藤本健のソーラーリポート
シャープの太陽光発電事業は本当に大丈夫なのか? 事業部長に聞く

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


寄棟屋根に対応した、シャープの新しい単結晶太陽電池モジュール。10月より出荷を開始している

 先日、シャープが住宅用太陽光パネルの新製品記者発表会を行なった。具体的には、屋根の4カ所に傾斜面を持つ「寄棟屋根」に対応した、単結晶太陽電池モジュールを発売するという内容だったのだが、発表会会場には多くの報道陣が集まり、テレビカメラも入っていた。そう、彼らの目的は新製品に加え、シャープの経営状況の取材にあったわけだ。

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 シャープの経営再建に関する話題は、連日、新聞などに載っている情況なので、多くの人が関心を寄せるのも当然といえば当然。一通りのプレゼンテーションが終了した後の質疑応答でも、やはり太陽光ビジネスを今後どうするのか……といった質問が飛び交っていた。プレゼンテーションを行なった、ソーラーシステム事業本部ソーラーシステム事業部 事業部長の稲田周次氏は、発表会終了後もはしばらくの間、報道陣に取り囲まれた状況だった。

シャープ ソーラーシステム事業本部ソーラーシステム事業部長の稲田周次氏

 家電Watchではその後、稲田氏に大して、新製品についてだけでなく、太陽光ビジネスから撤退するようなことはないのか、15年保証はスタートしたが本当に15年後までシャープは存続しているのか、といった踏み込んだ話題まで、話を聞いてみた。ここでシャープの太陽光発電事業が現在どういう状況になっているのかを聞いてみよう。


今までは設置が難しくトラブルが多かった寄棟屋根だけど、大丈夫?

――今日はいろいろとお話を伺っていきたいのですが、まずは今回のリリース内容である「寄棟屋根対応単結晶太陽電池モジュール」についてです。これまでも寄棟屋根に設置していたと思いますが、今回あえてこのように銘打った製品を出してきた背景について教えてください

稲田氏(以下略):当社としてはこれまで積極的に寄棟屋根に取り組んできたつもりではありますが、設置の比率としては「切妻屋根(傾斜面が2カ所の屋根):寄棟屋根 = 9:1」程度と少なかったのが事実です。やはり切妻屋根なら1面だけを大きく工事できるのに対し、寄棟屋根だと3面に設置する必要があり手間がかかるため、営業の前線でもやや敬遠しがちでした。

日本の一戸建ての屋根は、ほぼ切妻屋根と寄棟屋根で構成されるしかし、販売構成比率は切妻屋根の方が多かった

 しかし、世の中のニーズもあり、寄棟屋根でも効率よく設置でき、従来よりも設置時間を20%短縮できる製品を今回開発しました。加えて、セルの出力向上や、コーナーモジュールのセル枚数の増量により、従来システムに比べて設置容量を約11%アップさせています。

 さらに、黒色セル、バックフィルムを採用し、モジュールの外観を黒に統一することで、屋根と美しく調和するデザインに仕上げるなど、製品ラインナップを抜本的に設計し直しました。

 こうしたことによって、寄棟屋根に対しても積極的に展開していこうと考えております。

今回新たに発売された、寄棟屋根用の単結晶太陽電池モジュール。4種類用意される屋根に隙間なく設置できるため、寄棟屋根における設置容量が向上しているコーナー部のモジュールのデザインも変更。より多く発電できりょうになった
ほかのパネルについても、従来品から出力がアップしているコーナーモジュールを使用した場合における、寄棟屋根の設置例

――発表資料を見ると、パワコンをマルチストリング(屋根の複数面にモジュールを設置する場合に大きな効果を発揮する仕様)に対応させたことにより、昇圧装置や接続箱の機能を持つことで電力ロスを低減するとともに、屋根面ごとに最大電力を取り出すことができる「独立最大点追尾」機能を本体に有している、とあります。そのこと自体は、3面を使う寄棟屋根にとって大きなポイントだとは思います。

 しかし、3面を使うことによるトラブルが生じる可能性というのはないのでしょうか? これまで、寄棟屋根の事例を見てきた中には、北面にまで設置しているケースがあったり、東面と南面など違う面を直列に接続したストリングスを作った結果、出力が出ないというケースもありました。知識や経験の少ない設置業者が寄棟屋根を担当した結果、似たようなケースが出ないのか心配です

