神原サリーの家電 HOT TOPICS

新生「東芝ライフスタイル」が新CMに込めた思いを石渡社長に聞く

 11月から東芝ライフスタイルは生活家電の新イメージキャラクターに女優の満島ひかりさんを起用して、新CMを展開している。同社のウェブサイトでは、3分半にわたるウェブムービーも公開。これまでとは全く異なる世界観で“リスタート”という言葉がしっくりくる内容だ。6月末に中国・マイディアグループ(美的集団)の傘下に入ってから約5カ月。同社の石渡 敏郎社長に、新CMに込めた思いやその背景、顧客とのコミュニケーション、東芝の家電製品のこれからについて話を聞いた。

東芝ライフスタイル 石渡 敏郎社長

新CMの背景と「PINT!」の意味とは

――今回、満島ひかりさん主演による「東芝ライフスタイル」のウェブムービーを拝見して、主人公の新しい暮らしがまさに「リスタート」という印象を残し、これからどうなっていくのだろうとワクワクさせられました。これまでの東芝のイメージとはずいぶん異なるように思いますが、新しいプロモーションに込められた思いなどを教えていただけますか?

 まず、東芝ライフスタイルの新しい事業スローガン「PINT!」についてお話したいと思います。これは「Plus Idea Next Technology」の頭文字を取ったもので、人を想う新しいアイディア、着眼点をもとに、それを実現する革新性のある高い技術で、人々の幸せのインスピレーション(=ピンとくる! 家電)を生み出し、新しいライフスタイルを創造していこうというものです。モノを売るのでなく、日ごろのちょっとした幸せを感じるような、新しい暮らしそのものを届けていきたいと思っているのです。

 新CMでの満島さんが演じる主人公のバックボーンをお伝えしますと、長崎県壱岐島生まれで高校卒業後は美容師になり、都内で暮らしていたんですね。そんな彼女が鎌倉の七里ガ浜に引っ越して新しい暮らしを始めるところが、このCMに出てくるシーンということです。愛犬も連れての引っ越し、新たに開店する自分のお店……そんなチャレンジのある新しい暮らしに寄り添うように、東芝の家電製品がある。「PINT!=これからの暮らしにピンとくる!家電」のメッセージが込められています。

公開中のウェブムービーでは、満島ひかりさんが新生活を始める美容師を演じている

 この作品の演出は、宮崎県小林市の移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」を手掛け、ACC CM FESTIVAL インタラクティブ部門でグランプリを受賞した高根澤 史生氏が担当しました。風景を切り取る様子や世界観などに、どこか共通するものを感じられるかもしれませんね。モノだけでなく、コトを提案していくのが東芝ライフスタイル。新CMでは、家電製品が随所に出てくるけれども、それを強調していないので、暮らしそのものに目が行くようになっている。そこが大きなポイントだと思います。

 年末にかけて、これから公開予定のものも含めて、これまでにない量のCMを展開していく予定です。露出を多くすることで、皆さんに安心してもらいたい、そして東芝ライフスタイル社からのメッセージをしっかりと伝えたい、そう思っています。

マイディアグループの傘下となって東芝はどう変わる?

――マイディアグループ(美的集団)のグループに入って5カ月目ですが、これまでと変わったところは何でしょう? 日本初の白物家電を多く生み出してきた「TOSHIBA」のブランドを売ってしまったのだと思っている人も多いようです

 東芝本体の不適切会計問題によって、大きく揺れた東芝ブランドですから、不安に思っている人が多いのは重々承知しています。ですが、今回、美的集団が80.1%の株式を持ったことは明るい展望だと思っています。というのも、東芝がマイディアグループにブランドを売却したわけではありません。

 東芝が東芝ライフスタイルに向こう40年間、東芝の家電ブランドを使う権利を与え、その東芝ライフスタイルの株式をマイディアが80.1%所持しているということになります。東芝ライフスタイルが製造・販売する、東芝ブランドの商品も品質も何も変わることはないのです。

 売上が2兆5,000億円を超えるという世界ナンバー2のシェアを誇る家電メーカーと組むことの最大のメリットは、コスト競争力がつくことです。東芝は総合電機メーカーでしたから、経営資源の投入という面では、家電事業は優先順位が低い点は否定できません。でもマイディアグループは家電だけです。先行技術の開発にも年間400億円もかけているので、規模が全く違います。

 OEMが多いとはいえ、エアコンやレンジを世界で数千万台も売っているマイディアグループと組んだことで、余裕が生まれました。だからこそ、これまで抑えてきたテレビCMで東芝の品質や、目指す世界観をしっかり伝えることができることをとてもうれしく思っているのです。

 これまでもDD(ダイレクトドライブ)インバーターモーターを使った静音性の高い洗濯機を開発したり、野菜の鮮度を保って野菜室がまんなかで使いやすい冷蔵庫を開発したりと、他にはない強みをもった素晴らしい製品を数々出してきたのに、それをお客様にきちんと伝えきれていなかったことを反省しています。

 そういうわけで、マイディアグループの傘下に入ったからといって、東芝ブランドは今も昔も何も変わりません。社員たちも新しい製品開発やこうしたプロモーションに注力できることでモチベーションが上がっています。

野菜室をまんなかに配置した冷蔵庫「ベジータ」
DDインバータにより低騒音を実現した洗濯機

東芝が強みと感じること、それは「品質」

――コスト競争力があるマイディアに比べ、東芝が強みと感じることは何でしょう? 海外戦略などはどう考えていますか?

