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ポータブル電源メーカー「Jackery」、最近よく聞くけど何者?

 最近のアウトドアブームの影響もあり、ポータブル電源の注目度が高まっている。ポータブル電源とは、大容量バッテリーを内蔵し、家電製品などへAC(交流)やUSBなどで給電を行なえる装置。従来の発電機とは異なり、発電のためのガソリンやガスボンベなどが不要で、誰でも手軽に使える点が大きな魅力だ。

2020年2月に開催された「二次電池展」に出展したJackery Japanブース

 そんなポータブル電源メーカーの中で、注目の企業の一つがJackery Japanだ。現在Jackeryブランドでは。240Whで定格出力200Wの「ポータブル電源 240」、400Whで同200Wの「ポータブル電源 400」、700Whで同500Wの「ポータブル電源 700」の3モデルをラインナップしている。このほか、JVCケンウッドのポータブル電源も同社が共同開発を行なっている。

Jackeryブランドの400Whモデル「ポータブル電源 400」
Jackeryブランドの700Whモデル「ポータブル電源 700」

 今回は、Jackeryがポータブル電源を開発した経緯や、同社の戦略などについて、2月26日~28日に開催された「二次電池展」で、Jackery Japan 法人営業部の水嶋 雅貴氏に伺った。

過放電を防止するバッテリーシステムなど、自社開発と自社工場での製造が強み

 Jackeryのポータブル電源の強みについて水嶋氏は次のように語った。

 「過充電や過放電を防止するバッテリーマネジメントシステムを搭載しており、高い安全性を実現しています。安全面では、日本のPSE(電気用品安全法)やUN38.3(国連勧告輸送試験)の認証を取得しています。デザイン面ではRed Dot Design Awardを数回獲得するなど、コンパクトでかっこいい製品を目指して開発しています」

Jackery Japan 法人営業部の水嶋 雅貴氏

 現在国内では、多くのメーカーがポータブル電源を販売しているが、自社で製品の開発・製造を行なっている点も強みだという。

 「Jackeryは、中国の深センに自社工場を持っており、製品開発も自社で行なっています。社員構成は、日本市場つまりJackery Japanの販売に携わっている者が20人程度、米国部門が30人程度で、全部で50人ほどです。また自社工場では150人程度の従業員が製造に携わっており、充放電の試験室など安全確認もしっかり行なっています。国内のお客様に関して言えば、Jackery JapanやJVCケンウッドに寄せられるお客様の声を、開発グループにフィードバックして製品作りに役立てられる点も当社の強みです」

 さらに今後は、大容量の1,000Whモデルを2020年内に発売する予定だという。現行の700Whモデルは定格出力500Wだが、1,000Whモデルは1,000Wまで対応する。

700Whの現行の最上位モデル(写真中央)と、2020年内の発売を予定している1,000Whモデル「ポータブル電源 1000」(写真左)。1,500Whモデルの「ポータブル電源 1500」(写真右)は、二次電池展へ参考出展

 「『ポータブル電源 1000』は、定格出力1,000Wまで対応するため、これまでの製品では厳しかった炊飯器やドライヤー、電気ケトルなども利用できるようになります。アウトドア利用では『定格出力』は確かに大きなポイントではありますが、防災利用では多くの人に電気を供給したいというニーズもあります。その両面で見ると700Whでも足りないというお声をいただいているため、今後は、防災でもアウトドアでも1,000Whがベストな製品になると思います」(水嶋氏)

2014年スタートの"バッテリー"ベンチャー

 Jackeryは、日本大手メーカーの販売代理店で営業職を経験し、モバイルバッテリーに携わってきた孫 中偉氏が、2012年に創業。2014年にポータブル電源の開発を本格的にスタートしたベンチャー企業だ。

Jackery創業者の孫 中偉氏

 2019年3月には日本国内で製品を発売し、同年9月にはJVCケンウッドとの共同開発による「Jackery tuned by JVC」モデルの販売もスタートしている。

