快眠のための家電学~質の良い眠りは“昼間の元気”につながる!


 最近、不眠の悩みや朝の目覚めがすっきりしないという話をよく耳にする。OECD(経済協力開発機構)に加盟する30カ国の中で、日本は睡眠時間が2番目に少ないという調査結果も出ているという。帰りが遅い、子育てが大変、仕事や人間関係でのストレスが多いなど、その理由はさまざまだが、“単なる寝不足”とないがしろにしてはならない。体と心の疲労回復や記憶の整理、免疫力の向上などはすべて睡眠時に行なっているため、その人にあった適切な睡眠時間や質の良い眠りというのはとても大切なことなのだ。

 そんな“眠りの大切さ”に気づく人が増え、今、注目を浴び始めているのが快眠のためのさまざまなグッズだ。家電製品にも、短い時間でより深い睡眠をとるための環境を整えるものが登場し始めている。

 自分の眠りの状態を知り、快適な目覚めをサポートする「睡眠計」や、心身をリラックスさせて入眠をスムーズにするLED照明、寝ている間の室温や湿度をコントロールするエアコン。さらには空気環境を清潔に保つイオン発生機など。毎日の暮らしにプラスすることで睡眠の質が向上すれば、日中のパフォーマンスも上がる。

 今回は、こうした家電のほか、エアコンなどとの組み合わせも提案しながら夏の心地よい睡眠をナビゲートするグンゼのパジャマを取り上げ、良質な眠りについて考えたいと思う。それでは、「快眠のための家電学」講座を始めよう。

まずは自分の眠りを知ることから

<オムロン「睡眠計」 HSL-101/「ねむり時計」HSL-001>

 眠りが浅い、寝足りない…・・・そんなふうに思ってはいても、実際に自分が毎晩どんな眠りをしているのかを把握するのは難しい。目覚めがすっきりしないのは、夜中に何回も起きているせいなのか、それとも寝付きに時間がかかっているからなのか、まずはそれを知ることから対策が始まる。

 オムロンの「睡眠計」は、本体をベッドサイドに置くだけで、眠っている状態(=睡眠)と、目が覚めてしまっている状態(=覚醒)を判定し、実睡眠時間を表示するというもの。就寝時間と起床時間だけで計算した睡眠時間でないところがポイントだ。

 これまでにも、マット式や腕に巻きつけるもの、頭部に取り付けて脳波を測定するタイプの睡眠計はあったが、体に接触したり拘束したりするため違和感があり、普段とは異なる眠りになってしまうという欠点があった。オムロンの新製品では、電波センサーを用いて人の動きをとらえるため、体に触れずに自然な状態での眠りの測定が可能となっている。寝返りや胸の動きが少なければ眠っていると判断し、体動が多いと目覚めていると判定される。

オムロン「ねむり時間計 HSL-001」(画像手前・5,980円前後)と、「睡眠計 HSL-101」(5月10日発売・19,800円前後)睡眠計はおサイフケータイ機能付きのスマートフォンで同社の健康管理サービス「ウェルネスリンク」にデータを転送できるSDカードでのデータ保存も可能

 インジケーターで眠っていた時間帯と起きていた時間帯が示され、実睡眠時間が数字で表示されるので、昨晩の眠りの状態がひと目でわかる。さらに、眠りのデータを同社の健康管理サービス「ウェルネスリンク」に送ると、眠りの詳細が時間単位のグラフで表示され、ぐっすり眠れている時間の長さもわかる仕組みになっている。

 これを14日間続けると、眠りの傾向を「寝つき時間」「夜中の目覚め」「朝早い目覚め」「睡眠不足」「睡眠リズム」の5つの観点で分析してレポートを表示。眠りの傾向の中で注目したい点や、眠りと疾病などについての情報も得られる。

 こうして睡眠改善への課題が見つかった人は、1カ月315円の有料プログラムに参加することも可能だ。眠りに影響していそうな生活習慣を振り返り、チャレンジできそうな改善を選んで実行。それと連動して2週間単位で眠りの変化をレポートしたものが届く。この繰り返して少しずつ質の良い眠りに近付けていこうという取り組みだ。

 自分の眠りの傾向を知り、それを引き起こす原因となる生活習慣を改めることで睡眠の改善をしていく方法は、眠りについて自覚的な悩みを抱えている人にとってはとても魅力的なのではないだろうか。

