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大阪万博のライトアップ支えるパナのYOI-en 広大な場の照明を一括演出

大阪万博で人気のドローンショー。その演出を支える最先端の広域・照明コントロール技術を見る

開催前は、人が集まるのか? とも言われていた「EXPO 2025 大阪・関西万博」(以下、大阪万博)。実際に会場へ足を運んでみると、どのパビリオンにも長い行列ができ、人気のパビリオンやイベントでは予約抽選もなかなか当たらないほど混雑しているようだ。

一方で、パビリオンの予約がもし取れなくても、会場にいれば誰でも楽しめるのが、19時ごろからはじまる大屋根リングのライトアップと夜空に煌めくドローンショーだった。今回は万博の照明と、それを支えるパナソニックの取り組みを取材してきた。

大屋根リングの美しさを支えるスポット&投光器

万博の象徴の一つにもなっているのは、世界最大の木造建築としてギネスにも認定された、全周約2kmの大屋根リング。神社仏閣などでも見られる日本の伝統的な建築「貫(ぬき)工法」が使われていて、木材を縦横に組んで作られている。

具体的には、柱を貫く横材「貫」を貫通させて組み合わせたうえで、柱と貫の接合部には「楔(くさび)」が打ち込まれている。

本来「貫」と「柱」は、三角形の木製の「楔」で固定するのが「貫工法」だが、大屋根リングでは金属製の楔が使われている
このように貫工法の木組みを多用して作られた、大阪万博の大屋根リング。昼間の景観は、建設中のツーバイフォー住宅といった感じ

「楔」に金属製のものが使われている工法に関して物議もあった。しかし夜間になりライトアップされた大屋根リングは、様相を大きく変える。ライティングで楔の金属が目立たなくなり、本来の和の美しさが浮かび上がる。

そのライトアップをしているのが、LED投光器とスポットライトだ。

夜間になるとガラリと雰囲気が変わる大屋根リング。内側からライトアップされるので、楔がないのが目立たなくなり、和の雰囲気が一層増す
四角い照明(左下)が投光器、丸く円筒形の照明(右中央)がスポットライト

人がいるかどうかで明るさを変える照明

大屋根リングは、その上を歩いて会場全体を見渡したり、目的のパビリオンまでのバイパスのようにしても使える。実際に会場を歩いてみると、パビリオンがところ狭しと立ち並んでいるため、建物の向こう側は一切見えず、地図だよりに会場を歩くことになる。

しかし大屋根リングを経由すると、会場を上から見下ろせるので、目的のパビリオンが分かりやすく、昼夜問わず大屋根リングを歩いている人が多い。

そして夜になると大屋根リングの歩道に1.2m幅で設置されている明かりが、全周2kmに渡り暗い足元を照らし出す。

大屋根リングの遊歩道にも照明が設置されている。安全性の確保だけでなく、演出用としても活躍する
外灯のように上から照らさなくても、十分に明るい。この照明は地上からは見えないので、大屋根リング自体の照明効果を邪魔することもない

さらに夜間は会場の演出にも一役買っている。通常は電球色の光だが、シーズンやイベントに合わせて色を変えたり、明暗を変えたりできる。たとえば、エスカレーターなどで人がいるかどうかに合わせて、明るさを変えることが可能だ。

色を自在に変えられる

季節に合わせた演出としては、たとえば夏の暑い会場では、少しでも涼しさを感じてもらえるよう、照明を青系の誘導灯に切り替えることもあるという。

また、通常は電球色モードで点灯しているが、“隠し機能”として、ライトの一部が1周約2kmの範囲をゆっくりと巡回する仕掛けがある。1周するのに数分かかるため、規則的に回っていることに気づきにくく、まるで秘密の演出のように見えるのだ。目ざとい子供たちは、遠くから向かってくるライトを縄跳びに見立てて、楽しそうにジャンプしていた。

