大河原克行の「白物家電 業界展望」
ミニパナソニックにシニア製品――これからのパナの家電戦略とは
by 大河原 克行(2014/5/28 07:00)
パナソニックの新生アプライアンス社が、2014年4月にスタートして約50日を経過した。
これまで白物家電を中心としてきたアプライアンス社に、AVCネットワークス社のテレビ事業、ビデオ事業、オーディオ事業および海外コンシューママーケティングセンターを統合。さらに、エコソリューションズ社にあった大型空調およびコールドチェーンの販売部門を統合することで、これら製品における製販一体体制を敷いた。
アプライアンス事業を統括するパナソニックの代表取締役専務兼アプライアンス社社長の高見和徳氏は、「創業100周年を迎える2018年には、グローバルトップクラスのアプライアンスカンパニーを目指す」とし、「アプライアンス社全体では、2018年度に売上高2兆8,000億円を目指す。また、家電事業では2兆円を目標とする。新たな家電コンセプトを打ち出し、ブランド価値を向上させ、グローバルトップ3の家電事業へと成長させる」と宣言した。
新たな家電コンセプトとしては、シニア向けのプレミアムデザイン製品を今年秋にも投入することに言及。さらに、2016年度以降の製品化を目標に、14のテーマにわけた新たな製品を開発していることも明らかにした。
果たして、今後のパナソニックの家電事業における成長戦略はどうなるのか。
全世界77拠点、5万1千人の陣容
4月からスタートした新生アプライアンス社は、テレビ事業を担当するホームエンターテインメント事業部のほか、エアコン事業部、冷蔵庫事業部、ランドリー・クリーナー事業部、キッチンアプライアンス事業部、ビューティ・リビング事業部、コールドチェーン事業部、冷熱空調デバイス事業部、モーター事業部、スマートエネルギーシステム事業部の10事業部体制とした。
これを、「家電」「空調」「コールドチェーン」「デバイス」の4つの軸にまとめ、それぞれの事業特性に応じた事業展開を行なうとともに、開発、製造、販売、サービスの一体経営、そして、地域完結型経営を事業の特徴に掲げる。
拠点は、日本15拠点、アジア23拠点、中国・北東アジア25拠点、北米5拠点、中南米5拠点、欧州4拠点の全世界77拠点。国内1万2千人、海外3万9千人の合計5万1千人の陣容を持つ。
家電事業においては、テレビが年間900万台で世界シェアは4.1%、冷蔵庫が年間330万台で3.2%、洗濯機は年間500万台で5.5%、ルームエアコンは年間600万台で8.7%のシェアを誇るという。
「テレビはプラズマテレビからの撤退も影響している。事業機会が大きな市場に対しては、引き続き積極的な取り組みを行なう」と、高見社長は語る。
日本市場にシニア向け新製品を投入
高見社長は、パナソニックが2018年に目指す家電事業の姿を、「グローバルトップ3の家電事業」とし、「新たな家電コンセプトの創出によってブランド価値を向上させ、家電売上高2兆円を目指す」とする。
家電売上高2兆円に向けて、パナソニックはいくつかの施策を打ち出している。それを地域戦略の観点から追ってみたい。まずは、最も売り上げ構成比が大きい国内における家電事業への取り組みだ。
ここでは、「需要創造と、新コンセプト商品の提案などによる高付加価値マーケティングに取り組む」と高見社長は語る。
新コンセプト商品の第1弾として投入するのが、今年秋に予定しているシニア向け商品の展開だ。
「これは2年前から開発、準備を進めてきもの。シニアにターゲットを絞り込んだプレミアムデザインの商品になる。日本は、高齢化、人口減少という流れにあり、シニア層が確実に増加する。その人たちはなにを求めるのか、その人たちに合う商品を、AVと一緒になり、単品ではなく、空間として提案していくことも必要だ」とする。
その一方で、「アプライアンスとAVの強みを融合した商品も投入することになる」とも語る。
