家電のしくみ

電気で調理するIHクッキングヒーターは、なぜ加熱できるの?

毎日の生活を便利に、そして楽にしてくれる様々な家電。ふと「どんな仕組みで家電は動くの?」と気になったことはありませんか? 電気や家電の基本、ちょっとしたギモンを、家電のプロ・藤山哲人さんに聞いてみました。
今回はIH調理器のしくみを紹介する(写真はパナソニックのIHクッキングヒーター「Aシリーズ」)

キッチンの主役といえばガスコンロ、という家庭が多いだろう。その一方で、ガスコンロに代わる調理器として、徐々に普及しつつあるのが「IH調理器(IHクッキングヒーター)」。ビルトインタイプは、価格やキッチンスペースなどの関係で導入が難しい場合もあるが、鍋料理などにコンパクトな卓上タイプのIH調理器を使っている人も多い。

多彩なIH調理器

そんな便利な「IH」だが、なぜ電気で食材を焼いたり湯を沸かしたりできるかを、知らない人も多いのではないだろうか。知らなくても調理に困ることはないが、ちょっとした豆知識として、これからの料理にもヒントになるかもしれないので、IH調理器の仕組みを解説していきたい。

「IH」は、「Induction Heating」の略で、直訳すれば「誘導加熱」となるが、一般的には「電磁誘導加熱」と訳されることが多い。パナソニックの解説サイトでは「トッププレートの下にある、磁力発生コイルから発生した磁力線が、鍋底を通過するときにうず電流となり、その電流の抵抗で『鍋底自体が発熱する』というしくみになっています」と解説されている。

トッププレートの下にある、磁力発生コイルから発生した磁力線が、鍋底を通過するときにうず電流となり、その電流の抵抗で鍋底自体が発熱する

いい換えれば、IH調理器内のコイルに電流を流すことで、磁力を発生させる。この磁力により、鉄製のフライパンや鍋の底に(フライパンや鍋自体に)電流を作り出す。電気抵抗の高い鉄などの中を電気が通ることで、熱が発生する。

IH調理器のイメージ(三菱電機のサイトより)

理系の人であれば「なるほど!」となるのかもしれない。だが、文系一直線だった筆者には、ピンと来ない。そこで、藤山 哲人氏に、理系知識がほとんどない筆者にも分かるよう解説してもらった。

教えて! 藤山さん

まずは、モノを回転させる一般的なモーターを思い浮かべてください。モーターの中には、銅線を巻いたコイルを、磁石が囲う形で配置されています。このコイルに電気が通ると磁力が発生して、モーターが回転し始めます。

逆にいえば、モーターを回すことで電気を発生させることができます。その仕組みを使ったのが、自転車などに使われるダイナモ(発電機)です。あの中身はモーターそのものと同じです。そして、モーターを回転させると、電気が発生してランプが点灯するんです。

つまり、「コイル」と「磁石」と「電気」という要素で「回転」させているのがモーター。「コイル」と「磁石」と「回転」という要素で「電気」を発生させるのがダイナモというわけだ。

これをIH調理器に当てはめると……。

「コイル」はIH調理器の中にある。このコイルに「電気」を流すことで、IH調理器の上に置いた鉄製のフライパンなどと合わせて、擬似的な「電磁石」のようなものを作り出す。この時に、電気がフライパンの中を通過しながら熱を発生させている。

IH調理器の中には、コイルが配置されている
コイルの形状は様々。写真はパナソニックのオールメタル対応コイル
三菱電機のIH調理器に内蔵されている「びっくリングコイルP」

また、危険性をかえりみず、鉄製の鍋やフライパンに熱を持たせるだけでよければ、鍋などの両端に100Vのコンセントを繋げば、熱が生まれる。ただし、これだと危険すぎるし、鍋やフライパンを交換できなくなり使用に適さない。

