そこが知りたい家電の新技術

三菱電機が掲げる「SMART QUALITY」家電とは? 冷蔵庫編

~“対話”ができるタッチパネル搭載冷蔵庫
by 神原サリー
置けるスマート大増量 MR-JX60W

 「SMART QUALITY(スマートクオリティ)」を新たなスローガンに掲げ、エアコンと冷蔵庫の新製品の発表した三菱電機。その詳細を知るために両製品を生産している同社の静岡製作所を訪れ、ものづくりの本質に迫る企画の後編をお送りする。前編では、エアコンを紹介したが、今回は冷蔵庫を取り上げる。工場の生産ラインの視察もふまえ、「SMART QUALITY」家電とは何なのかを究明してみたい。

エアコン編は→コチラから


“高品質な冷蔵庫生産”のための入念な管理体制

 静岡製作所は1954年に冷蔵庫とエアコンの開発・製造を目的に作られた製作所で、冷蔵庫生産ラインでは、夏の繁忙期には600名が従事し、最盛期には1日2,000台以上の製品を一貫生産している。作業の大まかな手順としては、塗装済みの鋼板を成形し、内箱をセット、背面の4つの穴から高流動性の“高密度ウレタン”を充てん、コンプレッサーや冷却器、棚などを組み込んで完成となる。

 その間、高品質な冷蔵庫の完成のために、さまざまな検査が行なわれている。総組み立てラインに入る前の適合品検査で本体の大枠の部分にOKが出たものに対してのみ、部品との照合のためのバーコードが貼られ、組み立てラインに回される。ここでは、6種類の冷蔵庫を同じラインで生産する「ミックス生産」という手法をとっており、冷蔵庫の種類によって必要な部品が異なってくるのだが、それをこのバーコードによって管理しているのだ。

静岡製作所内の冷蔵庫生産ライン。普段から工場案内を担当しているガイドさんが施設を案内してくれた静岡製作所では6種類の冷蔵庫を同じラインで組み立てていく“ミックス生産”を20年間続けている1つのラインに種類の異なる冷蔵庫が並んでいる

 その後、総組み立てラインでは冷蔵庫の頭脳となるインバーター回路をチェックする「制御回路検査」が行なわれ、次の試験ラインでは、超高感度センサーによって冷媒ガスの漏れをチェックする。続いて、絶縁抵抗・耐電圧自動試験で安全性をチェックした後で、音や振動の試験を経て、発送前の最終検査へと回され、段ボールによる梱包のための作業場へと搬送されるという仕組みだ。多くの人の手や目を使って行なわれる厳重な審査・管理体制が“メイド・イン・ジャパン”を貫く三菱電機の冷蔵庫の品質の高さを支えているのだと納得した。

ラインの途中で適合品検査が行なわれ、OKとなると、部品との照合を行うバーコードが貼られる仕組みだ出荷前の最終検査場入念なチェックを経て、搬入ラインへと運ばれ、梱包される

薄型断熱構造による「容量アップと省エネの両立」が新モデルの決め手

2013年モデル(写真左)JXシリーズの最大の特徴は従来品では455Lしか入らなかった本体幅685mmでも600Lの大容量を実現させたことにある。小型冷蔵庫1台分の容量がアップした計算だ

 何重にも行なわれる試験を経て生まれる静岡製作所の冷蔵庫。2013年モデルのJXシリーズはどのような技術革新のもとに作られているのだろうか。

 10月4日から出荷が始まり、10月中旬以降、順次発売が開始されているJXシリーズの最大の特徴は従来機種と本体幅が同じながら、容量がぐんと大きくなっていることにある。約10年前の冷蔵庫を買い替えるとして、大容量タイプを選んだとしても、前と同じ場所にそのまま置けるということだ。例えば、600Lタイプ(MR-JX60W)では、2003年モデルと同じ本体幅685mmで145Lも容量がアップしている。

三菱電機静岡製作所 冷蔵庫製造部 技術第三課の岡部誠氏

 これを実現させたのが、側面や扉面の薄型化と省エネ性能の両立のための薄型断熱構造SMART CUBE(スマートキューブ)だ。三菱電機静岡製作所 冷蔵庫製造部 技術第三課の岡部誠氏は「普通は高密度のウレタンにすると断熱効果も下がってしまい、薄型化と省エネというのは、なかなか両立が難しいものなのです。今回、独自のウレタン発泡技術によって、高流動性のものを新たに開発し、従来よりも狭いスペースに均一にウレタンを充てんできるようになったために、薄型化に成功しました。つまり、真空断熱材を目いっぱいいれた間にウレタンを入れるという発想です。天面と床面の形状に合わせて、真空断熱材を立体成型しているため、熱の侵入を防ぎ、省エネ性を向上させています」と語る。