手のひらサイズの「ねむり時間計 HSL-001」

 オムロンからはそのほかにも、もう少しライトな睡眠計「ねむり時間計」もこの春に発売されている。枕元に置くだけで、加速度センサーが体動による寝具の動きを検知して、入眠時刻を判定。起床までの睡眠時間を表示するほか、「スッキリアラーム」機能も搭載している。これは、起きたい時間にアラームをセットすると、その30分前までの間で、起きやすいタイミングにアラームを鳴らすというもの。体動の様子から「そろそろ体が起きようとしているな」と判断した時点で鳴るため、無理やり起こされたという感じがしないのはうれしい。

 また、おサイフケータイ機能搭載のスマートフォンを使って、専用の「ねむり体内時計」アプリにデータを転送すると毎日の睡眠状態や1週間のグラフが表示される仕組みも備えている。不規則になりがちな生活習慣を見直し、体内時計を整えることで朝から元気に過ごそうというのが、この「ねむり時間計」だ。若い世代にも目覚まし時計のつもりで気軽に使える入門機といえるだろう。

眠りと深い関係にある照明を見直す

<シャープ「さくら色LED照明」>

シャープの「さくら色LED照明」

 「睡眠計」や「ねむり時間計」で自分の眠りの傾向や生活リズムを把握したら、次のステップはスムーズな寝つきに導くこと。“眠りの質”の中でも入眠はとても大切な要素だ。パソコンやテレビ、携帯電話の画面を見ることは控え、リラックスできる音楽を聴いたりするのが良いといわれているが、照明も重要なポイントになる。

 照度の高い、明るすぎる照明の下で夜遅くまで過ごしていると、睡眠を促すホルモン「メラトニン」が抑制されてしまうだけでなく、生体リズムが後ろにずれてしまい、夜型になって朝に起きられなくなる。つまり、質の良い眠りにつけなくなるのだ。メラトニンの分泌抑制は青白い光でより顕著になるため、スムーズな入眠に導くには、就寝約1時間前からやや暗い暖色系の照明を用いることが大切だといわれている。

 シャープのLEDシーリングライトには、1日の生活サイクルに合わせて光の色と明るさを自動で変化させて生活のリズムを整える「エコあかリズム」機能が搭載されているが、3月の発売された「さくら色LEDシーリングライト」では、それがさらに進化している。就寝の1時間前になると自動的に“さくら色”に切り替わり、リラックス効果と安眠をサポートするという。

 暖色の明かりの中でも、特に“さくら色”には、寝付きをよくして、目覚めがすっきりとする安眠効果や、心がリラックスする癒しの効果があることが実証されているとのこと。淡い色合いの「ソメイヨシノ」と、深みのある「八重桜」の2種類が用意されており、リモコン操作によって好みの色を選ぶことができる。

 点けっ放しで寝てしまっても、「おやすみリズム」という機能が搭載されているため、「八重桜・50%の明るさ」から約30分間(設定により約60分間)かけて徐々に明るさを落とし、常夜灯へと切り替わる(もしくは自動で消灯)ので、「電気を消さなくては」という心配も無用。より眠りやすい環境へと導く。

シャープ「さくら色LEDシーリングライト」の『ソメイヨシノ』カラー濃いめのさくら色の『八重桜』「癒し&安眠サポート」機能を前面に配置したオシャレなリモコン

 明かりの色の力で1日の終わりに心の緊張を解き、穏やかな気持ちにさせてくれるとしたら、何とありがたいことだろう。個人差はあるかもしれないが、店頭などで体感してみて、心地よさを感じたなら導入してみてはどうだろう。

空気環境を整えて心地よい眠りをサポート

<シャープ「イオン発生機IG-DL1S/IG-DK100」>

寝室用のプラズマクラスターイオン発生機を設置した部屋のイメージ。加湿機能付きのIG-DK100と手元用ライト付きの IG-DL1S

 どんなに心穏やかにスムーズな入眠が出来たとしても、寝室の空気環境がよくなければ不快感ですぐに目覚めてしまわないとも限らない。

 ベッド周りを清潔な環境に保とうというのがシャープのプラズマクラスターイオン発生機「IG-DL1S」だ。枕元に置いて使うことで、スポットイオンシャワーが気になる付着臭や浮遊するアレルギー物質の作用を抑制して眠りをサポートするというのが、この製品のコンセプト。フレームに取り付けるクランプとスタンドのどちらでも設置が可能なので、ベッドでも和室でもOK。手元を照らすライト付きで、就寝前の読書を楽しむのにも使える。

