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人気のミールキット、家電と連携して食卓革命を起こす!? 工場を見てきた

注目のミールキットを製造するファンデリーの埼玉工場で製造現場を見学してきた

夫婦共働き家庭の増加、何度も繰り返すコロナ感染拡大のピークを背景に「手間を抑えつつも家で食事すること」が注目されている。街のファストフード店などを見ても、店内飲食ではなく持ち帰りを待つ人は多いようだ。そんなここ2年間で大きく伸びたのは、主菜から副菜までセットになっている宅配のミールキット。食材が宅配され、あとは加熱するだけでおいしい食事が時短で作れるとあって人気だ。

通販新聞の記事によれば、コープデリやパルシステムなどは、2020年度に前年度比30%以上の販売増になったという。

レンチンだけで主菜と副菜が同時に食べられる冷凍ミールセットから、下ごしらえされた食材と調味液がセットになった冷凍/冷蔵ミールキットまでさまざま

一方、家電業界ではオーブンレンジや電気鍋などがスマホと連携してレシピを教えてくれるだけでなく、食材キットを宅配するサービスなどもあり人気を博している。これらは、あらかじめ下ごしらえされた肉や野菜と調味液がセットになっていて、簡単な調理だけで短時間で本格的な味が楽しめるのが魅力だ。

こうした食材キット宅配サービスは、家電メーカーが主体となって、業務委託という形でミールキット製造会社が食材加工から発送業務まで行なうのが一般的。

メーカーのキッチン家電連携アプリから購入できる多様なミールキット。手間を掛けずにちょっとだけアレンジした「我が家流」の味が楽しめる

そんな中で登場したのは、ミールキット製造会社が主体となって家電と連携したメニューを提供する新しいサービスだ。これまでのような家電メーカー主体ではなく「独立系ミールサービス」といったところだろう。その一つが、2022年初夏からサービスを提供し始めた「ファンデリー」。

国内の旬の素材にこだわったメニューを提供・製造する「埼玉工場(旬すぐファクトリー2020)」を独占取材。旬やおいしさの追求と、それを実現するさまざまな現場の工夫を見てきた。

ファンデリーの埼玉工場

旬の国産素材ありきでメニュー開発。生産者とシェフのガチ勝負

ファンデリーの設立は2000年。日本初の栄養士による“食事制限専用”ミール宅配サービス「ミールタイム」から始まった。

医者から塩分や糖分、タンパク質の摂取制限を受けている人をはじめ、咀嚼や飲み込みが難しい、ヘルシー食をおいしく食べたいといった要望に応えるためにスタート。顧客一人ひとりに担当栄養士が付き、ファンデリーの数あるメニューを組み合わせて顧客の好みや健康状態にあわせたミールセットを定期的に配送してくれるというサービスだ。顧客から健康状態をヒアリングするだけでなく、血液検査の結果から献立を考え、数値改善も図るという本格的な食事療法ができる。

タンパク質調整食のごく一部。数えたところこの日は全部で329メニューもあった
高血圧や糖尿向けの食事も、かなりおいしそう!

今でもこうした事業が主力となっているが、それだけでは満足できなかったという。栄養バランスを優先して作る食事だけではなく、日本全国の産地から「今が旬」の食材を取り寄せ、おいしさをメインに栄養バランスも考えた食品を提供したいという思いが強く湧き上がったとのこと。

そこで2020年に埼玉県本庄市に自社工場を新設。ここでは旬をすぐに、通称「旬すぐ」というサービスを開始する。旬な食材の調達は、全国の「旬すぐ共栄会」という生産者ネットワークから仕入れる。そして食材ありきでシェフが即興でレシピを考案し、即座に製品化(冷凍食品に)するのだ。

宅配ミールに「厳選国産素材」と「旬」と「生産者の顔」が結び付けられた新しい発想

スーパーの生鮮食料品コーナーをさらに拡張し、YouTubeチャンネルとして「旬すぐファクトリー2020」を開設。生産者の食材に込める思いやおいしさを動画で展開している。さらに2人のシェフの経歴も相当で、元ブルガリア大使館の料理長、もうひとりは銀座の高級料亭出身だという(現在は帝国ホテルの中華料理を作り続けて20年のシェフも加え3名体制)。

通常のレシピ開発は「シェフありき」で行なわれることが多いが、ファンデリーはあくまで「食材ありき」。どこそこの漁港で旬の魚が上がった、南の方で旬の野菜の収穫が始まる、などによって「旬すぐ共栄会」への入札があり、旬で新鮮な食材が入手できる。シェフは生産者がおすすめする旬の素材を元にレシピを即興で考えるというわけだ。

