ソニー、子供達が自分で電気を作る体験型ワークショップを開催

 ソニーは、子供を対象とした科学教育活動「ソニー・サイエンスプログラム」の一環として、「つくって、わかる。発電・蓄電ワークショップ」を開催した。

 今回のワークショップは、東日本大震災以降、節電、発電、電気エネルギーに注目が集まっていることから、子供達が自分の手で発電、蓄電を体験できる振動型発電機を組み立て、電気エネルギーの原理と未来につながる供給方法などについて学ぶ内容となっている。

 8月19日、20日、27日の3日間に開催され、事前に応募した小学校4年生から6年生の児童とその保護者、計72人が参加する予定だという。

 8月19日に開催されたワークショップは、まず講師を務めるソニーのエンジニア・矢島正一氏がエネルギーについて説明。日頃利用する電気も、エネルギーの1つであること、エネルギーを発生させるためには燃やすなどの作業が必要であることを、子供たちにも分かりやすく伝えた。

 その後、振動によるエネルギーで電気が発生させる実験を開始。今回の実験では、振動型発電機「Stick Generator」を自分で組み立て、その後、電気を溜めるところまで体験した。Stick Generatorは、コイルが巻かれた振動発電用筒、回路基板、コンデンサーなどが1つになったもので、振動がエネルギーとなり、そこで発生した電気でLEDを発光させるものだ。

振動型発電機「Stick Generator」のキット内容キットの中身を真剣に確認する親子の姿

 まずは、組み立て作業からスタート。最初は振動発電用筒にコイルを巻く作業を体験。ホルマ線の端がどこかに行なってしまわないよう、きちんと始末した後で、筒に棒を通して親子の共同作業でコイル巻きを行なう。

最初の作業はコイルを巻くことコイル巻きの注意事項単純な作業だが、それだけに仕上がりに差が出やすい。参加者は真剣に作業に取り組んでいた
ソニーのエンジニア 新倉英生氏

 組み立て作業を担当した講師であるソニーのエンジニア・新倉英生氏によれば、「コイルを巻く作業は単調ではあるが、基本となる作業なので是非、体験してもらいたい」とあえて体験に組み込んだという。

 コイルを巻く作業は初体験という親子が多いものの、作業をサポートするスタッフから、「機械で巻いたよりもキレイ!」と感嘆の声があがるほど緻密に巻き上げる親子も。この巻きの緻密さが、後の発電量に影響を及ぼすのだそうだ。

 巻き終わった筒に基板、LEDを取り付けケースに収納すると、とりあえず振動型発電機は完成。筒を数回振ってみると、確かにLEDが点灯する。

コイルを巻いた振動発電用筒の中にネオジム磁石を入れるホルマ線を基盤に結びつける利用した基盤は、今回のプログラム用に設計されたものだという
基盤にLEDを取り付ける完成したStick Generator本体を振るとLEDが光る。単純な構造ではあるが、子供たちは興味津々で取り組んでいた

 しかし、この状態ではエネルギーを貯める仕組みが存在しないため、振っている間しかLEDは点灯しない。筒を振った子供達はLEDが点灯しているのか、確かめようとするのだが振るのを止めると点灯しなくなってしまうため、本当に点灯しているのか確認ができず、お父さんに振ってもらって点灯していることを確認する子もいる。

 そこで、「エネルギーを貯めるために、コンデンサーを取り付けてみましょう!」という呼びかけで、一度組み立て終わったStick Generatorを分解し、基板にコンデンサーを装着する。

 コンデンサーを装着すると、振動を止めた後でもLEDが点灯する。エネルギーは作ることと共に貯める仕組みが重要であることが明らかになった。

振動させたエネルギーを貯めるために、一度取り付けた基盤を取り出し、電気二重層コンデンサーを装着コンデンサーを取り付けたStick Generatorを早速振ってみると、先ほどとは異なり振り終わった後でも発光する

 次は、「作ったエネルギーを活用してみよう」ということで、プラレールレースが実施された。参加者は4組ずつ、6つのテーブルに座っていることからテーブル1つがチームになり、レースが行なわれる。

