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パナソニック アプライアンスの事業戦略、世界第3位の事業規模を目指す
2018年6月20日 10:59
パナソニック アプライアンス社の本間 哲朗社長(パナソニック 専務執行役員)は、6月19日、京都市のPanasonic Design Kyotoにおいて、家電などを担当するアプライアンス社の事業戦略について説明した。
本間氏は、「2022年度までには、アプライアンス社の海外売上高比率を6割にまで高めたい」と説明。アプライアンス社では、2020年度の目標として、売上高3兆円、営業利益率5%を掲げており、ここに2022年度の目標として新たな数字を加えた格好だ。また近々発表する第3弾の製品群が、100周年記念モデルの最後になることも明らかにした。
今回の事業説明は、本間社長が、5月30日に都内で行なったアナリスト向け事業方針説明の内容(本誌既報)を補足する形で、報道関係者の質問に答えたもの。なお、6月18日午前7時58分頃、大阪府北部を震源とする震度6強の地震の影響については、「アプライアンス社においては、深刻な影響を受けたものはない」とした。
6カテゴリー中5つの分野で、収益性が世界競合レベルで改善
アプライアンス社では、2018年度に3年連続の増収増益目標を掲げるとともに、2020年度の目標として、売上高3兆円、営業利益率5%を目指す方針を掲げているが、「営業利益率は現時点では4%前後。5%の水準は早急に達成したい」とした。家電における3兆円の事業規模は、全世界で見ても、サムスン、LG電子に次ぐ第3位の事業規模になるという。
2017年度の海外売上高比率は53%であり、「日本が半分を超える状況を脱した。パナソニックの4つのカンパニーのなかでも海外での実績があるカンパニーであり、2018年度には海外売上高比率を54%に拡大させる計画。さらに、2020年度までに6割に引き上げたい」とし、今後の成長戦略においては、海外事業の拡大が鍵になることを示した。
その上で、営業利益率の向上に向けては、海外事業の成長とともに、AVC(Audio Visual Camera)の回復が鍵になることを示しながら、「AVCを除いた、エアコン、スモール・ビルトイン、メジャー、食品流通、デバイスの5つのカテゴリーでは、世界の競合他社に比べて引けを取らない収益性にまで改善している。またそれぞれのカテゴリーにおいて、ベンチマークする会社を決めながら経営している。なかでも利益成長を牽引していくのは、エアコンとスモール・ビルトインの2つの事業。これらの事業は、市場の成長性が高く、業界の収益性が健全であり、パナソニック自らが中位あるい上位に位置している。
一方で、AVCの収益性を急ピッチで改善していくことが鍵になる。5年前から規模を追わずに、収益性確保を優先し、縮小する事業は縮小してきた。今後、大きな改革の手を打つことは考えてないが、地域などにあわせた細かい手を打っていくことになる。だが、AVCに関しても、2017年度には、デジタルカメラのプレミアムミラーレス事業が成長。営業利益率5%以上を達成した。2013年度に大きな赤字を出していたデジカメ事業が、得意とする動画性能を生かしたプレミアムミラーレスに集中することで黒字を出せるようになった。また、電話とFAXも計画を達成している。AVC部門は、こうした施策を積み上げていけば、売上げが伸びなくても収益を確保でき、5%近い営業利益率にまで高めることができる」と述べた。
高成長のエアコン事業は、さらなる成長と収益力強化
今回の会見で本間社長は、エアコン事業と中国市場の説明に時間を割いた。
エアコン事業については、「高成長事業に位置づけており、業績開示事業として2番目に大きく、単独事業としては最大規模を誇る。旺盛な新興国での需要を背景に、さらなる成長と収益力の強化に取り組んでいる」と前置きした上で、「2017年度は、業務用空調分野での収益改善に向けて、英国最大の販売代理店であるAMPと、ブラジルのエンジニアリング会社であるUNION RHACの2社を買収し、カバーできていない地域や能力に対応。急ピッチで組織力をあげている。ルームエアコンは、中国における販売回復が大きな成果をあげた。
2018年度は、アジアにおける販売体制を強化。専任営業部隊を約70人増強し、アジアでのトップブランドを維持する。アジアを中心に、海外では20%前後の成長を見込みたい。そのためには、パナソニックらしい製品の投入が必要である。エコソリューションズ社と連携した空質・空調商品の投入を進めたり、Quality Air For Lifeという共通メッセージでの展開を進めていく」と述べた。
