家電製品レビュー

ジャイアントのクロスバイクタイプe-bike「ESCAPE RX-E+」の実力を体感!!

 はじめまして。この度、e-bike部にスカウトされた増谷です。e-bikeという言葉が生まれる前から電動アシスト自転車の取材をしてきましたので、高性能なe-bikeが選び放題ともいえる昨今の状況は夢のようです。そんな中で、一発目にレビューさせてもらったのはジャイアントの「ESCAPE RX-E+」。昨年発売されたモデルですが、ずっと試乗する機会がなかったので楽しみです。

メーカー名ジャイアント
製品名ESCAPE RX-E+
実売価格280,000円(税抜)

スポーツバイクのトップブランドが本気で作ったe-bike

 ジャイアントはスポーツバイクのトップブランドです。街で見かける機会も多いので、ブランド名をご存じの方も多いのではないでしょうか。私もスポーツバイクが好きなので、ブランド初のe-bike「ESCAPE RX-E+」がずっと気になっていました。同社のスポーツクロスバイクとして高い評価を得ている「ESCAPE RX」のジオメトリを受け継いだ軽量なアルミ製フレームで、“軽く・速く”走れるように設計されている点が特徴です。

 ドライブユニットはジャイアントとヤマハが共同開発し、バッテリーはパナソニック製をセレクトしており、e-bikeの根幹を成す部分は各ジャンルのトップブランドで固められています。実際に試乗した人たちの評価もスポーツバイク経験の有無に関わらず、おしなべて高く、期待してしまうモデルです。

フレームの素材はレーシングモデルにも採用される「ALUXX SLグレード」のアルミ。車体重量は20.0kg
心臓部であるドライブユニットは、アシスト制御に定評のあるヤマハとの共同開発
リチウムイオンバッテリーは、信頼性に定評のあるパナソニック製で容量は36V-13.8Ah
フラットなハンドルの中央にディスプレイを装備。操作は左手側のスイッチで行なう
操作スイッチはグリップ部と一体になった造形
ディスプレイの視認性は上々。残りの走行可能距離やケイデンスなども表示が可能

 ジャイアントはスポーツバイクを自社工場で一貫生産するメーカーなので、「ESCAPE RX-E+」も細部やパーツまでこだわって作られています。フロントフォークは見るからに剛性が高そうですし、前後に油圧式ディスクブレーキを採用。ブレーキの効きが良いのはもちろんですが、雨の日でも制動力が落ちず、コントロールしやすいのもメリットです。ホイールを支える軸の部分も前後ともスルーアクスルで、コンポーネントは同社のクロスバイクのトップモデルである「ESCAPE RX1」と同じくシマノ製「TIAGRA」グレードです。高品質なパーツが採用されていると、軽快な走りだけでなく変速操作もスムーズになるので、ママチャリタイプの電動アシスト自転車とは段違いの軽い走行感を味わえます。

テーパーコラムのフォークはがっしりしていて剛性が高い。前後とも12mmのスルーアクスルを採用
前後油圧式のディスクブレーキ。マウント方式もポストマウントという剛性の高いもの
変速はリアのみで10速のシマノ「TIAGRA」グレードのディレーラーを装備
ホイールはジャイアント製の「GX-28」。リムハイトがややあってスポーティな見た目
タイヤは700×32Cとスポーツバイクとしてはやや太めだが、もう少し太いタイヤも装着できそう
グリップにもジャイアントのロゴが入る。変速操作はラピッドファイアー式でやりやすい

 「ESCAPE RX-E+」の車体やパーツの構成は、見ただけでもトップブランドとしてスポーツバイク作りのノウハウを惜しまず注ぎ込んでいると感じられます。とはいえ、決してスポーツバイクの初心者にとってハードルが高いモデルではありません。その証拠に車体を立てるための専用スタンド台座が標準装備されています。購入者のほとんどがスタンドを付けているそうです。

 ロードバイクやMTBにはスタンドがないのが当たり前になっていますが、気軽に街乗りを楽しむには、やはりスタンドはあってほしいもの。ちょっとコンビニに寄ったり、カフェに入ったりする際に、車体を立てかける場所を探す面倒もありません。特にe-bikeは車重もあるので、しっかりした専用スタンドが装備できるのは魅力です。またクッション性のあるサドルや、やわらかく握りやすいグリップなど、ジャイアントが「ESCAPE RX-E+」をスポーツバイクの初心者に乗ってほしいと考えていることが感じ取れます。

