大河原克行の白物家電 業界展望

eneloopが欧州で始める新たな「expedition(探検)」とは。2,100km歩くイベントなど、新たなステージへ

 パナソニックが発売するニッケル水素電池「エネループ」の新たな限定デザインパッケージが、2017年9月から発売される。だが、残念ながら、対象となるのは欧州市場であり、日本での発売予定はない。

2017年9月に欧州で発売される限定パッケージ「eneloop tones expedition」

 限定パッケージは、欧州市場では毎年、定期的に発売されている。だが、今年の限定パッケージは、欧州市場におけるシェア拡大に弾みをつけるために実施する、新たなキャンペーンと連動したものになっているのが特徴だ。限定パッケージと、新たなキャンペーンに共通するキーワードは、「expedition」。なぜ、エネループは、expedition(探検)に踏み出すのか。

 欧州でエネループのマーケティングを担当するパナソニック エナジーヨーロッパ マーケティングダイレクターの前田泰史氏と、エネループのデザインを担当するパナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社エナジーデバイス事業部市販営業総括 グローバル市販マーケティング部コミュニケーション課の水田一久主幹に、エネループの最新状況について話を聞いた。

パナソニック エナジーヨーロッパ マーケティングダイレクターの前田泰史氏
パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社エナジーデバイス事業部市販営業総括 グローバル市販マーケティング部コミュニケーション課の水田 一久主幹

欧州で拡大するエネループ市場

 エネループの基本カラーは、2005年11月の発売以来、白をベースにしているのは周知のとおりだ。

 しかし、その一方で、2009年から、カラーバリエーションとして、限定パッケージのeneloop tonesシリーズを発売。毎年、新たな製品が追加されている。新たな色を追加することで、それまでエネループを使ったことがないユーザーにもエネループに関心を持ってもらう狙いがあるのに加え、利用シーンにおいて、充電済みのエネループと区分けするといった使い方も提案してきた。

エネループは基本カラーは白をベースにしている

 限定パッケージは、2014年から、デザインテーマを「環境」に置き、2014年のtropical、2015年のorganic、2016年のoceanと、「環境三部作」を展開してきた。いずれも、日本で発売されている「Panasonic」ロゴのデザインではなく、海外で発売している「eneloop」ロゴを採用しながら、新たなデザインを投入し続けており、海外では、かつてのエネループの姿で、継続的に市場に受け入れられていることを示すものとなっている。

 実際、欧州において、エネループの存在感は、着実に上昇している。たとえば、ドイツにおけるエネループの認知度は、2014年には19%だったものが、2015年には21%、そして、2016年には25%にまで拡大。そして、販売シェアも拡大している。

 充電池の販売が急速な勢いで拡大しているAmazonを中心としたeコマースサイトでの販売シェアも、2015年5月~2016年4月には25.1%だったものが、2016年5月~2017年4月の集計では、29.5%にまで拡大。充電池分野で初めてトップシェアを獲得した。

 また、家電量販店市場においても、2015年には16.0%だったシェアが、2016年には19.4%にまで拡大。地元量販店であるメディアマルクトおよびサターンにおいても、取扱店舗が約1.3倍に拡大。全440店舗の大多数でエネループの展示販売が行なわれている。

2014年「eneloop tropical colours」

 パナソニック エナジーヨーロッパ マーケティングダイレクターの前田 泰史氏は、「Amazonではエネループの魅力が紹介され、それに伴って品質の高さなどが評価されています。その結果、エネループの販売量が増加しているのです。eコマースサイトでトップシェアとなったことは大きな意味を持ちます。また、主要量販店での取り扱いが増加していることも効果のひとつ。ドイツ市場全体でも、エネループのシェアが前年の12.7%から、15.8%に拡大。2位に浮上しました。この3年間でドイツにおけるエネループの販売には着実に弾みがついています」と手応えを示す。また、「英国やポーランドでもエネループの販売が伸びている」と自信をみせる。

 そうした動きにあわせて、限定パッケージの数量も増加している。

 2014年のtropicalの限定数量は、約23,000パックであったが、2015年のorganicは約30,000パックに、2016年のoceanでは約40,000パックへと拡大。そして、今回のexpeditionでは約50,000パックを計画しており、毎年、限定数量を着実に増加させているのだ。これも、欧州でのエネループの広がりを示すものといっていいだろう。

2015年「eneloop tones organic」
2016年「eneloop tones ocean」

繰り返し使用回数2,100回に掛けて、2,100km歩くキャンペーン「eneloop expedition 2100」

 今回、パナソニックが欧州で展開するキャンペーンは、エネループの認知度をさらに高めることが狙いであり、それによって、さらなるシェア拡大を目指すことになる。

 キャンペーンの名称は、「eneloop expedition 2100」。2017年6月23日~2017年10月20日の120日間に渡って、2人組の3チームが徒歩で、2,100kmを歩き、各地でエネループの魅力などを紹介するという。

