大河原克行の「白物家電 業界展望」

今持ってない人に――シャープが提案する空気清浄機の新しいカタチ

S-Styleシリーズの2製品。左が空気清浄機の「FP-FX2」、右が加湿器の「HV-EX30」

 「これまで空気清浄機を購入していないユーザーに対して、購入してもらうきっかけを作る。そのための新たな挑戦がS-styleになる」――。シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部の冨田昌志副事業部長はこう切り出す。

 シャープは、プラズマクラスターを搭載した空気清浄機の新製品として、S-styleの名称を持った「FP-FX2」を、9月19日から発売する。スリムさを生かしたこれまでにないデザインは、空気清浄機の新たな提案を感じさせるものだ。

 また、兄弟モデルとして、同様のデザインを採用した加湿機「HV-EX30」も投入する。一方で、空気清浄機に初めて、同社独自の「ともだち家電」機能を標準搭載。同社が目指す「人に寄り添う」製品づくりを加速させる。冨田副事業部長に、空気清浄機事業への取り組みについて話を聞いた。

性能とデザインを両立し、購入のきっかけに

 S-styleという新たな名称を与えたシャープの空気清浄機および加湿機は、デザインやスタイルといった観点から、空気清浄機の市場開拓を加速する狙いを込めた製品だ。

シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部 副事業部長の冨田昌志氏

 シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部の冨田昌志副事業部長は、S-styleの開発背景を次のように語る。

 「空気清浄機は2011年度に一般世帯への普及率が40.0%となり、さらに2012年度には、PM2.5の影響もあり、出荷台数は298万6,000台と過去最高を記録。普及率も43.5%に高まった。だが、一般的には、普及率が40%を超えると一気に普及に加速がつく製品が多い。それにも関わらず、空気清浄機の普及率は、ここ数年、40%台を維持したまま。2015年度は年間240万台の市場規模が想定され、普及率は45.0%に留まる。これを打開する製品が必要だと感じた」とする。

 空気清浄機市場において最大シェアを誇るシャープにとって、この事業を拡大させるには、自ら新たな市場を切り開いていく必要がある。同社は、2015年1月に、1万人を対象にした市場調査を実施。それによると、55.4%のユーザー空気清浄機を保有していなかったが、そのうち、54.8%のユーザーが「今後、購入したい」、あるいは「機会があれば購入したい」という回答だったという。

 「空気清浄機の購入者は、花粉やアトピーなど、空気への悩みが明確である場合、あるいは、結婚したり、出産したりといったように、ライフステージが変化した場合が多い。つまり、購入動機が明確である場合であり、シャープの空気清浄機もここをターゲットにしてきた。今年もこの延長線上の製品は引き続き投入し、それに向けた機能強化も行なっている。だが、こうしたユーザー層とは別に、機会があれば購入したいと思っている非保有者に対して、購入するきっかけを作りたい。それがS-styleになる」とする。

 これまでにも、2012年度からのPM2.5や花粉症の広がりなど、空気清浄機購入のきっかけとなる出来事はあったが、それは全て外的要因だった。S-styleは、メーカーからの提案によって、購入のきっかけづくりを行なうという点が新しい。

 「なんとなく欲しいと思っている人たち、あるいは購入のきっかけがないという、購入動機が明確ではない層に対して、デザイン、スタイル重視の商品づくりによって、購入のきっかけを作ってもらうことを狙った」とする。

 シャープでは、空気清浄機を保有していないユーザーを対象に、新たなデザインの試作品をみせるといった実験も行なったという。「これならば購入してもいいという声が相次いだ。性能とデザインを両立した製品によって、新たな市場を開拓できるという手ごたえを感じた」と冨田副事業部長は語る。

シンプルでスリムなデザインで、空気のような存在感を目指す

空気清浄機の「FP-FX2」

 「FP-FX2」は、部屋のなかに馴染みやすい正方形の形状を採用。新製品と同等の6畳用の従来機種の奥行きが約180mmであったのに比べて、その2分の1程度となる98mmにまでスリム化している。そして、本体筐体は、デザイン性を維持するために、削りだし加工によって成形するこだわりだ。

