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ソニーのリカバリーウェア着てみた。ホントに疲労回復する?

「R WEAR」による疲労回復効果を試しました

着用することで身体の疲労回復を促し、パフォーマンス向上を支援するという特殊な機能性衣類「リカバリーウェア」が注目されています。

そんな中、ソニーが独自開発した素材「トリポーラス」を活かしたリカバリーウェアの新商品「R WEAR(アールウェア)」が7月に一般販売を開始。日ごろ座りっぱなしで仕事をしている筆者が、この新製品を体験してみました。

ソニーの技術から生まれたリカバリーウェア「R WEAR」

R WEARは、日本のスタートアップ企業であるサプリムが販売するリカバリーウェアです。サプリムはエムスリーとソニーグループによる合弁会社として2022年4月に設立され、現在はヘルスケアに関わるテクノロジーを活かしたサービスと製品を専門に展開しています。自宅で睡眠障害リスクの計測が簡単にできる「Sleep Doc(スリープドック)」も、サプリムによる話題のサービスです。

個人の身体・メンタルをいつも最適な状態に維持し、健康な状態を促進することを目的とするコンディショニング関連の市場がいま盛り上がっています。特に20代から50代の働き盛りの世代が疲労回復系の製品やサービスに強い関心を寄せているといわれ、リカバリーウェアもこのコンディショニングの領域に含まれるアイテムです。現在は多くのメーカーが商品を販売しています。

サプリムによるR WEARの特徴は、ソニーが独自に開発した籾殻由来の多孔質カーボン素材「Triporous(トリポーラス)」の応用により生まれた、遠赤外線輻射効果を持つ生地「R FAB(アールファブ)」を採用している点にあります。

【訂正】初出時、サプリムの設立年度を誤って記載しておりました。お詫びして訂正します(15時15分訂正:編集部)

ソニーの独自素材であるトリポーラスの含有量を調整して、遠赤外線輻射効果を持たせた「R FAB」という独自の生地が、商品としてはR WEARに初めて採用されました

トリポーラスの含有率を高めて血行促進効果を実現

トリポーラスはこれまでも消臭抗菌機能を持つ素材として、衣類やハンカチ、タオル、カーペットにシャンプーなど、ソニー以外のメーカーによる商品にも数多く採用されてきました。サプリムはソニーのトリポーラスの開発チームと連携して、「炭=トリポーラス」の配合比率を高めたR FABをつくりました。糸に多くのトリポーラスを練り込んで、生地として成形したものがR FABです。

R WEARは「家庭用遠赤外線血行促進用衣」に該当する一般医療機器であり、「遠赤外線の血行促進作用により疲労や筋肉の症状改善を行うことを目的とした衣類形状の器具」として定義されています。

一般医療機器としての認証を得るためには、血行促進効果に関する臨床試験が必要ですが、サプリムでは第三者機関の医師立ち会いのもとに臨床試験を実施。まずはR FABの生地そのものが一定の遠赤外線輻射力を持っているのか「生地試験」を行ないました。

そして生地試験をクリアした後に、ウェアを着用した状態での臨床試験を行ないます。この臨床試験で、ガイドラインに定められた血流改善効果が認められると、一般医療機器としての届け出が可能になります。この厳格なプロセスを経てR WEARは製品化されました。

R FABの遠赤外線輻射効果については、一般社団法人ニッセンケン品質評価センターにより、ソニーが試作した綿やポリエステルを素材とする他の生地よりも高い輻射力が示されました

サプリムではR WEARを約2,000着つくり、公式直販サイトで販売したり、2025年4月には六本木 蔦屋書店で先行販売を行ないました。ソニーグループでR WEARの事業開発に携わる山本琢也さんによると、「全ての在庫が短期間で完売したことでR WEARの正式な事業化が決定した」と言います。そして2025年7月から六本木 蔦屋書店(7月2日〜7月31日)、高島屋 大阪店(7月16日〜)で新たに店頭販売が開始されました。

2種類の商品をラインナップ

R WEARには大きく分けて2種類の商品があります。1つは夏場も快適に着られる「Dry Mesh」シリーズです。上下それぞれにロングとショートのバージョンが単品で販売され、ほかにもロングとショートの上下セットがあります。サイズ展開はS/M/L/XLの4種類。