 それぞれに開催されるイベントでの成果や、毎日更新するFacebookのファロワー数などを得点化。これによって、最も高い得点を獲得したチームに、自らが支援したいと思う環境団体に21,000ユーロ(約250万円)を寄付する権利を提供する。

 eneloop expedition 2100の「2100」は、期間中に2,100kmを歩くこと、2,100ユーロを環境団体に寄付することを指すが、もともとはエネループの繰り返し使用回数が2,100回であることに起因しており、2100という数字を通じて、エネループの認知度を高める狙いが大きい。

「eneloop expedition 2100」のルート。それぞれ英国、デンマーク、ポーランドを起点に、ゴールとなるイタリアを目指す

 3つのチームは、それぞれイギリス、デンマーク、ポーランドを起点に、ドイツやフランス、ベルギー、スイス、チェコ、ハンガリーなど、欧州各国を歩き、10月20日に、ゴールとなるイタリアのミラノを目指す。主に自然の中(オフロード)を歩くことになり、1日平均で約20kmを歩く計算だ。自然のなかを歩くのは、エネループが環境に配慮した製品コンセプトを持ち、自然と共生する製品であることをアピールする狙いもある。

 各チームにはクルマが帯同するが、基本は野宿。歩いている間の活動はすべて参加者だけで行なう。その際に、エネループの魅力を伝える活動も行なう。たとえば、シャワーを浴びたいという場合には、ルートの途中にある民家を訪問し、エネループを手渡して、その魅力を伝えながら、シャワーを借りる交渉をするといった具合だ。

人力で「大型エネループ」を発電するミッション

 さらに、週2回のペースでイベントカードが渡され、その指示に従った活動をする必要がある。この達成度によって、各チームに得点が付与される。

 2,100kmの途中には、それぞれのチームが4カ所の大都市に立ち寄り、そこでシティストップというイベントを、地元量販店などと連動して開催。ハンドルを回転させて発電するハンドマニュアルジェネレータや、ポンプのように押すことで発電するプッシュ&プルジェネレータ、足踏みすることで発電する発電マット、太鼓を叩くことで発電するドラムジェネレータを用意。各チームとイベント参加者が発電することで、用意された「大型エネループ」をフル充電させることに一緒に挑む。これも達成度が得点化される。

 ゴール地であるミラノでも、10月20日に、フィナーレチャレンジとして、同様のイベントを開催することになる。

6月23日のキャンペーン初日に、ポーランドのポズナンという都市のショッピングモール「Posnania」で、expeditionのスターティングイベントを開催
expedition 2100のシティストップで使用される各種ツール。大型エネループの発電などのミッションが用意されている

 なお、eneloop expedition 2100には、パナソニック以外に6社がスポンサーとして協力。アウトドアウェアのColumbiaがジャケットを提供したり、アウトドア用品のHASKYがアウトドアバックパックを提供。さらに、Xiroがドローンを提供して、上空からの写真撮影を可能にしており、Facebookに投稿する写真などに利用できるようにしている。Facebookでは、GPSによって、各チームの現在位置がわかるようにしている。ちなみに、パナソニックは、エネループのほか、シェーバーやトリマー、カメラ、ヘッドホンなどを各チームに提供する。

 「欧州では、環境をテーマにしたフォトコンテンストを行なうなどの取り組みをしてきたが、もう少しダイナミックな活動を通じて、エネループと環境のつながりを訴求できないかと考えた。また、これまでにないようなユニークなことをやりたいとも考えた。そこで考えたのが、今回のキャンペーン。ネットを通じた口コミによって、エネループの魅力が広がっていることを捉えて、参加者がFacebookなどを通じて常に情報を発信し、エネループの魅力を伝えるようにした」(パナソニック・前田氏)という。

短期間で318チームが応募。会社を辞めて参加する男性も

 キャンペーンへの参加は、今年2月に募集を開始したところ、短期間にも関わらず、318チームの応募があったという。その中から5チームを選出。最終的には、Facebookでフォロワーが多く、人気が高かった3チームを選んだ。

 イギリスを出発点とするチームは、今年1月に出会ったという32歳の男女のカップル。女性がどうしても参加したいと、男性を口説き落として参加したという。

 デンマークからスタートするチームは、20歳の双子の組み合わせ。大学の卒業試験を終えて出発したという。

 そして、ポーランドを起点として挑戦するチームは、28歳と34歳の男性2人。そのうちの1人は、テレビ局に勤務し、今年2月に昇進したばかりだったが、テレビ局を辞めて、このキャンペーンに参加したという力の入れようだ。3チームとも、6月23日にスタートしており、今後、Facebookを通じて、情報を発信していくことになる。

イギリスから出発するチーム。カップルで参加
デンマークチーム。20歳の双子の組み合わせ
ポーランドチーム。1人は昇進したばかりのテレビ局を辞めて参加したという

アウトドアを意識した限定パッケージ「eneloop tones expedition」

 そして、eneloop expedition 2100の開催にあわせて用意されたのが、限定パッケージの「eneloop tones expedition」ということになる。キャンペーンにあわせて、限定パッケージが用意されるのは、今回が初めてだ。

