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根強い人気の縦型洗濯機ビートウォッシュが出荷1千万台。開発秘話と今の洗濯トレンドを聞いた

2008年のモデル「ビートウォッシュ 湯効利用 BW-D9JV」

日立グローバルライフソリューションズは、縦型洗濯機の「ビートウォッシュ」が2022年2月時点で累計出荷台数1,000万台を達成したと発表した。

2004年6月に最初のモデルが発売されたビートウォッシュは「押して、たたいて、もみ洗う」方法によって、渦巻式(縦型の洗浄方式)でもドラム式でもない「第3世代のビート式」として展開。節水しながら汚れ落としの強力さを持つ仕組みとして、今も人気を得ている。

また、洗濯のたびに洗濯槽を自動で洗う「自動おそうじ」を2011年に初めて搭載したほか、フタを折りたたまない一枚板のガラストップデザイン、乾燥機能を高めた「風アイロンコース」などを導入して、今も進化を続けている。

GfK Japanのデータによれば、2021年の洗濯機市場は前年並みの520万台となり、4年連続で500万台を超えた。ドラム式は数量前年比14%増と好調ながら、今も数量構成比でみると、ドラム式が17%、縦型が80%、ニ槽式が3%と圧倒的に多いのは縦型洗濯機だ。

そうした中でも、独自の洗浄方式などで根強い人気を持つ日立のビートウォッシュ。1,000万台達成を振り返り、2004年の立ち上げ時と現在の商品企画担当者それぞれに、開発当時の苦労や現在の動向などについて話を聞いた。

ビートウォッシュの累計出荷台数

ビートウォッシュは、もともと洗濯ではなく乾燥の技術から生まれた

日立洗濯機の洗浄力を高める取り組みとして特徴的なのは、1998年の「イオン洗浄」にさかのぼる。これは家庭にもある「塩」を使って、より汚れ落としに適した軟水にするものだった。塩を投入する手間は必要だったものの、洗浄力の高さで日立の洗濯機が評価されたという。

その後、ドラム式も普及してきた中で、縦型の弱点とされた乾燥性能と節水性の改善を図る中で誕生したのが「ビートウィング」。洗濯槽の底で回転する皿状の「パルセーター」が波打ったようなデザインで、洗濯物を大きく動かして「押して、たたいて、もみ洗う」形を実現した。

2004年に商品企画を務めていた森川祐介氏(現マーケティング本部 CRM部 担当部長)によれば、このビートウィングは、当初は洗浄性能ではなく乾燥性能を高めるために開発されたものだったという。これを試しに洗浄にも使ってみたところ、洗濯物の動きが良くなり、高い洗浄力を持っていることが分かり「目からうろこだった」と振り返る。

2004年当時に商品企画を務めていた森川祐介氏(左)と、現在の商品企画を担当する出井隆太氏(右)がオンライン取材に応えてくれた

課題だった節水については、常に洗濯物が洗剤(の入った水)に浸かった状態にするために、上からポンプで水を循環させ「衣類がずっと泳いでいるような形」にしたという。結果として、節水しながらも以前のイオン洗浄を超える洗浄力にたどり着いた。

機能の追加だけでなく、デザインや実際の使い勝手についても改善を続けており、操作パネルをフタの部分に集約したり、配線をヒンジの部分に収めて目立たせない工夫なども、テストを繰り返して検証してきたとのこと。

ビートウォッシュの歴史

洗濯槽をブラシで直接磨く? 表に出なかった様々な試行錯誤も

これまでの開発で苦労した点についても教えてもらった。

その一つが、一般的な洗濯機の困りごととしてよく挙がっていた洗濯槽周りの黒カビ対策。「洗濯物に黒いもの(黒カビ)が付く」という声に対して同社がトライしたのは「ブラシで直接カビを洗い落としてしまおう」という取り組みだった。人の手でブラシを差し込んで洗えるようにする仕組みや、本体内部に小さなブラシを取り付ける方法など様々な方法を試してみたという。

この「ブラシで洗う」方法は結果として実現はしなかったものの、発想を転換して「付いたものを落とすのではなく、カビが生えないようにする」ことに注力し、自動おそうじ機能が2011年に生まれた。