 確かに、他社の事例などでそうした話を聞いたことはあります。しかし当社では、施工研修をしっかりと行なっております。そして、屋根へのモジュールの割付やパワコンの接続の図面作成は、シャープ側でシャープのCADシステムを使って行なっております。

 また単に割り付けするだけでなく、設置に必要なパワコンの型番や架台などの部材のピックアップもシステムでチェックしながら行なっているので、心配はいりません。このCADシステムで設計したものがこれまで28万件分のデータとして蓄積されており、これを元にしたソリューションが提供できます。

パワーコンディショナもマルチストリングに対応している設置に当たっては、約28万通りのCADデータベースから、最適な設置方法を見出している

――なるほど、シャープ自身ですべて設計しているのであれば、大丈夫そうですね

 ベテランの設置業者など、システムをよく理解している人は、例えば切妻屋根では、自分で図面作成するケースもあります。ただ、その場合も、必ずシャープのCADシステムが使われ、設計に問題ないかのチェックを行なっています。

 ちなみにパワコンも、型番によって2系統のストリングスに対応したもの、3系統のもの、4系統のものと存在しています。どれにするかはCADに入力された情報によって最適なものが自動的に選ばれるようになっています。

全量買取制度が整った今は“非常にビジネスしやすい環境”

――シャープというと、従来は多結晶シリコン太陽電池というイメージが強かったのですが、今回の製品も単結晶となっていますし、住宅用では最近、単結晶の「BLACKSOLAR(ブラックソーラー)」を前面に出しています。また、先日見学に行ってきたNHKのメガソーラーも単結晶だし、浮島のメガソーラーも単結晶でした。やはり現在は単結晶が中心になってきているのでしょうか?

 最近の住宅用でみると、60:40もしくは65:35くらいの比率で単結晶が多くなっています。売電価格が42円と高い現在、できるだけ多くの容量を載せたほうが回収率が上がるというのが実際のところです。確かに初期コストは単結晶のほうが高いのですが、長い目で見たときに、出力が大きいもののほうが得になります。販売店もそのように説明をしているため、出力の高い単結晶が増えてきています。

 もっとも、屋根が非常に大きい家の場合、多結晶でも多くの容量を載せられるため、割安な多結晶が出ています。

シャープの太陽電池では、これまでは多結晶タイプが多かった最近では多結晶よりも出力が高い単結晶タイプを採用することが増えたという

――今、「42円」の話が出ましたが、来年度になると、また売電価格の引き下げが予想されます。そう考えると、今が住宅用太陽電池の設置のピークなのでは……とも思うのですが、この辺はどのように捉えているのでしょうか?

 これまで約20年間、当社の住宅用太陽光発電の設置件数は着実に、一本調子で伸びてきました。唯一、補助金が廃止になった2006年に下落したということはありましたが、売電単価が従来の48円から42円に落ちても伸びているのは事実です。

7月1日からスタートする、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の価格(太陽光発電部門のみ)

 その背景には、当社としても、売電価格や補助金などを見ながら価格面での努力を続けてきています。ですから、今後売電価格が下がった場合、当然それには対応していくつもりであり、今後もマーケットは伸びていくものと捉えています。われわれとしても、現在は非常にビジネスしやすい環境になっています。

 というのも、以前の余剰電力買取は、電力会社の自発的な買い取りに支えられていたので、いつ買い取り価格が変わってもおかしくない状況でした。そのため、どの程度でコストを回収できるのかという点についてハッキリとお客様に説明することができませんでした。

 しかし、現在は42円で10年間買い取ることが担保されていますから、ここに大きな意味があるのです。お客様にとっての問題は、その間、システムが壊れないか、という点でしょう。ここに対しては、シャープとして15年間を保証するので、安心していただけるというわけです。

中国メーカー参入の対抗策「EPCビジネス」とは?

―― 一方で、この住宅用の市場もここ数年間で従来とは大きく変わってきたように感じています。以前は、シャープ、京セラ、三菱、三洋電機の4大メーカーから選ぶという状況だったのが、多くの中国メーカーが台頭してきています。下手をすれば、すべて安い中国メーカーに市場を奪われてしまうのでは……とも思ってしまいますが、この点はどのようにご覧になっていますか?

