長期レビュー

三洋電機「eneloop bike」(4/4)

〜旧東海道を激走。バッテリー1本で何キロ走れるのか
by 白根 雅彦
 

「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



東京都中央区の日本橋

 東京都中央区の日本橋は、道の「起点」だ。江戸時代には東海道や甲州街道など「五街道」の「起点」であり、現在においては国道1号や20号など7本の国道の「起点」である。東京から東西南北への主要道は、ここ日本橋から始まっている。すべての道は日本橋に通じる、といっても過言ではない。逆に言えば、すべての道に日本橋から行けるわけだ。

 eneloop bike連続レビューの最終回となる今回は、この日本橋から旧東海道、つまり国道15号と国道1号をバッテリーがもつ限りひたすら走り、eneloop bikeの航続距離を実測する。前回までの記事は、その1その2その3からご覧頂きたい。

日本橋からスタート

 今回の試乗のスタート地点は、東京都中央区の日本橋にある、7本の国道の起点であることを示す「道路元標」の前だ。

 ルートは江戸時代までの東海道、いわゆる旧東海道をたどる。横浜までは国道15号線、横浜からは国道1号、この道のりをひたすらeneloop bikeで走り、満タンのバッテリーでどこまで行けるかを調べる。なんとも体を張った企画だが、乗り手は引き続き、運動不足ライターの筆者が担当する。ちなみに筆者の体重は62kgほど。装備含めて70kg以下である。

日本橋の道路元標元標から各地への距離

 どこまで走れるかは、正直、まったく予想できなかった。

 eneloop bikeのカタログスペックには「オートモードで100km」とあるが、それだけ走れば、小田原も超えて箱根にまで達してしまう。だが、電動アシスト自転車のカタログスペックは、停止・発進という公道でももっともバッテリーを消費する動作が入っていない参考値なので、実際にそれだけ走れることは滅多にない。前回、都内の坂を巡ったときは、20kmちょっとでバッテリーは切れてしまった。坂道を意図的には走らない今回は、それよりも長く走れるとは思うが、どこまで走れるかはまったく未知数だ。

 なお、今回の試乗では、走行中のアシストモードは、オートモードに固定した。また、状況により歩道を走ることもあるが、基本的に車道を走っている。食事や休憩でルートをそれる場合は、予備のバッテリーを用いるか、あるいはアシストを切っている。

スタート前。まだまだ元気いっぱいだぞ日本橋を漕ぎ出す筆者。ママチャリにサングラスが相変わらず不審者過ぎる

 午前11時50分、道路元標前からスタートした。

 まずは日本橋から中央通りを南下する。新橋あたりまでは、歩道も広く、歩行者優先の町を楽しむための道となっていて走りやすい。信号は多いが、eneloop bikeはアシストのおかげでスタートダッシュに優れるので、快適に走ることができる。

 新橋を過ぎたあたりから、車道が広くなり、歩道は狭くなる。オフィス街を走る無機質な道だ。車線は多いが、交通量は少ないため、車道もわりと自転車で走りやすい。

 今回はeneloop bikeにサイクルコンピュータを搭載し、速度や走行距離を測定した。

 歩道を走ると、歩行者や障害物、段差のために時速15km以上は出しにくい。車道を走っていると、だいたい時速20kmくらいまで快適に走ることができる。アシスト自体は時速25kmまで出力されるはずだが、この時速20kmに壁があるように感じる。一瞬でも、時速22km以上で走るには、それなりに気合いを入れて漕がないと達しない。やはりママチャリ仕様の3段変速だと、このあたりが限度だろう。

あっけなく品川到着

 12時30分、日本橋から7.2km ほど走り、JR品川駅にたどり着いた。旧東海道の最初の宿場であり、今回の試乗での最初の休憩地点だ。思ったよりも時間がかかっていない。電池残量はまだ満タン表示のまま。これは意外と遠くまで行けるかもしれない、そんな予感がしてきた。

品川駅の筆者。まだまだ余裕がある品川駅前での走行距離

品川を出てすぐ、1目盛り消費

1目盛りを消費

 しかし、13時5分ごろ、品川から出てすぐ、日本橋から9.5kmほどの地点で、電池残量の表示が1目盛り減った。ほぼ10km。eneloop bikeの電池残量は、3つのLED+最後のLEDの点滅の4段階で表示される。1つの目盛りで10kmも走れているので、少なくとも20km以上は走れそうだ。