 「Jackery」の語源は「Jacket」と「Battery」を組み合わせたもので、「まるで身に着けるように、バッテリーを簡単に使えるようにしたいというのが由来です」と水嶋氏は語った。

 また当初は主にモバイルバッテリーを製造・販売していた同社だが、ポータブル電源を作った理由について孫社長は、「米国や日本などの電力市場を調査したところ、どの国でもアウトドア活動時の電力不足と、災害など非常時の電力確保の問題が起こっていると気付いたのです。この問題を解決するためには環境に優しくて持ち運びがしやすい、エコな電力ソリューションとしてポータブル電源が必要になると考え、開発をスタートしました」としている。

 2014年には米国で販売をスタートし、日本では2019年3月からAmazon.co.jpでのネット販売をスタートした。

 「米国での製品用途は、災害に備えるというよりはアウトドア利用が大きいですね。日本市場でも、どちらかと言えばアウトドア用途を重視しています。米国で販売を開始して好評をいただいたので、多くの国や地域の方にもポータブル電源を通して、生活や仕事の場面で楽しさや便利さを提供できるのではないかと考え、日本に進出しました。

 日本ではアウトドアファンが急増していますので、そういった方々にもポータブル電源はあると便利なグッズです。また、日本は災害が多いため、非常用電源としても多くの需要があります。個人のお客様だけでなく、企業や自治体にも価値を提供できると考えています」(水嶋氏)

 米国と中国に続いて日本市場にも進出した同社だが、日本市場で一定の成功を収めたら、その後はアジアやヨーロッパなどの地域にも進出していく計画があると水嶋氏は語った。

Jackeryブランドの「ポータブル電源 240」(240Whモデル)と、ソーラーパネル「SolarSaga」

JVCケンウッドとのコラボモデルは別物!?

 その後2019年9月にはJackery Japanを設立し、JVCケンウッドによる「Jackery Tuned by JVC」ブランドでもポータブル電源の販売をスタートした。JVCケンウッドとのコラボレーションについて、水嶋氏は次のように説明する。

 「元々オンラインのみで販売していたため、お客様からは『近くの店舗で実際に見てみたい』『販売員に相談しながら購入したい』といった問い合わせが多くあり、店舗販売は弊社の課題となっていました。たまたま機会があってJVCケンウッドさんとお話をしてみたところ、協力を得られた場合には、2,000店舗以上での取り扱いが可能になると分かりました。より多くのお客様にJackeryの製品を身近で体感いただけるのではないかということで、コラボレーションの形でご一緒させていただくことにしたのです」

 Jackery Tuned by JVCブランドの製品は、Jackeryブランド製品をベースにしつつ、JVCケンウッドの品質管理を経て市場に送り出すモデルとなっている。現在、Jackery Tuned by JVCブランドでは311Wh(同200W)の「BN-RB3-C」、518Wh(同500W)の「BN-RB5-C」、626Wh(同500W)の「BN-RB6-C」の3モデルがラインナップされている。

Jackery Tuned by JVCブランドのポータブル電源「BN-RB3」(311Whモデル)
こちらは「BN-RB6」(626Whモデル)

 また複数の容量を用意している点について水嶋氏は、「容量によって価格帯が変わってくるのと、使う方の目線で用途に合ったものを選んでいただけるようにラインアップを増やしています。

 多くの企業や自治体では、電源のない場所で電気を使う場合、これまで発電機が使われてきました。発電機はポータブル電源よりも大出力にも対応できるメリットもありますが、一方でニオイや音が出てしまうため、特に屋内では使いにくいという声もあります。ポータブル電源なら充電しておけば音もニオイもなく電気を供給できます。発電機との併用利用も可能という点もメリットです。用途に応じて、使い分けていただくのも良いと思います」と語った。

