家電レビュー

解凍ムラも加熱ムラもナシ! 象印オーブンレンジが革命的

象印マホービンの「EVERINO ES-LA30」。電子レンジ、オーブン、グリル機能が利用できる30L容量のオーブンレンジ

今は各メーカーが、プレミアムモデルとして高機能なオーブンレンジを続々と発売しています。そんな多くの製品のなかでも、家電好きからとくに注目を集めたのが、象印マホービンのオーブンレンジ「EVERINO(エブリノ) ES-LA30」(直販価格132,000円)。

この製品の最大の特徴は、電子レンジで食材を加熱するための核となる「マグネトロン」を2個内蔵していること。じつは、これは家庭用レンジとしては初の構造です。ES-LA30はこの「ツインエンジン構造」により、これまで電子レンジの課題とされてきた加熱ムラを抑制。さらに従来モデルよりも短時間で調理が可能だといいます。そこで今回は、ES-LA30を約2カ月間じっくり使用し、その実力を検証してみました。

ツインエンジンは本当に「熱ムラ」に効果を発揮するのか?

多機能なオーブンレンジを所有していても、実際に使うのは電子レンジによる温めばかりという家庭は少なくありません。一方で、電子レンジは日常的に使うぶんだけ不満も多い機能です。大きめの食材を加熱すると、中心はアツアツなのに端は冷たいまま――そんな「加熱ムラ問題」はよく聞かれる悩みのひとつ。

そこでES-LA30は、マイクロ波を一般的な製品と同じく庫内底面から放射するだけでなく、庫内奥側からも放射できる「ツインエンジン構造」を採用。2カ所からマイクロ波を放出することで、電波の偏りを抑え、全体をより均一に加熱できるようにしています。

これが電子レンジ内部に搭載されている「マグネトロン」。マイクロ波を発生させる心臓部です。電子レンジのパーツのなかでも特に大きいため、ES-LA30は本体サイズが498×445×395mm(幅×奥行き×高さ)と一般的な30Lクラスのオーブンレンジよりやや大きめ
庫内底面に加え、奥側からもマイクロ波を放射。業務用レンジでは採用例がある方式ですが、家庭用としては日本初の構造です

電子レンジにとって、マグネトロンはまさに心臓部。これを2基搭載するということは、ある意味「電子レンジを2台分動かしているようなもの」でもあります。気になるのはそこまでして実際にどれほど加熱ムラが軽減されるのか。

そこで、まずはこんにゃくを置いた皿を3枚並べて1分間加熱し、一般的な1基構造のレンジとの違いを比較してみました。熱の分布がわかるサーモグラフィーを比較したら結果は一目瞭然。「こんなに違うの?」と驚くくらいES-LA30の熱ムラが少ないのがわかります。

今回の比較に使用したこんにゃく
ES-LA30の「Wレンジ」モード(マグネトロン2基で加熱)で1分加熱した状態。全体に均一に熱が通っているのがわかります
一般的なマグネトロン1基の電子レンジ(600W)で1分加熱した状態。中央のこんにゃくはES-LA30のこんにゃくより熱くなっていますが、左右の皿は明らかに温度が低くムラが目立ちます

マグネトロン2基だからこその便利機能が超実用的だった

ES-LA30はツインエンジン構造によって熱ムラを抑え、さらに素早い加熱が可能です。このため、お弁当やドリンクの温めといったよくある日常作業でもストレスがありません。

しかし、ツインエンジンのすごさは加熱ムラの軽減だけではありません。2基のマグネトロンを独立して制御することで、これまでの電子レンジでは難しかったさまざまな加熱制御ができるのです。なかでも驚かされたのが、天板の上下で異なる温度帯の食材を同時に温められる「2段あたため」機能です。

付属天板で庫内を上下に仕切ることで、「冷凍食材」と「常温食材」を同時に加熱できる「2段あたため」機能。写真では上で冷凍ごはん、下でおかず(肉じゃが)を温め
今回は上段のごはんを65℃、下段のおかずを70℃に設定。それぞれ独立して設定が必要なため、操作はやや煩雑ですが、まるで電子レンジが2台あるような便利さがあります
庫内右側面には上下2つの赤外線センサーとLEDを配置。上下それぞれの食材温度をセンシングし、同時にちょうどよく加熱が終わるよう出力を自動制御してくれます

