大河原克行の「白物家電 業界展望」
デジタル家電の不振を尻目に白物家電事業が好調な理由
パナソニック・大坪社長 |
「全社の安定的な収益基盤として、白物事業を強化していく」――パソナニックの大坪文雄社長は、2011年度第3四半期の業績発表の席上、白物家電事業が今後の成長戦略において、重要な役割を担うことを示した。薄型テレビ事業が赤字体質から脱却できず、大規模な構造改革に取り組んでいるのとは対照的だ。
これはパナソニックに限ったことではない。2011年度第3四半期(2011年4~12月)の電機大手の連結業績をみると、各社ともに薄型テレビの低迷を尻目に、白物家電事業の好調ぶりが際立っている。
■好調な主要各社の第3四半期決算
まずは主要各社の数字を追ってみよう。
パナソニックは、2011年度第3四半期(2011年4~12月)のアプライアンス事業の売上高が前年同期比1%増の9,792億円、営業利益は4%減の786億円。営業利益率は8.0%と高い水準を維持している。薄型テレビなどのデジタルAVCネットワークが327億円の赤字を計上しているのは対照的だ。
「エアコン、洗濯機、冷蔵庫などが堅調に推移。とくに海外の白物家電事業が2桁の成長となり、海外での取り組み成果が確実に表れている」(パナソニックの上野山実常務取締役)という。
エアコンの売上高は5%増の2,121億円、洗濯機は8%増の1,079億円、冷蔵庫は前年並みの1,047億円となっている。
パナソニックのエアコン「Xシリーズ」の室内機 | パナソニックの冷蔵庫のラインナップ。右からNR-F556XV、NR-F556T、NR-F506T、NR-F476TM、NR-F456T | パナソニックのドラム式洗濯乾燥機「NA-VX-7100」 |
2011年度の通期見通しでは、10月公表値に比べて、売上高で300億円減の1兆2,900億円、営業利益で110億円減の930億円としたが、それでも7.2%という高い営業利益率を維持する計画だ。
東芝の本社ビル |
東芝は、家庭電器部門の売上高が前年同期比1%減の4,409億円となったものの、営業利益は66%増の68億円。「10月以降の需要減、タイの洪水被害の影響などがあったものの、節電、省エネ需要の高まりに伴い、LED照明などが増収。構造改革の影響もあり増益になった」(東芝の久保誠代表執行役専務)とする。
家庭電器部門の2011年度通期見通しは、売上高では前回公表値に比べて600億円減の5,900億円とするが、営業利益では、全部門のなかで唯一据え置くとし、100億円の黒字を想定している。
売り上げの減少要因には、タイの洪水影響によって、操業を停止していた冷蔵庫や洗濯機、オーブンレンジ、エアコンなどの生産減が含まれている。2011年11月に操業を再開した冷蔵庫生産などのタイ東芝電気工業に続き、1月には冷蔵庫、洗濯機の生産拠点が再稼働。発売が遅れていた新製品が、1月から順次出荷が開始されているところだ。
声で操作をするエアコン「大清快VOiCE」は全機種で発売が延期 | 庫内を高湿度に保つことで、野菜を新鮮に保つ冷蔵庫「ベジータ」は3機種が延期 | スチームオーブンレンジの「石窯ドーム」は、「ER-JD7」が発売延期。上位モデルの「ER-JD8」は発売中 |
シャープの健康・環境機器部門の売上高は、前年同期比10%増の2,204億円、営業利益は62.8%増の236億円。高い成長率を達成しながら、増収増益となっている。
節電、省エネ、健康志向の高まりにあわせて、LED照明機器や空気清浄機の販売が堅調に推移したという。
2011年度通期見通しは、売上高で前回公表値に比べて100億円減の2,900億円、営業利益は10億円増の300億円とし、営業利益率は10.3%という高い水準を計画している。
シャープ・片山幹雄社長 |
