e-bike試乗レビュー

噂以上の走りと乗り心地と機能性!! ヤマハのグラベルe-bike「WABASH RT」が欲しくなった

ヤマハ発動機のグラベルロードe-bike「WABASH RT」。価格は438,900円

ヤマハ発動機から発売されたグラベルロードタイプのe-bike「WABASH RT(ワバッシュ アールティー)」。2022年1月の発表から大いに注目されているモデルですが、試乗する機会を得ましたのでレビューをお届けします。

試走に選んだコースは奥多摩むかし道とその脇を走る青梅街道(国道411号)。砂利道も舗装路も急坂もあるコースでWABASH RTの実力を探りました

ここでイキナリ、WABASH RT試乗後の筆者的結論を書いてしまいますと、WABASH RT、すっごく、よかったです。走りがいいし乗り心地もいいし、機能性もいい。これが438,900円で手に入るなら、安いとさえ思います。コストパフォーマンスの高いWABASH RT、かなり売れるe-bikeになるんじゃないでしょうか。

筆者が試乗したグラベルロードe-bikeのなかで、とりわけ魅力的な存在となったWABASH RT。高嶺の花という意味ではなく、現実的に手が届くe-bikeとして非常に魅力的です

WABASH RTのスペックは?

まず、WABASH RTはどんなe-bikeなのか? 主な仕様を見ていきましょう。

WABASH RTの車体カラーはセレスタイトブルーのみ。フレームサイズはS・M・Lの3種類が用意されています。車重はSサイズが21.1kg、Mサイズが21.2kg、Lサイズが21.3kg。なお、車名の「WABASH」は「石」の意味を持ち未舗装路走行をイメージし、「RT」は「Road」と「Trail」の頭文字。まさにグラベルロードe-bikeがカバーする道を示しています
主なコンポーネンツはシマノ「GRX」。GRXはグラベルライドに最適化されたパーツ群です。たとえばGRXリアディレイラーにはチェーンスタビライザーがあり、これをオンにすると通常よりもチェーンが強く張られます。これにより、チェーン外れやチェーンステイへのチェーン衝突(スラップ)が起きにくくなっています。チェーンリングは44T、カセットスプロケットは11-42Tで11速
ドライブユニットは同社のミドルレンジ「PWseries ST」(定格出力240W)。従来品(PW-SE)より100g程度軽量化されています。クワッドセンサーシステムを搭載し、スピード、ケイデンス(ペダル回転数)、ペダリングトルク、角度を検知・演算し、ライダーが求める最適なアシスト力を発生。たとえば上り坂道での発進でも十分なトルクを発生します。モーター音は筆者的な個人的印象になりますが、HIGHモードやSTDモードだと「意識すると聞こえるレベル」で、それ以外は「気にならない程度静か」という感じです
ディスプレイはハンドル中央手前左(ステムの左)にあり、そこで各種機能を操作します。アシストモードは、OFF(アシストはないが電装系が使用可能)、+ECO(プラスエコ)、ECO(エコ)、STD(スタンダード)、HIGH(ハイ)があります。満充電からの走行距離は、+ECOが200km、ECOが137km、STDが101km、HIGHが85km。また、A(オートマチックアシスト)モードをオンにすると、HIGH/STD/ECOの3モードから走行状況に応じたアシストモードを自動選択してくれます
バッテリーはインチューブタイプで、ダウンチューブ下側に装着されています。定格容量は約482Wh
ダウンチューブ左側には、バッテリー充電用のコネクター(上)とバッテリー着脱用鍵穴(下)があり、どちらもラバーパーツでカバーされています
バッテリー充電用のコネクター。かなりしっかりカバーされています。ここに専用ACアダプターのコネクターを接続すれば、バッテリーを取り外さなくても充電できます
バッテリーは着脱可能。鍵穴に専用キーを挿し、赤矢印部のレバーを動かせばバッテリーが現れます
バッテリーが出てきました。この状態でバッテリーが抜け落ちることはありません
少しレバーを動かすことでバッテリーを外せます。安心感・安定感のあるバッテリー部の機構です
外したバッテリーに専用ACアダプターのコネクターを直接接続すれば充電できます。バッテリー残量を確認できるLEDインジケーター付き
タイヤは前後ともMAXXIS「RAMBLER 700×45C」。グラベルロード特化タイヤで幅は45mm、エアボリュームもたっぷり
トレッドパターン。トレッド(路面と接触する出っぱり)の間隔は、中央が狭めでサイドは広め。直進時には転がりがよく、コーナリング時のグリップ力が強いそうです
前方から見ると「ハの字」に見えるフレアハンドルを採用。上部を握ると空気抵抗を抑えられ、下部を握ると前輪の暴れなどを抑え込めるので、グラベルロードバイクにはフレアハンドルがよく採用されます
比較的に幅広のフレアハンドルを採用しています。ハンドル前方中央には、コンパクトながら明るく路面を照らせるLEDヘッドライトを装備。LEDヘッドライトの電源はe-bikeのバッテリーから供給されます
サドルにはYAMAHAロゴが
サスペンション付きのドロッパーシートポストを採用。ハンドル右側のレバーを操作すると、乗車したままサドル高を調整できます。調整幅はフレームサイズSが40mm(+40mm サスペンション分)、MとLが60mm(+40mm サスペンション分)
この車体のフレームサイズはM。ドロッパーシートポストとして60mm可動し、サスペンションは最大40mm沈みます
ベルの右側に見えるレバーでドロッパーシートポストを操作します

