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社員食堂に南三陸のカキフライも、パナソニックが取り組む「サステナブル・シーフード」とは

 パナソニックは、社員食堂における「サステナブル・シーフード」の導入成果などについて説明会を開催した。同社では、シーフード認証であるMSCおよびASC認証を取得した「サステナブル・シーフード」を2018年3月から、社員食堂に日本で初めて導入。月1回の特別メニューとして提供している。現在、国内12拠点の社員食堂に導入しており、2020年には、約100カ所の国内拠点すべての社員食堂への導入を図る予定だ。また、「サステナブル・シーフード」の導入は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みのひとつと位置づけているほか、社員による社会貢献活動につながるとしている。

WWFジャパン 親善大使 さかなクンが登壇。パナソニックの社員食堂で、南三陸町戸倉の養殖牡蠣を使った「カキフライ」を試食した

 サステナブル・シーフードとは、MSCおよびASC認証を取得した持続可能な水産物で、「海の自然や資源、地域の社会に十分に配慮して漁獲、養殖されたシーフード」と定義されている。水産資源の持続可能な利用や生態系への影響の低減、地域社会への配慮、法令やルールの遵守、管理体制の確立などがしっかりと実施され、海洋保全へと結びついている必要がある。

 WWFジャパン シーフード・マーケット・マネージャーの三沢 行弘氏は、「シーフード認証は、世界に約140種類が存在するものの、各認証制度により、持続可能性の基準も異なる。そのなかでも、天然漁獲を対象にするMSC認証と、養殖を対象にするASC認証は、信頼性が高い。MSCは362の認証取得があり、102の漁業で審査中で、天然漁獲量の15%がMSCの対象になっている。また、ASC認証も拡大しており、世界39カ国816件が認証され、日本国内では60件が認証。養殖サーモンの3割がASC認証の対象となっている」という。

WWFジャパン シーフード マーケット マネージャー・三沢 行弘氏

 MSCおよびASCは、2012年のロンドンオリンピックで初めて導入されており、2020年に開催される東京オリンピック/パラリンピックでも、選手村や会場などで提供されるシーフードに、MSCおよびASCが採用される予定だという。昨今では、イオンやマクドナルドが、これらの認証マークを表記した活動を開始しているという。

 パナソニックでは、2018年3月に、大阪府門真市の本社社員食堂にサステナブル・シーフードを導入。その後、各カンパニーの拠点に導入しており、2019年3月8日から、新たに東京・汐留のパナソニックビルでも導入した。2018年3月22日~2019年2月28日の約11カ月で、19,913食を提供したという。

 パナソニック ブランドコミュニケーション本部 CSR 社会文化部事業推進課・喜納 厚介課長は、「サステナブル・シーフードを社員食堂で提供する際には、生産者、輸入会社、卸売会社、加工会社、流通会社、給食会社といった加工・流通におけるすべての過程での認証取得が必要となる。

 だが、昨年の時点では、給食会社として、MSCおよびASC認証を取得している企業は1社もなかった。そこで、この分野に関心を寄せていた給食会社であるエームサービスに、パナソニックがこの活動に取り組む意思を説明し、理解を得て、給食業界初のMSC/ASC CoC(Chain of Custody)を取得してもらった」という。

パナソニック ブランドコミュニケーション本部 CSR 社会文化部事業推進課・喜納 厚介課長

魚の喫食率を維持、サステナブル・シーフードの認知拡大へ

 パナソニックでは、エームサービス以外の給食会社の認証取得も支援。現在、6社の給食会社が認証を取得しているが、そのうち5社の認証取得を、パナソニックが主導した。さらに、損保ジャパン日本興亜、日立製作所、デンソーの3社が、社員食堂にサステナブル・シーフードを導入。ノウハウの共有などにより導入を支援したという。「3月中にも、社員食堂にサステナブル・シーフードを導入する予定の企業が数社ある」とした。

 WWFジャパンの三沢氏は、「パナソニックは、日本で初めて社員食堂にサステナブル・シーフードを導入し、さらに他の企業を巻き込んだ活動につなげている。パナソニックがきっかけとなって、日本に、サステナブル・シーフードの潮流を作っていきたい」と期待する。

 パナソニックによると、社員食堂では、全体的に魚メニューの人気が落ちていた。そこで、サステナブル・シーフードを活用し、魚の喫食率をカバー。さらに、人気食材との組み合わせや季節にあったメニュー、女性に選んでもらえるメニューなどを、コストアップを抑えながら開発しているという。その結果、サステナブル・シーフードでは、約30%の喫食率を維持し、ほぼ毎回、売り切れ状態になるという。