ベッドサイド用イオン発生機IG-DL1Sはスタンドとベッドのフレームに取り付けるクランプのどちらでも使用可能

 また、IG-DK100は、同じくイオン発生機だが、パーソナルな6畳タイプで加湿機能も備えた寝室用の1台。清潔な空気環境だけでなく、肌やノドにも快適な、うるおいのある寝室づくりをアピールしている。

 寝室のハウスダスト対策のためには、24時間空気清浄機を稼働させておくだけでも効果があると思うが、枕元に起きやすい形状など、いずれも眠りや寝室の環境に特化したイオン発生機なので、試してみる価値はあるだろう。

室温と湿度を睡眠と連動させて快眠に導く

<ダイキン工業「うるるとさらら」/「睡眠時専用コントローラーsoine」>

湿度もコントロールする「うるる快眠プログラム」が搭載されたRXシリーズ

 心地よい空気環境のもと、スムーズな眠りについたら、次に気をつけたいのが睡眠時の温度管理。質の良い眠りを持続させるためには、入眠から深い眠りへと入っていく際に、深部体温(体の表面でなく、深部の温度のこと)を下げていくことがポイントになる。起床前には、深部体温が上昇することで、目覚めのよい朝を迎えられる。

 こんな眠りに適した温度管理に着目した「快眠プログラム」を採用しているのが、ダイキン工業のエアコンだ。同社のエアコン「うるるとさらら」は、光速ストリーマによる空気清浄機能や無加水加湿機能などで知られており、気流や湿度にこだわっているのが特徴だが、この「快眠プログラム」については、見過ごしている人も多いようだ。

 就寝時に起床時刻をセットすると、緩やかに温度を下げて最大で約2度まで室温を下げ、深い眠りを持続させる。起床時間の1時間前には温度を上げて、さわやかな目覚めへと導くV字快眠温度制御というプログラムがあるのだ。最上位機種の「うるるとさらら」Rシリーズには、このV字快眠温度制御に加湿コントロールを加えた「うるる快眠」コースも搭載している。

快眠温度制御と加湿コントロール機能の「うるる快眠ブログラム」が搭載されており、深い眠りと心地よい朝の目覚めをサポートする
就寝時刻に起床時刻をセットすることで「V字快眠」の温度設定となるリモコンの下部のふたを開けると「快眠タイマー」ボタンがある

 こうした快眠プログラムの機能をさらに進化させ、既存のエアコンにも応用させようと開発されたのが、昨年の夏に登場した「睡眠時専用コントローラーsoine(ソイネ)」だ。これは、2003年以降の同社のルームエアコンに対応。コントローラーに接続されたセンサー感圧部が、眠りのリズムをセンシングし、それに合わせてエアコンの温度を自動的に調整する。

眠りのリズムに合わせてエアコンの温度を自動的に調整する睡眠時専用コントローラー「soine(ソイネ)」19,800円「ソイネ」を枕元に置いて使う

 これまでエアコンを就寝時に使う場合、タイマーをセットするしかなかったため、“切れると暑くなって目が覚める”“つけっ放しだと冷えすぎる”という声が多かったという。soineでは、エアコンの稼働を必要最低限に制御するため、就寝時から起床時までエアコンを運転し続けるよりも節電になり、眠りの質もよくなるという。

 寝室の温度管理のために、こうしたエアコンの機能があることも頭に入れて、選択肢を広げたい。

パジャマの復権で快眠をナビゲート

<グンゼ「Kaimin navi(カイミンナビ)」パジャマ>

グンゼの「Kaimin navi(快眠ナビ)」シリーズのパジャマ

 最後に“寝ること”に対してユニークな取り組みを行なっているグンゼのパジャマを紹介しよう。

 「就活」「婚活」「朝活」―何かに積極的になることを表す言葉として、最近よく使われる単語だが、ここ1~2年よく耳にするのが「寝活(ねるかつ)」ということ。多くは美容用語として“寝ている間にきれいになること”を示すようだが、グンゼでは上質な眠りに対して積極的になることを「寝活」と呼んでいる。

