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パナソニック、白物家電成長のキーワードはプレミアム化とグローバル市場

 パナソニック アプライアンス社の本間 哲朗社長(パナソニック 代表取締役専務)は、6月2日、報道関係者を対象に、同社アプライアンス社の事業戦略などについて説明した。

 白物家電製品のプレミアム化を推進することで収益が改善していることなどを示したほか、上部フラップを採用して輻射冷却方式を搭載したエアコンや、漢方薬などを保存するための乾燥庫を搭載した高級冷蔵庫など、中国やアジア市場向けのローカルフィット製品を投入し、話題を集めていることなどに触れた。

パナソニック 代表取締役専務 アプライアンス社社長の本間哲朗氏

 パナソニック アプライアンス社では、家電事業においては、「プレミアムゾーンのさらなる強化」、「日本の勝ちパターンの海外展開」、「アジア・中国、欧州での事業成長を加速」という3点をあげている。

 とくに、プレミアムゾーンにおける製品強化は、同社の限界利益率を高めるなど、収益体質の強化にも寄与している。すでに日本におけるプレミアム製品の構成比率は44%を占め、アジアでも34%、中国でも32%に達している。これにより、限界利益率はわずか1年で1.5ポイント向上したという。

 「プレミアム製品の定義は、製品や地域によって異なる。たとえば、日本の冷蔵庫では、400L以上の製品を、プレミアム製品に位置づけている。また、中国ではスマホで制御できる冷蔵庫やビューティートワレも、プレミアム製品としている。それぞれに定義が異なるが、結果として、憧れにつながる製品を、プレミアム製品と呼ぶことになる」とした。

 続けて、「消費財メーカーとしては、景気動向とは別に、我々の製品を購入してもらえるかどうかが重要である。ドライヤーは、国内で約2万円の製品が売れているが、これは、消費動向よりも、我々の提案が受け入れられているためだと認識している。家電は、製品力によって、事業の中身をどう変えていくことが大切である。

ドライヤーは高価格帯の製品が売れているという

 プレミアム製品を強化する一方で、プレミアムではない製品を絞り込むことにも取り組んでいる。調理家電の一部では、最もボトムとなる製品の提供をやめるといったことも行なっている。パナソニックの世界中の従業員に話しているのは、憧れを届けることができる製品をつくるのが、基本戦略であることだ」などと語った。

アジア市場は地域に根付いた製品を展開

 一方、海外市場向けの白物家電については、「パナソニックは、昭和30年代から海外市場においても、白物家電事業を展開してきたが、日本で受け入れられた製品を、海外に提案するのが基本的な考え方だった。だが、それが通用しなくなってきたのがこの10年。アジアも、中国も生活が豊かになり、独自の価値観が芽生えている。パナソニックはその変化に対応しきれていないためにお客様の信頼を失っていた。

 パナソニックは、ここ3年の間に、中国とアジアに開発拠点をそれぞれ構えて、それぞれの地域のお客様が求めていることをゼロから見つめ直して、それにあう製品を提案してきた。アジアの消費者の意識はダイナミックに変わっている。インドネシアでも、ガラスドアの冷蔵庫が売れている。白物家電は文化と直結したビジネスであり、冷蔵庫は食文化、洗濯機は衣類の文化に直結している。それぞれの文化にあった製品を、それぞれの地域で出していきたい」と述べる。

アジア市場向けに発売したエアコン「SKYシリーズ」

 こうした取り組みの具体的な製品として、今年春にアジア市場向けに発売したエアコン「SKYシリーズ」をあげた。同製品は、上部フラップ「SKY stream desigin」による「輻射冷却方式」を業界で初めて採用。冷たい風が直接身体にあたらないようにすることで、冷えすぎを防ぎ、快適な空間を提供することができるという。ダストセンサーにより、空気中の微粒子をモニター。濃度が高くなると、ナノイーを放出して、空気を清浄する。さらに、バックライトLEDの採用により、コントローラの操作性を向上させたり、0,5度きざみの温度設定も可能にしている。

 「これは、日本に先駆けてアジアで発売した製品。エアコンは、どうしても気温に左右されるビジネスだが、今年のアジアは、暑めであり、エアコン事業はフル生産で対応している」という。

中国市場は富裕層をターゲットに。高機能な冷蔵庫などに注力

中国で展開している冷蔵庫。デザインは「品」を重視したという

 また、中国市場向けには、富裕層をターゲットに「健康」「余裕」「品」の3つのキーワードで展開。それらの要素を、すべて網羅した高級冷蔵庫を、2016年8月に発売することを明らかにした。

 この冷蔵庫では、業界初となる超乾燥機能を搭載。湿度コントロールにより、大事な食材を区分管理できる「乾燥庫」で、中国特有の高級干物などの食材を最適保存。「お茶や漢方薬なども低湿で保存できる」という。

 同製品は、トップユニットとフルオープン引き出し、大容量の2段冷凍引き出しを搭載した620L超の冷蔵庫で、フルフラットガラスやアルミハンドルなど、洗練されたデザインを採用。庫内には両面発光照明を採用しているという。また、Wi-Fi連携により、スマホアプリを通じて、食品管理やレシピの推薦、遠隔制御を実現する。