 前面には、送風ファンの形状にあわせた丸いデザインが施され、グラデーションをかけながら、送風ファンが回転する様子の一部が見えるようになっている。

 「空気をきれいにする様子が見えるのが、S-styleの特徴。これまでは送風ファンを隠すという発想でデザインされていたが、これを見せることで、空気をきれいにしている様子を表現した」という。

 空気をきれいにする様子を見せるという点では、吹き出し部に光を反射させて、色を3段階に変化させた。グリーンであれば、空気がきれいであることを示す。

背面のデザインにもこだわっている
操作部の表示。もう少し文字が減るとデザイン性は高まったのではないか
FP-FX2は上部の吹き出し口の光の変化で空気の汚れ具合を示す

 S-styleのSに込めた意味は「シンプル」、「スマート」だ。カラーバリエーションを設けずにホワイトだけに限定したのも、シンプルさを追求するとともに、空気清浄機による空気をきれいにするというイメージを表現するには最適なカラーであったことに起因する。送風ファンが回転している様子についても、いくつかのデザイン試作のなかで、もっともシンプルなものを選んだ。

 「送風ファンの全体を見せたり、送風ファンの一部に色を入れることで、回転している様子をさらに強調することもできたが、部屋においても主張しないことを狙って、シンプルであり、スマートなデザインを採用した」という。

 FP-FX2は、6畳用であることから、寝室や書斎などに設置されることが想定される。そうした場所に設置しても邪魔にならないことを前提としたデザインを採用した。実際、電源を入れると送風ファンが回転しはじめるが、回転が開始したタイミング以外は、じっと見ないと、回転している様子をほとんど感じることができない。

 「上質な空気のカタチを、どう見せるかにこだわった。空気に存在感がないように、S-styleも存在感を強く発揮しないデザインにした」というわけだ。

 そして、スリムな形状と、約4.9kgという軽量化は、これまで空気清浄機が持っていた重たくて、大きいという課題も解決するものになり、女性にとっても受け入れやすいものになっているといえよう。

 「FP-FX2は、デザイン性で高い人気を誇ったプラズマクラスターイオン発生機のIG-FK100からの買い替え需要なども見込める製品」とも位置づけている。

 ちなみに、操作部も、従来の空気清浄機に比べると、文字の表記を少なくし、ここでもデザインに配慮しているが、それでも「強、中、弱」や「交換」、「お手入れ」などの文字が残る。このあたりは、操作性を失わないための最低限の表記といえるが、ここまでデザインにこだわった製品だけに、もう一歩踏み込んでほしかったようにも思う。

インテリアとしても使える加湿機

 同じS-styleシリーズとして、同様のデザインを採用した加湿機の「HV-EX30」は、「FP-FX2」を補完する形で、製品化されたものだといっていい。

 FP-FX2は、シンプルさを追求する上で、加湿機能を搭載していない。そこで、それを補完する形で、加湿機能が欲しいというユーザーに対して、HV-EX30を提供する形にしたのだ。実際、FP-FX2は約1年前から製品開発が進められてきたが、HV-EX30はその開発の流れのなかで商品企画されたものであり、デザイン面でも先に開発が進んでいたFP-FX2を踏襲したものになった。

 HV-EX30では、加湿のために水を入れるタンクの一部を外から見えるようにし、そこに光を当てて、幻想的ともいえる雰囲気を醸し出す。寝室などで利用する際に、電気を消してもインテリアとしても使えるデザインは、やはりこれまでの加湿機にはないものだといっていいだろう。

加湿器の「HV-EX30」。左側には水が入っている様子を視覚化している
加湿器の「HV-EX30」の背面部。こちらもデザインにこだわっている

 タンク部の光と、前面部の光によって、タンクの水切れや、プラズマクラスターの単独運転状態を色によって表現するほか、湿度の目安を5段階で表示。部屋が最適な湿度になった場合には水色で示すことにした。そして、前面部分を少し盛り上げる形にしたのも、水を表現するというデザイン面からのこだわりによるものだという。

「HV-EX30」では湿度の状況や運転状況を光の変化で示す

ファンのスリム化のカギは「トンボの羽根」

 空気清浄機のFP-FX2で、デザインを優先した製品づくりを行なったこと、そして、スリムな形状を実現できた背景として、同製品向けに開発された「ネイチャーファン」の存在は無視できない。むしろ、このネイチャーファンが開発されたことで、デザインの可能性にも広がりが生まれ、新たな需要層を開拓するための製品づくりができるようなったといえる。

