藤本健のソーラーリポート
NHKがラジオ放送所に作ったメガソーラー発電所に行ってみた

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 関東・甲信越を中心に、北は宮城県から、西は愛知県まで、約2,000万世帯というエリアをカバーする、NHK・AMラジオ放送の送信アンテナがある「NHK菖蒲久喜ラジオ放送所」。日本最大級の送信電力を持つ設備だけに敷地は広大だが、今年8月、その一部にメガソーラー発電所が設置された。

 売電利益を目的としたメガソーラーが次々と計画・設置されている中、このNHKのメガソーラーは、放送に使うエネルギーを賄うために設置されたもので、省エネ、CO2削減を目的としている。実際、これがどんな施設なのか、プレスツアーに参加してきたので、その様子をレポートしてみよう。

埼玉県久喜市にあるNHK菖蒲久喜ラジオ放送所

埼玉の広大な平地に、合計8千枚のパネルが並ぶ

 NHK菖蒲久喜ラジオ放送所は、都心から高速道路を使ってクルマで約1時間半ほど走った埼玉県久喜市にある。東京・渋谷の放送センターから送られてきた番組を関東エリア全体に送るための大きなアンテナが2つ設置されており、その敷地は313,121平方mと東京ドーム6.7個分に相当する面積となっているそうだ。

 その2つのアンテナというのは、NHKラジオの第1放送用(周波数594kHz、出力300kW)と第2放送用(周波数693kHz、出力500kW)で、それぞれの高さは245mと215m。非常に高い鉄塔のアンテナであるだけに、遥か遠くからでも見ることができる。

NHKラジオの第1放送用アンテナ。周波数は594kHz、出力は300kW。渋やの放送センターから送られてきた番組を、関東エリア全体に送る。高さは245mこちらは第2放送用のアンテナ。周波数693kHz、出力500kW。高さは215m

 実は、このアンテナから電波を効率よく放射するためには、ラジアルアースと呼ばれる大規模なアースが必要となる。実際、放送所の敷地内には銅線が放射状に埋設されており、そのアースのために、これだけ広大な土地が必要になっているのだ。とはいえ、その敷地が何かに利用されているというわけではないので、その大半のエリアは草むらとなっている。一部には野球場やテニスコートなどになっていて、地元の人たちが利用しているようだが、大半は余っている状況だ。

 今回、メガソーラーが設置されたのは、NHK菖蒲久喜ラジオ放送所の敷地の1/6のエリアに当たる、約5万平方m。ここに2,000kW分のソーラーパネル8,000枚がずらりと並んだのだ。

敷地の周囲には、アースのための敷地が広がっているが、その大半は草むらとなっているその敷地の一部に、メガソーラー発電所が建設されたわけだ

震災前の2008年から計画があったのに、2012年にやっと稼働した理由

 このメガソーラーが計画されたのは2008年度のこと。まだ全量買取の再生エネルギー法が法案として上げられるより遥か以前であり、震災よりもずっと前の話だ。NHKが環境経営ということに重点を置き、ラジオ大電力放送設備を省エネ型に更新することで、温室効果ガス排出を抑制しようという目的から計画されたのだ。

菖蒲久喜ラジオ放送所 塩田拓哉所長

 でも、放送設備というのは、そもそもどのくらいの電力を使うのだろうか? 菖蒲久喜ラジオ放送所の所長、塩田拓哉氏によると「第1放送と第2放送の両方を合わせると、放送設備全体で1,200kW程度の電力を使っています。放送で使う電力というのは、振幅変調という仕組みのため、ラジオの音量によって変化するので、瞬間的にはもっと大きな電力を使うこともあります。もっとも放送所としては東京電力と1,750kWという容量の契約になっているので、それを超えることはありません。そのための電力を賄える容量ということで、今回2,000kWのメガソーラーが計画されたのです」と話す。

 計画されたのが2008年度で、実際に稼動したのが2012年8月6日ということなので、かなりの時間を要しているわけだが、ここは公共の放送を担う非常に重要な設備。メガソーラーの設置が万が一にでも放送に影響を与えてはいけないということから、さまざまな実験、測定などがされた結果の導入となったようだ。例えば、パネルの影響で指向性に変化がでないか、出力のインピーダンス(抵抗)が変わったりしないか、などのことを電磁界シミュレータというったものも利用しながら、細かくチェックしていった結果、問題ないということで、導入に至ったわけだ。

メガソーラー発電所で、ラジオ放送所の全電力は賄えるか?

 では、2,000kWのメガソーラーで、この放送所の電力のどの程度を賄うことができるのだろうか?