奥多摩むかし道をグラベルで走る

さっそく試走です。試走に選んだコースは奥多摩むかし道と、それに沿って走る青梅街道(国道411号)。奥多摩駅を出発し、往路は奥多摩むかし道を上って奥多摩湖を目指し、復路は青梅街道を下ります。

なお、この試走ではWABASH RTのアシストモードをAモード、つまりオートマチックアシストモードにしています。ペダルを踏む力や走行状況によって、ECO/STD/HIGHのアシストモードを自動的に切り替えてくれるというモードです。

奥多摩駅前から試走開始。自宅から奥多摩駅までトランポですが、奥多摩駅前の奥多摩町役場の横にコインパーキング(23台駐車可)があり、ソコがナニゲに便利です
出発直後は青梅街道を上ります。ときどき急な坂もありますが、WABASH RTのアシスト力とギア比により軽快に走っていけました。橋の上から川(多摩川)を見下ろすと高度感があります
奥多摩駅から約2.2km走ると奥多摩むかし道へ(自転車などでも)入れます。桧村橋(ひむらばし)の手前が青梅街道との分岐。奥多摩むかし道で自転車やクルマが走れる区間は、砂利道と舗装路の道になっています
こんな舗装路。荒れた舗装路もあります。アップダウンを繰り返して奥多摩湖方面へと進みます。下りの急坂や急カーブがあったりもしますが、WABASH RTの油圧式ディスクブレーキは操作性がよく、十分な制動力があります。ハンドルも広めなのでブレーキ時に前方へ重力がかかっても安定的に減速できます。e-bikeは高所へ容易に上ることができる乗り物ですが、上りがあれば、必ず下りがあります。そんな状況でブレーキに安定性と制動力があると、安心感とともに下ることができます。
周囲はこんな風景。ハイカーもちらほらいます。観光者向けの比較的にきれいなトイレも数カ所整備されています
そして間もなく砂利道に。砂利道というより、石が多いダートロードといった感じでしょうか。まさに「WABASH」。進むほどに石が大きくなり道が荒れていく感じです。しかしWABASH RTのタイヤはエアボリュームがあるので、このような路面でも意外なほどスムーズに走れます。また、このダートロードは先に行くとアップダウンもけっこうありますが、そこではAモード(オートマチックアシストモード)の良さを実感できました。必要に応じて自動的に最適なアシスト力が発揮されますので、手動でアシストモードを切り替えるよりずっと快適です
グラベル走行で「効いた」のがサスペンション付きドロッパーシートポスト。大きめの段差や石による突き上げをサスペンションが吸収し、サドルに伝わる衝撃を大きく緩和してくれます。タイヤのエアボリュームとシートポストのサスペンションにより、荒れ気味グラベルを走ってもスムーズな乗り心地で、体もさほどこわばらないのであまり疲れません

WABASH RTは写真のようなダートロードで非常に快適に走れました。ひとつは乗り心地のよさ。タイヤのエアボリュームとシートポストのサスペンションが不快な突き上げや振動を大幅にカットしてくれて快適。

シートポストが40mmトラベル(可動域)のサスペンションとして機能。たった40mmでも、悪路での乗り心地を非常に快適にしてくれます

それから直進性のよさ。グラベルでの走行はハンドルを取られがちだったりもしますが、幅広のフレアハンドルだからか、車体が制御しやすく、WABASH RTをまっすぐ走らせるのが容易です。

