家電のしくみ

縦型洗濯機は、ドラム式より汚れを落としやすい?

毎日の生活を便利に、そして楽にしてくれる様々な家電。ふと「どんな仕組みで家電は動くの?」と気になったことはありませんか? 電気や家電の基本、ちょっとしたギモンを、家電のプロ・藤山哲人さんに聞いてみました。
第2回は縦型洗濯機のしくみを紹介(写真はパナソニックの「NA-FW100K7」)

電気洗濯機の仕組みは様々だ。現在採用されているものを、購入者目線で、大きく2つに分類すると「縦型洗濯機」と「(斜め)ドラム式洗濯機」がある。前者は洗濯槽が縦に配置され、後者は斜め横に配置されている。

最近は高価格のドラム式洗濯機も注目されるなかで、今も人気が根強い「縦型洗濯機」を中心に、洗濯物をキレイにする仕組みを解説しよう。

洗濯槽が縦に配置されている「縦型洗濯機」(写真はシャープの「ES-PX10」)

底の「パルセーター」が起こす水流で衣類をかき回して洗う

「縦型洗濯機」も、さらに細かく分類できる。例えば洗い方に注目して分けると、主に「撹拌(かくはん)式」と「渦巻式」とがある。現在の国内での主流は「渦巻式」あるいは「パルセーター式」と呼ばれるもの。撹拌式は洗濯槽の中央に撹拌翼を備え、それを回転させることで、水と衣類をかき回す。一方の「渦巻式(パルセーター式)」は、洗濯槽の底に凹凸のあるパルセーターを備え、それを回転させることで、槽内の水をかき回し、水流を作る。国内では「縦型洗濯機」イコール「渦巻式(パルセーター式)」という状況なので、「パルセーター式」や「渦巻式」と呼称することは、ほとんどない。

パルセーターとは、表面が凸凹形状の円盤。洗濯中の洗濯機は、パルセーターを高速回転させて、槽内に渦巻のような水流を起こす。水流ができると、水中の衣類が舞うように動き出し、衣類同士がこすれ合う。縦型洗濯機は、主に衣類がこすれ合うことで、汚れが落ちていく。

パルセーターの形は、各社各モデルで様々な形状を採用している(写真はシャープ製のイルカの尾から着想した形状のパルセーター)
パルセーターを回転させることで、槽内に水流を起こす
教えて! 藤山さん

「縦型洗濯機」は、衣類がこすれ合うことで汚れが落ちていきます。そのため、上から衣類を叩き落として洗う「ドラム式洗濯機」と比べて、洗浄力が高いのが特徴です。特に泥汚れや油汚れを落としやすいため、小さなお子さんがいる家庭におすすめです。また、パルセーターの形は流体力学の分野なので、最適解はなかなかありません。そこで各社各モデルで、様々な形状を採用しています。例えば、右回転したときには、強い洗い方をするので凸凹のエッジの立ち上げを鋭くして、左回転したときには弱く洗う「おしゃれ着モード」用のために、エッジの立ち上がりをゆるくするなどの工夫を行なっています

さらに全自動洗濯機では、ユーザーが一般的に目にする洗濯槽の外側に、もうひと回り大きな槽がある。洗濯時に実際に水を溜めるのは、この外側の槽。全自動モードでは、洗濯が終わり水を抜いた後に、内側の洗濯槽が高速で回転して、脱水に移る。これは洗濯槽自体を回転させることで、衣類の水分を遠心力で取り除く。そのため、一般的な全自動洗濯機は、洗濯槽に穴が空いている。この穴から、水が抜けていくのだ。

教えて! 藤山さん

一般的な縦型洗濯機と異なり、洗濯槽が1つしかないのが、シャープの「穴なし槽」です。これにより節水性に優れています。一方で、脱水時に水を抜く技術が難しいです。同社の場合は、まず洗濯槽の底部から排水し、さらに洗濯槽を1分間に最大1,000回という高速で回転させます。この時の遠心力で、衣類から出てきた水が洗濯槽の上部から抜けていく仕組みです