キャンプや車中泊などさまざまな用途で活躍

 個人向けにはアウトドア用途で購入されることが多いとのことだが、オートキャンプ場には電源のあるサイトも多く、一方でより深くキャンプを楽しむようになって電気を使わなくなるキャンパーもいる。どのような人にポータブル電源が向いているのだろうか。

 「スマートフォンやノートパソコンなどの機材を使う人には相性がいいですね。車で移動しながらキャンプをしたり、車中泊する際に電気毛布を使ったりするのにも便利です。電気を使わない生活は上級者過ぎますが、ポータブル電源があれば女性でも気軽にキャンプに参加できるのではないでしょうか」

 ポータブル電源の充電は、家庭用コンセントだけでなく、自動車のDC電源からも行なえるため、移動中に充電することも可能だという。

 「DC電源をAC電源に変換するインバーターもありますが、エンジンをかけたままにしておくと環境に良くないですよね。たまったポータブル電源の電気を使えるというのは、キャンピングカーの展示会に参加した時も好評でした。また、目的地に着いてから持ち運びもできるので、自由度が高いです。キャンピングカーにサブバッテリーを積んでいる方もいますが、それだと室内が狭くなりますし、キャンプ以外でそのバッテリーを使うことができません。ポータブル電源ならキャンプを使う時だけ車に載せ、使わない時は家に非常用電源として置いておけるというのもメリットだと思います」

 Jackery Japanはポータブル電源に加えて、出力100Wのソーラーパネル「SolarSaga」もラインアップしている。

出力100Wのソーラーパネル「SolarSaga」

 「屋外でポータブル電源を使っている最中に、ソーラーパネルから充電することで、より長時間の電源利用が可能になります。もちろんソーラーパネルからスマートフォンなどを直接充電することも可能です。Jackeryの主な事業はポータブル電源なので、それを生かすためのソーラーパネルという位置付けですね。ソーラーパネルに対する需要も増えていますので、ラインアップの拡充も考えていこうとしているところです」

日本市場で成長しつつ、アジアやヨーロッパ市場も見据える

 Jackeryは米国市場での販売後、工場を持つ中国でも販売をスタートし、2019年に日本市場に進出した。「米国市場と同レベルで、日本市場は重要」と水嶋氏は語る。

 さらにJackery Japanの2020年の目標については「日本においてポータブル電源シェアNo.1ブランドになること」だという。そして、2020年内に発売予定の1,000Wh大容量モデルにも触れながら、次のように語った。

 「これまでの700Whはどちらかというとキャンプやアウトドア、DIYで手軽に使える電化製品を利用するための手段だったと思いますが、1,000Whになると使える範囲も広がり、使える時間も増えます。企業様の非常用電源としての用途や、このポータブル電源を使って何か事業を考えている方など、さまざまな方々に提案できるのが新商品だと考えています」

 また今後の展開について「2,000Whなども含めてより大容量の製品の開発も進めているところです。また容量だけでなく、より品質の高い商品の開発に力を入れていきます」とのことだ。

 とは言え、ポータブル電源やバッテリー製品には寿命後の廃棄についての課題がある。充電式電池の場合は家電量販店の店頭にある充電式電池リサイクルBOXなどを利用してリサイクルできるが、大型バッテリーの場合は自治体によって対応が異なる。

 「ポータブル電源は『売って終わり』ではなく、お客様と長くお付き合いしていくのがコンセプトです。廃棄方法については自治体によって対応が異なるため調査中ですが、バッテリーモジュールの修理や交換についても、今後のアフターサービスとして検討しているところです。

 そのためにも、まずは国内でアフターフォロー体制作りを進めていきたいと考えています。現在はマーケティング担当、EC運用担当を募集している状況です。今年は新商品開発も課題ですが、Jackery Japanとしての会社の体制をしっかりと整えることが当面の目標ですね。ご興味のある方がいらっしゃったら、弊社ホームページよりご連絡ください」(水嶋氏)