 「実際の出力を見てもらうと分かりますが、よく晴れた日のお昼ごろであれば、すべての電力を太陽光発電で賄うことができ、ある程度は余って売電しているほどです。ですが、雨や曇りの日は発電しないし、夜も当然発電しないため、その場合は電力会社からの電気で放送所は動いています。その結果、実際のところ太陽光発電で賄えている電力は、全体の20%程度となっています」(塩田氏)

 しかし、この放送所にはまだまだ広大な土地が余っているし、売電をすればかなり大きな利益にもなるはず。さらに広げていく計画はないのか、塩田氏に聞いてみた。

 「現在のところ、計画はまったくありません。放送に必要な最大の出力1,750kWを上回っていることを考えると、今後検討されることもないのではないかと思います」とのこと。やはり民間企業と違い、売電で利益を上げていくという考えはないのだろう。そもそも売電のためのお金は、電気料金に上乗せされて、一般から幅広く徴収されるものだから、ある種税金のようなもの。そのため、NHKが利益を上げるためにメガソーラーを設置するとなると、いろいろな面で問題が生じるということなのかもしれない。

パネルはシャープ製。発電量は刻一刻と変化する

 ところで、このメガソーラーは、どこのメーカーのパネルが使用され、いくらぐらいの予算で導入されているのだろうか?これについて質問したところ「NHKとしては、特定のメーカーを宣伝するようなことができない、という立場からここではお答えできません。ただし、NHKのホームページにおいて、調達価格などを含め細かく情報を公開しておりますので、必要あれば、そちらから調べてください」という回答。

 でも、その後の施設見学によって、パネルメーカーなどは簡単に分かってしまった。パネルを近くで見たら、それが単結晶シリコン太陽電池であることが分かり、そのパネルの裏側を見ると「SHARP」の文字が……。ラベルを見ると、パネルの公称最大出力は247Wとのことだった。

セルの四隅が欠けているため、単結晶タイプと推測される裏面のラベルを見ると、シャープ製であることがわかった。最大出力は247Wとなっている

 このパネルはコンクリートと鉄による頑丈そうな架台に設置されており、すべてほぼ南を向いている。また設置角度は20度となっているとのことだ。よく見ると、最上段のパネルの上にはアンテナのようなものが取り付けられているが、これは避雷針。まあ、これだけ高い鉄塔のアンテナがあるのだから、通常、雷はアンテナに落ちるようだが、念のためということで、太陽電池パネルのところにも設置されているのだ。

パネルはすべて南を向いている設置角度は20度。コンクリートと鉄という、頑丈な架台に取り付けられている最上段のパネル上部にあるものは「避雷針」

 そして、このパネル14枚を直列に接続した上で接続箱を使ってまとめられてPCS(大容量のパワーコンディショナ)へと送られて、200Vの交流が生成される。こちらは東芝製のようだ。さらにその隣にある昇圧器を使って、6,600Vに上げられる。1つのPCSは500kWの容量となっているため、施設内には同じPCSが4つ設置されており、それぞれに2,000枚分のパネルが割り当てられる形になっている。そして6,600Vとなった電気は、地中を這わせる形で放送所の屋内へと届き、ここで消費されていくのだ。なお、余った分に関しては売電のため、さらに66,000Vへ昇圧されて、東京電力の系統へと流れ込む形になっている。

 PCSには液晶モニターが取り付けられているため、ここで2,000枚分の出力がどうなっているかはリアルタイムに確認できる。現場にいたときはちょうど15時を過ぎたころだったため、晴れてはいたものの、発電のピークからはだいぶ落ちてきており、239kWの出力となっていた。単純にこれを4倍しても1,000kWを下回っているので、放送所で使う電力すべては賄えていないという計算になる。

14枚のパネルは直列で繋がれ、発電した電気は一度接続箱にまとめられる続いて、大容量のパワーコンディショナ「PCS」で200Vの交流に生成されるPCSのメーカーは東芝だった
電気は昇圧器を使って、6,600Vに上げられる。そして、放送所の電力として使われるPCSのモニター。午後3時頃の出力は239kWと表示されていた

 これら発電データについては、4つのPCSがまとめられる形で、第1放送の建物の中でモニターすることができるので、そちらにも行ってみた。壁に取り付けられてある大きな液晶テレビには、Webブラウザが表示されており、イントラネットで接続された先のサーバーから現在の発電量や発電量の推移などが確認できるようになっていた(20、21)。徒歩での移動に15分以上かかったため、出力はさらに落ちて800kW程度となっていたが、こうした動きを見ても時間とともに刻々と変化するメガソーラーの出力というものを実感することができた。

メガソーラーで発電したデータは、第1放送の建物の中でモニターできる液晶テレビには、4つのPCSそれぞれの発電量が表示されていた。全体で約800kWの出力。夕方が近づくにつれ、出力が落ちていくようだ発電状況の推移も表示されている

 以上、NHK菖蒲久喜ラジオ放送所に設置されたメガソーラーについて見てきたがいかがだっただろうか? 8,000枚のパネルで2,000kWという大規模な設備ではあるが、それでも賄えるのは放送に使う電気の20%というのは、なかなか厳しい現実のようにも感じた。

 とはいえ、これによって1年間で発電できる電力量はシミュレーション上の計算では200万kWh。これは500世帯分の電力に相当し、年間110トンのCO2の削減ができるそうだ。売電目的のメガソーラーが増えるのもいいが、このような必要な電力を賄うための設備としてのメガソーラーもこれから増えていくかもしれない。





2012年9月13日 00:00