2段あたためは、まさに「電子レンジが2台ある」ような使い勝手。筆者宅では、上段で冷凍ごはんを解凍し、下段でおかずを加熱するのによく活用しています。電子レンジは一般的に異なる温度帯の食材を一度に加熱するのは苦手。このため、これまでは一度冷凍ごはんを解凍し、そのあとにおかずを温めるという手順が必要でした。おかずが温まった頃にはごはんがややぬるくなることも多かったのですが、2段あたため機能なら異なる温度帯の食材でも同時に「ちょうどよい温度」で仕上げてくれます。

上段2皿、下段2皿の最大4品を同時調理可能。取扱説明書では「冷凍食材は1段1品まで」とありましたが、筆者宅では夫婦2人分の2品を同時に調理しても問題ありませんでした

ちなみに、電子レンジは水分や塩分の多い食材ほど加熱されやすいため、カレーライスを温めると「ルーだけアツアツでごはんは冷たい」といったことも起こりがち。しかし、ES-LA30なら上段にごはん、下段にルーを置くことで、どちらも均一に温まり、仕上がりにムラがありません。さまざまなシチュエーションで便利に使える機能でした。

ミンチ肉の自動解凍が圧倒的に優秀、スチームレンジもより実用的に

筆者は家電ライターという職業上、さまざまな最新オーブンレンジを使っています。ですが、プレミアムオーブンレンジで意外と苦戦しているのが自動解凍モード。20万円前後するような製品でも外側だけ加熱されて中がカチカチのままだったり、逆に部分的に火が通りすぎて煮えてしまうことがあります。

そんななか、ES-LA30を使っていて特に感心したのが、ツインエンジンを利用した解凍モード「すごはや解凍」のスピードと仕上がりのよさです。

ミンチ肉の解凍は多くの電子レンジが苦手とするジャンルですが、ES-LA30は約400gの冷凍ミンチを、少し力を入れればボロボロ崩れる柔らかさにしっかり解凍。しかも、解凍終了まで約6分。400gのミンチの場合、解凍に13分以上かかる製品もそれなりにあるなか、この量のミンチの解凍としてはかなり素早い仕上がりだといえます。

解凍前のミンチ肉
398gの冷凍ミンチが5分52秒で解凍できました。解凍後は表面に薄い氷がのこっていましたが、手でつまむと中は柔らか、表面も軽い力で崩れてすぐに調理ができる状態に

もうひとつ、ツインエンジン構造を活かした機能として注目したいのが食材を乾燥させずに温める「スチーム加熱」です。一般的なオーブンレンジのスチーム加熱には、付属のカップに水を入れて庫内の床面に置き、加熱時のマイクロ波で水を沸騰させて蒸気を発生させる方式があります。ただし、この方法では蒸気が庫内全体に行き渡るまでに時間がかかり、加熱が始まってもしばらく湿度が足りないこともあります。

一方、ES-LA30は天板に水を注いだ「スチームポケット」をセットする構造。天板をセットすると水が庫内奥のマイクロ波放射部のすぐ横に位置するため、水が一気に加熱されて瞬時に庫内へ蒸気を充満させられます。実際、肉まんをスチーム加熱したところ、しっかり温まっているのに表面も乾燥せずしっとり。蒸し器で温めたような仕上がりでした。

スチーム加熱用の水を入れる「スチームポケット」。天板にセットできる珍しいタイプ
「スチーム加熱(加熱時間約2分、約1分の予湿あり)」で温めた肉まんは、ふわふわしっとりとした仕上がり。スチーム加熱はかならず天板で庫内を区切る仕様のため、他社のスチーム加熱よりも蒸気が濃く充満しやすい印象があります
温め後には扉部分が結露で濡れている状態。庫内全体が短時間でしっかりスチームに満たされていたことがわかります

