藤本健のソーラーリポート

22年間繰り返し使えて非常時も役立つ、シャープの太陽光連携蓄電システム

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
シャープの住宅用定置型リチウムイオン蓄電池システム

 シャープは先月、「住宅用定置型リチウムイオン蓄電池システム」なるものを発売した。これは同社の太陽光発電システムと連携し、停電時でも安定して電力供給ができるシステムだという。

 太陽光発電の導入を考えている人、またすでに導入した人にとっても、非常時にどれだけ活用できるのかというのは大きな関心事であるが、現状製品の大半は売電を中心に考えたシステムであり、非常時の活用においては、あまり力点が置かれていないのが実情。とくに停電になった際の夜間にどう対応するかは非常に気になる点であるが、この「住宅用定置型リチウムイオン蓄電池システム」はまさにそこにターゲットを当てた製品となっている。

 似た考え方のシステムは他社にもあり、例えばパナソニックでも「住宅用創蓄連携システム」という蓄電システムを販売を行なっており、以前取材レポートをしたことがあったが、このパナソニックのシステムと比較したときどんな違いがあるのだろうか? 先日、シャープの東京のショールームでそのシステムを見てきたのでレポートしてみよう。

電気代が安い深夜に電気を貯めて、料金が高い朝・夕に使う。電力会社に頼らないモードも

今回のリチウムイオン蓄電システムは、エネルギーを貯める「畜エネ」商品だが、太陽光発電と連携することや、省エネ家電やHEMSと連携することで、「創エネ」「省エネ」という分野にもまたがった製品となる

 シャープでは「創エネ」、「蓄エネ」、「省エネ」の3つのカテゴリーの製品において、環境負荷の低減を目指しているが、今回発売する定置型リチウムイオン蓄電池システムは、その「蓄エネ」にターゲットを絞った製品。ただし、蓄エネ単独のシステムではなく、「創エネ」である太陽光発電システム、また「省エネ」である省エネ家電や、家庭内の電力管理システム「HEMS」との連携を可能にしたものとなっている。

 システムは、蓄電池容量4.8kWhの「JH-WB1201(実売190万円前後)」と、2.4kWhの「JH-WB1202(実売140万円前後)」の2種類がある。どちらも補助金の対象となる(費用の1/3)。

 システムは主に以下の3つから構成される。

     ・リチウムイオン蓄電池

     ・蓄電池パワーコンディショナー(パワコン)     
     ・マルチエネルギーモニタ

住宅用定置型リチウムイオン蓄電池システムを構成する機器の概要。写真の3製品を使用する
まずはリチウムイオンバッテリー。容量は4.8kWhと2.4kWhの2種類が用意される
蓄電池用のパワコン。太陽光発電のパワコンとは異なる
1台で太陽光発電システムの情報と、電池残量などリチウムイオン蓄電池の情報を表示する「マルチエネルギーもにたー」

 そして、これらの機器を5種類の運転モードで設定を行なうことにより、ライフスタイルに応じた使い方が可能になっている。

もっともスタンダードな運転モードが「経済性モード」。電気料金の安い夜に電気を貯めて、電気料金が高い朝と夕方の電力消費を自動で賄う

 5つある運転モードうち、もっとも多くの人が普段設定すると思われるのが、「経済性モード」だ。これは、ユーザーが電力会社と時間帯別電灯契約を行なった場合の使い方で、たとえば東京電力の「おトクなナイト8」を使った場合の例だと、電気料金の安い夜間に電気を貯め、電気料金の高い朝や夕に、その貯めた電気を使うというものだ。

 一方で、太陽が出ている日中は、蓄電池の動作を停止し、余剰電力を売電することで収益が上げられる形になっている。こうすることにより、電気代を安く抑えることができるだけでなく、世の中的にも電力消費量が大きい朝や夕の時間の電気の使用を抑えることで、ピークカットに貢献できるというメリットもある。

 実は、ここで大きなポイントになるのが、ソーラーパネルでの発電量が大きくなって売電をスタートするときのタイミングと、その切り替えについてだ。

 もしも、蓄電した電気を太陽光発電といっしょに売電すると、これは「ダブル発電」という形式になる。つまり、ガスを使ったエネファームと太陽光発電を組み合わせたシステムと同様の扱いになってしまい、売電単価が太陽光単独の場合の42円/kWhではなく、34円/kWhとなってしまう。