そこでIH調理器では、IH調理器内のコイルと、上に置いた鉄製の鍋やフライパンとで磁石のようなもの作り出すことで、離れた場所にある鉄製の鍋やフライパンなどに電流を流している。これは、スマートフォンなどをワイヤレスで充電する仕組みと同じだという(Qi規格などのワイヤレス充電器の中には、コイルが搭載されている。このコイルで、スマートフォン内部の充電回路に電流を流している。一方で、IHヒーターはフライパンそのものに電流を流している)。

繰り返しになるが、IH調理器は、IH調理器だけでは発熱せず、電気を通しやすい鉄製のフライパンや鍋などがあって、初めて熱が生み出される。ここで注意が必要なのは、IH調理器“が”熱くなるのではなく、フライパンなどの調理器具“が”熱くなるということ。

教えて! 藤山さん

一般的にIH調理器は、鉄製のフライパンや鍋で使います。これは、鉄が電気抵抗の高い物質だからです。この抵抗によって熱が出ます。

そのため、電気があまりにも流れやすい、電気抵抗の少ないアルミ製などの調理器具を置いても、温まりません。ただし最近では、磁力が強くなって電力も多くなったので、アルミ製の鍋でも加熱できる、オールメタル対応のIH調理器が一般的になりつつあります。

とはいえ陶器は磁石にくっつかない、電気を通さない絶縁体なので、全く温まりません。IH対応の土鍋などがありますが、あれは、鍋の底に鉄板を埋めたり、くっつけたりすることで、電気抵抗が生まれるようにしています。

IH調理器は、ほったらかし調理ができるのはなぜ?

IH調理器の仕組みは、前項までの通り。大きくても小さくても仕組みは同じだ。

繰り返しになるが、鍋やフライパンがなければ“熱くならない”。そのため、鍋やフライパンを外せば、それ以上は加熱されない。その仕組みから、IH調理器のメリットの一つとして強調されるのが、安全性の高さがある。安全性とは、空焚きしてしまう危険なども含むが、さらに料理を失敗しない可能性が高いということもある。

例えばガスコンロでは、カレーやシチューを作る際に、頻繁に鍋の中の様子を確認して、必要であれば火力を調整する必要がある。煮立たせ過ぎてしまうからだ。一方のIH調理器の多くのモデルは、鍋やフライパンの温度を計測する温度センサーを搭載する。そのため、鍋の中を設定した調理に最適な温度で保てる。

この温度センサーを活用して、各メーカーが、様々な調理メニューを搭載させている。例えば、コトコトと長時間煮込む料理や、焦げ付かせてしまいがちなハンバーグなども、安心して調理できるようなメニューが搭載されていたりする。逆に、ガスコンロと比較して弱点だとされていたのが、フライパン調理時にフライ返しをすると、一気に火力が落ちる点。

教えて! 藤山さん

温度センサーは、一般的に、IH調理器のガラス面の下に内蔵されています。鍋やフライパンを持ち上げると、センサーが鍋の温度を検知できず「料理が終了したのかな」と判断します。そのため待機モードなどに切り替わり、火力が一気に落ちるんです。

けれど、例えばパナソニックが搭載する「光火力センサー」だと、チャーハンなどを作っている時に、なべふりをしても待機モードなどにならず、火力が落ちません。これはセンサーが「ヒーターの上に鍋があり、まだ料理中だ」と判断し、フライパンをIH調理器の上に戻せば、再度、適した温度で加熱するからなんです。

IH調理器の、加熱する仕組みは、IH炊飯器や昨今多くのメーカーから発売されている自動調理鍋と基本的には同じ。コイルと電気と鍋で熱を作り、食材を温める。さらに上位モデルでは、温度センサーなどを活用し、自動調理機能を充実させているのも共通点だ。フライパンや鍋に具材を投入し、メニューを選んで設定すれば、加熱から温度調節まで任せられる。

自動調理器としても活躍するIH調理器。最新モデルでは、料理初心者でも美味しい調理ができるサポート機能が満載。最近、おうち時間が増えたから、料理を趣味にしようかな、という人にもおすすめだ。