なお、6月に開催したアプライアンス社の経営会議は、エコソリューションズ社で空質関連機器を担当しているパナソニックエコシステムズの愛知県春日井市の同社本社で開催しており、「カンパニーの枠を超えたクロスバリューの創出に取り組んでいる」と説明した。
また、生産体制の強化についても説明。「これまでは欧州にはエアコンの生産拠点はなかったが、2018年10月に、チェコのテレビおよびビデオの生産工場で、ヒートポンプ給湯器の室内機の生産を開始する。アジアでは、タイのコンプレッサー工場で、2017年1月からルームエアコンの生産を年間30万台体制で開始したほか、ベトナムでは、2019年度から、電話およびFAXの工場において、エアコンの生産を開始する。将来、縮小が見込まれるAVCの生産拠点を、成長市場向けの白物家電の生産にも利用することで、工場のマルチピラー化を推進。固定費の削減にもつなげることができる」とした。
中国では、中国で外資系白物家電ナンバーワンを目指す
中国市場での取り組みに関しては、パナソニックが40年前から中国市場で展開してきたこと、その資産を活用して体制を強化させた結果、2015年4月にはアプライアンス中国を設立したことを紹介。「家電に関する商品企画、デザイン、開発、製造、販売を一貫して対応できる体制を構築できた」とした。そして、「中国は変化のスピードが速い。中国語を話す日本人社員は多いが、その変化を理解するのが難しい。過去には、中国市場のことを知らない事業部長に、中国市場向けの製品の必要性を説得するといったこともあったが、それも不要になっている。いまは、総経理を中国人にして、日本人には真似ができない市場の捉え方、スピード、アイデアにより、中国での事業成長をドライブしてもらっている。2020年度には、中国における売上高を、2017年度比で2倍となる200億元にし、外資系家電ブランドナンバーワンを目指す」と述べた。
中国の家電市場では、シーメンスが1位であり、「近接しているが追いつけていない。ドイツが国をあげて中国でのブランド価値を高めようとしている。そうしたなかでも、パナソニックは、2020年度には、イメージ調査で中国ナンパーワンになりたい」とした。また、中国におけるeコマースを利用した販売が増加していることを捉えて、アリババや京東(ジンドン)と連携。「2018年度には、中国における家電販売のうち、3分の1をeコマースとする。小物家電では3分の2以上がeコマースになるだろう」と予測。「6月18日には、京東がパナソニックのスーパーブランドデーを実施し、パナソニック製品の販売を強化。前年のスーパーブランドデーに比べて30%以上の販売増を達成した」と報告した。
パナソニックが、中国において、ターゲットとしているのが、「新貴」と呼ぶ、世帯年収32万元以上のDEWKs世代だ。「新貴層のニーズを捉えた製品投入が軌道に乗ってきた。それもあり、ネットに接続できる冷蔵庫は中国で先行して発売している。また、2000元程度のナノケアドライヤーも、2017年度には年間60万本以上を中国で販売。2018年5月は美容商品だけで、前年比5割増の1億元を販売している。こうした小物家電は、中国の国民所得の上昇とともに、販売が増加していく商品である。
一方で新貴層は、自宅ではあっさりめのモノを食べ、しっかりとしたものを食べるときには外食が中心になっている。そこでライトキッチンアプライアンス(軽厨房)を商品化し、生活提案を行なっている。また、欧州風のビルトインキッチンに憧れを抱いていることが、生活研究で浮き彫りになってきた。日本での実績をもとに、ビルトイン食洗機を中国で開発、生産、販売を行ない、一気に立ち上げたい」と述べた。
2018年9月には、中国市場において、ポルシェデザインのドラム式洗濯機を発売する予定であり、これも、新貴層を中心とした中国の若い顧客層のニーズを反映したものだという。「4年半前はボリュームゾーンを中心としていたが、中国のメーカーと同じものを作っていても、勝ち目がないと考え、中国メーカーがやらないこと、あるいはパナソニックの独自技術で差別化できるところに集中した。今後は、ネットを通じた暮らし空間の提案を進めたい」と述べた。
中国市場でネット接続に対する敷居が低いことから、IoT家電も積極的に投入する考えであり、「日本では、ネットに接続できる洗濯機を発売したが接続率は3割に留まる。だが、中国では、80歳のおばあさんがネットを使って買い物をしているという例が多いなど、売れた家電は、次々とネットつながり、ネットに接続した形で利用されることになる。中国では、そこから得たデータを活用してサービスにつなげるといったことも考えていきたい」とした。
