藤原千秋の使ってわかった! 便利家事アイテム

無香を求める私がハマった! 着物から漂う「上品 防虫香」の不思議な引力

家事アイテムオタクなライター藤原千秋が、暮らしの不具合等々への現実的対処法とともに、忌憚ないアイテム使用感をご紹介していく連載記事です
上品 防虫香

「香り」にすっかり弱くなった。

もともと電車の中などで強烈な香水を纏った人に出くわすと酔ってしまう性質だったが、更年期の影響なのか、ここ5~6年、めっきり身近な柔軟剤と思しきにおいにまでやられやすくなった。

まずいとなれば混んでいても逃げるように席を替える。うまく表現できない耐えられなさだ。

しかし、身の回りのあらゆるものには、何がしかの香りがあしらわれてある。各々の商品の香料には筆者の得手、不得手が分かれて難しいため、特に身近な洗濯物を中心として、日々目標とするのは「無香」という状態になった。

それなのに一方で、ある種の「匂い」に対しては妙な郷愁を覚えてならないのである。これまたうまく表現のできない類の感覚だ。

ときに筆者は3年ほど前から着物、和服に傾倒して着付けを習いに行ったり、アンティークやリユースの着物を手に入れたりしている。

親族からの形見の、そんな一枚の着物から、その香りは立ち上った。まるで目に見えるように、パウダリーなグリーンの色彩を匂いから感じた。あまり他のところで嗅いだことのない匂いだった。

最初は「これって、お香を焚き染めたものなのかな」と思った。筆者はそちら方面に全く詳しくない。とはいえ、いわゆる合成香料のそれとはだいぶん佇まいの異なる匂いのように感じられた。不思議と全く不快でないのだ。むしろ、無性に懐かしく、哀しい。

いったい何の香りなのか。気になったが、あまり必死にはならず、でもその香りを探し続けることも何年もやめなかった。

そうするうちに、ひょんなところで行き当たったのが「上品 防虫香」だ。なんと香りの正体は防虫剤。灯台下暗しのような気分だ。

とはいえ、そもそもが着物など衣類専用というわけではない。商品説明には「衣類・書巻・軸物・毛筆・雛人形などの保管に」とある。用途が雅。

「防虫香」は箱のパッケージに、紙製の小袋が10袋入り。おおよそ半年~1年香りは持つようだ。そして香りのもとは「白檀・丁子・桂皮・竜脳」などとある。思いの外、スパイシー。そう、購入直後の香りはかなりスパイシーなのだが、時間が経つとまろやかになるもののようだ。

紙製の小袋が10袋入り
そこはかとない移り香がする

私の嗅いできた匂いが、だいぶ時間の経った残香のような状態だったことを知る。しかし、あの優しさといったらない。そしてそれでも防虫の効果には問題がなかったことが、この手元の着物からわかる。

そこで他の着物も納めた衣類収納の片隅に、筆者も小袋を置くことにした。およそ90cm四方くらいの空間に1袋でも十分に香る。10袋で1,430円は少し高価に思えるが、この香りと持ち時間を考えれば無体な価格ではないように思う。

香りには色が見え、そして、その香りあるところに、まるで人の残像が浮き出るようにすら思える。願わくば、それが筆者以外の人にとっても不愉快な像でないことを。

藤原 千秋

主に住宅、家事、育児など住まい周りの記事を専門に執筆するライターとして20年以上活動。リアルな暮らしに根ざした、地に足のついたスタンスで活動。現在は商品開発アドバイザリー等にも携わる。大手住宅メーカー営業職出身、10~20代の三女の母。『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)、『ズボラ主婦・フニワラさんの家事力アップでゆるゆるハッピー‼』(オレンジページ)など著監修書、マスコミ出演多数。