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最新家電とIoTで「かかりつけ介護」を目指すパナソニックエイジフリーケアセンターの取り組み

 “超高齢化社会”へと突入している日本。だが、介護については親族など身近な人が直面するまで、何となく遠い世界のこととして考えてしまう人が多いのではないだろうか。今回、パナソニック エイジフリー社によって埼玉県大宮市に2016年10月に開設されたばかりの在宅介護サービス拠点「エイジフリーケアセンター大宮三橋」を取材。最新の家電製品やIoTを活用している同センターの取り組みから、介護サービスの現況や、今後のあり方などを探ってみた。

閑静な住宅街にあるエイジフリーケアセンター大宮三橋

在宅介護サービス拠点「エイジフリーケアセンター大宮三橋」

エントランスの様子

 今回、取材してきた「エイジフリーケアセンター大宮三橋」は、さまざまな事情で数日間自宅での介護ができなくなった時に、宿泊も含めて施設に面倒をみてもらうショートステイ、デイサービス、居宅介護支援のケアマネジメント、訪問入浴・訪問介護など「在宅介護サービス」のための拠点となるところだ。介護保険が適用されるこうしたサービスも、従来は別々の施設で行なわれていたのだが、いつもデイサービスで通所しているところで、ショートステイも受け入れてもらえれば、介護する人もされる人も安心なはず。訪問介護や入浴でお世話になっている窓口と、もしもの時のショートステイが同じ窓口ならば、気軽に利用できて心強い。

 実は、パナソニックが介護事業を開始したのは今から約20年前の1998年のこと。2000年に開始されることが決まっていた介護保険制度導入を前に、同年の7月に有料老人ホームを開業し、2014年2月にはサポート付き高齢者住宅(サ高住)の事業会社も設立している。

 こうした経緯を経て、2016年4月に在宅・施設双方の介護サービス、介護用品を扱う介護ショップ、水周り設備やベッド、入浴・排泄設備などの介護用品の開発を行なう4社が統合してパナソニックエイジフリー社が設立されたのだ。ライフサポート事業部、リテールサポート事業部、ケアプロダクツ事業部の3事業部から成り立っており、これまで、バラバラだった介護事業を統合することで、介護される人だけでなく、介護する人への対応力も格段に向上している。

 さらには介護職に就こうとする人への選択肢も広がって働きやすくなっていることも大きい。介護の現場で最も大切なのは“マンパワー”。能力のある人材を確保し、パナソニックグループ内の連携を強化することで、新たなソリューションを生み出そうとしているのだ。こうした事業がこれまで別々に行なわれてきたことが不思議に思えるが、このタイミングでの統合はまさに介護需要が高まってきたことの証だといえるだろう。

スマートエアコンによる、みまもりシステムを導入

 まずは、大宮三橋のセンター内に設けられたショートステイ用の居室を見てみよう。ここでは、エアコンのセンサーで検知した温度と湿度を遠隔制御する「スマートエアコン」による「みまもりシステム」を実証中だ。エアコンの近くに設置されたルームセンサーによって、在・不在のほか、睡眠状態や活動量などの生活情報を事務室で把握できる仕組みになっている。職員事務室では部屋ごとの状況を一目で判断でき、緊急時には職員が駆けつけて、すぐに対応ができるようになっている。

ショートステイのための居室。スマートエアコンとルームセンサーによる“みまもりシステム”を実証している。居室内のトイレには左右どちらにも開閉できる3枚連動引き違い引き戸を採用し、スムーズな介助が可能になっている
エアコンのそばにあるのがルームセンサー。在・不在のほか、睡眠状態や活動量などの生活情報を事務室で把握できるような仕組みになっている

 たとえば、冬なのに室内で低温が続くなどの場合には、職員が身につけているPHSに連絡がいく。遠隔操作で部屋の温度を上げるなどして調節するのではなく、必ず居室に出かけて、一声かけ、高齢者の状態を確認しながらアドバイスするという“入居者に寄り添った”対応ができるのがポイント。これによって部屋の巡回などの負担も減り、利用者の安全も確保ができるというわけだ。

