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シャープ「飲める氷」作れる冷蔵庫 工事現場の暑さ対策に

アイススラリー冷蔵庫 RJ-AS7P

シャープは、市販のペットボトル飲料から簡単にアイススラリーを生成できる「アイススラリー冷蔵庫 RJ-AS7P」を商品化。5月22日より法人向けレンタルサービスを開始する。レンタル期間は2カ月/3カ月/4カ月/5カ月。価格は個別見積もりによるが1カ月あたり3~4万円を想定している。

アイススラリーとは微細な氷と液体が混合した流動性のあるフローズン状態の飲料。過冷却状態に保たれた飲料に衝撃を与えることで生成できる。アイススラリーを摂取すると、微細な氷がとける際に熱を奪い、体を芯から冷やすことができるため、工場や建設・土木工事現場のほか、スポーツシーンなどで手軽にできる暑熱対策として活用できる。

アイススラリーは微細な氷と液体が混合した流動性のある氷
過冷却現象を利用する
アイススラリーの飲み方
アイススラリーができる様子

アイススラリー冷蔵庫は、独自のファン制御と風路構造により庫内の温度をきめ細かく制御しながら温度ムラを抑制し、飲料の過冷却状態を保持。飲む前に飲料を取り出し、ボトルを叩いたり振ったりして衝撃を与えれば簡単にアイススラリー化できる。

一般的な冷蔵庫の冷凍室でも、凍らせる過程で一時的に過冷却状態になるが、そのまま冷却を続けるため完全に凍ってしまう。アイススラリー冷蔵庫は過冷却状態を保持する(冷やし過ぎない)温度制御により、冷却後はいつ取り出してもすぐにアイススラリーを作ることができる。

独自の制御と構造で温度ムラを抑制
実際にアイススラリー化したもの

冷却にかかる時間は、飲料の本数や温度、設定によって異なるが、常温(28℃)の500ml飲料を25本庫内に入れた場合で13時間、冷蔵庫から出した冷たい飲料の場合で8時間。一例として、夕方17時に飲料を補充し、翌日8時~15時に飲むといった運用を想定している。

夕方に冷蔵庫に入れておけば翌朝にはアイススラリーが飲める

飲料によってアイススラリー生成に適した温度は異なるため、9段階の温度設定機能を搭載。温度範囲は0~-18℃のあいだで、具体的な数値は公表されていない。

スポーツ飲料やコーヒー飲料、果汁飲料など、飲料ごとに適した温度が異なることから、異なる種類の飲料を同時に冷やしても、一方はうまくアイススラリー化されない可能性がある。また、同じスポーツ飲料でも銘柄によって推奨温度は異なるため、レンタル時には銘柄ごとに同社が独自に検証した温度設定のリストが提供される。

A~Cモード、弱~強の計9段階で設定可能

本体サイズは495×598×770mm(幅×奥行き×高さ)、重さは27kg。定格内容積は72Lで、500mlのペットボトルが最大40本入る。なお、通常の冷蔵庫としても使える。

1人暮らし向け冷蔵庫のようなコンパクトサイズのため、休憩スペースなどにも設置しやすい。また宅配便での搬送もできるため、期間限定の現場やスポーツの遠征先など、設置場所の変更にも容易に対応可能。

500mlのペットボトルが最大40本入る

実際に試飲してみたところ、カフェなどのフローズンドリンクのようにシャリシャリした氷ではなく、もにゅっとしたやわらかい食感で、水のような感覚で違和感なく飲むことができる。口から喉へと、アイススラリーが通った場所がただちに冷やされていく実感がありながら、かき氷を一気に食べたときのように頭がキーンとすることはなく、たっぷり飲みやすい印象だ。

ぶどう果汁飲料もアイススラリーに。さらさらとしたやわらかい口あたり

0℃の水よりも0℃の氷の方が冷やす力が大きいため、より効果的に体を冷やせるが、氷は結晶が固くて大きいため、丸飲みすることができない。その点、アイススラリーはなめらかな食感に仕上がるため、そのまま飲めることがかき氷やアイスなどとの違いとしている。またフローズンドリンクを作る専用機械などと比べて導入しやすく、メンテナンスなどの手間が少ないといったメリットもある。

さらに市販のアイススラリー専用飲料を用いるのと異なり、好みの飲料で作れるのも特徴。また専用飲料は凍らせた後に常温に置き、もみほぐす手間がかかるものもあるが、アイススラリー冷蔵庫を使えば冷やして叩くだけと、手軽に作れる点がテスト導入した企業からも評価されている。

テスト導入企業からは手軽に作れる点や、好きな飲料で作れる点が評価された

なお、叩くなどの衝撃で凍結してアイススラリー化する仕組みだが、冷蔵庫の扉を閉じる衝撃では凍結しないことが確認されている。ただし、取り出す際に飲料が転倒すると凍結する可能性があり、そのまま冷やすと完全に凍ってしまうことがあるとのこと。凍ってしまった際は、一度溶かして冷やせば再度アイススラリーにすることができる。

「アイススラリー冷蔵庫 RJ-AS7P」の消費電力量は、アイススラリーモード時が310kWh/年、冷蔵時が120kWh/年。電源は100V。冷媒はR600a。

冷たいアイススラリーで深部体温下げる

2024年、労災による熱中症の死亡者は30人だった。2025年6月1日からは、改正労働安全衛生規則で企業の熱中症対策が罰則付きで義務化される。しかし、多くの現場で作業環境を変えるのは難しいこと。そこで手軽に導入できるのがアイススラリー冷蔵庫だ。

熱中症対策としてアイススラリーがもたらす効果を、労働現場の暑熱対策を研究している産業医科大学 副学長の堀江正知教授が解説。

6月1日から企業の熱中症対策が義務化
産業医科大学 副学長の堀江正知教授

実験では、日本の夏の環境に近い気温35℃/湿度65%の実験室で運動をしてもらい、活動前と休憩中に常温(28℃)、7℃、アイススラリーの3つの温度のスポーツドリンクを摂取させた。その結果、休憩中(運動して体温が上昇した後)にアイススラリーを飲んだ場合は、7℃のものと比較して、深部体温が上昇する程度が緩和されたという。

アイススラリーが食道を通過する際の食道温度は平均14℃だったが、堀江教授によると瞬間値では個人により0℃になる人もおり、上手にごくんと飲めると氷がそのまま胃袋まで到達することが確認されているとのことだ。

堀江教授は「アイススラリーを摂取すると微細な氷がそのまま身体の深部に入り、融解熱で深部体温が下がる効果が確認されています。多彩な飲料を過冷却の状態からスラリー化して水分補給と同時に必要なミネラルや糖分を手軽に摂取する方法は、今後の暑さ対策において大いに期待できます」とコメントしている。

実験方法
運動前と休憩中にそれぞれ300mlと500mlのスポーツドリンクを摂取
休憩中にアイススラリーを飲むと深部体温が上昇する程度が緩和
アイススラリー摂取時の食道温度は平均14℃。瞬間値では0℃になる人もいたという