多摩川越え。これで東京脱出

多摩川。これを超えれば神奈川に入る

 東海道2番目の宿場は川崎だ。

 川崎までも国道15号をたどる。品川を出て山手線の外に出ると、そこはもうオフィス街ではない。京急本線に沿って、産業道路のような道が続いていく。品川・川崎間の地図上の距離で12km、自転車ではけっこう長い。

 第2の宿場である川崎では、国道15号沿いにある稲毛神社で休憩を取った。サイクルコンピュータによると、走行距離はこれまでで19.2kmとなっている。カメラマンとして電車で随行する編集者と落ち合い、駅前でハイカロリーなラーメンと水餃子を補給。また自転車にまたがった。

川崎は国道15号線沿いの稲毛神社稲毛神社までの走行距離

川崎通過直後、さらに1目盛り消費。いよいよ残り1目盛りに

 そろそろ20kmに到達する。電池残量表示の次の1目盛りが減るとすればそろそろか、と待ち構えていたら、案の定、川崎を出てすぐに次の1目盛りが減った。場所は八丁畷駅の近く、「ゴム通り入口」の交差点あたり。ほぼ20kmの地点だ。

 2目盛り減ると、残るは1目盛りだけとなる。まだ3分の1以上残っているのに、1目盛りだけになると心細い。時刻は15時15分。日はだいぶ傾いている。神奈川から次の宿場までの距離も長い。旅情をそそる雲の浮かぶ美しい空が、心を不安にさせる。

2目盛り減って残り1目盛り。とたんに不安になる旅情をそそる雲
横浜そごう前。だいぶ疲れてきている筆者。もう少しで倒せるぞっ(筆者を)横浜そごう前までの走行距離。30kmを超えた

 次の宿場は本当ならば神奈川だが、バッテリーの残量を考え、編集者とは隣の横浜で落ち合うことにした。横浜そごうの前で、サイクルコンピュータの走行距離は31.4kmだった。川崎でアシストを切って昼食のために走ったので、距離はちょっと長めに測定されている。本当は 31km弱くらいだろう。

最後の1目盛りもほどなく点滅

最後の目盛りが点滅に変わった(写真では消えて見えるが、実際には点滅中)

 思ったよりも、走れた。しかし、最後の目盛りもすぐに消えるだろう、そう思って横浜を出発すると、まだ横浜駅付近、高島町の交差点で最後の目盛りが点滅に変わった。走行距離の表示は32.1km、時刻は16時20分だった。

 筆者の乗り方だと、だいたい10kmで電池1目盛りが消費されるらしい。最初の1目盛りだけ10kmを切っているが、eneloop bikeは満タン充電に近いと回生発電による充電が行なわれないので、その影響があるのかもしれない。

 もうバッテリー切れまで間がなさそうだ。しかし横浜から次の宿場、保土ヶ谷までの距離は5km程度と短い。行けるかもしれない。いや、きっと、行ける。そう信じて漕ぎだした。

 しかし、アシスト付きとはいえ30kmも走ると、疲労のせいか、ペダルが重たくなってくる。横浜を出ると、少しだけ起伏のある内陸ルートに入り、ごくわずかな傾斜の坂道も混じってくる。出発直後には余裕だった時速20kmペースも維持が難しい。

 横浜からは国道1号線を走る。実は旧東海道は別のルートでもあるのだが、わかりやすさ優先で国道1号線を走ることにした。このあたりまでくると、車道も2車線のみで、道はそれほど広くはない。横浜からは保土ヶ谷、戸塚までバイパスが通っているが、一般道もそれなりに車が多い。

なんとか保土ヶ谷到着。いよいよ佳境に

保土ヶ谷の趣ある商店街を抜ける

 果たして、保土ヶ谷に到着した。サイクルコンピュータの走行距離は35.0km。よくも走ったものだと思う。時刻は17時5分。電池残量は、最後の1目盛りが点滅をしている状態だ。もう、いつバッテリーが切れてもおかしくない。