最新モデルの「BW-DX120G」などでは、洗濯槽の裏側などの見えない部分に付着しやすい皮脂汚れや洗剤カス、菌、黒カビの胞子などを自動で洗い流し、除菌して黒カビを抑えるという。日立独自の機能として、すすぎのあとにきれいな水道水のシャワーで上から洗い流すという工程も加えている。

現在も、メーカー各社が洗濯槽をキレイに保つための技術を採用しているが、上記のブラシで洗う方法のように結果として実現しなかった技術も含め、開発陣の様々な試行錯誤が現在の進化に結び付いているようだ。

日立タテ型洗濯乾燥機 [自動おそうじ](3倍速)

そのほか、縦型の弱点とされた乾燥機能において、同社のドラム式「ビッグドラム」の特徴である「風アイロン」の技術を応用してビートウォッシュにも採用する(ビートウォッシュの機能名は「風アイロンコース」)ために多くの苦労があったという。

ドラム式では回転で洗濯物を上に持ち上げて風を通すことができるが、縦型では下から上に持ち上げて乾燥するにはかなりの風力が必要で、羽根の工夫も必要だった。

そこで、2020年のモデルにおいて、時速約500kmの高速風を吹き出すジェットファンモーターをファンユニットに新たに搭載。さらに新しいビートウィングにくぼみを作ることで、底面に到達した高速風を上方に送り、上下から衣類に風が当たることでシワを抑えて乾かせるようにした。

風アイロンコースを採用したビートウォッシュ BW-DKX120F

2つの転換点と、今後の洗濯トレンドとは

ビートウォッシュの17年以上の歴史の中で、大きな転換点は2つあったと前出の森川氏は説明する。

1つは、誕生10周年を機に生まれた新しい「ガラストップデザイン」。それまで一般的だった2つ折りのフタは、洗濯機の上に乾燥機を置いた場合、乾燥機に当たってしまう恐れがあるため一枚板のフタの導入には多くの議論があったとのこと。

それでも、仕上がったデザインの良さや、表面に凹凸が少なく手入れがしやすい点などから製品化が決定。ちょうど冷蔵庫のガラス扉も人気があったことから、デザイン性の高いガラストップが世に出ることになった。

もう1つの転換点は、「循環ポンプ」の代わりとなる技術の開発。循環ポンプは節水のキモとなる技術ながら、搭載にはコストもかかっていたという。そこで、ビートウィングの羽根の形状変更などによって、ポンプがなくても水が洗濯物にかかるように動かして洗える方式を開発。布の傷み防止などのバランスにも考慮しつつ、今の形に至った。

現在の商品企画を担当する、商品戦略本部 国内商品企画部 洗濯機グループ 主任の出井隆太氏は、コロナ禍における洗濯スタイルの変化について、「洗濯の回数がかなり増えた」と指摘する。これはスマートフォンアプリ連携でユーザーの使用履歴などがビッグデータとして集められるようになったことでも、はっきり分かるという。

洗濯機メーカー各社が清潔機能を強化するのが今の特徴的な流れとなっている中、日立は2021年から「除菌清潔コース」を採用。水道水のミストを衣類に吹き付け温風で加熱することで除菌/消臭し、型崩れが気になるものや、水洗いできないバッグ、制服、コート、帽子やクッションなどにも使いやすいという。

ビートウォッシュ BW-DX120G、BW-DX100G、BW-DX90Gにおいて、水洗いできないものの除菌/消臭ができる「除菌清潔」コースを採用

【訂正】初出時「除菌清潔」コースを2020年からとしていましたが、正しくは2021年からでした(17時40分)

その他にも、現在の洗濯トレンドとしては洗剤の自動投入など「手間を減らす」方向と、置いたときの満足感にもつながる「デザインの高さ」が注目されていると出井氏は説明。そうした中でも、常に求められているのは、やはり基本性能である洗浄力であることは変わらないようだ。

一般的なイメージとして、洗浄力の面ではドラム式に比べて縦型が方式の面から有利とされているが、日立は自社製品において「ドラムも縦型も同等の洗浄力」としている。これは径の大きな「ビッグドラム」により、高い場所からたたき洗いすることで高い洗浄力を可能にしたことが大きな要因だという。

そのため、ドラム式と縦型のどちらにするか迷った場合でも、デザインや置き場所など他の項目で検討すればいいとのこと。人気のドラム式、使い慣れた縦型など、使う人の考えや生活スタイルで洗濯機を選びやすい、良い時代になったといえそうだ。