1,600台以上ある照明をリアルタイム制御する「YOI-en」

大屋根リングに設置された1,600台以上のスポットライトと投光器は、パナソニック エレクトリックワークス社によるものだ。同社はこれまでにも、北海道のエスコンフィールドや東京スカイツリー、国立競技場など、全国のランドマークで照明機器を手がけてきた実績がある。

パナソニック グループとしては、万博にパビリオン「ノモの国」を出展しており、そこでももちろんエレクトリックワークス社の照明技術が使われている。

「ノモの国」のライトアップでもYOI-en(ヨイエン)が使われており、子供たちが作った物語に合わせてライティングパターンを変える演出も用意されている
チョウの羽ばたきをデザインした外壁には、フルカラー投光器が複数設置され、大屋根リングとは別系統のYOI-enで制御されている

コンサートやフェスでは、楽曲などに合わせてさまざまな照明演出ができるDMXという照明制御規格が使われている。しかし会場規模は、せいぜいスタジアム程度だ。

エレクトリックワークス社の「街演出クラウドYOI-en」は、DMXをベースに大阪万博のように広域な照明演出を統合して行なうクラウドサービス。どのくらい大規模かは、2kmに渡る大屋根リングに1.2m間隔で設置された照明を、フルカラーで制御できることからも分かるだろう。

YOI-enはクラウドサービスなので、DMXベースのコントローラーと、複数のコントローラーを統括する専用の制御システム、さらにインターネットのゲートウェイがあれば、制御室からでも、会場内を移動しながらのモバイル端末からでも、万博内すべての照明制御が可能となる。

さらに今回は大阪万博内のクローズドな環境だったが、クラウド制御なので遠隔地とリンクすることも可能。たとえば「愛・地球博」の会場跡地や、EXPO'70の万博公園、「科学万博-つくば'85」の跡地など、日本全国を同時かつ連携した照明演出も可能だ。もちろん国境を超えても構わない。

複数のDMXコントローラーを束ねて操作するために、専用のコントローラーを使用し、インターネットを経由してクラウドサービス YOI-enで一括制御している。さらに、同じシステムを遠隔地にも設置すれば、それぞれのYOI-enシステム同士をリンクさせることが可能になる。この仕組みにより、非常に汎用性の高い広域照明制御システムが実現している

大阪万博で夜も人気だったイベントが「ドローンショー」だ。夜空に煌めくドローンが、様々なフォーメーションで観客を魅了する一方で、大屋根リングのフルカラー照明もドローンに合わせて、色やパターン、アニメーションなどを変え、互いにリンクしながら1つのショーを創っていた。今回は直接YOI-enでの操作ではなかったが、パナソニックの照明が万博の盛り上げにも存分に力を発揮した例といえそうだ。

ドローンショーとリンクして、大屋根リングを照明で演出
場内のあちこちから「スゴイ!」「キレイ!」という声が聞こえた
大阪万博で人気の「ドローンショー」

生活するための明かりから、心を豊かにする明かりへ

電気が利用されるようになり、夜を明るく照らす光や物を動かす力に変換され、いまでは情報に変換されている。そしてLEDの発明があり、カラフルで反応速度の速い光は、情報により制御されることで、今度はディスプレイや演出照明で人の心を動かすように進化した。

「ノモの国」は、観客一人ひとりが手にする「クリスタル」というデバイスを通じて、個別に反応する光と音の演出が楽しめる体験型パビリオンだ。照明を落とした暗い空間では視界が限られるため、来場者はより深く不思議な感覚の世界へと没入していく。そのユニークな体験に、子供たちも大喜びしている

大阪万博の照明システムは、光の演出が人の心を揺さぶる力を持っていることを鮮やかに示していた。普段は気にも留めない足元や頭上のライトも、この会場では大きな魅力となっている。万博を訪れた際は、そんな光の演出に注目したい。

【訂正】初出時の一部に誤りがあり、訂正しました(14時53分))