加えて操舵性も良好。たとえば前方に大きめの落石を見つけて進行方向をクイックに変えることもスムーズにできます。

Aモード(オートマチックアシストモード)も非常にイイです。単純に、e-bike側がいつでも最適なアシスト力を発揮してくれるので、アシストモードを手動で切り替えなくていいという点。これにより「ギアチェンジに集中できる」というメリットがあります。

たとえば「カーブを曲がったら目の前に急な上り坂が出現!」という場合、アシストモードの変更とギアチェンジを並行する必要が出て忙しい。でもAモードならアシストモードはe-bike側で自動変更してくれるので、ライダーはギアチェンジだけ行なえばよく、余裕が生まれます。

それから上り坂での微妙な路面状態でも、Aモードが役立ちます。たとえば「坂は急なので強いアシスト力で上りたいけれど、途中の一箇所は路面が滑りそうな」という場合。滑りそうな箇所のみ弱いアシストモードに切り替えて走り抜けたいところ。でも切り替え操作がちょっと面倒です。しかしAモードだとペダルを踏む力だけで弱いアシスト力を使えます。小さな石や濡れた泥があって滑りそうな箇所だけ、ペダルを踏む力を弱めれば、おそらくスリップせずに無難に走り抜けられるでしょう。

奥多摩むかし道を走るほどに、高度感が増していきます。上り基調ですが、WABASH RTのアシスト力により鼻歌を歌いながら上れる感覚

実際、今回のダートロード試走でそういうシチュエーションが何度かありました。そのたびに「なるほどペダルを踏む力だけでアシスト力を弱められて便利だな」と実感できました。

そんな走行感なので、砂利道を走っていて非常に楽しいです。この奥多摩むかし道のダートエリアをe-MTBで走ったこともあるのですが、未舗装路での軽快さという点でWABASH RTのほうがずっと楽しい感じ。WABASH RTだと、状況によってスピードを出したりゆっくり走ったりできる。e-MTBとはまた違う、スピードの緩急が楽しいWABASH RTなのでした。

荒れ気味アスファルト道路を走る

奥多摩むかし道の砂利道エリアを抜けると、アスファルト舗装の道路が続きます。高度も増し、風景も変わり、WABASH RTでのe-bikeサイクリングがさらに楽しくなります。

砂利道を抜けるとアスファルト舗装の道路となります。ここは有名な「いろは楓」がある場所。紅葉の季節は絶景です
生活道路ですのでまずまずキレイに舗装されています。左側は谷。多摩川が流れています
こんな高度感のある道を、さらに高度を上げつつ走っていきます。WABASH RTはアスファルトの上だとロードバイク然とした走りを見せます。アシスト力もあり、上り基調でもキビキビした走りができる
進むにつれて空が近くなってくる。e-bikeだと上りの途中でも周囲の風景を楽しむ余裕があって愉快です。WABASH RTは前述の乗り心地の良さがありつつ、アスファルト上ではロードバイク的な軽快な走りができますので、「e-bikeならではの余裕」に加えて、なんというか走りに贅沢感があるように思います
途中にはこんな吊り橋が。危険なので渡るなら自転車を降りて
この写真は奥多摩むかし道の入り口。落石注意の標識がありますが……見たところ、落石って雰囲気の場所ではないような?
ところが、奥多摩むかし道を先に進んでいくと、徐々に舗装が荒れてきます。落石跡も見えてきたりして、「なるほど、ホントに落石注意だネ」という気分に。一応は舗装路ですが、路面はグラベルみたいなものかも。WABASH RTはこういう道でもバッチリ走破できます
ときには、こんなふうなガチな落石も。さすがのWABASH RTでもこういう石を乗り越えるのは危険ですね
こんな場所。上の巨石は木の根に支えられているだけ? ともあれ先に進んで奥多摩湖を目指します
奥多摩湖に到着。湖畔で一休み。奥多摩むかし道後半から奥多摩湖への道はほぼ急坂続きですが、WABASH RTのアシスト力と乗り心地で快適に走り切ることができました。休憩を終えたらアスファルト舗装の青梅街道を奥多摩駅まで一気に下ります
ロードバイクと同様の感覚で奥多摩湖から奥多摩駅まで下っていて痛感したのが、WABASH RTの乗り心地のよさ。下り車線には写真のような「スピード抑制のためのシマシマのペイント」が施されています。ペイントといっても、けっこう盛り上がっていて、「小段差」という感じ。ここを自転車で走ると、連続的に車体が突き上げられて、かなりの振動を感じるんですね。気持ちいいハズの下りが、振動だらけで不快に。ところがWABASH RTの場合、その不快な振動がかなり抑えられているんです。奥多摩湖からの下りは自転車やe-bikeでさんざん体験しましたが、WABASH RTがいちばん快適だと感じられました
シマシマのペイントからくる不快な振動を抑制してくれた理由のひとつは、サスペンション付きドロッパーシートポストでした。もうひとつが、エアボリュームたっぷりのタイヤ。そして恐らくWABASH RTの直進性の良さやフレーム剛性などもあり、シマシマのペイントの突き上げ舗装路を快適に下れたのだと思います。なるほど、さすが、グラベルロードe-bike
奥多摩駅のすぐ手前。憧れの東京都消防庁奥多摩消防署「山岳救助隊」の前で記念写真。サイクリング中に救助ヘリが往来している様子をよく見ます(この日は見ませんでしたが)。ご苦労様です!