 エネループの基本モデルのデザインをはじめ、すべてのeneloop tones のデザインを手がけている、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 エナジーデバイス事業部 市販営業総括 グローバル市販マーケティング部コミュニケーション課の水田一久主幹は、「eneloop expedition 2100と連動させるにあたり、環境やサスティナブルといったイメージとともに、アウトドアツールを強く意識したデザインを採用した」と語る。

限定パッケージとして発売されるeneloop tones expeditionのパッケージ

 アースカラーをベースに、アウトドアフィーリングを醸成するデザインを実現しており、釣りやキャンプなどの際にも、パーソナルナビや電池式ランタン、フラッシュライト、トランシーバーといったアウトドアツールに、エネループを使用するシーンを想定したという。

 アウトドアツールでエネループを利用するといった提案によって、新たな利用層の開拓へとつなげる考えだ。

 パナソニックの前田氏も、「アウトドアでは、電力がないところで電気を使うことが多い。日本では、東日本大震災の際に電力供給が不安定になり、エネループが必需品のひとつとして利用されていたが、欧州でも、アウトドアでの利用を通じて、電気がないシーンでもエネループを利用することができることを訴えたい」とする。

eneloop tones expeditionは4色で構成
単3形と単4形の2つの製品が用意されている

 実は、パナソニックでは、2014年に、国内市場向けに、カモフラージュ柄を採用した限定パッケージとして、「eneloop tones forest」を、国内で販売した経緯がある。同パッケージも、アウトドアツールをアクティブに使う人や、ファッションにカモフラージュ柄を取り入れて楽しむ人たちをターゲットに商品化している。

2014年に日本で発売したeneloop tones forest

 「eneloop tones forestでもアウトドアを強く意識したが、今回のeneloop tones expeditionでは、海外で発売するという観点から、それぞれの国で受け入れられるように、カモフラージュ柄を無くすとともに、より高級感を持たせ、本物の質感を追求した」(パナソニック・水田氏)と位置づける。

 アウトドアツールの定番カラーと言われるオレンジ、グレー、グリーン、ベージュの4色を採用。それぞれに、「Emergency Orange」、「DarkGray Metaric」、「Camouflage」、「Desert Khaki」の名称をつけている。

オレンジ系のEmergency Orange
グレー系のDarkGray Metallic
グリーン系のCamouflage
ベージュ系のDesert Khaki

 「eneloop tones forestはマット系としていたが、eneloop tones expeditionではメタリック感を持たせ、上質感を実現した」と話す。

 とくにベージュの色を出すのに苦労したという。「光り具合をどう表現するかにこだわった。工場に出向いて、何度も色出しをしてもらい、納得がいく色に仕上げた」(パナソニックの水田氏)。

「eneloop」ロゴで際立つエネループとしての存在感

 2014年に発売されたeneloop tones forestは、日本国内販売ということもあり、Panasonicロゴのデザインで発売。一方、今回欧州で発売されるeneloop tones expeditionは、eneloopロゴが大きく表示されており、エネループとしての存在感を際立たせることにも成功している。

 発売は9月を予定。eneloop expedition 2100の盛り上がりにあわせて、販売を開始することになる。パッケージは、単3形と単4形を用意。50,000パックの限定販売となる。

 日本で発売されないのは残念だが、秋から年末にかけて、欧州に旅行したり、出張したりといった場合に、限定パッケージを探してみるのもいいかもしれない。

手前の4本がeneloop tones expedition、うしろの4本がeneloop tones forest

エネループ用充電器では初の液晶ディスプレイ搭載モデル

 もうひとつ、エネループでは、年末に向けて新たな製品を投入する。

 それは、エネループ用の充電器として発売する「BQ-CC65」である。同社初の液晶ディスプレイ表示モデルであり、ハイスペック充電器に位置づけられる製品だ。

充電器(単三形電池入り)パナソニックが新たに発売する予定のBQ-CC65。同社初のディスプレイ表示モデルだ

 「eコマースサイトで、エネループの販売が増加するのに伴い、ハイスペック充電器を求めるユーザーが増加している。実際、Amazonではハイスペック充電器がかなり売れており、他社のハイスペック充電器を使って、エネループを充電しているケースもあるようだ。そうしたニーズに対応した新製品になる」(パナソニック・前田氏)という。

 液晶ディスプレイ部には、充電完了までの時間をはじめとする充電状況などを表示。エネループを1.5時間でフル充電することが可能だ。

 欧州では、11月の発売を予定しているが、価格は現時点では未定。また、日本での発売も現時点では未定だ。

側面にUSB差込口を備える

 日本では以前ほどの盛り上がりが見られず、展示スペースも縮小傾向にあるエネループだが、欧州における存在感は着実にあがっている。そして、欧州市場を中心にして、新たな限定パッケージが登場したり、積極的なキャンペーンが行なわれたりしていることも見逃せない。

 今後も、欧州でのエネループの動きには注目しておきたい。そして、その積極的な動きが日本に逆上陸することにも期待したい。

大河原 克行