大河原克行の「白物家電 業界展望」

発売11年。静かに発展を遂げる「エネループ」のいま

 11月14日、パナソニックの充電式ニッケル水素電池「eneloop(エネループ)」が、2005年に発売されてから11年目を迎えた。

本日11月14日で、発売11年を迎えたeneloop

 そのeneloopは、静かではあるが、いまでも着実に発展を遂げている。そして、その発展においては、eneloopが開発当初から掲げてきた「地球と生命のために」というコンセプトが脈々と受け継がれている点が見逃せない。eneloopを取り巻く最近の3つの動きから、eneloopのいまを追った。

世界80カ国で、3億7,000万本を出荷

 eneloopは、2005年に誕生して以来、今年で11年目を迎えた。

 三洋電機時代に開発されたeneloopは、「For Life & the Earth:地球と生命のために」というコンセプトを掲げ、使い終わった電池は廃棄するのではなく、充電して繰り返して利用することを提案。技術進化に伴い、現行モデルでは、2,100回までの繰り返し充電利用が可能だ。

“地球と生命のために”というコンセプトを掲げている

 出荷時の満充電状態は、太陽光を使ったエネルギーで充電。エネルギーの残存率は10年後でも70%以上であり、災害時においても効果を発揮するほか、低温にも強いという特徴を持つ。

 さらに、それまでの電池にはなかったホワイトを基調としたデザインが、多くのユーザーから支持された。パッケージには再生PET単一素材を使用するとともに、ブルーのメインカラーを採用。開封後にも保管ケースとして利用できるように設計しており、性能や機能に加えて、デザイン性でも話題を集める電池として、長年に渡って人気を博している。

 現在、全世界80カ国以上で販売されており、累計出荷数は3億7,000万個以上に達している。日本では、Panasonicロゴの製品が販売されているが、海外では、三洋電機時代からの「eneloop」のロゴをあしらった製品が、いまでも販売されている。

1.10年間愛されたデザインに贈られるロングライフデザイン賞

 1つめの出来事は、海外で販売されているeneloopロゴをあしらった製品が、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞したことだ。

ロングライフデザイン賞を受賞したeneloop

 ロングライフデザイン賞は、公益財団法人日本デザイン振興会が実施しているグッドデザイン賞のひとつのアワードで、「暮らしのなかで愛され続けているデザイン」や「これからも変わらずに存在し続けてほしいデザイン」などを選定するものだ。

 グッドデザイン賞を、10年以上前に受賞した商品やサービスのデザイン、あるいは、発売以来10年以上に渡って継続的に提供され、かつユーザーや生活者の支持を得ていると思われる、商品やサービスのデザインが対象である。今年の場合は、10年前となる2006年に提供された、商品やサービスが新たに対象に含まれることになった。このアワードは、一般ユーザーなどから推奨され、そのなかから審査が行なわれ、受賞が決定するという仕組みだ。

 eneloopは、2005年から国内販売されていたが、パナソニックによる三洋電機の買収後、2013年4月から発売された第4世代の製品で、現行のPanasonicロゴへと変更。そのため、残念ながらロングライフデザイン賞の対象にはならない。だが、2006年から海外で販売を開始した製品は、現在でもeneloopのロゴを採用しており、発売時からデザインに変更はない。

Panasonicロゴのエネループ

 今回の受賞が、国内で販売されているeneloopではなく、「海外用デザイン」とされているのもそのためだ。

 審査委員からは、「発売から11年目を迎えるeneloopは、世界約80カ国へと販路を拡大し、プロダクトの持つ信頼性、経済性が広く受け入れられている。自己放電の少なさをはじめとする確かな技術によって生み出された本商品は、電池を使い捨てではなく、くりかえし使うというライフスタイルをつくりあげた。社会の変化、問題に対応したプロダクトの進化形の好例であり、まさにロングライフデザインを体現する、未来に向けたデザインだ」との評価があがっている。

ロングライフデザイン賞を受賞した意味

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 エナジーデバイス事業部 グローバル市販マーケティング部 コミュニケーション課 デザイン担当主幹の水田一久氏

 電池本体のホワイトは「生命」を意味し、パッケージのブルーは「地球」を表現。地球(ブルーのパッケージ)が、大切な生命(ホワイトの電池本体)を包み込む様子を表現しており、まさに、地球と生命のためにというコンセプトをイメージしている。

