夫婦2人暮らしやシニア世帯に新提案! 小さくても高性能の“プチ家電”に注目


2011年春に発売の小型のドラム洗が好評でプチ食洗も投入へ

2世代目のプチドラムNA-VD110L(左)とNA-VD210L。コモンブラックのナイトカラーシリーズのほうは運転音が1dB小さい“夜家事仕様”となっている

 2011年4月、パナソニックからマンションの防水パンにもぴたりと収まるコンパクトサイズのドラム式洗濯機「プチドラム」が発売された。従来のレギュラーサイズのものが洗濯容量9~10kg/乾燥容量6kgなのに対して、プチドラムは洗濯6kg/乾燥3kgと小容量。ターゲットはずばり一人暮らし、もしくはディンクスと呼ばれる30代の夫婦2人暮らしだ。

 共働きなどで昼間留守にしていると外干しができないため、週末のまとめ洗いか部屋干しをするしかない。つまり、乾燥機能に優れたドラム式洗濯機はこうした世帯にこそ、必要とされている。だが、これまでの製品では大き過ぎて“購入したくても置けない”というジレンマが発生し、消費者の要求に応えられていなかったのだ。

 パナソニックはそこに目を付け、プチドラムの発売に踏み切った。この目論見は見事に当たり11年上期のドラム式洗濯乾燥機の売り上げは前年同期の約1.3倍になるなど、ヒット商品となった。

 プチドラムのヒットを受け、2012年2月10日には、2~3人の少人数世帯向けの食器洗い乾燥機“プチ食洗”を新たに発売する。卓上型の食器洗い乾燥機は2003年をピークに販売台数が減っており、新規需要の開拓に迫られている背景がある。これまでは「フライパンや鍋などの調理器具も洗える」など、“大は小を兼ねる”という姿勢でものづくりがされてきたが、先のドラム式洗濯乾燥機同様、キッチンスペースが狭くて置き場所がないという声も多くあったようだ。

 家電メーカーにとって、コンパクトサイズの家電づくりは「部品のコンパクト化や生産ラインの整備などコストがかかる割に、“小さくしたのだから価格を下げて当然”という消費者側の要望も強いため、なかなか踏み切れない」のが現状だという。今回パナソニックがコンパクトサイズの食洗機の発売に踏み切ったのは、プチドラムの成功があったからこそなのだ。

 この“プチ食洗”だが、同時に3機種が発売されることからも同社の力の入れようがうかがい知れる。いずれも470×300mm(幅×奥行き)で、家庭用の水切りかごと同じスペースに設置できる。6人分の食器に対応する従来モデルと比較すると、体積で比べると約40%も小さくなっている。3機種とも使用水量が約9Lで、節水性の高さはフラッグシップモデルにひけをとらない。

幅47cm×奥行き30cmの水切りかごサイズの「プチ食洗」庫内に入る食器点数は18点。ディナー皿も入る大きさ
市販のラックに載せて配置することもできるシンクの横に縦置きも可能シンク横の調理台に横置きすることもできる
プチ食洗の使用水量はわずか9Lと節水性が高い食器点数18点を手洗いした場合の水量は40.9Lだという

 一方、プチ食洗の下位モデルでは、乾燥機能を省略、洗浄のみとしている。食洗機ではすすぎの工程の際に、約70℃の温水で“加熱すすぎ”をするため、乾燥機能がなくても扉を開けておけば自然乾燥で十分乾かすことができる。従来のユーザーでも乾燥機能を使わないという人が多かったため、思い切って乾燥機能を省いたのだという。こうすることによって想定売価を38,000円前後と抑え、購入のハードルを下げている。

フラグシップモデルの「NP-TCR1」にはエコナビとパワー除菌ミスト機能を備える中級モデルとなる「NP-TCM1」乾燥機能を省いて価格を抑えた普及モデルの「NP-TCB1」

 パナソニックでは、プチ食洗を“少人数世帯向け”と位置付けているが、製品の本体を見たところ、4人家族でも十分対応できそう。大容量モデルのユーザーの間では、朝食後の食器だけで使うには空きスペースが多すぎるので、夕食分とまとめて洗うという声もよく聞く。容量を小さくした分、気軽に使えるという長所もありそうだ。

 パナソニックでは、3月10日に2代目プチドラムも発売。前モデルでは搭載されていなかったエコナビ機能を追加。省エネ性や節水性も高めたほか、ヒーター温風と送風機能を短時間行なう「部屋干しコース」も新たに搭載。プチドラムにも「省エネ性に優れたヒートポンプ乾燥機能を」という声もあるようだが、価格とのバランスを考えると十分に魅力的な製品だ。

本炭釜や極め炊きなど高級炊飯器のプチサイズも続々登場

三菱の高級炊飯器「本炭釜」の小容量タイプの2代目(手前が1代目)。5.5合炊き同様、スクエアなデザインにリニューアルした。カラーは写真のルビーレッドのほかピアノブラックも

 こうした小さいサイズの家電の流れは、パナソニックのプチ家電シリーズに限ったことではない。三菱電機が2月1日に発売するIHジャー炊飯器「本炭釜」も3.5合炊きの小容量タイプだ。純度99.9%の炭素材料を削り出した内釜“本炭釜”を採用したこのシリーズは、高級炊飯器のさきがけとなったものだが、最初に手掛けたのは標準サイズの5.5合炊き。続いて大容量タイプの1升炊きが発売された。