 扉部分も、これまではウレタンだけだったものを真空断熱材を搭載することで6cmも薄くなっている。これによって左右の扉の収納量もアップしている。

従来より狭いスペースへ均一にウレタンを充填する新技術によって、「容量アップ」と「省エネ」という相反することを両立可能にしている従来製品では45.4mmだった断熱材を29.5mmに薄型化している
庫内の棚の幅や奥行きを比べてみても、同じ本体幅650mmの冷蔵庫でも、従来品のRXシリーズと比べJXシリーズがぐんと大きくなっていることが分かる冷蔵庫のドア部分の厚みも2012年モデルのRXシリーズでは100mmだったものが、新モデルのJXシリーズでは40mmと薄くなっている

 昨年モデルから採用している「全室独立設計」構造で、各部屋に温度・扉開閉センサー、吹き出し口を配置しているため、部屋ごとの温度や扉の開閉状況を16個のセンサーで見張り、ムダのない冷却ができるようになっている。製氷室や瞬冷凍室などを使わない場合は、冷気をセーブしてさらに節電効果を高めるパワーセーブモードを設けられるのも、全室独立設計がなせる技といえるだろう。瞬冷凍室をパワーセーブモードにした際には、低温・低湿度になるため、乾物や粉類の保存に向くなど、新たな提案もしている。

“冷蔵庫との対話”を可能にしたタッチパネル

アイコンボタンを押すと8つのアイコンが浮かび上がるタッチパネルで、使い勝手も向上したJXシリーズ

 省エネ性や容量のアップに注目の集まる新モデルのJXシリーズだが、実は使い勝手の点でもぐんと向上している。それは、冷蔵庫の扉部分に設けられたタッチパネルによる“タッチdeアシスト”機能だ。

 通常は消灯しているが、ボタンにタッチすると8つのアイコンが浮き出て、やりたいことを選んでタッチする仕組みになっている。

魚や肉が描かれたアイコンを押すと「切れちゃう瞬冷凍をしますか」と表示される冷蔵庫の切替室部分が「瞬冷凍」と表示され、どこの操作をしているのかが分かる。「はい」を押すと「切れちゃう瞬冷凍」が開始される仕組みだ「はい」を押すと、「設定しました」と表示される
三菱電機静岡製作所 冷蔵庫営業課 広宣企画グループチームリーダーの鈴木直美氏

 三菱電機静岡製作所 冷蔵庫営業課 広宣企画グループチームリーダーの鈴木直美氏は「これまでもいろいろな機能を搭載していたのに、それを使いこなせている人が少なかったのです。そこで考えたのが“冷蔵庫との対話”です。たとえば、肉や魚が描かれたアイコンを押すと『切れちゃう瞬冷凍をしますか』と文字で表示され、冷蔵庫のどの部分での機能のことかも分かるようになっています。こうしたことを確認したうえで『はい』を押すと、最後に『設定しました』という文字が表示され、冷蔵庫が答えてくれるというわけです。この使いやすさは、なかなか男性には理解してもらいにくいのですが、日ごろ冷蔵庫を使っている女性なら、ピンと響いてくれるのではと思います」と語る。

 冷蔵庫に限らないことだが、こうしたボタン(アイコン)を押してみて不安になるのが、最終的に設定ができたのかどうかということ。この“タッチdeアシスト”では、アイコンの意味を説明してくれるだけでなく、「はい」の後で「設定しました」というところまで表示してくれるのが、とてもいい。鈴木氏が語ったようにこれはまさに“冷蔵庫との対話”だ。

 そのほか、「飲み物を急いで冷やしたいとき」「まとめ買いしたとき」など、8つのアイコンがあるので、便利に楽しく使いこなせそうだ。「まとめ買い」では、前後30分に開けたところのみを急冷するという。冷凍食品だけだったら、冷凍室のみを急冷し、野菜や牛乳などの場合は冷蔵室と野菜室のみを急冷するというわけだ。これは全室独立設計で扉開閉センサーがついているからこそ。便利でしかもムダなく省エネにということが具現化されている機能としてなるほどと感心したのだった。

ビールのアイコンを押してみると「飲み物を急いで冷やしますか」と表示された氷のアイコンでは「氷を急いでつくりますか」と表示。はいを押すと急速製氷が始まる左上のカートのアイコンはまとめ買いを表す。「まとめ買い保存」では、前後30分に開けたところのみを急冷する野菜のアイコンは「野菜のうるおい保存」のためのもの