考案されたレシピは、栄養士の評価を受け、さらに生産ラインでの製造手順に落とし込んで製品化される。私たち消費者から見ると、本当に旬の国産食材をすぐに口にできる楽しみと嬉しさがある。とにかく買い付けから製品化のサイクルが短いため、週6でレシピを考案し、週にいくつも新メニューが登場するほどだ。

通常は1食398円(プレミアムは498円)と価格もリーズナブルで、新メニューが続々と追加されるため、この日に購入できるメニューはなんと240種類以上もあった。

制限食とは別の「旬すぐ」だけのメニューでこの日は240種類以上。新メニューは2~4日前に追加された2つ。在庫がなくなるとリストから消えてしまうので、もう食べられない!

これだけ実績があるミール宅配メーカーということで、家電メーカーも一目置く存在。実際に調理家電メーカーとも協力関係にあるという。

レンチンだけではない「我が家流」にアレンジできる

同社が初夏からサービスを開始したのが、家電メーカー各社から発売されている電気鍋用のメニューだ。当初は試験的な販売という形で、現在メニュー数は8点となっている。ソーシャルメディアも展開しており、顧客からの声をまとめると、週末はカレーやシチューの需要が多いのでこのようなラインナップになっているという。各メニューの左上に光る「のこりわずか」が8メニュー全部についている人気ぶりだ。

この日購入できるメニューは8種類。好評で逐次メニューを増強するとのことだった

1人前の「旬すぐ」に比べると価格が1,098円と少し高めだが、これは電気鍋向けのキットが2~3人前となっているため。もちろん先に紹介したスゴ腕シェフの手による、レストランにも迫る本格的なメニューであることはいうまでもない。

筆者が試食したのは牛スジカレー。普通のカレーならどの電気鍋にも基本のメニューとして用意されているが、ミールキットで「牛スジ」は見たことがなかった。調理方法は簡単。トレイに分かれて入っている具材をすべて鍋の中に入れ、規定の水を加えて煮込むだけ。

賞味期限は1年間。イザというときに買っておけるのが便利だ。パッケージはバイオマス・プラスチックを使っていて、自然に土に還り地球に優しい
ルーと牛スジをどんどん鍋に入れるだけ。ミールキットが便利なのは、ミルクやヨーグルトを水の代わりに入れたり、一味唐辛子やジンジャー、コショウなどで辛さの調節をして「我が家流」にできる点だ
パッケージに書いてある通り水を加えて20分煮込む。まだ凍ってないかな? と心配になるほど短時間だ

実際に食べてみると、まさしくレストランのカレーの味。市販のカレールーとは格段に違うし、独自のスパイスも効いていて本格的だ。牛スジは、もし最初から自分で調理する場合、油を落とすために下ゆでしたり、柔らかくするのに圧力鍋で煮込んでからカレーに混ぜるなど、計り知れない手間がかかる。でもたった20分で本格的なカレーができるのだから驚きだ。普通だったらごはんも炊き上がらない……。

牛スジの火の入り方がまた絶妙。コンビニおでんの牛スジとは、ぜんぜん格が違って驚いた。これで2~3人分1,098円は激安だ。外で食べたら1食1,000円のクオリティ

国産の旬の素材を旬のまま届ける秘密は超低温の大型冷凍庫

これらのおいしそうな冷凍ミールはどのようにして作られているのか? その工場の中を取材してきた。

まず食品を扱うだけに入室から厳しい。事務所は工場以外も土足厳禁で早々にクツを脱ぐ。次に髪の毛が落ちないようにインナーの帽子をかぶりその上に帽子付きの白衣に着替える。さらに工場内専用の靴に履き替えて、密閉されたエアシャワー室の中に入り念入りに白衣に付いたホコリなどを吹き飛ばす。念には念をで、白衣を粘着ローラーでコロコロ。

とにかく工場内に外のものを侵入させない徹底ぶりだ。最後に手洗いとアルコール消毒をしてようやく工場内に入れる。白衣に着替えてここまで10分以上はかかった。

奥の青い服を着ている人が入っているのがエアシャワー室。手を上げてバレリーナのように回転するのが基本

工場中央にあるのは調理場。ちょうど大型のフライヤーでタンドリーチキンを揚げているところだった。大きく切ったにんじんは、栄養価が逃げないようにスチーマで蒸す。おいしさを大事にするだけでなく、スチーマーを多用して食材の栄養価を大事にしながらパッキングしているという。