日本においては、NTTドコモと省電力広域無線通信技術「LPWA(Low Power Wide Area)」を活用した、常時接続IoT家電の共同実証実験を今年秋に開始する予定であり、将来的には、年間数100万台規模のパナソニック製LPWA対応IoT家電を発売したいとしていたが、「日本で取り組んでいるLPWAは、ネット接続が面倒なためにネットサービスを使わない、というユーザーの敷居を下げるものになる。とはいえ、LPWAがすべてだとは考えていない。実証実験次第で、今後の手の打ち方を考えたい。LPWA以外を含めて、ネットにつながるIoT家電を年間数100万台出荷することになる」と、将来に向けた考え方を一部修正した。
最後に残った日本の総合家電メーカが、次の100年も取り組むために
一方、本間社長は、「私は、パナソニックは、最後に残った日本の総合家電メーカーであると語っているが、次の100年もしっかりと家電事業に取り組んでいくためには、新たな家電を届けられるかが鍵になる。そのためには、様々なビジネスパートナーとともに、新たな顧客価値を創造することが欠かせない。だが、パナソニックが大阪にある会社なために、外の企業と連携することはうまくないと感じている。それを打破するための取り組みのひとつが、スクラムベンチャーズと連携して行うBeeEdgeである。BeeEdgeでは、アイデアを、知恵やネットワーク、技術とつなげることで事業化したいと考えており、すでに2つの案件を準備している。もうすぐ1件目を発表できる」と語った。
さらに「パナソニックのなかだけで動いていると、組織が大きい分だけ遅くなってしまう。家電ベンチャーがさっと商品化してしまうものも、よっこらしょと動きだし、気がつくと2年ぐらい経ってしまっていることもある。BeeEdgeによる取り組みを通じて、世の中の常識に、我々が合わせていくことができる」とした。
また、2018年4月にスタートしたPanasonic Design Kyotoによる家電のデザインへの取り組みについては、「米ワールプールや、欧州のボッシュ、シーメンス、エレクトロラックスといった競合家電メーカーのトップと会話をして感じたのは、家電において、デザイン力の強化は欠かせないという点である。これらの競合メーカーは、洗練された統一感のあるデザインを持っており、それぞれの地域の好みにあったデザインに仕上げることに長けている。パナソニックがこれをどう身につけるか、しかも、日本の文化をバックボーンにしたパナソニックらしいデザインを発信できるかということを考えている。
パナソニックは事業部制が軸にあったために、事業部ごとに、商品のデザインテイストが違う状態を克服できなかった。デザインは価値になると考えており、それに取り組むのが、Panasonic Design Kyotoになる。大阪と滋賀県草津に分かれていたデザイン部門を一本化したことで、パナソニックのアプライアンス部門として筋が通ったデザインを世の中に問うことになる。その成果を楽しみにしてほしい」などとした。
さらに、「家電総本山化」の取り組みについても触れた。
「創業者である松下幸之助によって作られた事業部制を1932年にスタートしたとき、事業部と営業本部が分かれた形で組織が設計された。この交点を見ることができるのは幸之助だけという期間が何10年も続き、レポートライン、IT、物流、会計が分かれていた状態が約80年も続いた。その結果、パナソニックの家電事業は様々なところに組織が分かれており、全体像を見るのに手間がかかった。
そこで、3年間をかけて、家電事業に関わる事業部門、販売組織を、すべてアプライアンス社の下に統合した。製品別や地域別の収益性も見えるようになり、アクションも起こしやすくなり、地域ごとに必要な投資もしやすくなった。これが、いまの仕組みであり、これを家電総本山化と呼んでいる。パナソニックの歴史のなかでは大きな転換になる」と位置づけた。
なお、「Creative! セレクション」として展開している100周年記念モデルは、すでに第2弾までを製品群の形で発表してきたが、5月のアナリスト向け説明会では、第3弾の製品群を準備していることを明らかにしている。本間社長は、「100周年記念モデルは、第3弾が最後になる」とする一方、「100周年記念モデルは、社内向けに使っている言葉であり、顧客向けのキャンペーンとして、100周年記念モデルという言葉は使わないことには変わりがない」とし、商品を軸にした100周年記念キャンペーン施策は用意していない考えを改めて示した。