大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニック アプライアンス社・高見社長に聞く欧州市場の生活家電戦略

~理美容製品やビルトインも積極展開
by 大河原 克行
パナソニック アプライアンス社の高見和徳社長

 パナソニックが、アプライアンス事業(生活家電)で欧州市場に参入したのが2009年度。それから3年目に突入した今年、パナソニックは、調理家電や理美容商品、ビルトイン機器などの商品を、新たな欧州市場に投入することを明らかにし、欧州市場におけるアプライアンス事業をさらに加速する姿勢をみせた。

 地元メーカーが圧倒的なシェアを誇るなか、パナソニック アプライアンス社の高見和徳社長は、「2015年度には、欧州アプライアンス市場において、年間1,000億円の売上高を見込む」と、これまでの800億円の事業計画を上方修正してみせた。一方で、スマート家電についても日本での発表に続き、IFAでも展示を行ない、同社の新たな提案を訴求した。パナソニック アプライアンス社の高見社長に、欧州市場における同社アプライアンス事業への取り組みについて、またスマート家電への取り組み、グローバル展開などについて聞いた。なお、インタビューは共同で行なわれた。

欧州で技術、品質、デザインを訴求

――2012年8月31日から9月5日まで、ドイツ・ベルリンで開催された「IFA(国際コンシューマエレクトロニクス展) 2012」において、パナソニックは初めて白物家電(アプライアンス)の展示を行ないましたね。

 もう少し派手にしたかったという反省はありますが(笑)、IFAの会場において、強くアピールすることができたと思っています。今回のIFAの展示において、もっとも訴求したかったのは「テクノロジー」。もう1つは「品質」。そして「デザイン」。このあたりをアピールできるように準備をしてきました。

IFAでは欧州市場向けの特別なビデオを制作した欧州市場に投入した洗濯機、冷蔵庫はデザイン性も追求

 欧州市場は、欧州の地元メーカーが圧倒的に強い市場。エアコンでは、日本のダイキンが健闘しているが、冷蔵庫、洗濯機などの市場では、ドイツを例にとっても、ボッシュ、シーメンス、ミーレ、エレクトロラックスといった企業が強い。韓国や中国のメーカー、そして日本のメーカーも市場には入りきれていない。そうしたなかで、欧州メーカーに対して、パナソニックがどれだけ技術力があるのかといったことをアピールすることができたのではないでしょうか。

 ベースにあるのは技術力です。とくに、ナンバーワンの省エネにはこだわっている。この技術は様々な商品に応用することができ、欧州市場でも戦えることができるパナソニックの強みの1つだといえます。

 今回のIFAで、これだけの白物製品、理美容および健康製品までを含めて、白物家電を展示していたメーカーは、パナソニック以外にはないといえます。しかも、それでいて、まだ全部の商品は出し切れてはいない。場所さえあればもっと展示したいほどです(笑)。欧州市場は、ドイツ、英国がトレンドをつくっている。その重要な市場の1つであるドイツで開催されたIFAにおいて、パナソニックのアプライアンス商品群を提案できたことは大きな意味があるといえます。

――これまでの2年間に渡る欧州での成果はどう自己評価していますか。

 この2年間の成果は、ほぼ計画通りで、想定通りに販売が伸びています。ただ、ペースが遅いと感じているのは、ヒートポンプ技術を活用した温水暖房機。その分野だけは、当初の計画から遅れています。この2年間で重視したのは、高付加価値商品によって、パナソニックのブランドを認知してもらうという取り組みでした。それを実現するために、高機能と、デザインにこだわった欧州市場向けの商品を投入してきました。これが高い評価を受け、ドイツの消費者向け雑誌の調査では、洗濯機と、冷蔵庫において、ベストバイ商品に選ばれるという実績も出ています。思った以上に欧州での認知度があがったと考えています。

欧州市場で2015年度に1,000億円の売上げ目指す

――欧州市場におけるアプライアンス事業の本気ぶりはどうなのでしょう。

IFAで発表したフリースタイルIH

 パナソニックは、2015年度の欧州市場におけるアプライアンス事業の売上高目標を800億円(工場出荷ベース)としていましたが、今回の新たな製品群の投入により、これを1,000億円に上方修正します。理美容製品や健康製品などに、製品陣容を広げた分をプラスαとして販売増につなげていきたい。2011年度は、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなとで400億円弱の売上げ実績でした。これに、理美容商品が加わり、フリースタイルIHをはじめとするビルトイン機器群をプラスしていく。さらに、冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった商品群も加速していきたい。2015年度の事業バランスは、白物3大商品(冷蔵庫、洗濯機、エアコン)で7割。残りの製品で3割を想定しています。