シャープ「穴なし槽」の脱水方法

パルセーターや洗濯槽を回すモーターの仕組み

縦型洗濯機の基本は、モーターで洗濯槽の底部にあるパルセーターを回転させ、槽内に水流を起こして衣類をかき回して洗う。

現在の一般的な洗濯機では、エアコンやIHクッキングヒーターにも用いられるインバーターを搭載する。洗濯機におけるインバーターとは、モーターの回転速度を変えて駆動させる役割を担っている。最新の縦型洗濯機に、様々な洗濯コースがあるのは、このインバーターを備えているからだ。モーターとパルセーターを、素早く一気に回転させたり、ゆっくりと回転させたりする。

モーターの取り付け方法は、大きく2つに分けられる。一般的には、洗濯槽の中心軸からズラした場所にモーターを搭載する方式が採用されている。モーターの力を、ファンベルトのようなゴムベルトでパルセーターに伝える方式だ。もう一方は、東芝製で採用されているダイレクトドライブ方式。洗濯槽に直接モーターが取り付けられている。

国内で主流の縦型洗濯機を横から見たところ。洗濯機の下部にモーターを搭載し、洗濯槽内のパルセーターを回すことで、槽内に水流を生み出し、衣類を洗浄していく。図の左は一般的なモーターの配置。右図はダイレクトドライブ方式
ダイレクトドライブ方式は、モーターがパルセーターに直結している
教えて! 藤山さん

ダイレクトドライブ方式は、パルセーターや洗濯槽へ直接、モーターの力が伝わります。そのためエネルギー損失がほとんどありません。また、一般的な洗濯機はガタンゴトンと音がうるさく感じますが、一方のダイレクトドライブ方式は、振動音が少なく静かです。ベルトや回転運動を伝達する機構の部品がなくなるので、故障する確率も低くなります。

油汚れを落とすのは得意だが、乾燥機能は苦手

藤山さんが冒頭で断言した通り、縦型洗濯機は泥や油など頑固な汚れに強い。これだけを見れば、縦型洗濯機を選択するのが当たり前と思える。だが縦型洗濯機の最大の弱点は「乾燥機能の弱さ」にあるという。

教えて! 藤山さん

現状の縦型洗濯機の乾燥機能は、電熱線で作った温風を衣類に当てています。そして衣類から出てきた湿気を洗濯槽の周りにめぐらせた、水を通した管で結露させて、除去しています。つまりドラム式洗濯機の乾燥機能と異なり、ヒーターを使うし、湿気った空気を結露させるための水も必要なので、すごくエネルギー効率が悪いんです。そのため、ヒーター無しで常温の風を送って乾燥させる機能を搭載した「簡易乾燥機能」と呼ばれるモデルもありますが……やはり簡易ということもあり、ドラム式洗濯乾燥機のようにパリッと乾きません。本来であればドラム式洗濯乾燥機と同様に、ヒートポンプ式の乾燥機能を搭載してほしいのですが、ヒートポンプ機構が大きいため、縦型洗濯機には搭載できないのが現状です

エアコンやドラム式洗濯乾燥機などで利用される、冷媒を使って熱を移動させるヒートポンプ式は、電熱線で温めるよりもエネルギー効率が高い
ドラム式洗濯乾燥機に搭載されているヒートポンプ機構(画像はシャープ)。これをそのまま縦型洗濯機に搭載しようとすれば、本体サイズが大きすぎてしまう。例えば洗濯槽の上下に搭載すれば、本体が高くなり洗濯物の出し入れに不便。左右に収めようとすれば、そもそも洗濯機を設置できなくなってしまう

現状のメリットとデメリットを踏まえた上で、泥汚れなどに強い縦型洗濯機は、元気な子供のいる家庭におすすめ。一方で、乾燥機能を重視するのであれば、ドラム式洗濯乾燥機を選ぶと良さそうだ。