家電トレンドチェッカー

本当に便利なIoT家電は実現する? 三菱の取り組みと考えを聞いた

スマートスピーカーと連携して声で操作できる、三菱電機のIHクッキングヒーター(参考展示)

「IoT」という言葉が使われるようになってから何年も経ち、多くの家電メーカーがIoT製品を続々とリリースしている。

IoT(Internet of Things)を直訳すると「インターネットに繋がる製品」。代表例はスマートフォンで、YouTubeやAmazonプライムビデオなどが視聴できるテレビなどが挙げられる。さらに昨今では、ロボット掃除機やエアコン、冷蔵庫やオーブンレンジなど、いわゆる生活家電や調理家電などでも、その上位機を中心にIoT製品が増えてきている。

こうした製品を既に家で便利に使っている人も多い一方で、今も「使い方が難しそう」「自分にはそこまでの機能はいらない」と思う人も少なくないかもしれない。まだ必要性を感じていない人に対しても、IoT家電にどんな便利さや機能があれば「使ってみたい」と思えるだろうか?

生活家電も幅広く手掛ける三菱電機は「キッチン家電IoTの取り組みと製品体験会」を、埼玉県深谷市の三菱電機ホーム機器で開催。同社のIoT製品の事例を紹介するとともに、IoT・ライフソリューション新事業推進センター長の朝日宣雄さんが、現状での考え方や今後の展望を語った。

発売されるかもしれない、声やスマホで操作できるIH

三菱電機は、2020年に電子レンジを搭載した、家庭用ビルトイン型のIHクッキングヒーター「レンジグリルIH」をリリース。現在はIHを3口搭載する「RE-C321」と、同2口の「RE-C221」をラインナップしている。

レンジグリルIH「RE-C321SR」

グリル部分に電子レンジ機能を搭載したことで、レンジ加熱とグリル加熱で、食材をすばやく温めながら、外をこんがりと焼き上げる同時加熱が可能。また冷凍コロッケなどの揚げ物を、レンジ加熱した後にグリルで外側をカリッと仕上げられる。

そして現在開発しているのが、この「レンジグリルIHシリーズ」に通信モジュール(Wi-Fi)を内蔵し、スマートフォンやスマートスピーカーを接続可能にする、IoT機能搭載モデルだ。

例えば家庭内LAN(Wi-Fi)に接続して、スマートスピーカーを連携させておけば、音声で各種設定が可能になる。手が濡れていたり汚れていて、操作パネルをベタベタと触りたくないシーンでも、最小限のタッチ操作で設定できるとする。

使い方は、まずレンジグリルのメニューボタンを、「ピーピピッ」と音が鳴るまで長押しする(2秒くらい)。すると音声で「レンジグリルのメニューは何にしますか?」と聞かれるので、例えば「オーブン、160℃、30分」などと言うと、また「オーブン、160℃、30分を設定します。スタートボタンを押して、加熱を開始してください」と音声で確認できる。指示通りにスタートボタンを押せば、加熱が開始される。

またIHで加熱を始めた後に、切タイマーを設定したくなったとする。その場合にはIHのタイマーキーを、本体から「ピーピピッ」と音が鳴るまで長押しする。スマートスピーカーから「切タイマーを何分にしますか?」と聞かれるので「7分」と答えると、また「左(または右)のIHに切タイマー7分を設定します。タイマーボタンを押して、切タイマーを始めてください」と返事がある。あとは操作パネルに、設定したい切時間が表示されるのを確認して、タイマーボタンを押せば切タイマーが有効になる。

スマートスピーカーに話しかけるとIH本体の設定が可能

スマートフォンの専用アプリと連携させれば、アプリ内で選んだレシピをレンジグリルIH本体に送るのも簡単。

例えば、アプリ内のレシピにある「アクアパッツァ」を作りたいと思ったら、アプリ操作で作り方の設定を「送信」すればよいだけ。アプリ画面の指示に従って操作すると、レンジグリルIH本体に「(アプリ内レシピに記されていた)IH適温/200℃」と表示される。表示を確認し、本体のIHメニューボタンを押せば、加熱がスタートする。

アプリで「これを作りたい」と思ったレシピ(設定)を、IH本体に簡単に送れる

このIoT化した「レンジグリルIHシリーズ」は、あくまで開発中で参考出品だという。そのため、発売されるかどうかも未定。ただし今後の開発で、タイマー切の延長が音声操作で可能になったり、残り何分で調理が終わるかなどを知らせてくれる機能なども検討しているという。

三菱電機のIoT部門リーダーが考える今後

既に三菱電機は、スマートフォンもしくはインターネットと繋がるエコキュート、エアコン、冷蔵庫、炊飯器、換気システムなどをリリースしている。三菱電機のIoT・ライフソリューション新事業推進センター長(執行役員)の朝日宣雄さんは「近年は特に、こうしたIoT化が加速している」と語る。

「IoT化するためには、Wi-Fiの通信モジュールを製品に入れないといけません。それはコストアップになりますよね。そのためもあって、つい最近までは、通信モジュールを搭載するコストを回収できるのか? なんて言う人が社内にいました。今はそうしたことは言われなくなり、『(新製品に通信モジュールを)入れるよね?』と(製品企画や開発の担当者へ)言ったら、ちゃんと入れてくれます」

今回、参考出品としてお披露目された「レンジグリルIHシリーズ」の構想モデルは、朝日さんから提案していた以前とは逆に、同機の開発者などから提案を受けて、新事業推進センターのメンバーとアプリを作っていったという。

三菱電機 IoT・ライフソリューション新事業推進センター長(執行役員)の朝日宣雄さん

上記のように「今は風向きが変わってきているのを感じる」という朝日さんだが、同社に限らず、IoT化すると製品が売れるのか? コスト回収が可能なのか? という問題は、家電メーカー共通の課題だろう。その課題を克服するために、何が必要なのか?