 そのために、まず5分間Stick Generatorを振り続けて、溜まった電気を蓄電装置に集め、それをプラレールのエネルギーとする。

 5分間、Stick Generatorを振り続けるのは、実際にやってみるとかなり疲れる作業。「親御さん、子供さんが1分ごとに交代で振り続けるといいですよ」というアドバイスを受けて、交代で振り続けた。それでも筒を振り続ける作業はかなり疲れる作業だったらしく、「終了!」というかけ声が終わると、親子共々椅子に座り込む姿が見られた。

みんなが作ったStick Generatorに蓄電装置を接続し、振動エネルギーを蓄電Stick Generatorを5分間、振り続けてエネルギーを貯める。5分間本体を振り続けるのは、骨が折れる作業のようだ

 そのエネルギーを集めて行なわれたプラレールによるレースは、直線のコースを人の手でターンさせ、往復のタイムを競うもの。「レースの順位はエネルギー量に加えて、テクニックも結果を大きく左右します」と講師側からアドバイスがあった通り、ターンの早さなども結果を大きく左右する。それらをふまえてレースが行なわれると、親子共々に大声援の中での競争となった。

 レースが終了すると、6チームの中で最もタイムが速いチームが優勝となった。さらに、振動によってエネルギーを貯めた分量によるランキングも発表されたが、エネルギー量が多いチームとレースの優勝チームは一致せず、「レースの順位はテクニックで結果が大きく左右される」ということば通りの結果となった。

貯めた蓄電池をプラレールに接続し、各テーブルにスピード競争開催レースは直線コースを人の手で折り返して行なわれるため、充電量の多さだけでなく、参加者のテクニックも勝負の分かれ目にそれぞれの優勝チームにはプレゼントが手渡された
ナビゲーターを担当したエンジニアの矢島正一氏

 レースの後は、ナビゲーターを担当したエンジニアの矢島正一氏から「3月11日の東日本大震災の後は、これまでのような大規模発電施設だけでなく、利用する場所に近い場所で小規模の発電を行ない、それを管理しながら利用していく『スマートシティ』が提唱されています」と新しい発電のあり方が検討されるようになっていることが紹介された。

 さらに矢島氏は、「発電というのは、これまでの仕組みだけではなく、色々なエネルギーを発電に応用できる可能性があります」と紹介。例えば、電気によって音を振動させて出力するスピーカーの原理は、「振動によってエネルギーを発生させる、電気を発生させる仕組みとしても利用できます」と紹介した。

新しいエネルギーの活用として「スマートシティ」を紹介ソニーの蓄電システム振動のエネルギーで充電するというのは、スピーカーの原理と同じだという

 「皆さんも新しいエネルギーの仕組みを考えてみてください。私は餃子が大好きなので餃子発電なんて出来ないだろうか? とも考えますし、初恋は微量のエネルギーとして活用できるのではないか、貧乏揺すりの振動をそのままエネルギーとして活用できるのではないか、なんていうことも考えます」(矢島氏)

 会場では、ソニーが開発を進めている新しいエネルギー発生方法として、手動発電「キネティックエンジン」を利用したデジタルカメラ「odo」、「色素増感太陽電池」、「バイオ電池」の3種類が紹介された。

 odoは手で動かすことでエネルギーを貯め、撮影し、その映像を液晶画面に表示する。ソニーのデザイナー・福馬洋平氏が「こうやって手で動かすと写真が撮れます。撮影した画像を見るための液晶は、撮影よりも少しパワーが必要になるので、余分に動かすと表示されます」と実演してみると、子供達は大喜びしていた。

手動発電「キネティックエンジン」を応用し撮影、液晶表示を行なうデジタルカメラ「odo」会場では実際に使って、機能を紹介

 色素増感太陽電池は、普及型の太陽電池とは異なりステンドグラスのような色のついたガラスで発電する。透明の太陽電池では利用できない場所での利用の可能性があるのだという。

 バイオ電池は、コカコーラを燃料として発電実験を実施。「糖分が原料となるが、果物では糖度のバラツキがある。コーラはそういうバラツキがなくて糖度が安定しているため、原料として採用した」という。

色素増感太陽乾電池コーラを原料に利用した、バイオ電池
ワークショップ終了後は親子に、写真入りの修了証が渡される

 全ての実験が終わると親子には写真入りの修了書が渡され、ワークショップは終了。普段は利用するだけの電気を作るところから考えるイベントとなった。






(三浦 優子)

2011年8月22日 14:09