 また、本間社長は、「中国市場においては、『上澄み25%』と呼ばれる所得に余裕がある層に展開している。日本では、50代以上の人たちが、高級家電に対する意識が高いが、中国やアジアでは、若い人たちの方が高級家電に対する意識が強い。中期的には外資系ナンバーワンを目指していく」という。

 さらに、「日本では省エネが求められているいるが、冷蔵庫にWi-Fiをつけても、日本の主婦が喜ぶとは思えない。しかし、中国では、正しい情報を得るために一日中スマホを手放さない人たちが多い。そのため、スマホ連携は重要な機能に位置づけられる。喜んでいただけるところに、喜んでいただける技術を提案する。中国市場向けの冷蔵庫には、将来的には、扉に大型ディスプレイを搭載したものも投入していくことになる」として、冷蔵庫のスマート化を中国市場から推進していく姿勢をみせた。

日本では「Jコンセプト」や「パナソニックビューティ」など、世代別に訴求

 日本においては、50~60代を対象にした「Jコンセプト」、30~40代を対象にした「ふだんプレミアム」の提案、女性をターゲットにした「パナソニックビューティ」といったセグメント戦略を展開。「今年度は若い男性を対象にした提案もはじまっているほか、地域創生の取り組みもはじめており、それぞれの地域にあわせたプロモーションも開始している」と語った。

50~60代を対象にした「Jコンセプト」シリーズ

 そのほか、「パナソニックの家電事業には、エンドユーザーに深くインタビューをして、モノづくりをする文化があった。それを生かしながら、これを大型白物家電やデジタルAVの分野でも展開してきた。機能やデザインも、かなり細かくターゲットに当てている。2年前に、冷蔵庫事業を担当したときに、現場から、私に冷蔵庫の色を決めてくれと言われたが、売りたいターゲットとなる家庭の主婦に聞き、投票で決めるのがいいといった。こうした考え方が、世界中で展開できるようになった。これが消費者に当てたモノづくりにつながっている」などと語った。

 また、エアコン事業については、「ルームエアコンにおいては、一定の規模を持っているものの、業務用空調機器を含めると、グローバルリーディングカンパニーとはいえない。トップとは距離が離れたポジョションにある。そのため、今後、この分野において、なんでもかんでもやるという戦略では説得力がない。絞ったやり方が必要だ。ルームエアコンは、非常な大事な事業であり、今年度は原価管理の成果もあり、業界最高のパフォーマンスを出せると考えている。

 課題は中国市場である。中国メーカーと同じような製品を出していても意味がない。中国メーカーにはない特徴を持った製品を開発して、それを提案する。だが、中国の在庫は並大抵のものではない。今年は在庫を正常化する1年である。中国のエアコン事業の黒字化は、できれば今年度中には達成したいと思っている。これに対して、業務用空調機器は、依然として投資フェーズである。取り込むポンイトを絞りながら成果を出したい」と語った。

中国市場ではエアコン事業の黒字化が課題

 さらに、アプライアンス社では、エコソリューションズ社と共同で、住空間価値創出プロジェクトを推進している。

 これについては、「パナソニックが目指す家電事業とは、単品の価値だけに留まらず、空間価値の提案にも広げることができる点。これが住空間価値創出プロジェクトにつながっている。住空間ビジネスとしては、すでにビルトイン家電製品で成果があがっており、オーブンや電子レンジ、IHクッキングヒーター、食洗機などがキッチンに組み込まれて販売されたり、日本や海外のキッチンメーカーに提供したりしている。この分野は、品質、サービスネットワークがベースになることから、安定したビジネスだといえる。この事業の比率を高めていきたい。住空間価値創出プロジェクトは、中期経営計画の最終年度にも、ひとつの形になればいいと考えている」と述べた。

2016年度の売上高は2.6兆円を目標

 パナソニック アプライアンス社では、2016年度の業績見通しとして、売上高は前年比4%増の2兆6,000億円、営業利益は1,000億円を目指す。また、2018年度業績見通しは、売上高が2兆8,000億円、営業利益は1,250億円を目指す計画だ。

 本間社長は、「ここ数年、アプライアンス社はひたすら身を縮めてきた。売り上げを縮め、拠点を閉じ、人を縮小してきたが、昨年度でそのフェーズを終え、全社員が前を向いて成長を語れるフェーズに変わってきている。白物家電分野では成長を目指したい」と前置きしながら、「今年4月に、米ワールプールのマーク・ビッツァー社長と話をしたが、開口一番、日本も、米国も、総合家電メーカーは1社ずつになったと言われた。

 パナソニックの白物家電事業は、グローバルスタンダードのパフォーマンスを出しており、ワールプールやエレクトロラックスに対して、引けは取らない。2兆5,000億円の事業規模で、しっかりとグローバルで家電事業を戦っていける。中期的には、ベンチマークしている韓国2社、北米1社、欧州2社の総合家電メーカーと変わらないパフォーマンスに近づけることができると考えている」とした。

 このほか、「白物家電事業においては、中国や台湾のメーカーのプレゼンスは気にならない。彼らはあくまでもそれぞれの国のなかだけのインラウンドプレーヤーである。欧州市場の店舗には製品は並んでいない。また、それぞれの地域に対して、求められる白物家電を提供しているという点で、引けを取ってはいない。彼らを気にする部分は、買収して事業を拡大することだけだ」と語った。