難波賢二のe-bikeアラウンド

スポーツサイクルより安全!? 知っておきたいe-bikeの安全性能

 e-bikeは電動アシストを搭載しているから危ないと考える人もいるかもしれませんが、国内の公道をサイクリングの中級者以上が走っている限りは、既存のスポーツサイクルに比べて、“安全な乗り物になった”と言い切ってよいでしょう。それはなぜか? 理由は複数ありますが、まずは走行するロケーションについて考えてみましょう。

e-bikeは急勾配の山を走りたくなる乗り物

走るフィールドが変わるから交通事故も減る

 人間という生き物は、平らなところが好きな生き物らしく、空から眺めると異様なほどに平らなところに密集して生活しており、山岳地帯に入ると極端に人がいません。

空の上から見ると、いかに人間が平らなところに密集して生活しているかがわかる
人里離れた山奥はそもそも交通量も少なく、人もいないので衝突する危険性がない

 e-bikeは単刀直入に言って坂が非常に楽な乗り物。その走行特性から普通に走っていると、平坦な道よりも上り坂のほうが楽だと感じる人も多いと思います。ゆえに、乗っていると坂のあるところに行きたくなる。坂のあるところは人間が活動をあまりしていないので、そもそも人とすれ違うことも少なく、衝突やトラブルの危険性が減ります。

 交通事故のほとんどは交差点の出会い頭で起きていますが、山奥の町道などを走っているとそもそも交通量などないに等しく、人家もないため交差点もなく、たまにクルマが来たとしても、見通しが悪すぎてスピードを出しているクルマすらいません。

20%に迫るような急勾配が連続する舗装の荒れた山道はロードバイクには不向き
ロードバイクに向いた緩勾配の峠道は路肩も少なく、対向車との速度差も大きい

 その一方で、こうした坂道は勾配が20%に迫るような激坂も登場するため、ロードバイクやクロスバイクでの気軽なサイクリングには向きません。普通ロードバイクで山も含むサイクリングに出かけると、国道と県道を組み合わせたルートなどを通る人が多いのではないかと思います。峠越えをする国道や県道は、大型トラックを含む車両の行き交いも頻繁でかつスピードは速く、確率的に後方から追突される可能性(これは追い抜かれた車両数にある程度比例すると考えてよいでしょう)は高くなるし、自分が相手と衝突する可能性(これも自分が進行方向に向かって出会った車両や人の数にある程度比例すると考えてよいでしょう)も高くなります。e-bikeによって多くの人が走る(走りたくなる)フィールドが今までと変わるため、安全になるというのは乗ればわかる事実でしょう。

e-bikeの構造・心にも余裕がある走りが安全面につながる

 では、下りはどうでしょう? “既に自転車に乗っている人”という限定で考えると、e-bikeは既存の自転車よりも安全性は高い乗り物です。まず、最終的なグリップ性能やコントロール性能を決める大きな要素の一つがタイヤ幅ですが、e-bikeのタイヤ幅は一般的に28c以上で幅広です。

 そして、重心の低い位置にドライブユニットとバッテリーがあるため、ブレーキング時のロールオーバー特性(前にひっくり返りにくい特性)や路面追従性に優れており、ドライ路面でのコントロール性は非常に高い。例えば、シマノ製ドライブユニット「SHIMANO STEPS」搭載モデルの場合、すべてのモデルに油圧ディスクブレーキが装備されており、制動性能でも安心。何よりも、乗り物の特性としてスピードをガンガン出して走るというより、まったりと走ることが目的となりがちなので、その点でも下りも安心と言えます。

 ヒルクライムではアシストがあるので心拍数が上がり過ぎないことも、ある意味で安全と言えます。心拍数が180を超えるような状態で走って頭が真っ白という状態よりは、比較的低速で心拍数120程度でリラックスして走っているほうが、さまざまな緊急回避に対しては判断も効くという現実があります。

 アシストがあること自体も心理的な予防安全性につながるとも言えます。例えば、ロードバイクで150km程度走って街に帰って来た時のシーンを想像するとわかりやすいのですが、自分が優先道路を走っていて相手の車両が一旦停止義務のある場所から出てくる可能性があるような見通しの悪いシチュエーション。疲れ切っているライダーは判断力も低下しがちで、自分が優先道路なので減速義務はないということでそのまま通過しがちです。

自転車にとってトンネルはもっとも危険なロケーションだが、e-bikeなら旧道の峠道が楽しい
優先道路でも生垣の奥から自動車や歩行者が飛び出してくるかもしれない

 しかし、法律上の問題はともかく、自分と相手の安全を最優先すると、優先道路でも飛び出してくるクルマや子どもに警戒して減速が必要となるシチュエーションというのは現実世界では少なくありません。こうした時にe-bikeだとどうなるかというと、再加速があまりに楽なので自ら減速しようという思いやりの判断が働きます。

e-bikeの普及で新たな問題が出る可能性も。初心者は乗り方や遊び方などを学ぼう

 この1年で私はe-bikeで5,000kmほど、そのほとんどを山間部の中でサイクリングしてきましたが、後続車や飛び出しでヒヤリとした経験はゼロ。これは、今までロードバイク・MTBに四半世紀乗ってきた身からすると、非常に新しい発見でした。「ハインリッヒの法則(通称、ヒヤリハットの法則)」というものがあって、重大な事故の裏には300のヒヤリが隠れているという統計の話ですが、やはり統計は正直なので、e-bikeは安全な乗り物と言ってよいのかと思います。

よく建築現場で使われているハインリッヒの法則。小さな危険の裏に重大な事故が潜んでいる

 ここまでe-bikeの安全性について語ってみましたが、もちろんスポーツですので誰が乗っても安全という話にはなりません。上記の話はあくまでも中級者以上がe-bikeの特性に合ったペースやフィールドで走った場合の話。例えば、まったく自転車に乗ったことのない人がe-bikeに乗って急加速で歩行者と衝突(これは現状e-bikeがかなり高額であることを考えると、値段自体が防波堤になる気はします)といった問題や、自動車が想像しているよりも加速が鋭いので、左折の自動車に巻き込まれる危険性が上がる可能性と言った問題があるのも事実です。

旧道の峠道を登ると上からの景色に癒される

 さらには、誰でも気軽に峠に登れる乗り物だからこそ、初心者が峠に登って下りで落車。もしくは、舗装路の山岳地帯でバッテリーが切れたり、ドライブユニットのトラブルで遭難といったことも想像されます。

 気軽に自然と触れ合えるようになること自体は歓迎すべきことです。しかし、安全な乗り物になったからこそ、多くの人が乗るようになると新しい問題も出てくることでしょう。e-bikeで初めてスポーツサイクルに乗る、もしくは自分は初心者だと認識している人は、まずは専門店で購入して基礎を教えてもらう。ガイドツアーや講習会などで積極的にお金を払って乗り方や遊び方、そしてトラブルの対処法を教えてもらう。こうしたトレーニングも必要になってくるのかもしれません。

しっかりとした乗り方を学んでいれば、誰でも安全に楽しめるのがe-bike

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。