奥多摩湖から奥多摩駅までの青梅街道の下りって、考えてみればスピード感は楽しいものの、道があまりよくないので、走行感自体はやや不快だったりします。小さな石や砂があったりもしますし。でもそういう道を快適に楽しく下れたのは、WABASH RTの走りと乗り心地ならではだと思います。

あとこのe-bike、単純に「速い」と思いました。ジオメトリーが筆者に合っていたのか、フレーム設計がいいのか、タイヤがよく転がるのか、スピードがよく乗るし、スピードが出るシチュエーションが多い気がします。軽いロードバイクに乗っている気分。でも、悪路も得意で、悪路をキビキビとスピーディーに走ることができる。

独特の良さを多々持っているWABASH RT。乗り心地がいいし、扱いやすいし、速く走ることもできる、非常に楽しいe-bikeです。機会があればぜひご試乗を!

【オマケ】WABASH RTは「穴だらけ」で便利そう!

前述のように、WABASH RTに大きな魅力を感じた筆者。試走したり撮影したりしている間、ずっと「WABASH RTを買おうかな」と真面目に考えておりました。羨望の眼差しでWABASH RTを見ていたわけですが、そこでまたWABASH RTのよさを発見!

WABASH RT、穴だらけなんです。つまりダボ穴がいっぱい。キャリアやアクセサリー類を外付けしやすそう。どの位置に穴があるのか、写真でご覧ください。

赤矢印の箇所にキャリアなどアクセサリーを取り付けられるダボ穴(ネジ穴)があります
ボトルケージマウントが2箇所(フレームサイズSは1箇所)。黒矢印は、バッテリーが出にくいときに棒などで押し出すための穴(ネジで塞いである)です。でもなにかに利用できそう?
フォーク横に2箇所のダボ穴が。これは左右にあります。またフォーク上部前方にも2つのダボ穴らしき穴があり、下の穴は後方へ貫通しているように見えました
フォーク先端にも2つのダボ穴。これも左右にあります
リアハブ付近にもダボ穴。これはフェンダー(泥除け)取り付け用のようです。もしかすると、赤矢印の右上の黒いものはカバーで、これを外すとリアキャリア用ダボ穴があるのかもしれません
反対側にも同様の穴が。黒矢印は別売キックスタンド用のマウントだそうです
シートステー上部にはリアキャリア用のダボ穴(左右)。中央のダボ穴はフェンダー取り付け用でしょうか? ここにリングロックを装着できたりしたら便利ですね
シートチューブ上部付近には余裕があります(フレームサイズM)。この部分に装着できるリング状の「リアキャリア取り付け金具」が市販されていますが、そういうのを装着できそうですね

説明文でやや曖昧な部分があるのは、十分な確認ができずに車体を返却してしまったからです。スイマセン。でもWABASH RTにはダボ穴がたーくさん。

グラベルロードe-bikeは、いまの時代の「旅自転車」として捉えることができます。道を選ばずいろんなところを走れますし、坂にも強いし、荷物をたくさん積んでも大丈夫。でもキャリアの類を装着できないと「荷物を積みにくい」ということになってしまいます。

WABASH RTの場合はその点も安心。自由にキャリアなどを装着し、旅自転車仕様のe-bikeとして楽しむこともできそうです。

ん~、やっぱりいいなあWABASH RT。マジで欲しい。買おうかな?

スタパ齋藤