 三洋電機時代から、eneloopのデザインを担当している、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 エナジーデバイス事業部 グローバル市販マーケティング部 コミュニケーション課 デザイン担当主幹の水田一久氏は、「最初にeneloopを商品化したときから、ロングライフデザイン賞を受賞したいと思っていた。今回の受賞はとてもうれしい」と語る。

 これまでにも何度か水田氏に取材をしているが、過去に、「ロングライフデザイン賞を受賞したい」との思いを語っていたことがあった。むしろ、筆者自身は、ロングライフデザイン賞の存在は水田氏に教えてもらったといっていい。

 「最低でも10年間は続く商品にしたい。そのひとつのバロメータがロングライフデザイン賞の受賞だった」(水田氏)

グッドデザイン表彰 ロングライフデザイン賞の表彰式での水田氏

 デザイナーである水田氏の立場からすれば、10年間続いた製品としての社会からの評価を、このロングライフデザイン賞の受賞に賭けたともいえる。その点でも、水田氏の受賞の喜びはひとしおであった。

 「この受賞は、素直にうれしい」と、水田氏は静かに何度も繰り返すが、この受賞は、長年愛され続けたブランドに育ったこと、そして、日本をはじめとした全世界に、eneloopが受け入れられていることの証でもあるといえよう。

 そして、審査員の評価のなかにもあるように、eneloopは優れたデザインだけでなく、「電池を使い捨てではなく、くりかえし使うライフスタイルをつくりあげた」という、世の中に対するインパクトも見逃せない。新たなライフスタイルを作り上げた点も、eneloopのデザインのひとつとして評価されている。

「LONG LIFE DESIGN EXHIBITION 2016」が開催されている有楽町の新国際ビル1階のGOOD DESIGN MARUNOUCHI

 ちなみに、ロングライフデザイン賞受賞展「LONG LIFE DESIGN EXHIBITION 2016」が、11月20日まで、東京・有楽町の新国際ビル1階のGOOD DESIGN MARUNOUCHIで開催されている。

 ここでは、eneloopのほかにも、ロングライフデザイン賞を受賞した28の商品やサービスが展示されている。

LONG LIFE DESIGN EXHIBITION 2016の様子
会場ではeneloopの説明も行われている

2.自然をテーマにした新たな「eneloop tones」シリーズ

 2つめが、eneloop tones(エネループ トーンズ)シリーズの新たな製品として、「eneloop ocean colors」を欧州で発売したことだ。

eneloop tonesシリーズの新製品であるeneloop ocean colors

 eneloop tonesシリーズは、デザインプロモーションの切り口から、eneloopを使う楽しさを伝え、充電池の市場拡大につなげる取り組みだ。主要ターゲットである女性層や主婦層への浸透を図る一方、これまで充電池を買ったことがない新たな需要層の開拓も狙いとなる。

 「繰り返し使用するeneloopは、長く使うからこそ、性能だけでなく、デザインにこだわりや愛着が生まれる。eneloop tonesシリーズは、そうした充電池ならではの利用シーンを想定した取り組み」と水田氏は語る。

「eneloop ocean colors」のテーマは、「海」

 eneloop ocean colorsは、「海」を切り口に、サスティナブル社会の実現を目指すeneloopのコンセプトをデザイン。カラーは4つあり、深海をイメージした「glan blue」、青珊瑚をイメージした「blue Coral」、陸から海へ吹く風を表現した「off shore」、波の泡をイメージした「reef brake」で構成される。

 「4種類のカラーは、深い海からまっすぐにあがってきたイメージで作り上げた」という。

深海をイメージした「glan blue」
青珊瑚をイメージした「blue Coral」
陸から海へ吹く風を表現した「off shore」
波の泡をイメージした「reef brake」

 波打ち際の白い泡を意識したホワイトがベースとなるreef brakeのデザインは、オリジナルのeneloopに似ているが、実際に比べてみると、eneloopのロゴの文字はオリジナルよりも落ち着いたブルーとなっており、基調となるホワイトもマッド調になっている。

上がeneloop ocean colors の「reef brake」、下がeneloopのオリジナルモデル

原点回帰ともいえるコンセプト

 もともとオリジナルのeneloopで掲げたコンセプトは「地球と生命のために」であるが、今回のeneloop ocean colorsで掲げたのは「海」であり、そこには「生命の源」という意味も込めている。つまり、eneloop ocean colorsは、原点回帰といえるデザインコンセプトであるともいえよう。