みまもりシステムでは、緊急時に職員のPHSに直接連絡が入る仕組み
すぐにスタッフ同士が音声で対応できるようにハンズフリーマイクを装着

 「みまもりシステム」以外にも、パナソニックならではの設備が充実している。玄関のアプローチ部分には顔認証を採用したカメラが設置され、登録された職員が通った場合のみ、自動で扉が開くシステムを採用。高齢者をサポートしながら出入りする際に、鍵を取り出すなどの動作が不要になり、その一方で、万が一高齢者が勝手に外に出てしまうようなことも防げるというメリットがある。

エントランスに設置された、顔認証を採用したカメラ
精度の高い顔認証システムにより、登録された職員などが通ると自動で扉が開く

高齢者の気持ちに寄り添った離床アシストベッドも

 また、デイサービスの静養室にはベッドと車いすが融合した離床アシストベッド「リショーネ」が置かれている。これは、介助スタッフ1人だけで安全・簡単にベッドから車いすに移乗させられるという画期的なもの。寝たきりになりがちな高齢者でも、こうしたベッドがあれば、介護する人の手をそれほど煩わせることなく、リモコン1つで操作して体を起こし、車いすとして移動できるため、“見える世界”が変わって、楽しく過ごせる時間を増やせるとのこと。このセンターに置いてあった初代「リショーネ」がより進化して使いやすくなり、自宅でも使ってもらえるようなタイプも登場しているという。

ベッドと車いすが融合した離床アシストベッド「リショーネ」。背中に当たる部分にマットレスの割れ目がくるが、素材など研究されているため、実際に横になってみると快適な寝心地で不快感はない
まずは片側に移動し、リモコン操作で上半身部分を起こしていく
ベッドの片側が車いすになった状態。高齢者役をしてくださったのは、ライフサポート事業部・開設準備部/営業企画部統括部長の佐藤正弘氏

 そのほか、少しでもスムーズに入浴できるように配慮した、排水口を2つ設けてお湯の入れ替え時間を短縮させた、施設向けユニットバス「アクアハート a-U」や、一見するとおしゃれで座り心地のよい、籐製のいすに見える家具調のポータブルトイレが浴室の隣に設置されていてなど、少しでも快適な空間になるよう工夫されている。デイサービスやショートステイのサービスを受けながら、自宅でも導入したくなるような設備の展示も兼ねていて、とても興味深いものになっているのが印象的だった。

排水口を2つ設けてお湯の入れ替え時間を短縮させた施設向けユニットバス「アクアハート a-U」
浴室の近くに設置されたポータブルトイレ
家具調のデザインになっているため、座面を閉じるとポータブルトイレには見えない

随所に配置された便利で魅力的な家電たち

 デイサービスフロアには、使いやすさに配慮し、自立支援やリハビリ機能を高めた製品が充実しているのも大きな特徴だ。リハビリ支援コーナーには油圧式機能回復マシンが何台も設置され、筋力が弱い高齢者でも自分の力にあった筋力が鍛えられる仕組みになっている。

油圧式機能回復マシンが置かれたリハビリ支援コーナー

 また、体幹が整えられる「ジョーバ」やリハビリナビゲーションシステム「デジタルミラー」など、自分の姿勢を確認しながらさまざまなトレーニングができ、その効果を測定・比較できる最新機器が導入されているのも、パナソニックグループならでは。年齢とともに衰えていく身体機能を維持するためには、リハビリ用の運動機器が不可欠だが、毎日のちょっとした変化を自身で実感するのはなかなか難しいものだ。「前回よりもこんなに頑張りましたね、変化が感じられますよ」ということを示して励ましてくれる「デジタルミラー」は、どんなに高齢者の励みになることだろうか。

体幹を整えるのに役立つジョーバ。手すりが備えられているため、慣れない高齢者でも安心して使える
リハビリナビゲーションシステム「デジタルミラー」は自分の姿勢を確認しながら、さまざまなトレーニングができる最新機器だ

 リハビリ用の機器以外にも、エアーマッサージができる「レッグリフレ」やアロマ対応の美容スチーマーなどが置いてあり、デイサービスでの入浴の後などに自由に使えるようになっており、特に女性の利用者に評判だとのこと。