畳4畳ほどある大型フライヤーを使った揚げ物。油は循環して常に新鮮な状態に

最後は盛り付けライン。盛り付けもおいしさを左右する要素なので、丁寧にトレイへ詰められていく。ここから先は時間との勝負。カビや菌の繁殖する温度帯をいち早く脱出して(そんな時間も要因もない空間だが万が一の可能性も潰す)冷凍庫に入れる。徒競走のスタートよろしく10列ほどのレーンにできた料理が並び、用意ドン! で一斉に冷凍庫へ入っていく。

丁寧にトレイへ盛り付けられた後、10個で1セットにされ冷凍庫に入る。写真奥のトレイが冷凍庫に入る瞬間だ

ファンデリー自慢の冷凍庫は、なんとマイナス70℃。家庭用冷蔵庫では、高性能な冷凍室でもマイナス20~18℃。それでもこの温度帯で急速冷凍すると、ひき肉はパラパラに、野菜は食感を損ねないフリージングが可能だ。業務用の急速冷凍機はマイナス40℃、高性能なものでマイナス60℃で瞬間的に凍らせたおいしい冷凍食品が食べられる。しかしファンデリーはそれより10℃低いマイナス70℃の急速冷凍機を使い、最短の15分でカチカチに凍って出てくる。これが旬の素材の味を「旬すぐ」で届けられる秘密だ。

冷凍機の反対側から続々とカチコチのミールが出てくる。食品が解けないように室温も下げてある
うっすらと霜がついているので凍っていると分かるが、ブロッコリーやトマトはフレッシュの状態とまったく変わりないように見える

家庭用冷蔵庫で冷凍すると、食品の周りから徐々に凍っていくので氷の結晶が成長し、それが食品の細胞を壊し、解凍したとき「しんなり」したり、食感が「べちょっ」としてしまう。マイナス70℃で冷凍すると、氷の結晶が成長する前に(水の分子レベルで)凍ってしまい、食材の細胞1個1個が守られる。だから解凍してもできたての食感とおいしさが変わらないというわけだ。

個別のシュリンクパッケージ。メニュー名や原材料、調理方法などはこの瞬間にプリンターで印刷される
最終的に全量がX線画像による検査を受けて出荷を待つ

最後は重量や金属検査を経て、異物混入などを画像処理でチェック。同じラインでさまざまなメニューを冷凍するため、パッケージは共通でメニューに合わせて料理名や原材料、そして調理方法などをその場でシュリンクに印刷し、トレイをパッキングしている。

この冷凍~パッキング工程は、調理場と完全遮断されていて室温も別管理となっている。さらにその間を通れるのは、食品をのせて完全に温度管理されたカートだけだ。

床の色が異なるのは室温の違い。向こう側の緑区画へ行くには食品が生暖かい状態だと菌が繁殖する恐れがあるため、この真空冷却機を通して食品の温度を冷やさないと向こう側に立ち入れない

これ以上ないほどに管理された工場内には、ファンデリーの心臓部となるテストキッチンがある。ここから日本全国の旬の素材を活かした「旬すぐ」のメニューが開発される。取材当時は料理長の高野さんがミートボールの試作に腕を振るっていた。

独立系の電気調理器用メニューならではの付加価値と広がる選択肢

コロナ感染拡大の影響でテイクアウトが一般的となり、宅配ミールサービスは大きく市場を伸ばした。中でもファンデリーは国産の旬の食材にこだわったサービス。時間がないときは、スタンダードでリーズナブルなレンチンだけで食べられるメニューを選べる。

メニューもどんどん拡大中。おそらくファンデリーに続くミールサービスも続々と登場するだろう

でもちょっとアレンジしたいなという場合は、電気鍋用のミールキットで3人前をささっと調理。レンチンだけでは味わえない「我が家流」のメニューが楽しめるのがうれしい。さらに冷凍ミールキットなので「調理時間の短縮」にもつながる。そして衛生面などが徹底管理された「安心と安全」、加えてファンデリーの場合は「旬の国産素材」という付加価値もある。この3つ+αがミールキットのキーワードといえるだろう。

調理家電メーカーが扱う専用ミールキットは、メーカーおすすめという安心感がある一方、そのメーカーお仕着せのレシピしか楽しめなかったともいえる。独立系のミールサービスの登場で、料理の幅や、選択肢が大きく広がるのは間違いない。