普段の調理もまかせられる便利な機能も豊富

エブリノシリーズは以前から「サクレジ」などの便利な自動調理機能で人気を集めてきました。ES-LA30でも、そうしたシリーズの特徴的な機能はしっかり継承しています。たとえば、冷めた揚げ物をサクッと温め直せる「サクレジ」は、まず内部をマイクロ波で温め、その後にグリルヒーターで表面を軽く焼くことで、衣のサクサク感をしっかり復活させます。

付属の角皿を使って揚げ物を温める「サクレジ」機能。写真はスーパーで購入したミニエビカツをサクレジで温め直したもの。温め直すことで上面のサクサク感が蘇りました

オーブンやグリル機能ももちろん搭載しており、グラタンやクッキーなどの焼き調理もこなせます。ちなみに、実際にクッキーを焼いたところ、焼きムラは一般的なオーブンレンジと同程度。オーブン機能はものすごく優秀とはいいませんが、ちょっとしたお菓子作りなどには充分なクオリティがあります。ちなみに、ES-LA30はオーブンとレンジを組み合わせて調理する「すご技オーブン」といった機能もあり、ローストビーフやスペアリブなど、特別な日のごちそう料理でも活躍します。

日常使いできる自動メニューももちろん搭載。材料と調味料を耐熱容器に入れてメニュー番号を設定すれば、あとは放置するだけで肉じゃがなどのおかずが一品作れます。

オーブン機能は100~250℃に設定可能(220~250℃は約5分、その後は自動で210℃に変更)。バターをたっぷり使った焦げやすいクッキーも美味しく焼けました
自動メニューで作った「肉じゃが」。ツインエンジンを利用しているからか、大きめのジャガイモも約18分の短時間でホクホクに仕上がりました
通常は本体表面に記載されがちな自動メニュー番号は、本体下部に格納されており、引き出して見る珍しい仕組み。普段はリストを見せないため、本体表面の印字が少なくデザインがスッキリしている点も気に入りました

「電子レンジとしての基本機能」の重要さを再認識させてくれた

現在、さまざまな高機能オーブンレンジが市場に登場しています。しかし実際のところ、その多くは下位モデルと同じマグネトロンを使用しており、出力自体はほとんど変わりません。ただし、その分センサーを高精細化したり、温度や重量、赤外線などの情報をもとに高度な加熱制御を行なうことで熱ムラを抑える工夫が施されています。

そんな中で、ES-LA30は「マグネトロンを2基搭載する」という電子レンジの根本構造を見直した極めて珍しい製品です。ソフトウェア的な制御だけでなく、ハードウェアそのものを強化することで、これまで課題だった加熱ムラを根本的に解消。しかも、スピーディな加熱や均一な解凍、短時間でのスチーム生成など、日常的に使う機能のすべてにこの構造が活きているという、家庭用オーブンレンジとしては革命的な製品だと感じます。

今回、実際に使ってみたところ、じつは気になる点もありました。2段あたためやサクレジなど、天板を使用する機能が多いにもかかわらず、その天板がやや大きく重い、機能が多いからか一部の操作は手順が複雑に感じるなどです。例えば、自動あたためはワンボタンで行なえますが、ワット数や時間を設定して加熱したい場合は、まずレンジに設定してからワット数、時間を選択していく必要があり、手順が多く感じました。

しかし、日常的に使ううえで結局一番大事なのは「確実に加熱できる」基本機能と安心感。ES-LA30は、この基本機能に対する信頼感が非常に高い製品だと感じます。とくに、いままでの電子レンジ機能に不満がある人に一度チェックしてほしい製品です。

70℃に温めるだけなら、庫内に食材を入れたあと「あたためスタート」ボタンを押すだけと手軽。一方「電子レンジ500Wで1分加熱したい」といった場合は「レンジ/Wレンジ」ボタンを押し「レンジ」を選択、「500W」を選択、「1分」を選択、「あたためスタート」ボタンを押す、と手順が多くやや面倒
操作性は微妙でしたが、個人的にものすごく気に入ったのが加熱中に現在の温度が表示される機能。猫舌なのでホットミルクなどを「ちょっと低めの55℃」などで取り出したりできて、想像以上に使い勝手がよい機能でした
倉本 春