もともとアプライアンス社は、生活研究による現地適応力と、メカとエレキとの摺りあわせ技術が強みだ。これにAVCネットワークス社のデジタル家電事業が持っていたグローバル展開力、デジタル/通信技術を組み合わせることで、家電の高付加価値化を推進させるという。
「新たなアプライアンス社としての強みを結集した商品は、今年秋のIFAでデビューさせることができるだろう。お客様起点の感性重視型商品として、お客様に感動や驚きを提供することでブランド価値を高めたい」と語る。
AV商品との一体提案だけでなく、住宅設備や照明などを担当するエコソリューションズ社との連携提案も加速する考えを示す。ここではシニアにはこだわらない提案も進める。
エコソリューションズ社の社長である吉岡民夫専務は、「これまでは、同じパナソニックブランドの商品でも、システムキッチンと冷蔵庫の奥行き寸法は統一されていなかった。今後は、同じ奥行き寸法で設計した商品を投入するといったことも計画している」とし、高見社長も異口同音に「今後は、リビング・ダイニング向けの一体型提案を進めていきたい」と語る。
もうひとつの付加価値化への取り組みが、3~10年後の商品化を視野に入れたプロジェクトの推進だ。「若手社員を中心にプロジェクトチームを発足し、14のテーマにわけて商品化を検討している。早ければ2016年~2017年にも市場投入できる商品もあるだろう」と、高見社長は語る。
高見社長は、将来に向けた布石を、商品という観点から着実に打って出る姿勢を強調してみせたわけだ。
一方で、日本での生産回帰の動きも、2014年度には加速させる考えだ。
2013年度のアプライアンス社の業績は、売上高は前年比10.2%増の1兆6,180億円となり、期初計画も上回った。消費増税前の駆け込み需要効果で、冷蔵庫、洗濯機では業界全体を上回る実績。また、ダブルおどり炊き炊飯器や、ガラスドア冷蔵庫などの付加価値商品の販売が増加したという。
だが、営業利益は17.6%減の482億円となり、期初計画も下回っている。その要因のひとつに、急激な円安の影響によって海外生産の「日本持ち帰り」商品の収支が悪化した点が挙げられる。
「工数削減をはじめとするモノづくり改革により、1ドル110~115円の円安状態でも耐えうる体質を作った。だが、一部商品は日本での生産へと回帰させ、為替影響の最小化に努める。具体的には、今年夏以降、エアコンの一部商品や、卓上IH調理器を日本で生産開始し、年末までの間には洗濯機についても国内生産への見直しを図る。生産スペースの確保については、昨年の段階から準備をしており、日本での収支改善と、付加価値商品の販売強化につなげていきたい」と語る。
米国ではテレビ事業の軽量化に挑む
2つめは、欧米市場向けの施策である。欧州市場においては、これまで欧州全域を包括したマーケティング施策から、国や地域ごとに合わせたマーケティング戦略へと転換を図る考えを示す。
「ドイツ、英国、フランス、東欧というように、国や地域ごとに環境が異なる。欧州全体で捉えるのではなく、それぞれの市場にあう商品を投入することが必要である。すでにパナソニックは、それぞれの市場に合った商品を持っている。市場に合う商品をマッピングすることで、攻め口を決めていく」という。
その一方で、米国市場においては、理美容商品などのウェブを通じた販売強化を進めるといった新たな手立ても考えるが、やはり、ここではテレビ事業の改善が鍵になる。
「米国においては、テレビ事業のオペレーションの軽量化が鍵になる。厳しいテレビ事業の収益を改善し、競争力を回復させたい」とする。
パナソニック アプライアンス社 上席副社長 ホームエンターテインメント・ビューティー・リビング事業担当 兼 ホームエンターテインメント事業部長の楠見雄規氏は、「米国における固定費が高いままでは競争力を発揮できない。そこで、米国市場においては、ファクトリーダイレクト方式を採用し、工場と取引先が直接商談を行なう仕組みを採用し、体制を軽くして、収益を伴った事業構造へと転換する」と方針を語る。