接地面積が大きく、頑丈そうな専用スタンドを装備できるのは車重のあるe-bikeにはありがたい

スペックだけでない高い走行性能

 実際に「ESCAPE RX-E+」にまたがってみると、まずドライブユニットの幅がとてもスリムなのに驚かされます。左右のペダル間の幅を「Qファクター」と呼びますが、e-bikeはモーターを内蔵したドライブユニットを採用しているため、この幅が広くなりがちです。Qファクターは狭いほうがペダルを回すスピード(ケイデンス)を上げやすいため、ロードバイクなどはかなり幅が詰められていますが、「ESCAPE RX-E+」もロードバイク並の幅に収められています。e-bikeながら、スポーツバイクとしても作り込まれている印象です。

ドライブユニットをよく見ると、後ろのほうがスリムに絞り込まれているのがわかる
ペダルに足を乗せても、膝が外側に開かないので高ケイデンスのペダリングがしやすい

 また、サドルに腰掛けてハンドルを握ると、適度な前傾の乗車姿勢になります。クロスバイクはもう少し上体が起きる姿勢で乗車するモデルもあり、現行のe-bikeの多くはその乗車姿勢に近いのですが、「ESCAPE RX-E+」はもう少し前傾気味。そのためスピードを維持しやすく、快適でスムースな走行を可能にしています。

ライディングポジションは適度な前傾で、スポーツバイクに乗っている気分にさせてくれる

 ペダルを漕ぎ出すと、アシストのフィーリングは極めて自然。通常の(ママチャリタイプの)電動アシスト自転車は、ペダルを踏むとガツンとアシストが発生しがちです。しかし、e-bikeは初期のアシストが抑えめで、ペダルを踏む感覚がスポーツバイクに近いものが主流。その中でも「ESCAPE RX-E+」は漕ぎ出しのアシストがナチュラルなフィーリングです。通常の電動アシスト自転車にしか乗ったことのない人は、そのナチュラルなアシストにきっと驚かされるでしょう。漕ぎ出しの急な加速感がないのは安心です。

 アシストモードは「ECO」「ECO+」「NORMAL」「SPORT」の4種類ですが、「ECO」モードだと一瞬「あれ? 本当にアシストしてる?」と思ってしまうほど。でも少し漕いでいると、ペダルを踏む力に対して確実にアシストが上乗せされていることが伝わってきます。“アシストされている”というよりは“自分がパワーアップ”したかのように感じてしまうほどナチュラル。ロードバイクなどの経験者は、電動アシスト自転車のアシストフィーリングに違和感を覚える人も少なくないようですが、このモデルであれば抵抗なく乗り換えられそうです。

アシストは4つのモードが選べるが、最も強力な「SPORT」モードは上り坂でなければ必要ないほどパワフル
結構斜度のある坂道だが「NORMAL」モードでもスイスイ上れる

 でも、アシストモードを一番パワフルな「SPORT」にすると、ドライブユニットからの音も変わり、一変してアシストも力強くなります。切り替えた瞬間に、思わず「速え……」とつぶやいてしまったほど。正直なところ、平地では「STANDARD」か「ECO+」で十分だと思います。これだけ強力なアシストがあれば、かなり急な坂道も楽に上れますし、これまで自転車で行こうとすら思わなかった場所まで足を伸ばしたり、行動範囲を広げてくれそうです。10~20km程度の道のりなら、自転車で十分通勤できるうえ、電車などの乗り換えがなくなりますので通勤時間が短くなるかもしれません。さらに慣れてくれば、休日に50km超えのツーリングにも出かけたくなる人もいるでしょう。

今回走ったルート。距離は約27kmで走行時間は90分ほど。平均時速は18km/h

 今回試乗したコースは、都内の坂道と、編集部から自宅までの約27kmの道のり。いずれもe-bikeやスポーツバイクなど、さまざまな自転車で何度も走ってきたルートです。これまでに試乗してきたe-bikeと比べても「ESCAPE RX-E+」は“楽”で“速い”という印象。主な要因は高い速度を維持しやすいことでしょう。

 e-bikeは法規制があるので、24km/hを超えるとアシストがゼロになります。そのため、24km/hを超えると急に重さを感じるモデルも少なくありません。速度を見ていなくても「あ、今24km/hを超えたな」とわかるほど。ですが、「ESCAPE RX-E+」はアシストが切れても重たく感じることがないので、ふとディスプレイに視線を落とすと30km/h以上出ていたりして驚いたほどでした。ちなみに30km/h程度の速度での巡航は、ロードバイク初心者にとって1つの目標となりますが、「ESCAPE RX-E+」であれば買ったその日から、初心者でもその速度域で走れてしまうわけです。