 だが、1回に炊くごはんの量が1~2合と少ない家庭では、こうした炊飯器は大き過ぎる。少人数世帯でも「毎日おいしいごはんが食べたい」という要望に応えた形で、小容量の高級タイプの開発に着手。小容量タイプの本炭釜としては2代目となる新製品では5.5合タイプで好評だったスクエアタイプを踏襲し、デザインを一新。中級モデルとなる「炭炊釜」の3.5合炊きタイプも同デザイン(カラーで区別)で同時発売する。

 新製品では、内釜にこだわっておいしさを追求しただけでなく、3段階の節電レベルを液晶画面に表示させてムダのない使い方も提案している。消費電力を抑えて炊飯する「エコ炊飯モード」のほか、保温機能を「一定保温(高め)」「たべごろ(低め)」「保温切」と3段階で設定できるようになっている。

 炊き上げ時の段階で「保温を切る」ように設定できるのは従来にはなかった考え方。おいしいごはんのためには保温をしないほうがいいし、8時間以上保温するのなら、新たに炊いたほうが消費電力が少なくて済む。炊き上がったらすぐにスイッチを切って保温せずに使っている人も多いというが、炊飯器側でこうした「保温なし」の機能を盛り込んだのは英断といえるだろう。

中級モデルとなる炭炊釜。内釜や放熱板の仕様、吸水方法などが異なる本炭釜にはお米の分量に合わせて炊き上げる「合ピタ」機能を搭載0.5合刻みで水加減がぴたりと合わせられるようになっているため、年配の人にも使いやすい
放熱板と一体化して洗いやすくなった内蔵カートリッジ。効率よく蒸気とうまみを分離するごはんがよそいやすく、お手入れもしやすい形状になっている本炭釜・炭炊釜のどちらにも節電レベルを表示する機能を搭載している。炊き上げ時から保温設定を切ることもできるのが特長だ
象印の真空内釜圧力IH炊飯ジャー「極め炊き」NP-RD05 

 また、同じ2月1日には象印からも、小容量の真空内釜圧力IH炊飯ジャー「極め炊き」が発売される。

 このように小容量ながら、高機能な炊飯器が登場してきたことで、幅広い世代のニーズが見込まれる。先の食洗機同様、3~4人家族でも1回に炊くごはんの量が2~2.5合程度という家庭なら、プチサイズの炊飯器で十分という考え方もある。三菱電機によれば、5.5合炊きで2合のごはんを炊くよりも、3.5合炊きで2合のごはんを炊くほうが熱効率が高いため、消費電力は少ないという。設置スペースも少なくて済む小さい高級炊飯器のニーズはメーカーの予測以上に高いのではないだろうか。

3年前から始まっている小さい掃除機の人気

 サイズの小さな家電製品の流れは、掃除機にもきている。三菱電機では、2009年8月に同社の女性たちの声を集めて開発したという本体の質量2.9kgの小さくて軽い紙パック式掃除機「Be-K(ビケイ)」を発売。引き回しがしやすいことに加え、中級モデルで価格も手ごろだったこともあり、人気を集めた。後継機種も発売されているが、同社の中では販売台数1位を誇る稼ぎ頭となっているという。

三菱の紙パック式掃除機「Be-K(ビケイ)」TC-FXA8P三菱の紙パック式掃除機のフラグシップモデル「雷神」と比較してみても、その大きさの違いがよくわかる

 また、サイクロン掃除機についても、シャープが本体質量が2.6kgという超軽量コンパクトサイズを発売した。静音性の高い同社の高級機を抑えて人気が集中しているという。さらに、2011年秋には東芝がコンパクト化した2.5kgのものを発売。シャープは本体だけでなくホースやヘッドなどの付属品の軽量化を図った新製品を投入している。

シャープのプラズマクラスターサイクロン掃除機EC-PX200。付属品を含めて4.1kgと軽さにこだわっている東芝のサイクロン掃除機「トルネオミニ」VC-C11(右はフラグシップモデルのトルネオ)本体が2.5kgと軽いので手で持ったまま掃除機をかけることもできる

 サイズを小さくしたこれらの掃除機は、フラグシップモデルではないものの、機能面でも決して引けをとらないミドルクラスの性能を維持している点がポイントだ。軽くて取り回ししやすく、本体を持ったまま掃除機を掛けられる点で、特に女性に支持されている。

小さい家電の真のニーズはシニア世帯に

 これまで一人暮らし用家電といえば、春の新生活に向けて単身赴任をする人、大学生、新社会人などが対象となり、“とりあえず安く揃えばいい”というものが中心だった。それが、パナソニックの“ナイトカラーシリーズ”に象徴されるような30~40代の高所得者向けの1~2人暮らし家電の誕生へとつながり、世代を超えた少人数世帯向けの家電に注目が集まっている。

 メインターゲットとして、ディンクス世帯など比較的若い世代にばかり目が行きがちだが、こうした家電の真のニーズは子どもが巣立った後のシニア世帯にこそあるということを忘れてはならない。洗濯物を干したり取り込んだりするのが辛い年頃には、ドラム洗は便利だし、食器洗いも同様。ミニサイズの高級炊飯器や軽い掃除機も、高齢者にこそ使ってほしい。

 メーカー側にはまずは働き盛りの子世帯に広め、やがてはその親の世代にも広まるようにという考えもあるのだろう。少人数向けの家電の動きからますます目が離せない1年となりそうだ。





神原サリー
新聞社勤務、フリーランスライターを経て顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、家電分野を中心に執筆やコンサルティングの仕事をしている。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、現場の声を聞くことを大切にしながら、マーケティングの観点を踏まえて分析。モノから入り、コトへとつなげる執筆・提案を得意とする。テレビ、ラジオ、新聞等、メディアへの出演も多数。


2012年1月26日 00:00