テレビの収益改善は、米国市場だけの課題というよりも、新生アプライアンス社の大きな課題であるのは事実だ。アプライアンス社の10事業部のうち、テレビ事業を担当するホームエンターテインメント事業部だけが赤字。そして、その他の事業部の多くが、同社が2015年度に目指す営業利益率5%を視野に入れる水準にあるのに比べると、まさに唯一の課題事業という位置づけだ。テレビ事業では2015年度の黒字化を目指すが、これが同社の家電事業全体の利益底上げには不可欠だ。
楠見事業部長は、「米国や欧州では、販売規模に対して、販売固定費が大きいという課題がある。地域ごとの販売オペレーション改革による収益改善、市場に適合したモデル構成に向けて、販売部門が中心となり、ODMを活用した、価格対応型商品を品揃えするといったことにも取り組む。各地域別の主要モデルを決め、限界利益、営業利益の改善を図る」という。
ミニパナソニックを実現するAPアジアを設置
そして、3つめが、アジア、中国での家電事業の拡大だ。ここはパナソニックの家電事業拡大の大きな役割を担うことになる。
高見社長は「直近3年間は、アジアに集中投資を行なう。なぜアジアなのか。グローバルにみても、最も成長力がある市場であり、パナソニックのプレゼンスが高く、シェアも高い国が多い。日本向け商品に搭載した機能を、付加価値として提供することができる市場でもある」とする。
その中核となるのが、APアジアと呼ぶ現地拠点の設置だ。APアジアは、アジアでの地域完結型のワンストップ体制を実現するための拠点で、ベトナムの冷蔵庫および洗濯機の商品企画および開発拠点、マレーシアのエアコン、テレビの商品企画および開発拠点をカバーし、現地密着型商品の投入や、マーケティング施策の強化を担うことになる。
「これまでは、アジアを中心に11拠点の生活研究拠点において、地域ごとの生活環境を調査したり、白物家電の生産拠点をアジアに置くといった取り組みを進めてきた。しかし、結果としては、滋賀県草津市でアジア向けの商品企画を行なっている体制には変わりがなかった。そのため、現地における商品開発力に弱さがあり、スピードでも遅れるということがあった。ボリューム競争に入ったときのコスト力にも弱さがあった。APアジアは、アジアでの競争力強化を担う組織になる」と高見社長は位置づける。
パナソニックは、全社規模で「海外戦略地域」を今年度から設置した。アジア、中国、インド以西の地域を指し、山田喜彦代表取締役副社長がインドのデリーに駐在。これら地域で、増販に向けた陣頭指揮を振る。パナソニックの役員がアジア地域に常駐するのは初めてのことだ。
山田副社長は、「最も成長が高い地域において、パナソニックは他社に比べて成長率が伸び負けている。とくに、2009年~2012年は売上高がマイナス成長。このままでは2018年度の全社10兆円の達成は難しい」と前置きし、「日本での成功事例をそのままアジアで展開しても通用しない。そこで、戦略地域事業推進本部を設置し、私に全権が委任されるフルファンクションの組織を構築する。日本がすべてを決める、というやり方を変え、すべてを現地で決める組織を、初めて設置する」という。
まさに、ミニパナソニックともいえる組織をアジアにつくりあげることになりそうだ。その点については山田副社長も否定はしない。
「10年後には自己完結型で独立した運営ができる組織でありたい。第2、第3のパナソニックができあがることになる」とする。
海外戦略地域での戦略は、これまでのパナソニックの手法を大きく変えることになる。その最大のポイントが、自前主義からの脱却だ。
「自前にこだわると、高コストになり、販売が伸びずに利益が出ない。結果として、高付加価値の商品ばかりが並び、ラインアップとして歯抜けになるという悪循環があった。アジアでは、まだ基本機能だけの商品で十分という人も多い。小回りを利かせて、ローカルフィットの商品を出すには、自前主義では無理。開発に時間をかけずに、ODMから買ってきて商品を出すということも積極的に行なっていく。現地に適した商品を、スピード感を持って投入していく」と山田副社長は語る。