 水田氏も、「当初目標にしたロングライフデザイン賞を受賞した節目の年に、原点回帰とも受け取ってもらえるコンセプトを採用したことは大きな意味がある」とする。

4色で構成されている

 そして、水田氏はいつものように、パッケージのデザインにもこだわった。

 米カリフォルニアのフォートブラッグには、「グラスビーチ」と呼ばれる浜辺がある。ここでは、「SEA GLASS」と名前がついたガラスの玉が転がっている。このSEA GLASSが、ほかの浜辺にはない美しさを醸し出しているが、実はこれはガラス瓶などが捨てられていた場所を長年閉鎖。

 波で削られたガラス瓶が、こうしてガラスの玉を作りだしたという経緯を持つ。このSEA GLASSが持つ、表面のすりガラスのイメージを、パッケージのデザインに反映したものだという。

 このパッケージには、ペットボトルをリサイクルした再生PETを採用。これまで同様に、電池保管やキャリングケースとしても使用が可能だ。

パッケージのデザインは、波で削られたガラスから着想

 実は、eneloop tonesシリーズは、2009年から発売されており、毎年、新たな製品が追加されている。2014年からは、そのテーマを「自然」に置き、サスティナビリティを追求してきた。テーマは、2014年にはトロピカル、2015年はオーガニック。そして、今回がオーシャンだ。

 とくに、昨年発売した「eneloop tones organic」は、10周年の節目にあわせた発売ということもあり、販促用に用意した100パッケージに限定しながらも、パッケージに生分解性プラスチック素材を採用。土に埋めると、パッケージを土に還せることができるという提案を行なってみせた。

2015年に発売した「eneloop tones organic」

 繰り返し使うことで、地球に優しい電池を実現してきたeneloopが、パッケージについても同様に、土に戻すことができる素材を採用。「電池もパッケージも地球に優しい」というコンセプトを初めて実現したというわけだ。

 今回のeneloop ocean colorsも、こうした「地球への優しさ」という、eneloopが持つ基本姿勢を踏襲したものだといっていいだろう。

 「当面の間、eneloop tonesシリーズのデザインコンセプトは、自然やサスティナビリティに置いていく。これは、eneloopの基本コンセプトにつながるものである」と水田氏は語る。

ドイツの量販店に展示されているeneloop ocean colors

 だが、残念ながら、eneloop ocean colorsの国内での販売は予定されていない。同製品が発売されているのは、ドイツ、イギリス、ポーランド、デンマーク、フランス、ベルギー、ロシア、イタリアなど、欧州の約20カ国だけだ。しかし、海外での販売に限定されているため、電池本体のロゴは「Panasonic」ではなく、「eneloop」のままである。

 パッケージは、同色が2本ずつ入った8本パックとしており、単3形と単4形をラインアップ。価格は、オープン価格。市場想定価格は、単三形および単四形とも、約25ユーロ。通常のeneloopと同等価格で販売されている。

欧州では積極的なプロモーションを展開

 eneloop ocean colorsが発売されている欧州では、現在、積極的なプロモーション活動が行なわれている。

 例えば、「サスティナビリティ」につながる写真を投稿してもらう写真コンテスト「eneloop european photo challenge」は、欧州独自の取り組みとして展開。

 「このコンテストの題材として、eneloop ocean colorsを活用し、販促と新商品発売のコラボレーションによる認知度向上を目指す」(パナソニックエナジーヨーロッパの前田泰史氏)という。

 そのほかにも海外では、eneloopをテーマにしたオリジナルダンスを投稿してもらう、グローバルキャンペーン「Loop the Groove」といった取り組みも行なっている。

 欧州における認知度も徐々に高まっており、現在、ドイツでのeneloop認知率は約25%にまで上昇。普及率は10%以上になっているという。

3.充電器に込めた思い

 3つめが、充電器である。パナソニックでは、eneloopおよび充電式EVOLTAに対応した急速充電器「BQ-CC55」と、USB出力ポート付き急速充電「BQ-CC57」を発売している。

急速充電器「BQ-CC55」(左)と、USB出力ポート付き急速充電「BQ-CC57」(右)

 2つの製品に共通した特徴は、残量チェック機能を搭載しており、充電の進行状態をLEDで知らせるほか、充電池の買い替え時期がわかる「買い替え目安診断機能」を搭載した点。充電完了後、LEDが黄色点滅したら、買い替え時期にきていることを示す。

 さらに、スマートチャージ機能によって、充電しすぎの無駄を省くこともできる。「クイック自動診断機能で最適な充電モードを設定し、使った分だけすばやく充電し、過充電を防止することもできる」という。

 また、乾電池充電防止機能も搭載しており、乾電池を誤って入れた時は自動で検出したり、異常な充電池を入れたりした場合にも同様に異常を検出する。こうした安全性にも配慮している。

 BQ-CC55では、従来モデルに比べて、充電時間を約25%短縮するといった進化も図っており、単三形および単四形を2本充電するのに1.5時間で済む。ちなみに、BQ-CC57では、単三形2本では約2時間で充電が完了。単四形2本であれば、同様に約1.5時間で急速充電が可能だ。

なぜUSB出力ポートを搭載したのか?