 一方で、冷蔵庫や洗濯機は、付加価値商品だけでなく、もう少し下のゾーンにまでラインアップを増やしていく段階に入ってきたと考えています。この部分はODMを活用して、商品陣容を増やす予定です。また、理美容関係では、健康商品も含めてラインアップを増やしていきます。今回のIFAでも、理美容および健康分野に関する強い引き合いが出ています。

 ですから、この分野では、当初の計画よりも少し早く、商品を市場投入しようと考えています。また、ビルトイン機器も、IHや食洗機などを含め幅広いラインアップが揃うことになります。ここでは、この1年の間に、販売ルートの整備に向けた準備も行なっていきたい。加えて、エアコンにおいては、家庭用だけでなく、業務用エアコンの商品陣容も増やしていく考えです。

欧州市場では今後、理美容製品の展開も鍵になる

――欧州市場に新たに投入する理美容商品では、どんな優位性が発揮できそうですか。

 欧州には、この分野において、フィリッピス、ブラウンの2大メーカーがありますが、商品ラインアップという観点でみれば、パナソニックはそれ以上の製品群を持っている。また、頭皮マッサージャーをはじめとする市場創造型の商品もラインアップでき、そこには他社が真似ができない技術と力がある。しかし、課題は、欧州の生活に密着したような製品が開発できていないという点。現在、ドライヤーや、ひげ剃りなど、1つ1つの製品において、生活研究を行ない、欧州市場にあった商品開発を開始しています。例えば、黒髪と金髪では、求められるドライヤーの温度が異なる。日本人とは、髭のはえ方も違う。そうしたことを反映させた形で、欧州版として改良し、商品化していくことになります。

 また、大型白物家電と、理美容製品や調理小物は、担当している部門が異なり、販売ルートも若干異なりますから、それぞれの手法で両面から欧州市場を攻めていくことになります。

――欧州では、ビルトイン型の白物家電も重要な市場ですが。

欧州では一般的なビルトインタイプの食器洗い機

 もちろん、ビルトイン機器の開発、製造も考えています。しかし、この分野は、住宅メーカーをはじめとする販路が大切です。場合によっては、販路を持っているところと提携することを考えていく必要もあるでしょう。欧州では様々なことをやれる可能性があるので、そこにチャレンジしたいですね。

――しかし、欧州市場では厳しい経済環境にあります。

 確かに、欧州市場の低迷が指摘されていますが、アプライアンス製品に関していえば、需要はかなり旺盛であると感じています。また、欧州の先進国市場では、高付加価値製品の販売比重が高いという傾向があります。付加価値商品を主軸とするパナソニックが、欧州でアプライアンス事業を展開していく上では、むしろ大きなビジネスチャンスがあると考えています。また、欧州市場を足がかりにして、ロシア市場への展開も視野に入れたい。ロシアは何度か訪れましたが、モスクワには1億人が住んでおり、日本の商品が受け入れらやすい環境があります。

 実際、ロシア市場では、調理家電を中心に販売が伸びており、ロシアのスコルコボでは、イノベーションシティの取り組みも開始しています。欧州を拠点としてアプライアス事業を考える際に、ロシア市場へどう展開するかといったことは、重要なテーマだと捉えています。

――2015年度に1,000億円を達成した場合の市場シェアはどれぐらいになりますか。

 欧州の白物家電市場は約4兆円と見られており、当社の計画値が、工場出荷額ということから逆算すれば、3%ぐらいのシェアになる計算です。しかし、シェアを取るだけであれば、ODMからの買い入れ商品を増やせばいいわけで、あまりそこにこだわるつもりはありません。その手法では利益率があがらない。欧州のアプライアンス事業は、収益性をあげることを考えながらやることが大切であり、単に売り上げだけを追うつもりはありません。

欧州における生産拠点の稼働にも意欲

――欧州でのアプライアンス事業を展開する上での課題はなんですか。

 課題の1つが、欧州における生産拠点をどうするかといった点です。現在は、中国で生産したものを欧州市場に投入していますが、事業拡大を見込む上で、いつまでもその体制でいるというわけにはいきません。