 この日の横浜での日の入りは17時45分なのだが、すでに太陽は見えない。疲労のたまった両の太ももが重たい。当初の計画では、もう1本用意した予備バッテリーにより自走して東京に戻ることも考えていたが、さすがに時間的にも体力的にも無理がある。編集者がeneloop bikeを積み込めそうなレンタカーを借りに行く。自走して帰らないでよい、このことがわたしの両の太ももに力を与える。ゴールはもう少しだ。

保土ヶ谷駅に到着保土ヶ谷までの走行距離、およそ35kmおそらく最後となるであろう旅へと出発

 次の宿場は、戸塚だ。保土ヶ谷からの距離は約9.2km。電池残量的に考えると、戸塚にたどり着くことは無理そうだ。しかしだからといって、ここで旅を終えるわけにはいかない。おそらく最後になるであろう区間に、漕ぎだした。

 保土ヶ谷駅からの国道1号は、道の整備が行なわれているようで、歩道も車道も走りにくい。ときとして大きく迂回し、歩行者用の傾斜路を使うことを余儀なくされる。この傾斜が、eneloop bikeのバッテリーに最後のとどめを刺したようだ。

ついにバッテリー切れ。総走行距離は37km

 保土ヶ谷から出て2kmほど、高速道路の入り口である狩場インターあたりで、eneloop bikeの電池は切れ、最後の点滅は高速点滅に変わった。アシスト出力がされることはなくなった。時刻は17時35分。サイクルコンピュータの走行距離は 37.2kmとなっている。

 電池表示が最後の点滅に切り替わってから約5km。3つの目盛りが、それぞれ10kmずつ走れたことを考えると、点滅状態はちょうどそれらの半分だったわけだ。

 バッテリーを使い切ると、アシストは出力されないが、回生発電は行なえる。このまま走っても、長い下り坂などの回生発電で十分に充電されれば、またアシスト出力が復活するはずだ。しかし今回は、長い坂道もなく、体力は多少残っていても気力が残っていなかったので、そこまでは確認しなかった。

eneloop bikeのバッテリーとともに筆者の気力も切れている模様アシストが止まった地点の最後の走行距離表示クルマに電池切れのeneloop bikeを積み込む。なんだか寂しい

日常利用では問題のない航続距離

 半日かけて37kmを eneloop bikeで走った感想としては、これだけの長距離・長時間でも、アシストが効いている限り、それほどひどい疲労はなかった。そもそもママチャリ仕様3段変速のeneloop bikeには重たいギアがないので、高速走行はできないが、逆に筋肉への負担は小さいようだ。また、これだけ長時間乗ったのに、お尻や腕が痛くなることもなかった。

 走行距離は走り方や道によって大きく変わるところだが、とりあえず、筆者が東海道を走る分には、eneloop bikeのリチウムイオン電池モデルのオートモード固定で約37kmほど走れることがわかった。だいたい1目盛りあたり10kmで、3目盛り消費後の点滅状態で5km、という感じだ。東海道の宿場はほぼ10km間隔。“東海道三次半”を制覇したといえる。

 eneloop bikeのリチウムイオン電池モデルは、カタログスペック上はオートモードで100km走れるとしている。しかし、信号などで発進・停止の多い公道では、その半分も難しそうだ。

 ただ、賢明な読者ならお気づきかもしれないが、日常利用であれば、1日で電池を使い切ることは難しい。よほど急な坂道の多い地域での利用や、1日中走るツーリングでもない限り、電池が足りないということはそうそうないだろう。

 長距離ツーリングを自転車で楽しみたいというのであれば、スタンダードなママチャリタイプではなく、それなりにスポーティな自転車に乗るべきだろう。その点で、ヤマハとブリヂストン、パナソニックは、スポーツタイプの電動アシスト自転車を出しているが、三洋には今のところ3段変速のこのモデルしかない。

 「電動アシスト自転車で長距離ツーリング」、というニーズがどのくらいあるかわからない。だが、今回37kmを走り、加速時の負担が少ないだけに、乗っていて楽しかった面もある。今後はスポーツタイプなど、eneloop bikeのラインナップの拡充に期待したいところだ。




2009年3月26日 18:29