人気のエアーマッサージ機「レッグリフレ」も利用者に愛用されている
アロマ付きの美容スチーマーが自由に使えるコーナーも用意されている

 また、フロアの壁際にはなんとロボット掃除機のルーロが充電中で、通所者の帰った夜間に室内の掃除をしているのだというのにもびっくり。こうした取り組みのために、椅子の肘かけ部分をテーブルに引っかけると、ロボット掃除機が通るのにちょうどよい高さに持ち上がるように設計したという。

壁際にはロボット掃除機ルーロが充電されてスタンバイ
ロボット掃除機が稼働しやすいように、椅子がテーブルに引っかけられるように工夫されている
椅子の移動がしやすく、しかも安定するように、脚の片側のみにキャスターをつけた設計に。スタッフの負担を少なくし、使う人の安全性を確保する配慮だ

 ここに通う人たちは、デイサービスやショートステイでの利用が終わったら自宅に戻るので、日中に利用したり見たりした家電製品のことを家族や友人に話すこともあるはずだ。また、送り迎えなどのタイミングで家族自身がそれを目にする機会もあることだろう。利用する高齢者の方々へのサービス度アップにつながるだけでなく、パナソニックの家電製品のクチコミにもなり、まさに一石二鳥だと恐れ入った。

ウイルス・感染対策のために設置された空間洗浄機「ジアイーノ」。電解水の力で高い除菌効果と脱臭効果を発揮する

IoTの活用でスタッフの負担を減らす構想も

 パナソニックのエイジフリーセンターでは、デイサービスのフロアにみまもりの役割を持つ専任のスタッフ「オレンジエプロン」を配置し、入居者や利用者の転倒防止を未然に防止する仕組みを徹底させている。これはベテランスタッフが目で「立ち上がろうとしている」ことを判断したら、声をかけて安心させ、スタッフが駆けつけてすばやい介助をするという一連の連携作業のことを指す。というのも、高齢者の事故やケガで多いのが、一人で立ち上がろうとして転倒してしまうことだからなのだという。

 同社の2014年度の実績では、デイサービスにおける転倒率が0.021%と少ない数字になっているが、オレンジエプロンの見守りによる転倒事故防止の徹底は、こうしたプロの技に頼るだけでなく、AIなどの技術を使ってシステム化しようとする構想もあり、数年後の実用化を目指している。カメラ画像をもとに、AI機械学習手法で構築した映像解析技術によって、高齢者が立ち上がろうとしていると判断するなど、転倒につながりそうな動きがあるとスタッフに注意を促すということを可能にしようというものだ。

目指すのは困ったときに頼れる『かかりつけ介護』

 今回、センターを案内してくださった同社ライフサポート事業部・開設準備部/営業企画部統括部長の佐藤正弘氏の、「目指しているのは、困った時に頼れる『かかりつけ介護』の拠点です」という言葉が、パナソニックの介護事業の意気込みを表しているようで、深く心に響いている。

 というのも、昨年の春に私自身の父が倒れ、介護に携わるようになったからだ。当時88歳で一人暮らしをしていた父が自転車に乗っている際に倒れてケガをし、大腿骨を骨折して入院。手術を控え、父のことを心配する間もなくソーシャルワーカーさんや地域包括支援センターに相談して、ケアマネージャーさんを決め、介護保険の申請をし、退院後のリハビリ病院の手配をして、最終的な暮らし方を決めなければならない。そんな怒涛の日々を経て思うのは、介護する側は思いのほか孤独だということ。相談できる人が実はあまりいないのだ。

 パナソニックエイジフリーケアセンターのように、従来は別々の施設で行なわれていたサービスが、デイサービスもショートステイも訪問介護も同じ窓口で利用できれば、なんと心強いことだろう。もちろん、介護される側にとっても、大きな安心感につながるに違いない。

 現在、同社では全国に13拠点を開設しているが、今後2018年度までに200拠点開設を目指しているという。そうした意味では、最新設備を配し、居室でのみまもりシステムも導入されている大宮三橋のサービスはモデルケースとしてとても重要なものなのではないかと思う。最新の家電やIoTが導入された『かかりつけ介護』の拠点が今後さらに増えることを願っている。

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、家電分野を中心に執筆やコンサルティングの仕事をしています。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。生活家電・美容家電分野の記者発表会にはほぼすべて出席。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーさんの現場の声を聞くことを大切にしています。