 そこで本システムには、RPR(逆電力継電器)という装置によって太陽光発電による発電量が家庭での電力使用量を上回る直前にそれを検知し、蓄電池からの放電を止める仕組みが搭載されている。これによって、ダブル発電にならず、42円/kWhが適用されるようになっているのだ。

 こうした仕組みにより、年間で25,000円程度の電気代の節約ができるという。単純計算すれば10年で25万円、20年で50万円の節約になる。設置のための投資額を回収するのは、事実上不可能なようではあるが、いざというときの安心のための投資と考えれば、十分選択の範囲に入りそうだ。

「クリーンモード」は、電力会社からの電力購入を最小限に抑えることを狙っている

 上記の経済モードとは別に、クリーンモードというものも搭載されている。こちらは太陽光発電の電力を最大限利用し、電力会社からの電力購入を最小限に抑えようという考え方のモードだ。クリーンモードでは日中、ソーラーパネルでできた電気を蓄電池に貯めて、日が沈んだらその貯めた電気を使おうというもの。同社によると、これに関心を示す人も多いという。

停電時も安定した電力が供給可能。太陽光の余剰電力で充電も

停電時の電力の流れ。太陽光発電パネルからの電力と併せて、蓄電池からの電力も供給される

 一番気になるのが、停電時の利用法だ。震災などによって長時間の停電が起きてしまった場合にどう活用できるのかは、停電時の電気の流れを右の図で見ると分かりやすい。昼間はソーラーパネルによって発電した電気を家庭で使い、余った分が蓄電池への充電に回される。また雲によって日が陰ったり、夕方になって出力が落ちてきた場合、不足分を蓄電池からの電力供給で補えるというシステムになっているのだ。

 ただし、ここにはシステム上の限界も少し見えてくる。まずは、ソーラーパネルで発電した電気のうち使えるのは2kWまでであるという点。3kWや4kWといった容量のソーラーパネルが乗っていたとしても、停電時に使用可能なのは2kWまでと制限されてしまい、これを家庭利用と蓄電池への充電で振り分けるのだ。

 もう1つが、夜間などは蓄電池に貯めてある電気を放電し、蓄電池パワコンを経由して家庭で利用するわけだが、この際の最大出力が1.5kWに制限されるという点。とくに発電した電気をフル活用できないのが残念なところだが、この点はシステムの仕組み上、仕方ないことであるらしい。

パナソニックの蓄電システムと違い、既築物件にも導入可能。ただしパワコンは分離

パナソニックの太陽光発電システムと蓄電池を組み合わせた「住宅用創蓄連携システム」。こちらは2012年より展開されているが、違いはどこにあるのだろうか

 ここで少し比較してみたいのが、パナソニックが2012年に販売した、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた「住宅用創蓄連携システム」との違いだ。考え方、狙っている方向は非常によく似ているのだが、随所に違いがある。

 パナソニックのシステムでは、リチウムイオン蓄電池ユニットが4.65kWhで、5.5kWのパワコンを組み合わせており、この点ではシャープとほぼ同じ規模。価格もセットで189万円なので、これも同等だ。

 しかし、パナソニックのパワコンは、太陽光発電用のものと兼用となっているため、システム的にはシンプルになるし、その分パワコン周りは安くなるというメリットがある。その一方で、システムが一体化しているだけに、太陽光発電システムとのセット導入が前提であり、しかも新築時に限られるという制約がある。つまり、すでに太陽光発電を設置しているユーザーが後から追加したいと思ってもできない。

 それに対しシャープは、既築物件に対応できるというのが大きな違いだ。パナソニックでは、蓄電池からの電気を利用するための専用分電盤を設置するのに対して、シャープは不要とのこと。だからこそ、後付けが可能になっているのだ。

 もちろん、シャープのシステムの場合でも、専用コンセントからの供給だけではなく、天井に設置してある照明に電気を供給することもできるし、台所の冷蔵庫と、リビングの照明とコンセントに……というように、必要箇所へ電気を送ることも可能になっている。その場合は屋内工事が必須とはなるが、応用範囲は広がってくる。