人気食材との組み合わせや季節にあったメニュー、女性に選んでもらえるメニューなどを、コストアップを抑えながら開発

 「社内では、サステナブル・シーフードを『サスシー』と呼ぶなど、社員の関心が高まっていることを感じる。水産資源が危機的な状況にあることを知り、社員食堂で食べられるならば、自然環境に配慮したものを選ぼうという意識が高まったり、日常で行なっている行動の選択によって、社会貢献ができたりといった活動にもつなげられる。家族や友人などに口コミで広げることで、サステナブル・シーフードの認知度を社会に広げるといった効果も期待している。パナソニックでは、企業市民活動のひとつに位置づけている」(喜納氏)

南三陸町の養殖牡蠣を使ったカキフライメニュー

 パナソニックでは、新たな取り組みとして、2016年に、牡蠣では日本初のASC認証を取得した宮城県南三陸町戸倉の養殖牡蠣を、パナソニックの社員食堂に導入することにした。

 今回、カキフライを社員食堂で食べた社員からは、「自宅では、育ち盛りの子供がいるために、どうしても夕食が肉中心になってしまう。そのため、会社での食事にはなるべく魚を選んでいる」という声もあがっており、サステナブル・シーフードのメニューを歓迎する声があったという。

南三陸町戸倉の牡蠣を使ったカキフライ
社員食堂でカキフライを受け取る社員
カキフライを楽しむ社員たち

 もともと南三陸町戸倉は、牡蠣やわかめ、ホタテや銀鮭などの養殖業が盛んな地域であったが、2011年3月の東日本大震災で、町全体が津波による甚大な被害を受け、養殖施設がすべて流れてしまった。

 パナソニックでは、2014年から、社内事業場の環境活動支援の一環として、南三陸の環境配慮型の養殖業復興支援を行なってきた経緯がある。

 また、南三陸町戸倉では、東日本大震災以前には、養殖施設が増えすぎ、これが原因で海の環境に悪影響を与えているとの指摘があり、復興においては、持続可能な漁業の実現を重視し、その取り組みの結果、ASCを取得したという。パナソニックの東北復興支援活動と戸倉での持続可能な漁業の実現が、今回のサステナブル・シーフードの社員食堂への導入背景となった。

 2019年3月8日には、東京・汐留のパナソニックビルの社員食堂で、南三陸町戸倉の養殖牡蠣を使った「カキフライ」メニューが用意され、社員に600円で提供された。

調理場でカキフライが次々と調理される

持続性維持に効果がある漁法をさかなクンが紹介

 会見に参加したWWFジャパン 親善大使である、さかなクンは、「海の中に潜ってみると、海草が減り、珊瑚が増加している。また、沖縄県の県魚であるグルクン(タカサゴ)が東京湾で取れるといったことが起こっている。そして、魚の旬がわかりにくくなっているという問題がある」と指摘。

 一方で、「魚を取りすぎない定置網漁法や追い込み網漁法を採用したり、大きな魚だけを漁獲するように網に工夫を懲らしたり、日本全国で、持続可能な漁業に取り組んでいる姿が見られている。

 秋田では、3年間に渡り、ハタハタを禁漁にして育てるといった取り組みを実施。まさに、漁師は海の守り人である。一方で、魚を食べる人たちにも、サステナブル・シーフードをしっかり意識してもらいたい。MSCおよびASC認証された魚を選んで食べてほしいと思っている。だが、日本では、4,200種類の魚があるものの、サステナブル・シーフードに認証されているのは、赤カレイ、ホタテガイ、ビンナガマグロ、カツオ、牡蠣の5種類しかない。今回のサステナブル・シーフードとしてASC認証を受けた南三陸の戸倉の牡蠣は、おいしくて、元気がもらえる。魚は食べるとパワーがみなぎる」などと述べた。

WWFジャパン 親善大使 さかなクンがカキフライを試食
「ぎょ、ぎょ、これはうまい。牡蠣さんのジューシーさがすごい」と感動していた
さかなクンは定置網漁法などが持続性維持に効果があることなどを、自らのイラストを使って紹介

 また、WWFジャパンの三沢氏は、「枯渇状態や限界漁獲状態にある水産資源は約9割に達し、豊富な魚は1割にすぎないのが実態である。また、養殖であれば持続可能という誤解があるが、稚魚やエサ魚、周辺環境、地域社会への配慮などが必要である。こうした実態を知ってもらいたい」と語る。

 さらに、WWFジャパン 筒井隆司事務局長は、「過去50年間で、地球の人口が2倍に増加するなかで、魚の消費量は5倍にも膨れ上がっており、持続性のためには、新たなルールが必要である。パナソニックは、全世界で27万人の社員が働き、そのうちの国内10万人の社員がサステナブル・シーフードを食べることになり、持続可能な社会の実現に貢献してもらえる」とした。

WWFジャパン・筒井 隆司事務局長
社員食堂の前にはポスターや旗でサステナブル・シーフードを社員に訴求