「1番必要なのは、ユーザーが欲しいと感じるソリューション、お金を出しても使いたいものをリリースしていくということ。これは、なかなか難しい。

ただし我々は、機器があってそれに対する機能としてIoTを提供しています。例えばエアコンで言えば、多くの家庭では、リビングには高級で多機能な機種を設置しますが、一般的に寝室に置くエアコンには、そうした機能が未搭載のシンプルな機種が使われていますよね。そうした矛盾を解決するには、就寝時の温度設定の快適化を、リーズナブルなシンプルなモデルでも実現することです。そのためには、エアコン本体に機能を搭載していくのではなく、アプリで行なった方が良いんです」

アプリやインターネットサービスを使えば、エアコン本体の性能に依存せずに、必要な機能を実現しやすいということ。つまりは、リーズナブルなモデルでも上位機と同じような、便利な機能が使えるようになるということだ。

「そうなるとエアコンって、暖房、冷房、除湿、温度設定、電源のオン/オフぐらいの機能があれば十分なんですよね。これまで機器本体に入れていた多くは、IoT化によっても実現できるからです。例えば、入/切タイマーもそうです。これまではリモコンで入/切タイマーの設定をしていました。でも、スマートフォンのアプリであれば、タイマーの設定も無限に増やしていけるんです。例えばスマートフォンに入っているスケジュールや、位置情報などと連動させて、エアコンを起動させる。そういうことも簡単にできます」

「今は機器にどんどん機能を入れていき、価格を維持しようとしています。ですが、これからは機器に搭載されるのは、シンプルな基本機能だけでよくなると思います。そして、それ以外の便利機能については、スマートフォンやアプリを使って追加していく。そういう流れに向かっていかないと、多様化する個別のニーズに応えられなくなるだろうと、想像しています」(朝日宣雄さん)

朝日さんは、既にそうした便利機能、+αの機能がアプリで提供されるようになっている製品事例として、IH炊飯器を挙げた。

「何十種類ものお米の銘柄を、それぞれ最適に炊き分けますよという機能がありますよね。そうした機能を、必ずしも製品本体に入れる必要はないわけです。インターネットやアプリを使えば、100銘柄でも200銘柄でも制限なく作れます。だからメーカー間で、うちは何十銘柄分のデータが搭載されていますとか、炊き分けられますといった競争を、しなくてもよくなるんです」

エアコンの就寝時などの温度設定の最適化も、同様だとする。

「ただし、そうしたことができる基本的な性能は搭載しておかないといけません。通信モジュールなど、ベースとなるものは搭載しておく必要がありますよね。そのうえで様々なアイデアを、アプリを通して追加していく。どんどんアイデアを形にしていかないと、新たなアイデアも生まれません」

またアイデアが生まれた時に、素早く低コストで実現するために、プラットフォームを作っておくことも重要。朝日さんは、そうしたプロットフォーム作りも目指しているという。「こんな機能が欲しい!」とユーザーが思った機能が、IoT化によって、どんどん追加されていくのなら、ユーザーのメリットも多いだろう。

とはいえIoT化とは、製品単体がインターネットやスマートフォンに繋がるという話だけではなく、様々な機器が有機的に繋がることも重要ではないだろうか。同社でもエアコンの「ムーブアイmirA.I.+」で検知した在室人数に応じて、換気量を自動で調整する換気扇などもある。だがそれは、同社製のエアコンと換気扇で揃えた場合にだけ可能になる機能。今後も、こうしたメーカーの囲い込み戦略が続けられると、ユーザーにとってのメリットの増幅は、限定的なものになるだろう。

ルームエアコン「霧ヶ峰 Zシリーズ」に搭載されている「ムーブアイ ミライプラス」。室温や人の位置や温度を検知。同社の別売の換気ユニットなどと連携させられる

朝日さんもこれには同意しており「家電製品を三菱電機製など特定の一社だけで揃えるといった家庭は、ほとんどありませんよね。今でも、複数のIoT製品を使われているユーザーは、スマートフォンの中にメーカーや製品ごとのアプリを入れて、このメーカーの製品を使う時にはこのアプリを起ち上げて、別のメーカーの製品を使う時にはまた別のアプリを……といった状況で、どう使うんですか? ということになっています。これでは利便性を感じませんよね。そのためにオープン化を進めようという流れも、できつつあります。異なるメーカーの製品が、共通の言語でやり取りできるようにするというもの。現在は、その共通言語(規格)として、『Matter』が話題になっています(AppleやAmazon、Googleなども賛同)。そうしたものを取り入れることは、今後必須となるでしょうね」

そうした流れに、メーカーは逆らわないのだろうか?

「もう止められないと思います。そうしないと、利便性を訴求できなくなります。また1社だけで、他メーカーと競っていかなくてはいけなくなります。当社も、Matterなどを含めて、積極的に導入を検討していきたい……いくべきだと考えています」

これまで、生活家電領域において、IoT化がなかなか進まなかったのは、「これは欲しい!」と思えるようなアイデアがアプリなどで実現できていなかったから。またメーカーごとや製品ごとに、異なるアプリが必要なことから、利便性ではなく単に複雑性を訴求することになっていたように感じる。

三菱電機などが率先して、今後は、利便性を訴求できるIoT化を進めていくことに期待したい。

IoT機器の共通規格「Matter」
河原塚 英信