「今後、国内薄型テレビ事業の構造改革に伴い、AV事業および国内営業の人員を、健康・環境分野などにシフトする構造改革に取り組む」(シャープ・片山幹雄社長)という。
だが、太陽電池は厳しい業績となっている。
売上高は前年同期比22%減の1,594億円、販売量は10%減の831MW。営業損失は、前年同期から191億円悪化し、147億円の赤字。欧州での金融不安、各国のフィードインタリフ制度(太陽光発電した電気の買い取り制度)の見直しによる需要の減退、価格下落の進行、円高の進展などにより海外販売が減少。国内においても、海外メーカーなどとの競争激化により、事業環境の悪化が進んだという。市況悪化と単価ダウン、在庫評価減により、売上高で440億円の影響、営業利益で191億円の影響があったという。
太陽電池事業の通期見通しも、売上高で25%減の2,000億円、営業損失で240億円の赤字を見込む。
「太陽電池の赤字のほとんどが欧州市場を中心とした海外事業におけるもの。単価が40%下がり、さらに対ユーロにおける為替の影響が15~20%。前年に比べて半値以下で販売しているようなもの」(シャープの片山幹雄社長)というのが赤字の要因だ。
太陽電池事業では地産地消の推進と、イタリアのエネル社と連携した発電事業の強化に取り組むことで、収益構造の改革に挑む考えだ。
日立製作所・三好崇司執行役副社長 |
日立製作所は、デジタルメディア・民生機器部門の売上高が12%減の6,659億円、営業利益が203億円悪化の4億円の黒字。ここでは薄型テレビが含まれるため、その需要減、価格下落の影響を受けているが、「冷蔵庫の生産でタイの洪水被害の影響があったが、白物家電全体では、プラスになっている」(日立製作所・三好崇司執行役副社長)としている。
三菱電機では、家庭電器事業の売上高が前年同期比9%減の6,511億円、営業利益は44%減の246億円。海外向け空調機器は増加したものの、家電エコポイント制度の終了などにより、液晶テレビなどのほか、家庭用空調機器、冷蔵庫、国内向け給湯器、IH調理器の販売が減少したことが影響したという。通期見通しでは、売上高で7%減の8,600億円、営業利益は48%減の220億円と黒字を維持する計画だ。
このように、白物家電事業については、一部でタイの洪水被害の影響などはあるものの、各社とも好調な業績となっている。
■なぜ白物家電事業が好調なのか
白物家電事業が好調な背景には、いくつかの理由がある。
1つは各社の白物家電事業のビジネスの中心が、あくまでも国内市場であるという点だ。
付加価値製品に対する需要が高い国内市場では、平均単価が高く、利益を確保しやすいという環境にある。
もともと白物家電は、その国の生活習慣に対応した製品づくりが基本。米食を主食とする日本では、日本の米に適した炊飯器の開発が進められ、高価格帯の製品でも「おいしく炊ける」ということが差別化策になり、これが高い人気を誇っている。また、洗濯機についても、欧州での叩き洗いなどとは異なり、布地にも優しい洗濯ができるといった付加価値型の洗濯機の人気が高い。最近では、夜家事家電といったように、共働きや一人暮らしをしている人が深夜に掃除機や洗濯機を利用することが増え、静音性に優れた家電製品も人気を博している。
加えて、昨年来、省エネやエコに対する意識が急速に高まり、これも日本ならではの、省エネ型白物家電の購入を後押ししている。まだ製品寿命があるものの、大幅な省エネが図れるとしてエアコンを買い換えるといった需要は日本が先行しているものだ。
こうした日本の市場に最適化した製品が、日本の家電メーカーから相次いで発売されていることは、収益性の高い健全なビジネス環境を実現することにつながっている。
さらに、日本の白物家電市場には、海外メーカーの参入が遅れており、国際競争力を背景に低価格戦略を展開する「外圧」にさらされにくいという背景がある。
白物家電市場における日本の家電メーカーのシェアは圧倒的であり、この特殊性は世界的にも特筆できるものだといえる。