 冷蔵庫、洗濯機のような大型家電は輸送コストの負担が大きく、物流費や関税などを含めて、総コストの2割弱を占めている状況です。これを削減できるという点で、欧州生産は大きな意味があります。市場に近いところにおけば、在庫管理も徹底し、キャッシュフローの改善にもつながる。また、アジア通貨でやるより、ユーロでやったほうが、為替リスクが回避できる。そこで、欧州での生産を前向きに考えていきたい。ここでは部品も現地調達していくことになります。

 この生産拠点では、高級ゾーンから中級ゾーンまでを対象にした商品を生産します。まずは冷蔵庫、洗濯機から生産し、理美容製品を含めた製品拠点としていきたい。ただし、エアコンはやるつもりはありません。

 また、既存のパナソニックの生産拠点を活用するのか、また新たな場所で、新たな生産拠点を立ち上げるのかという点も決まっていません。既存拠点であれば、チェコのテレビの生産拠点を活用することになりますし、いい場所があればそこに新規に立ち上げることも想定しています。

 立地の候補はたくさんあります。それらの候補を様々な角度から検討している段階です。人件費の安さや、物流費とのバランスも考える必要がありますし、各種インフラの整い具合も考慮しなくてはならない。また、将来性を考えると欧州だけでなく、ロシアへの進出を考えるとどうなるのか、さらにアフリカ市場も視野に入れた拠点とするのか。こうした中期的な視点でも検討していく必要があります。既存拠点の活用、新規建設のどちらの選択肢も用意しながら、ベストな方法を探っていきたいと考えています。

――生産規模、投資規模はどの程度になりますか。

 冷蔵庫、洗濯機をあわせて年間100万台規模を想定しており、2015年度には稼働させたいと考えています。投資額は80~100億円程度を見積もっています。実は、ブラジルのエストレマの新工場で、今年8月から冷蔵庫の量産を開始しています。この工場は、世界でもっとも軽い(コスト的に)モノづくりができる拠点となっています。これをベースに欧州にも面展開していきたいと考えています。

ODMを活用して普及ゾーンで積極展開

――普及ゾーンの製品に関してはどんな展開を考えていますか。

 普及ゾーンの製品に関しては、すでにトルコのODM(設計から製造まで他メーカーに委託すること)を活用しており、これを拡大していく考えです。これまでの戦略は、上から攻めていきましたが、これからは下の方のゾーンへと商品を広げていくことも重要な要素であり、そこにODMを活用していきます。まずは、洗濯機、冷蔵庫を中心にやっていきますが、いいODMベンダーがあれば、電子レンジなども含めて、増やしていきたいと考えています。

――普及ゾーンでも、パナソニックのブランドイメージを形成していくことになるのですか。

欧州市場攻略のブレックファーストシリーズは調理小物の戦略製品だ

 いえ、パナソニックのブランドイメージを形成するのは、あくまでも付加価値モデルです。ここで、様々な提案をしていくことになります。また、その中には、日本市場よりも早く、欧州市場に投入するといった商品も出てくることになるでしょう。実は、欧州市場向けに投入している調理家電の「ブレックファースト」シリーズは、日本では発売していない商品です。日本のマーケティング部門からも欲しいと言われているのですが、「日本では出さない。最初は欧州だ」といって(笑)、まだ我慢してもらっています。これは、欧州で実績を出してから、日本に持って行くつもりです。日本の販売店さんからも、扱いたいという要望が出てくるでしょうね。

 パナソニックには、商品陣容の幅広さがあります。それを強みにしていきたい。例えば、白物家電だけでなく、大型空調やコールドチェーンといった分野にも力を入れていきたいと考えています。これは間違いなく需要があり、しかも伸びシロがある。そして、利益率も高い分野です。

 また、欧州市場においては、燃料電池の展開も考えています。すでに引き合いも出ていますし、とくにドイツでは、エコに対する意識が強く、自家発電としての需要もあります。パナソニックは、これまでに18,000台の燃料電池を販売した実績があります。こうした実績が欧州でも生きるはずです。現在、欧州では、2カ所で燃料電池の実証実験を行なっています。