走行感覚はかなり軽快。ペダルを踏む力にアシストがキレイに上乗せされていく感じ

 なぜスポーツバイクより重たいe-bikeなのにアシストなしで速度が出るの? と思われるかもしれません。実際に「ESCAPE RX-E+」の重量は20kgで飛び抜けて軽いわけではないので、ホイールなど回転する部分の抵抗が少ないことが要因と考えられます。ペダルを止めて惰性で走っていると、「ESCAPE RX-E+」はスピードが落ちるのが遅く、惰性でも車速が伸びているように感じられるほどでした。良い(高い)ホイールが付いたロードバイクに乗ると、この“伸び”を感じることがありますが、それと似た感覚です。アシストの効かない速度で走りやすいということは、バッテリー消費も抑えられるのでうれしい特性です。

実際に27kmを走り切った後のバッテリー残量は86%で、残りの走行距離は「SPORT」モードでも74km。これなら100kmオーバーのツーリングも余裕でこなせそう
暗くなったときにありがたかったのが、バッテリーから給電されるライトの存在。かなり明るく、夜間の視認性と被視認性を高めてくれる
走っていて、最も感じたのが回転抵抗の少なさ。ホイールの性能がいいと、e-bikeでも恩恵を得られる
サドルは硬くはないのだが、1時間くらい乗るとお尻が痛くなったので筆者のお尻の形には合っていなかったよう

 もう1つ、走っていて感じたのは、惰性で走りながらペダルを空転させられること。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、ロードバイクなどで長距離を走るときは、例えば前方の信号が赤で減速する際などに、ペダルを完全に止めるのではなく、ギアが噛み合わない程度の速度で回し続けたりします(そのほうが筋肉に乳酸が溜まりにくいとか)。

 ただe-bikeで同じことをやろうとすると、空転させたいのにセンサーが反応してアシストが効いてしまうことがあります。「ESCAPE RX-E+」ではこれがまったくないので、減速しながらゆっくりペダルを回し続けることができました。たぶん緻密なセンサー制御のおかげだと思われますが、詳しく開発担当者に聞いてみたいところです。この走り方は疲れにくさにかなり効いてくるはずなので、長距離ツーリングに出かける場合にもメリットです。

ペダルを止めて走っていても、車速の落ちが少なく、回転部分の抵抗が少ないことが感じられる

 ちなみにアシストOFFの状態でも走ってみましたが、車体の重さは感じるものの、大きな抵抗を感じることはなく、平地であれば普通に乗れると思えるくらいでした。アシストOFFの状態で乗るe-bikeは、苦痛に感じるモデルもありますが(ママチャリタイプの電動アシスト自転車はバッテリーが切れたら絶対に乗りたくない)、「ESCAPE RX-E+」はあまり苦に感じずに走れそうです。

アシストを切って走っても、少し重いクロスバイクに乗っているような感覚

 満充電でアシスト走行が可能な距離は「SPORT」モードで90km、「NORMAL」モード110km、「ECO+」モード150km、「ECO」モードでは225kmですが、実際に走ってみた感触ではもっと走れそうです。ですので、ロングツーリングにも気軽に挑戦できると思います。毎日の自転車通勤などで使う場合も、充電回数を抑えられるので、平地での往復20km程度の距離であれば、1週間に1度の充電で済むでしょう。しかも、アシストなしでの走行感も軽いので、たとえバッテリーが切れたとしても走って帰るのが苦になりません。

 スポーツバイクに乗ってみたいけど「難しそう……」「体力に自信がない……」と考えている人にはかなり魅力的な選択肢でしょう。現在いろいろなe-bikeが発売されていますが、「ESCAPE RX-E+」は初心者の方に強くオススメできます。アシストがあることに加えて、スポーツバイクの魅力である抵抗のない軽快な走行感やハンドリングを味わうことができ、きっと行動範囲も広がります。あと、自分がロードバイクに乗っていて、奥さんも巻き込みたいと考えている人は「ESCAPE RX-E+」をプレゼントしてみるのもいいかもしれません。ただ、上り坂で奥さんにブチ抜かれてもめげないメンタルの強さは必要だと思いますが……。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車は取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。