これも現地で決めるからこそできることだ。現地に最適なビジネスモデルを、日本からのしがらみに関係なく実行する考えだ。
中国ではエアコンの事業再建が課題に
こうした独立した体制づくりのため、パナソニックは現地採用を加速するとともに、教育体制の強化にも着手している。
例えば、ベトナムの拠点では現地採用を増やすとともに、洗濯機と冷蔵庫の商品開発を現地で行なえるように、滋賀県草津市の拠点への2年間の留学制度を実行。ノウハウを持った社員を育成することにより、現地での商品開発ができるようにするという。
「すでに中国では、冷蔵庫、洗濯機の現地開発体制が整っており、収益を高めることに成功している。こうした成果を横展開していきたい」とする。
その中国では、家電商品では成功事例があがっているが、2013年度には、中国におけるエアコン事業の低迷が課題となっていた。
高見社長は、「昨年5月にルームエアコンの流通在庫が大量に発生していることがわかり、そこから出荷を止め、在庫の適正化に取り組んだ。2013年度中にはこれが完了し、2014年度からは中国での事業再建に取り組むことができる」とする。
2014年度には顧客起点でのエアコン新製品開発に取り組み、本質機能を強化し、質感を刷新した新商品を中国市場向けに発売。さらに基幹部品の合理化推進によるコスト力強化を図る考えだ。
また、大型空調に関しては、日米欧の製販一体運営の開始、マレーシア拠点の設備営業体制の強化、省エネ商品の開発および投入の加速に取り組むという。
コールドチェーン、デバイスでも成長戦略に挑む
一方、「家電」「空調」と並んで軸に位置づける「コールドチェーン」および「デバイス」に関しても成長戦略を描く。
コールドチェーンでは、ブロダクトビジネスから、ソリューションビジネスへの拡大を図るとし、パナソニックが強みを持つCO2冷媒機器の拡充と、製販、サービス一体での商品提案を加速。「省エネノンフロン対応ショーケースを一気に拡販。どのメーカーよりも先行して開発したCO2冷媒機器で攻勢をかけ、面展開へと広げていく。イオンやローソンとの協業強化によるスーパー、コンビニエンスストアへの展開強化に加えて、中国、日本で先行導入しているクウラドを活用した遠隔監視システムをアジアへ展開していく」とした。
また、デバイスでは、10%以上の利益率を持つ高収益デバイスの比重を、デバイス事業全体の20%へ高めるなど、高収益分野へのシフトと新規デバイスの開発加速に取り組む。「年間3,000万台の販売実績を持つコンプレッサーでは、インバーターの構成比を高めていく。また、モーターでは、家庭用は利益率が低いが、産業用、電装用では高い利益率がある。そちらへのシフトを図っていく。家庭用はパナソニックグループ内でのセット商品に活用していているが、その部分は他社から調達するといったことも含めて、より高い利益体質を目指す」と述べた。
2018年度の家電事業2兆円、アプライアンス社2兆8,000億円の売上高達成に向けては、2014年度の業績が重要な意味を持つ。
2014年度の売上高見通しは2兆2,800億円。前年比1%減のマイナス成長だ。
高見社長は「上期には、国内における消費増税前の駆け込み需要の反動と、前年同期にはあったプラズマテレビの撤退が影響。この2つで1千億円強の影響がある」とするが、「なんとか前年並みにまでは持っていていきたい」と語る。
だが、営業利益は123億円増の520億円。「材料費高騰のリスクもあるが、テレビ事業や中国エアコン事業といった課題事業収支改善、家電やデバイス、コールドチェーン事業の強化などにより増益を目指す」と意気込む。
2014年度は必要な手を打ち切り、2015年度の攻勢につなげると高見社長。課題事業の改善とともに、収益事業および成長事業が明確であるという点で、新生アプライアンス社の視界は比較的良好といってよそさうだ。