もう1つは秋冬時期の使用に適した、少し厚手の生地を採用する「Relaxing Mesh」シリーズです。こちらも上下の単品、またはセット販売があります。サイズ展開は「Dry Mesh」シリーズと同じS/M/L/XLの4種類。

夏に涼しく着られる「Dry Meshシリーズ」のロングタイプ

今回筆者はDry Meshシリーズのロングスリーブ/ロングパンツセットを、預かってから1週間ほど試すことができました。価格は税込で34,400円です。

筆者は背丈が178cmぐらいですが、サイズは「L」を選びました。普段スウェットなどの室内着は「M」の商品を選んでいますが、R WEARはパジャマとして就寝時に使うことを予定していたので、少しルーズフィットなぐらいが良いと考えたからです。実際にはどのサイズのウェアを選ぶのが正解なのでしょうか。

Dry Meshシリーズのロングタイプ。サイズは「L」を選びました
少しゆったりめですが、ルーズフィットになりすぎることなく心地良く着られます

R WEARは下着を着たうえで、基本的には素肌に触れるように着ることを想定したリカバリーウェアです。サプリムはR WEARを着て過ごすと「遠赤外線による血行促進作用により、筋肉の疲れを軽減し、疲労を回復する効果」が期待できるとしています。

もう少し詳しく説明します。遠赤外線輻射は人の健康に様々な良い効果をもたらす可能性が指摘されています。人の身体は常に熱を発生させており、その熱が遠赤外線として放出されています。この遠赤外線をトリポーラスが吸収し、波長域を広げて再放出(輻射)することで、再び皮膚に吸収されるとのことです。この繰り返しによって血管が拡張して、血流が活性化されると、酸素や栄養素が身体中に効率良く運ばれるという仕組みです。この時に老廃物の排出も促されるといいます。

遠赤外線輻射の効果を高めるため、R WEARはなるべく肌に直接触れるように着ることが肝要です。ただ、ソニーの山本さんによると、服のサイズはタイトフィット、あるいはルーズフィットのどちらを選んでも遠赤外線輻射の効果は変わらないそうです。

さらに、ロングとショートのどちらを選んでも、やはり遠赤外線輻射の効果は同様だと言います。一般社団法人日本医療機器工業会が作成した「家庭用遠赤外線血行促進用衣 自主基準」には、R WEARのような「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の定義として、「上半身用及び下半身用があり、それぞれ少なくとも上腕部および大腿部を被覆する」ことが記述されています。つまり半袖でもリカバリーウェアとしての効果は十分にあるということです。

Dry Meshシリーズの半袖タイプ
Dry Meshシリーズのショートパンツ
Relaxing Meshシリーズのロングスリーブ。Dry Meshシリーズよりも少し目の粗い生地を採用しています

快適な着心地。高い消臭抗菌と吸汗・速乾効果

今回、筆者はDry Meshシリーズのロングの上下セットを選びました。夏場はエアコンをつけて寝ていることもあり、ロングのウェアでも暑くて寝苦しく感じることはありませんでした。その理由は、R WEARが着心地を快適にするため様々な工夫を凝らしているウェアだからです。

R WEARは、日本女子大学 家政学部被服学科名誉教授の大塚美智子さんが監修に関わり、「着圧レスでストレスフリーなデザイン」を目指して作られています。着用して腕を動かしても脇の下のあたりが突っ張る感覚が少なく、気持ち良く寝返りがうてます。

日本女子大学の大塚名誉教授が監修した独自の3Dデザインを採用。就寝中に動きやすく、衣服の突っ張りにより快適さが損なわれないよう丁寧にデザインされています

R WEARは生地構造にも大事な工夫を凝らしています。内側の肌に触れる裏地は、トリポーラスを多く練り込んだレーヨン素材のR FABになります。肌触りはシルクのようにきめ細やかです。レーヨンは高い吸水性を持つため、肌からの汗や水分を素早く吸収します。蒸し暑い夜に着用したところ、普通のTシャツを着て寝た時に比べて寝汗が気になる感覚がありませんでした。