 グンゼの「寝活」の第一歩は、パジャマに着替えて寝るという習慣の復活だ。年配の人や子どもはパジャマの着用率が高いが、そのほかの世代では、帰宅後に部屋着に着替え、就寝時もそのままの服装で眠るという人が多い。スウェットやTシャツなどの部屋着が就寝に向かないわけではないが、ウェストを締めつけずにゆったりとした仕様になっていたり、吸湿性のよい素材を使っていたりと、パジャマならではの良さがある。

 パジャマの復権を目指し、昨年秋から同社では「Kaimin navi(カイミンナビ)」というブランドを立ち上げ、“質の良い眠りへのナビゲーション”に力を入れている。

 この春夏の「Kaimin navi」では、専門家でつくる睡眠評価研究機構のアドバイスを基に、4つの悩みに応えるものを開発。春夏用では軽くて柔らかいものを展開、夏に向けて入眠時・睡眠時・起床時の3つのシーンで心地よさを実感できる「寝活パジャマ」でさらに進んだ快眠を提案していく。これまでインナーウェアに使用してきた冷感素材のラディクールや吸湿性に優れたクールマジックをパジャマにも使い、商品には大きな「商品説明書」を付属してそのメカニズムや上手な着用方法を記載する試みも始まっている。

グンゼでは睡眠に積極的になることを「寝活(ねるかつ)」と名付け、春から夏への4つの悩みに対応するパジャマを展開していく寝付きがよくない人に向けて作られた「ひんやり入眠」パジャマは、首、背当て、見返しに冷感素材を使用。深部体温が速やかに低下するように工夫し、寝付きをサポートする

 暑くてなかなか寝付けないという人向けの「ひんやり入眠パジャマ」は、首や背当て、見返しに冷感素材を使用。入眠に効果的な首元をピンポイントで冷やしてスムーズに寝付きをサポートする。エアコンの吹き出し口に置く、冷蔵庫に入れる…など、冷やしてから着用することも推奨していく予定だ。そのほか、寝汗をかきやすい人のための「さわやか熟睡パジャマ」、肌触りと通気性にこだわりニオイ対策も考えた「すっきり爽快パジャマ」など、個々の悩みに応える商品展開をしていく。

寝汗をかいてしまい夜中に起きることがある人用の「さわやか熟眠」パジャマは、背中全面に吸汗速乾素材を使い、気化熱で効率よく皮膚を冷やす仕組み寝起きを快適にするための「すっきり爽快」パジャマは、さらっとした触感のレーヨン混クレープ素材を使い、汗のにおいも防ぐ加工をしている「すっきり爽快」の婦人用パジャマの一例。7分袖長パンツ仕様で5,145円

 ダイキンの「快眠プログラム」のところでもふれたように、深部体温と眠りの質には密接な関係がある。エアコンのタイマー設定などとの組み合わせなど、睡眠と体温の関係にまで踏み込み、トータルで快眠をナビゲートしようというグンゼの取り組みは興味深い。

まずは自分や家族の眠りの環境を見直そう

 こうしてみてみると、寝つきや睡眠の深さ、目覚めの良し悪しなど、その悩みは睡眠の段階においても多様で、対処の方法もさまざま。たとえば枕やベッドを選ぶといった寝室まわりのグッズ選びだけでなく、生活スタイルや悩みに応じて、ポイントを押さえたものを複合的にチョイスしていくことが大切なことがわかる。

 眠りの質の低下や乱れは、生活習慣病を引き起こす原因になったり、肥満の原因になったりもする。これは決して大人だけのことではなく、子どもの成長や学習能力にも関係してくるのだ。ぐっすりと眠って次の日も元気に過ごすために、自分や家族の眠りの環境を見直してみよう。





神原サリー
新聞社勤務、フリーランスライターを経て顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、家電分野を中心に執筆やコンサルティングの仕事をしている。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、現場の声を聞くことを大切にしながら、マーケティングの観点を踏まえて分析。モノから入り、コトへとつなげる執筆・提案を得意とする。テレビ、ラジオ、新聞等、メディアへの出演も多数。
一般社団法人日本睡眠改善協議会認定・睡眠改善インストラクター。


2012年4月20日 00:00