 一方で、非常時に電気を使う、電気を貯めるという面では、パナソニックのほうが優れている面がある。シャープでは停電時に自立発電とした場合、活用できるのは2kWに限定され、それを自家利用と充電に振り分けるシステムとなる。それに対しパナソニックは、最大2kWの自家利用が可能な上に、余った電力は最大1.5kWまで充電に割り当てることが可能になっている。つまり、最大で3.5kWまでの発電分が有効に利用できるのだ。この辺がソーラーパネル用と蓄電池用のパワコンが一体化しているか、分離しているかのシステム上の違いになる。まさに一長一短といえるだろう。

繰り返し使用回数は8,000回=約22年。定格容量の100%充電しても問題ない

いざという時のために、事前に一定量の電池容量を保つよう制御できる

 ところで、東北の大震災後、首都圏を中心に大きな混乱をきたした問題の1つが「計画停電」だった。停電はあくまで一定時間で、ある程度の停電時間帯が指定されるので、蓄電池が備えてあれば、貯まった電力を使って乗り切ることが可能だ。こうした事態に備えて蓄電池に電気を貯めておくことも、こうしたシステムでは重要になる。いざというときに、蓄電池が空という状態では困ってしまう。

 そこで本システムでは、経済モードであってもクリーンモードであっても、普段から非常時用として残量をキープしておく仕組みが用意されている。たとえば、4.8kWの蓄電池容量のうち70%=3.36kWh分を普段から活用し、30%=1.44kWh分は使わずにとっておくということができる。この比率配分は、ユーザーが10%単位で任意に設定できるようになっている。

 このことに関連して1つ気になるのが、そもそも蓄電池の残量を空にしたり、100%まで充電して使って大丈夫なのか……という点。一般的なリチウムイオン電池では、できるだけ長寿命に利用するために、フル充電したり、完全放電しないように10%程度のマージンを取っている。結果として、蓄電池容量の80%程度しか利用できないことがある。

 しかし、シャープの説明によれば、本システムのリチウムイオン電池は、100%まで充電して利用しても問題ないという。そのため、4.8kWhであっても、10%ずつのマージンをとる一般的なリチウムイオン電池6.0kW分の容量に匹敵するというのだ。実際、100%の満充放電を繰り返した場合、8,000回でも70%以上の容量を維持するという(P14の図)。毎日1回の満充放電を繰り返すと考えると、8,000回というのは22年であり、これは木造住宅耐用年数に相当する。

一般的な蓄電池では、過充電保護のために容量の20%程度が利用できないが、シャープの蓄電池では、定格のほぼ100%利用できるという
8,000回繰り返し使用しても、70%以上の容量を維持するという

 ちなみにパナソニックでは、リチウムイオン電池の寿命は10年以上とのことだった。10年で完全にダメになることはないにしても、シャープの説明を聞く限り寿命の面ではシャープ製品にアドバンテージがありそうだ。

 そのほか、HEMSとの連携というのもユニークなポイントだ。標準システムであっても、蓄電残量は電力モニターの画面でチェックできるが、別売のHEMSと連携させることで、HEMS専用タブレット端末でも確認できるようになっている。このHEMSで面白いのは、現在の状況の表示だけでなく、今後についてのシミュレーションができるという点。たとえば、今のままエアコンを入れたままの状態だと、バッテリーは5時間持つが、エアコンをオフにした場合、何時間持つのかを瞬時に計算し、表示してくれるのだ。

別売りの機器を使うことで、HEMSとの連携も可能
コンセントに別売りのワイヤレス通信できるアダプターを使用することで、消費電力が管理できる
HEMS専用のタブレット端末
現在の使用状況だけでなはく、「バッテリーはあと5時間持つ」など、今後の消費電力のシミュレーションがでいる点も特徴

蓄電池の導入で、太陽光発電のメリットが最大限に活用できる

 以上、シャープの「住宅用定置型リチウムイオン蓄電池システム」についてみてきたが、いかがだっただろうか? 家庭用の蓄電池はまだ発展途上の製品であり、選択肢もあまりないのが実情。また価格的にも高く、費用の1/3に補助金が支給されるとはいえ、「元をとる」ということは不可能なのが実際のところだ。

 とはいえ、“安心を買う”、“太陽光発電のメリットを最大限活用する”という点では、大きな意味を持つシステムだ。今後の電気自動車の普及などにともないリチウムイオン電池の価格が下がっていけば、収支が合うようになってくる可能性も高そうで、そうなると多くの家庭に幅広く使われていくのかもしれない。

藤本 健