ウェアの表地にはポリエステル製のメッシュ生地を採用。裏地と特殊な2枚合わせの構造にしたことで、裏地が吸収した水分を表面のメッシュ生地を通じて拡散・乾燥させて肌のべたつきを抑えます。洗濯後もすぐに乾きます。暑い夏の晴れた日であれば、午前中に干して午後イチには乾いていました。

肌に触れる側は吸汗性能の高いレーヨン素材として、表側の生地は放湿性に優れるポリエステルのメッシュ素材を採用しています

トリポーラスが消臭抗菌効果に優れる素材であることも、R WEARの心地良さを高めています。

トリポーラスは、年間1億トン以上排出される余剰バイオマスである米の籾殻を再利用した植物由来の素材です。トリポーラスの粒子には大中小のマイクロサイズの孔がランダムに開いており、汗の原因となるアンモニアをはじめとする様々な種類の菌やニオイの元を、素早く大量に吸着することから優れた消臭効果を発揮します。

筆者は寝汗を多くかく夏に、同じシャツを何度も着回して寝る覚悟が持てなかったので、ひと晩着た翌日にR WEARのニオイをチェックしてみました。確かに汗などのニオイは、普通のTシャツに比べるとまったく気になりませんでした。

肝心の回復効果は?

さて、肝心のR WEARによる疲労回復効果ですが、筆者はまだ明らかな実感があるとまでは言い切れません。ただ、足のむくみが強かった夜にR WEARを着て寝ると、翌朝には気にならないほどまで解消されていたり、別の日も脚の重くだるい感覚がだいぶ楽になったりしたことがありました。

夏場は寝苦しさを軽減するため寝室に冷房をかけて寝ていますが、温度設定やタイマーを上手に使わないと身体が冷えることがあります。ロングのR WEARを着て寝ると、冷房による身体の冷えはかなり軽減できました。

R WEARの用途はスリープウェアに限定されているわけではありません。部屋着としても活用できます。特にデスクワークなど、同じ姿勢を長く続けることで疲労が蓄積しやすい場合も、着用し続けることで血行促進効果が期待できると思います。

自宅で1日執筆活動に集中しなければならない日に上下セットを着てみましたが、特に脚がだるくならない手応えもありました。ただ、筆者の性分として、ルーズフィットの服を着ていると仕事に集中しにくいので、MサイズのR WEARがほしくなりました。

安価ではないがコスパは良好

R WEARはその機能性を維持しつつ長く使えるよう、耐久性にも配慮しながらつくられています。洗濯は通常の洗剤、柔軟剤が使えます。サプリムでは連続50回の洗濯試験を実施し、その結果、一般的な黒色のトレーナーに比べてR WEARはほとんど色落ちしないことが確認されたそうです。

これは、R FABの生地が糸の段階からトリポーラスを練り込んでつくられていることにも起因しています。トリポーラスの地の色が漆黒であることから、ウェアのカラバリ展開が難しくなる課題は残るものの、むしろこの深い黒色がR WEARのアイコンにもなっていることはポジティブに捉えたいです。

トリポーラスを練り込んだ糸により独自の新しい生地であるR FABがつくられています。ソニー独自の試験により色落ちにも強いことが確認されています

ソニーの山本さんは、今後もユーザーの疲労回復をサポートするリカバリーウェアとして、R WEARの様々な展開を検討すると前向きに答えてくれました。具体的なアイテムの種類に関する言及はまだなかったものの、「ユーザーが回復することに集中しながら使える商品」に注力する考えにも山本さんは触れています。例えば睡眠時のように、身体の動きが少ない時の方がR WEARによる遠赤外線輻射効果を最大化しやすいからです。

一般医療機器としても認定されているR WEARは、筆者が「誰でも気軽に試せます」と推せるほど安価な商品ではありません。ただ、洗濯などメンテナンスが比較的容易にできるうえ、とりあえずワンセットを購入すれば繰り返し使い倒せるタフネスを備えています。

R WEARを発表してから、サプリムにはホテルや旅館など宿泊施設から「ゲストに提供する室内着にしたい」という問い合わせも多く寄せられているそうです。今後、宿泊施設などでR WEARの着心地や効果がより気軽に試せる機会が増えることも期待したいです。

山本 敦