老師オグチの家電カンフー

君は40年前の餅つき機ブームを知っているか?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 平成も終わろうとしていますが、昭和の話をします。

 私が小学生の頃ですから、1980年(昭和55年)前後、わが家に「電気餅つき機」がやってきました。いや、宅急便とかない時代ですから、買って帰ったんだと思いますが。確か、ナショナルの製品です。炊飯器を一回り大きくしたようなフォルムで、もち米を「むす」「つく」過程を経て餅にする機械です。

 餅つき機って、かなりニッチな製品だと思われがちでしょうが、当時はブームだったんですよ。その昔、餅は“せいろ”で蒸して、臼と杵でついて作っていたわけですが、その時代を知っている人にとっては、かなり画期的な製品だったはずです。

 調べてみると、1976年(昭和51年)あたりがピークで、年間100万台以上売れていたそうです。わが家は、とくに新しいもの好きというわけではなく、流行っているから買ってみたんでしょう。

 子どものころ家にあった家電なんて、ほとんど覚えていませんが、餅つき機は子供心に強烈な印象を残しています。もち米が蒸し上がると(タイマーなんて付いてないから手動です)スイッチを「つく」に切り替えます。すると、金属の突起が回転し、こね始めます。

 餅になってくると超高速で回転したり、ドッタンバッタンと暴れ回ったり、その動きがなかなか滑稽なんですよ(動画で見たい人はYouTubeで検索してみ下さい)。住んでいたのが古い木造住宅だったので、地震かっていうぐらい振動していました。

※昭和にそんな表現はありません。画風は「ぷーこの家電日記」をパクらせていただきました

 つき上がった餅は、手で食べやすい大きさに丸めるか、トレーに伸ばして固まってから切るかします。これが、わりと面倒でね。熱いのが手に付くし。そのせいか、1980年代半ばに1個1個パックに入った切り餅が普及すると、餅つき機のブームは終息していきます。

 思い出して気づいたんですが、餅つき機のブームや機構は、ホームベーカリーに似ています。金属の突起でこねる仕組みなどは、ほぼ同じ。最初にホームベーカリーが登場したのは1987年といいますから、餅つき機の技術を移行させたと考えるのが自然です。餅つき機はホームベーカリーの父。その証拠に、多くのホームベーカリーに餅つき機能が備わっています。DNAですね。

 パンを毎日食べる人は多いけど、餅を毎日食べる人はかなり少ないので、それでいいと思いますが。餅がアホみたいに暴れ回る昭和の餅つき機の方がパワーがあって、餅としてはおいしくなっていたんじゃないかと思いますね。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>