 ネイチャーテクノロジーは、いまやシャープのお家芸として定着している。動物の形や特徴、自然界を研究し、それを家電製品に応用するのがネイチャーテクノロジーであり、これまでもエアコンには、イヌワシやアホウドリ、アマツバメの翼の形状を応用して送風効率や小型化を実現しているほか、ヘアドライヤー、サイクロン掃除機、扇風機、掃除機などにも、ネイチャーテクノロジーを応用している。

 今回の空気清浄機では、トンボの羽根の形状を応用することで摩擦抵抗を小さくし、羽根周辺の空気をスムーズに流れるようにしたのが特徴だ。

トンボの羽根の形状を応用したネイチャーファン
従来モデルのファン(右)に比べて、大幅な薄型化を実現している

 「トンボの羽根は、網の目状の凹凸に覆われており、飛行中には、この凹凸部分に小さな空気が渦のように無数に発生。空気は直接羽根に当たることなく、滑るようにして流れる。そのため、トンボは少しの力でも、安定して飛ぶことができる」という。

 この結果、薄型化しても、風量の低下を最小化でき、送風ファンの厚さを従来の3分の1となる20mmにスリム化。それでいて、6畳の部屋であれば、十分に空気をきれいにすることができる性能を実現した。同時に、静音性を実現することにも成功している。

 「このファンがなければ、S-Styleシリーズは実現しなかった。新たなファンがあったからこそ、新たな需要層開拓という次のステップに踏み出すことができる」と、冨田副事業部長は語る。

人に寄り添う「ともだち家電」

ともだち家電の機能を搭載したプラズマクラスター加湿清浄機「K1-WF100」

 もうひとつ、今回の新製品において、同社が新たに取り組んだのが「ともだち家電」である。

 これまでにも、オプションの家電ワイヤレスアダプター(市場想定価格は約1万円)を搭載すれば、ともだち家電に対応できる製品もあったが、今回は、KI-WF100およびKI-WF75の2機種に、空気清浄機としては初めて、「ともだち家電」機能を標準搭載した。

 ともだち家電は、スマートフォンアプリの「ココロボ~ド」を利用して、家電製品とコミュニケーションが行なえる機能だ。無線LANで、クラウドとつながり、暮らしをアシストするのがコンセプトだ。

 ともだち家電機能により、外出先のスマートフォンから、部屋の状況を確認したり、空気清浄機の遠隔操作を行なったりできるほか、クラウドを通じて配信される花粉やPM2.5、黄砂などの情報を、空気清浄機本体が音声で知らせてくれる。空気清浄機がしゃべる頻度は、「おしゃべり」、「ふつう」、「ひかえめ」のなかから選択することができ、利用シーンや利用者の好みによって設定できる。

シャープが提供するスマホアプリ「ココロボ~ド」を通じて空気清浄機とコミュニケーションを行なう
スマホから空気清浄機を遠隔操作。外から操作ができる
現在の状況をスマホから把握することもできる
「聞いて」ボタンが光っているとメッセージが届いている
湿度を示す「65%」の数字の上にあるマークがネットワークにつながっていることを示す
暑い日に水分を取るように促すなど、必要に応じてメッセージをしゃべる

 また、スマートフォンで録音したメッセージを、自宅の空気清浄機で再生できる「家族メッセージ機能」を新たに搭載したのが、今回のともだち家電の特徴だ。これによって、外出先から家族にメッセージを送信することができる。

 「孫の声を空気清浄機を通じて聞くことができたり、恋人と喧嘩したときに、直接言いにくいお詫びの言葉を、空気清浄機を通じて伝えてもらうということもできる」と、冨田副事業部長は、ユニークな使い方を示してみせる。「空気をきれいするだけでなく、空気を和ませる空気清浄機」ということもできるというわけだ。

スマホで録音されたメッセージを再生している状況

 シャープでは、"目のつけどころがシャープ"な製品づくりに力を注ぐ一方で、人に寄り添う製品の開発にも力を注ぐ。ともだち家電は、それを具現化する機能のひとつだといえるだろう。

 今回のシャープの空気清浄機の新製品は、市場への次なる普及を目指した製品提案ということができる。これらの製品によって、空気清浄機市場にどんな変化を及ぼすことができるのか。市場の反応に注目したい。

大河原 克行