありません。もし誤った使い方をしてしまっても、オゾンには特有のイヤな臭いがあるので、濃度が高くなる前に気づきます。0.1ppm以下なら安全ですが、0.1ppmの時点で「あきらかな臭気があり、鼻やノドに刺激を感じる」ので、そこにいるのが辛くなったり換気をしたくなります。
オゾンの濃度とヒトの感じ方は、次のようになります。
オゾン濃度 | 作用(感じ方・症状) |
---|---|
0.01~0.02ppm | 多少の臭気を覚える(やがて慣れる) |
0.1ppm | あきらかな臭気があり、鼻やノドに刺激を感じる |
0.2~0.5ppm | 3~6時間暴露する(吸い込み続ける)と視覚が低下する |
0.5ppm | あきらかに上部気道に刺激を感じる |
1~2ppm | 2時間暴露で頭痛、胸部痛、上部気道の渇きとせきが起こり、暴露を繰り返せば慢性中毒にかかる |
5~10ppm | 脈拍増加、体痛、麻酔症状が現れ、暴露が続けば肺水腫を招く |
15~20ppm | 小動物は2時間以内に死亡する |
50ppm | 人間は1時間で生命危険となる |
(引用元:日本オゾン協会「オゾンハンドブック[改訂版]」)
後半には強い言葉もありますが、0.1ppmを超えると不調を感じるので気づきます。そしてオゾンはすぐに分解し体内に溜まることがないので、0.5ppmで視覚低下を覚えたとしても一時的なものです。
また、オゾン濃度は部屋の大きさで大きく変わりますが、人がいる場所で使う市販のオゾン発生装置であれば、高濃度になることはまずありません。オゾン濃度をどうしても数値化したい場合は「オゾン濃度計」を使うといいでしょう。ただし一般的に非常に高価なのですが……。
――オゾンはペットに対しても無害なのでしょうか?
これも濃度次第ということになります。オゾンは空気より重いので床に溜まります。しかし、一般に販売されているオゾン発生装置なら床に溜まるほどの高濃度にはなりません。ペットに危険が及ぶことは稀でしょう。
低濃度オゾンでも新型コロナウイルスに有効という研究も
――濃いオゾンは殺菌力が強いということですが薄すぎると効果がないのでは?
これについては興味深い研究結果が最近発表されました。新型コロナウイルスの研究で有名な藤田医科大学が、0.05ppmまたは0.1ppmの低濃度オゾンでも、新型コロナウイルスに対して除染効果があることを世界に先駆けて実験的に明らかにしました(藤田医科大学のニュースリリース)。
これまで1.0~6.0ppmの高濃度オゾンが新型コロナウイルスにも効果があるとされていました。しかし、この濃度はヒトに悪影響を及ぼすレベルです。今回の藤田医科大学の実験で、家庭用オゾン発生装置と同程度の0.05~0.1ppmの低濃度オゾンでも効果があると、実証されたのです。
――プラズマクラスターやナノイーなどのイオンと、オゾンは同じようなものなのでしょうか?
除菌・脱臭作用があるという点では同じですが、それらのイオンで用いられる「OHラジカル」という微粒子イオンは寿命が短く、広い部屋だと隅々まで届かない場合があります。オゾンは業務用発生装置を使えば食品工場などの広い部屋でも隅まで届くように濃度や強さを調整できます。
ちなみに、微粒子イオンは、物質のタンパク質を酸化させ、菌を無力化することで除菌・消臭します。オゾンも同様に酸化力で菌を無力化します。オゾンは酸素分子が3つ結合していますがとても不安定です。できるだけ酸素2つの安定した状態になろうとするため、オゾンは酸素1つを切り離したがっているのです。オゾンがすぐに分解するというのは、このためです。酸素を1個切り離したオゾンは、空気中にある「酸素」になります。
一般家庭にオゾン発生器が広がり、日本オゾン協会が安全性チェックをするように
――本来業務用に使うものだったオゾン発生器が、一般家庭でも使われ始めたということでしょうか?
上下水道を除けば、はじめはホテルや病院、介護の現場などの消臭や除菌で使われていました。また、それまで漂白剤の塩素を多用していた食品工場では「塩素は残留性があり副生成物が残る可能性がある」として、オゾンやオゾンを水に溶かしたオゾン水にシフトしています。
工場では作業者がいない夜間の場内に高濃度のオゾンを放出して除菌・消臭しています。また作業に使う機器の除菌でも、水で薄めた塩素ではなく、残留物が残らないオゾン水洗浄にシフトしています。スーパーで売られている野菜の洗浄なども残留物が残らないということでオゾン水を使うところが増えているようです。
このように業務用途では高濃度のオゾンが使われることが多いのですが、数年前から一般家庭用の除菌・消臭にも利用されるようになりました。しかし業務用の高濃度オゾン発生装置が家庭で使われたり、安全な濃度を維持できない初期の家庭用オゾン発生装置が使用されたりしたことで、国民生活センターなどに連絡が入りはじめます。死亡事故などはなかったのですが、先に説明しました症状のように、「異臭や、ノドや目の違和感がある」などの報告があったようです。
そこでオゾン発生装置の安全性を担保する必要が出てきました。それまで業務用から家庭用まで安全基準はメーカー任せでしたが、日本オゾン協会が関連団体やメーカー、大学の先生方などと協力し、安全なオゾン発生装置の認定だけでなく、メーカーのサポート体制もチェックしています。
――日本オゾン協会の具体的な活動を教えてください。
まずは製品の安全性を担保するための、オゾン発生装置の認定です。メーカーから申請があった製品は、大学や企業など第三者組織の有識者により安全性がチェックされます。それに合格するとはじめて次のような小型オゾン発生装置認定マークが付与されます。
しかし製品の安全性だけでは、このマークをつけられません。万が一、装置が故障した場合、またオゾン発生装置を海外から輸入して販売する場合などでも安全性を担保できるよう、企業そのものにも認可が必要になります。これには当協会が認定する「オゾン安全管理士」の資格が必要です。これはオゾンの安全性や知識に関する講義を受講し、試験に合格した者のみに与えられるものです。オゾン発生装置を販売するメーカーは必ずオゾン安全管理士を常駐させ、ユーザーからの相談やクレームなどに迅速に対応できる体制を整えている必要があります。
つまり小型オゾン発生装置認定マークは、ハードウェアそのものの安全性に加え、それを販売する企業の窓口がしっかり対応できなければ付与されないのです。
またオゾンを正しく安全に使うための講習会をはじめ、オゾンに関する資料をまとめたハンドブックの刊行なども行なっています。