 とくにこだわったのが、BQ-CC57で、初めてUSB出力ポートを搭載したこと。

 スマートフォンの充電用USBを接続すれば、モバイルバッテリーとしての利用も可能で、単三形のeneloopを4本使用すれば、約70%の充電が可能になる。さらに、充電器をACコンセントに差し込んでおけば、そのまま自動切り替えで充電を開始する。

「BQ-CC57」のUSB出力ポート

 「東日本大震災では、わずかに電池が残っていた携帯電話で、英国在住の子供にメールで連絡を取り、子供がTwitterを使い、助けを求め、無事に救出されたという話があった。電池があるかないかで、人の命が左右されることもある。eneloopの充電器に初めてUSB出力ポートを搭載したのは、日常での使用だけでなく、災害時においても、効果が発揮できるようにする狙いがある」とする。

 BQ-CC57では緊急時におけるモバイル利用も想定し、前面にスライドカバーを採用。持ち運び時にも利用しやすくするといった配慮も行なっている。

 充電池は、緊急時に威力を発揮する製品のひとつである。eneloopは、高い電圧を維持し、10年後も70%の残容量を保持できる。こうしたことも、eneloopが災害時にも強いことを裏付けるが、今回のUSB出力ポート付き充電器の「BQ-CC57」との組み合わせによって、災害時において、その威力がますます発揮できるようになるというわけだ。

一新した充電器のデザイン。充電式EVOLTAとの統一性

 この充電器には、もうひとつのトピックがある。

 それは、パナソニックの新たな充電器として、デザインの観点から一新したことだ。

 パナソニックには、三洋電機の流れを汲むeneloopとともに、パナソニックが開発しつづけてきた充電式EVOLTA(エボルタ)がある。異なる生い立ちを持つ製品だけに、それぞれに開発された充電器の使用方法やデザインにも当然違いが生まれていた。

USB出力ポート付き「BQ-CC57」のパッケージ

 だが、エナジーデバイス事業部のなかに事業を統合。どちらの充電池も同じ充電器で充電を可能にするといった変更が進められるなか、デザインや仕様の統一性が求められはじめた。

 そこで、国内外で発売されている充電器を、デザインの側面から分析して、問題点を抽出。あるべき姿を形状、質感、色、使用方法といった観点から見直したのがBQ-CC57およびBQ-CC55というわけだ。

 パナソニックのデザインフィロソフィーにあわせ、充電器の基本形状や質感を統一。さらに、電池の挿入位置や取り出し方法を統一して、同じ使用環境を実現するとともに、充電状況を確認できるような視認性と使い勝手の向上を図った。

 「より使いやすく、より安全で、より上質感のある充電器を実現できた」と水田氏は自信をみせる。

 eneloopのデザインを手がけてきた水田氏を中心にして、パナソニックの充電器の新たなプロダクトアイデンティティとデザインコンセプトが作り上げられ、今後、充電池の広がりとともに、この充電器がともに活用されていくことになる。

「BQ-CC57」外観。充電式エボルタにも対応する
スライドカバーを開けた状態(写真では海外仕様のeneloopを使用)

これからも発展を遂げるeneloop

 このようにeneloopは、いまでも着実に発展を遂げている。その発展は、開発者やデザイナー、マーケティング担当者の熱い思いが込められたものである。

 そして、「今後も、さらに新たな仕掛けに取り組んでいきたい」と水田氏は語る。

 eneloop tonesシリーズも、日本で発売されていないのは残念だが、これからも毎年ひとつずつ、「自然」と「サスティナビリティ」をテーマに新たな製品が追加されることになるという。

 eneloopのプロモーション活動は、欧州を中心とした海外での動きが活発化しているが、ぜひ日本でも改めて、eneloopにフォーカスした動きが活発化することを期待したい。

大河原 克行