主要各社が白物家電の生産拠点をいち早くアジア地域に展開し、地産地消型のビジネスが推進できる環境にあることも、この円高環境では追い風になる。
■海外展開にも成果が出はじめる
2つめは、家電メーカー各社の海外進出への取り組みが、少しずつ成果になってきている点だ。
日立アプライアンスは、タイの高機能炊飯器市場において、高いシェアを獲得。シャープも、ASEAN市場において、高機能洗濯機でトップシェアを獲得するなど、存在感を発揮している。
またパナソニックも、インド市場を攻略する「大増販プロジェクト」を社長プロジェクトとして展開。「2011年度の売り上げ成長率は、サムスン、LGをはるかに超えるものになる。2012年度計画では、少なくともサムスンの事業規模に並ぶところがみえてきた」(パナソニック・大坪社長)と自信をみせる。
さらに、2012年度からは米国市場において、エアコンや冷蔵庫を投入する姿勢をみせるなども、海外での白物家電事業を加速する考えだ。
日本の家電メーカーが海外で人気を集めているのは、それぞれの国の生活慣習にあわせた提案商品が増加しているからだ。
日立の炊飯器の場合、タイで一般的に流通するジャスミン米(タイ米)がおいしく炊ける製品づくりをおこなっており、これが富裕層などを中心に好調な売れ行きをみせている。
また、シャープの洗濯機も、ASEAN各国では、土間に洗濯機を置くケースが多いことから、湿気にも強い樹脂を採用。その分強度が落ちることを円形のユニークなデザインを採用することで解決。インドネシアでは、高機能洗濯機の領域でトップシェアを獲得するなどの成果がでている。
パナソニックが、市場の要求にあわせて作ったインドネシア向けの商品 |
そして、パナソニックでは、インドネシア市場向けに、煮沸した飲み水を保存するためのペットボトルを大量に入れることができる冷蔵庫、インドでは中間所得層を対象とした機能を限定したエアコンを投入して、シェア拡大につなげている。
現在、同社では、世界10カ所に生活研究拠点を設置しており、現地密着型のモノづくりを強化しているが、これらの成果が出ているといえよう。
また、パナソニックの大坪文雄社長は、「パナソニックが得意とするエコナビ商品は、2011年度から海外で本格展開しており、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の主要3製品に限定しても、すでに80カ国以上で約230機種を展開している。2012年度はアジア、中南米でさらに拡充する。また、中国、汎アジアでパナソニックビューティーを展開するなど、韓国勢が持たない美容・健康商品によって成長を見込む。2012年度はこれらの領域で、海外15%以上の成長、グローバルで1,200億円の規模を目指す」と、新たな領域にも積極的に進出する考えを示す。
とはいえ、白物家電の海外事業は各社ともまだ大きなビジネスにはなっていない。未開拓市場となる新興国を中心に、成長率は期待できる一方で、海外メーカーやローカルメーカーとの価格競争が激しい市場環境であること、新興国では低価格製品が中心となる傾向が強いことなどを考えると、日本市場と同様の収益率を確保することは難しいといわざるを得ない。
そうした中で、いかに収益性を確保したビジネスを展開できるかが鍵となる。
中長期的には、スマート家電市場が創出され、そこで付加価値型のビジネスが高い関心を集めるのは確かだといえるだろうが、薄型テレビでも明らかなように、デジタル技術の進化と価格下落の波が、白物家電市場に押し寄せるきっかけになる可能性も捨てきれない。
現時点で、白物家電事業の好調ぶりは、薄型テレビが低迷するなかで、際立ってはいるが、それが長期的に続くとはいえない。
いまから、継続的な収益性維持に向けた新たな提案を模索する必要がありそうだ。
2012年2月21日 00:00