 確かにメガソーラーのように同じパネルを数多く……という形においては有利かもしれませんが、国内の住宅はいろいろな屋根があり、そこに合わせたパネル、パワコン、架台、Webモニタリングなどと、、システムとして提案していくことが重要なポイントです。今回の寄棟屋根用の太陽電池パネルなどがその典型だと考えております。

 そうした日本市場への対応というのは、それぞれの家屋に適した提案が必要なため、ひっくり返されることはないと思っております。

――では、いま国内で増えてきているメガソーラーや産業用の太陽光発電では、中国メーカーが有利だと?

シャープがタイに設置した、世界最大級の太陽光発電所(イメージ画像)。「EPCビジネス」で設置している

 産業用は欧州や米国と同じ考え方があるので、大きな脅威です。ただ、シャープとしてもそれは見越しており、現在は「EPCビジネス」を展開しております。

 EPCビジネスを一言でいえば、一括請負事業であり、単にシステム、ハードを売るのではなく、元請となって、太陽光発電所をまるごと作ってしまう、というものです(EPC=Engineering Procurement Constructionの略)。シャープは昨年、タイに73MWという巨大な世界最大級の大きい太陽光発電所を作りました。その経験を生かし、国内外で勝ち残っていく手立てをしているところです。

 確かに太陽電池セルだけを考えてビジネスをしていったのでは、コスト競争で勝ち抜くのは非常に難しいでしょう。でも、元請としてビジネスをしていれば、収支の幅が広がります。また、モジュールの価格が下がることがありますが、そのときは外からセルを購入します。

――外から買ってくる? シャープ製ではない太陽電池セルを使うということなのですか?

 はい、すでに現状でもセルはシャープ製だけでは足りない状況で、外から買ってきていますよ。ただし、シャープの品質をクリアしているかを厳密にチェックし、シャープの基準に則った仕様に変更した上で購入しています。海外に生産委託をしているようなものです。実際、住宅用のセルも海外産のものが混ざっています。

「太陽光発電事業をやめることはあり得ない、売却するようなこともない」

――さて、ここから少し最近の報道などについてお伺いさせてください。一部の報道では、シャープが太陽光の工場を閉じる、太陽光ビジネスの売却を検討している、といった内容が出ていますが、これは本当なのでしょうか?

奈良県葛城市のシャープ葛城工場。生産ラインが一部閉じるという報道があった

 誤解を招くような報道も見受けられ、われわれも困っているところです。確かに、奈良県の葛城工場の薄膜のラインは閉じます。これはラインが古く、効率的でないために閉じるわけで、セルラインは生産をしています。今回のように、どんどん新しい商材を出して、多くのお客様に喜んでもらおうと力を入れているところです。誰が見ても、国内の市場は伸びているところです。

――ただ、会社の経営状況はあまり芳しくないようですが……

 その点は大変申し訳なく感じてはおりますが、我々が進めている太陽電池の技術はゆるぎないものです。商品については絶対の自信をもっています。品質、信頼性も間違いありませんので、ぜひ安心して使っていただきたいと思います。

――工場を売却するといったこともないのですね?

 セルは葛城と堺の2カ所で、モジュールは栃木県の矢板、大阪の八尾、堺などで今後も変わらず生産していきます。

 したがって、太陽光について、やめることはあり得ませんし、売却するようなこともありません。この太陽光のビジネスで収益を上げていくという思いであり、一丸となって難局を乗り越えていきたいと考えています。

――最後に、シャープの太陽光発電システムユーザーとして質問します。シャープではシステムの「耐用15年保証」を打ち出していますが、15年後には会社がない、というような心配はないですか? というのも、私自身、シャープの太陽光パネルを自宅屋根に設置しており、あと数年で保証が切れる10年を迎えます。先日の発表では、既存のユーザーも追加料金を支払うことで15年保証に切り替えられるということだったので、どうするべきか悩んでいるところです

 当社としては、気持ちは前向きであり、太陽光のビジネスをさらに進めていく、やり切るという思いです。もちろん15年保証における心配は一切ありません。

――今のお話を聞いて、保証延長についても前向きに検討しようと思いました。ありがとうございました





2012年10月18日 00:00