 「東芝の品質」をマイディアに伝えることが急務ですし、ブランド以上に一番求められていることだと思っています。家電は過去の経験の積み重ねによってその品質が確立されていくものです。そこがデジタルとの違いです。東芝の場合は、安全基準1つにしても、扇風機には赤ちゃんの指が入らないように設計されていますし、液体洗剤をたらすとプラスチックが割れてしまう“ソルベントクラック”についても洗濯機を設計する際に重要な問題だと考えています。

 テレビやパソコン分野では東芝ブランドが知れ渡っているものの、生活家電ではなかなか踏み込めなかった米国、欧州、インドなどへの進出も視野に入れています。東芝というブランドは世界でも認知されているのですから、そこに家電を入れていく、家電が入っていく。まずは日本でシェアを上げて世界へ行きたいですね。

 東芝グループから離れることで飛躍できることをひしひしと感じているところです。マイディアも日本のやり方に何か口出しをするということはありません。逆に「どんなサポートをしてほしいのか?」と聞いてきているのが現状。いい流れになっていると思います。

「お客様が気がつかないことを提案する」それがPINT!

――なるほど、とてもいい循環が生まれているようですが、これから力を入れていきたいという製品はありますか?

 やはり第一は商品ラインアップの充実ですね。たとえば、300L以下の冷蔵庫や17L以下の単機能レンジなど、東芝の冷蔵庫やレンジからは抜け落ちてしまっていたところを拡充していきたいと思います。このあたりの製品は、高齢化社会の中で必要とされているもののはず。価格だけでなく、デザインや機能など小型であってもより良い製品を望んでいる人たちは多いはずです。実は東芝ストアからの要望でもあるのです。

 ラインアップを広げた後は、カテゴリーも増やしていくつもりです。先にも述べたように、東芝は日本初となる家電製品をたくさん生みだしてきました。安全性や品質面を重視して慎重になり過ぎるのが東芝のいいところでもあるわけですが、これからはスピード感も重視していきます。マイディアを見ていると、とにかくそのスピードがものすごい。何回失敗しても、またもう一度作ればいい、そういうつもりでどんどん新しいチャレンジをしていきたいと思います。

 そうそう、以前、サリーさんがブログに記事にしていた2001年発売のIH調理器などのように、以前に発売して消えていった製品をブラッシュアップして復刻させるというのもやってみたいなと思っていることの1つです。時代が変われば需要も変わりますし、技術の革新によって新しいエッセンスを加え、よりよいものとして生まれ変わらせることもできるでしょう。

 大切なのは「お客様が気づかないことを提案する」こと。「ここが困る、ここがこうだったらいいのに」という愚痴だけを聞いてモノづくりをしていてもダメなんですね。それを超えた新しい提案があるからこそ、惹きつけられる、魅力を感じるのだと思うのです。それこそが事業スローガンに掲げた「PINT!=これからの暮らしにピンとくる!家電」。幸せを感じてもらえるような「PINT!」をたくさん発信して、期待と共感を高めていけたらと思っています。

事業スローガンとなる「PINT!=これからの暮らしにピンとくる!家電」

新生「東芝ライフスタイル」への期待

 3年ぶりとなった石渡社長へのインタビュー、終始笑顔で語る様子に新生「東芝ライフスタイル」の未来は明るいのだなと実感した。IH調理器と鍋を一緒に使うことを考慮してデザインされた「東芝のIH調理器・IHC-25シリーズ」復刻の話まで出たことも、余裕を感じさせてとてもうれしかった。

 11月からウェブで公開されている3分半の「東芝ライフスタイル」ムービーは、何度見ても心が弾み、見ている自分までもが彼女の新しい暮らしを応援したくなる内容になっている。七里ガ浜での美容室の今後の行方、柴犬や(たぶんテーブルの反対側に座っているだろう)夫との新しい毎日。そしてそんな暮らしの中にいつも寄り添っている東芝の家電製品たち。

 マイディアグループに飲み込まれたのではなく、東芝グループから離れて自由になったことで始まった「東芝ライフスタイル」のリスタート。「PINT!」をスローガンに掲げたこれからのTOSHIBAの家電製品や、これからの暮らしにピンとくる! 家電がもたらす新しい「モノ+コト」にわくわくしている。

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、家電分野を中心に執筆やコンサルティングの仕事をしています。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。生活家電・美容家電分野の記者発表会にはほぼすべて出席。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーさんの現場の声を聞くことを大切にしています。