 欧州は、日本のガスと違って、様々なガスが混ざっている。技術的にどう対応をしていったらいいのか、日本とはガスの成分が違う環境で、燃料電池としての効果がどれだけ出せるのかといったことを実験しています。ボイラーメーカーやガスメーカーと一緒になって取り組み、さらに販路についても開拓を始めています。

敷居を下げ、単品から取り組むスマート家電

スマート家電製品は慎重な姿勢で取り組むという

――日本では先頃、スマート家電を発表しました。IFAのパナソニックブースでもスマート家電の展示を行なっていましたが、欧州市場での展開はどう考えていますか。

 今回のIFAでのスマート家電の展示は、どんな反響があるのかを見るための展示でした。正直なところ、欧州は保守的な市場なので、スマート家電の普及は、それほど早くはないと考えています。むしろ、欧州よりも米国の方が早いでしょう。ただ、欧州市場を1つの市場として捉えるのではなく、どの国から入るのか、どの製品から入るのかという点で慎重に吟味していく必要があると考えています。健康関連分野から入ると、受け入れてもらいやすいかもしれませんね。

 パナソニックのスマート家電は、トータル提案のような形で見えているかもしれませんが、冷蔵庫も、洗濯機も、エアコンも一気に買い換える人はまれです。私だって、一気には買い換えません(笑)。まずは買い換えが必要になった商品から、単品でスマート家電に買い換えていただくのがわかりやすい。それがスマート家電を使用していただけるきっかけになります。冷蔵庫や洗濯機、エアコンといった機器同士がつながるのではなくて、まずはスマートフォンを使って、単体でネット対応をしていくと方が、わかりやすく、敷居が低い。こうしたところから始めています。

ブラジルの新生産拠点で冷蔵庫の量産を開始

――欧州以外の海外での展開はどうなっていますか。

 8月24日からブラジルで冷蔵庫の量産がスタートし、9月12日には出荷式を行ないました。ブラジルの生産拠点では、さらに2013年5月から洗濯機の量産を開始します。また、インドの工場も立ち上がりに向けて準備が急ピッチで進んでおり、2013年1月からエアコンと洗濯機の出荷を開始します。さらに、ベトナムでは、2013年初めに向けて、冷蔵庫の生産施設の拡大を開始しており、2013年5月には新たな拠点として、洗濯機とR&Dの拠点が稼働することになります。

 このように、今年から来年にかけては、インド、ブラジル、ベトナムでアプライアンスの生産拠点が稼働することなります。そして2014年~15年にかけて、欧州での拠点を稼働させることになります。

8月から量産を開始したブラジルの生産拠点

――ところで、韓国勢の動きをどうみていますか。

 LG電子やサムスン電子は、マーケティングの視点で事業展開をする会社に変わっています。その点では、我々は見習わなくてはならない部分があります。パナソニックも、プロダクトアウト型の手法ではなく、徹底した生活研究のなかから、その地域に合う製品を作ることに取り組んでいます。私自身、5年ほどマーケティング本部を担当してきた経験がありますから、それがドメイン側でも生きています。モノづくりを担当していても、マーケティング的な発想で捉えることができます。これがパナソニックのアプライアンス事業に生きているのではないでしょうか。

 アジアのアプライアンス事業において、パナソニックが、LG電子やサムスン電子に負けているかというとそんなことはありません。パナソニックは、アジアでは高いシェアを獲得しています。

アプライアンス事業は優等生?

――いま、津賀社長が各事業の点検を行なっていると聞いていますが、アプライアンス事業はどうですか。

 アプライアンス事業は、この2年ほどで、ビジネスユニットの構成を大きく変更してきた経緯があります。また、2010年度~2012年度までの中期経営計画「GT12」においても、アプライスアンス事業においては、路線はまったく変えておらず、掲げた計画を淡々と実行してきた。2013年度~2015年度までの中期経営計画も、ほぼ固まりつつありますが、戦略的に考えたものを、3年間はほぼロックした形で進めたいと考えています。これは、2018年度の創業100周年に向けた大きなストーリーにつながるものになります。

 津賀社長の判断は、スピードがあり、ブレない。そして、お客様に対して、アプローチが速い。現場がどうなっているのかをみて、すぐに判断する。アプライアンス事業も、あのスピードに負けないようにしなくてはならない。ただ、いまのところ、アプライアンス事業は優等生だといっていいかもしれませんね(笑)。






2012年9月25日 00:00