切れちゃう瞬冷凍で料理を楽しく

 ショールーム「ギャラリエ」内の冷蔵庫コーナーでは、三菱の冷蔵庫ならではの「切れちゃう瞬冷凍」を使った、過冷却実験や調理品の試食なども体験した。

 瞬冷凍とは、食品の表面から凍らせるのではなく、マイナスの温度帯になっても凍らない「過冷却現象」を応用して、芯から均一に凍らせることをいう。微粒子凍結により食品の細胞破壊を抑えられるため、おいしく冷凍できるのが特徴だ。この瞬冷凍と、約マイナス7度で凍らせる「切れちゃう冷凍」とを組み合わせたものが「切れちゃう瞬冷凍」。いわゆる“パーシャル”(食材が完全に凍る一歩手前の状態)よりも温度帯が低いため、保存期間が2~3週間と長い。もちろん、瞬冷凍した後で下の冷凍室に移して、しっかりと冷凍し、さらに長期間保存することも可能だ。

ペットボトルに入った水を瞬冷凍させたものを容器に静かにあけていくと、マイナスの温度帯だったのに凍っていなかった水が、急激な温度変化や衝撃のために、一瞬で氷核が形成されて凍っていく見事に氷の山ができた“過冷却現象”の実験。この過冷却現象を使って、芯から均一に凍らせることで食品の細胞破壊を抑えておいしく微粒子凍結させているのが「瞬冷凍」だ
瞬冷凍させた水が入っているガラス瓶の中にさくらんぼを入れてみるさくらんぼが落とされた衝撃によって、一瞬で水が凍った瞬冷凍したキノコ。水分が抜けておらず、瑞々しいままで調理ができる

 今回、試食したのは、ゆであずきと生クリームを混ぜ合わせて「切れちゃう瞬冷凍」して作ったデザートや、キウイをつぶして砂糖を加え、瞬冷凍して作った「生ジャム」。いずれも途中でかき回すなどの手間もいらず、取り出して必要なだけスプーンですくって使える。生ジャムは色合いも美しく、砂糖の量が少ないのでさっぱりしていてヘルシー。とろみのある独特の食感やフレッシュな香りに魅了された。

ゆであずきに生クリームを加えて瞬冷凍させたデザート。途中でかき回すなどの作業をしなくても、硬くなりすぎずにサックリした食感になっていたキウイをつぶして砂糖を加え、瞬冷凍して作った「生ジャム」。少量でも作ることが出来、色もきれいだ

誰にでも使いやすく、楽しくて便利な暮らしを実現するのが「SMART QUALITY」

JXシリーズの4カラーのうち、木目調のロイヤルウッド

 三菱電機では、これまで「らく楽アシスト」や「節電アシスト」というコンセプトを掲げ、本当のユニバーサルデザインとはどんなものかを追求し、我慢しない節電を訴求してきた。では「SMART QUALITY」家電とは何を指すのだろうか。8月の記者発表会では、漠然とした説明しかなかったこともあり、ここで今、新たに打ち出す意味が分からなかったのだが、今回の静岡製作所への取材を通じて、見えてきたことがある。

 それは「省エネは当たり前。誰にでも使いやすく、便利で楽しい暮らしを提供するのが『SMART QUALITY』家電」ということだ。

 たとえば、エアコンでの「スマートオン」機能。これまでのムーブアイに加えて、リアルタイムでの検知を可能にしたスマートアイを搭載し、エアコンの前に立つだけでリモコンなしでスイッチオンになる。3分不在にするとセーブ運転になるなど、ムダを省く省エネ機能も抜かりない。

 そして、冷蔵庫の「今までのスペースに置けて、中にたくさん食材が入れられたらいいのにな」という“あったらいいな”を実現させるための薄型断熱構造の開発。購入後も便利に楽しく、しかも省エネに使えるタッチパネルでの“冷蔵庫との対話”という発想もさすがだ。

 同社では現在、大船スマートハウスにて、EVも巻き込んでエネルギーを創り、蓄え、制御する次世代住宅の検証を行なっている。スマートハウスというとエネルギー問題に対応した地域や家庭内のエネルギーを最適制御する住宅という面だけがクローズアップされているが、今回の「SMART QUALITY」とも合わせて見ていくと、“省エネは当たり前”という点がさらに際立ってくるように思われる。大切なのは「誰にでも使いやすく、便利で楽しい暮らし」なのだ。そういう意味では、「節電アシスト」+「らく楽アシスト」+α=「SMART QUALITY」といえるかもしれない。今後、発表される同社の「SMART QUALITY」家電が楽しみだ。






2012年11月16日 00:00