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デザインだけじゃない、作り手視点で見る「アルミ削り出し」の魅力

 アルミ削り出し(あるみけずりだし)とは、言葉の通り、機械の部品や筐体などをアルミニウム合金の塊を削っていくことで形成する手法のことで、「切削加工」とも呼ばれる。アップルが自社のパソコン「MacBook」2008年モデルから採用したことでも話題を集めた。

Cerevoのライブ配信機器「LiveShell PRO」の筐体はアルミ削り出し

 エンドミル(刃)を使ってアルミを削って成形するためデザインの自由度が高く、平板や押出材の曲げ、溶接だけでは難しいデザインも実現できる。ある程度の自由な成形ができ、表面処理も美しいことがアルミニウム削り出し成形のメリットである。

 なお、アルミ削り出しよりも自由な形状が作れるダイキャスティング成形という手法もあるが、この手法では「ADC12」といったダイキャスティング専用の合金を使う必要がある。これは削り出しで主に使われる6000版系のアルミニウム合金に比べるとアルマイトの乗りが悪く、サンドブラスト時の表面仕上げもアルミ削り出しに比べると品質が低くなる。

 アルミ素材は腐食しやすいため、表面に酸化アルミニウム被膜を作ることで耐食性の向上を図る「アノダイジング(陽極酸化加工、いわゆるアルマイト加工)」と呼ばれる後加工を施すことが一般的。

 パーツ1つ1つを削って形成するため、金型を起こして量産するパーツや筐体に比べると単価そのものは高くなるが、コスト面における削り出しのメリットはそもそも金型を起こす必要がないことにある。

 金型を起こす場合はパーツの単価に加えて高額な金型の製作コストが発生しているため、実際には生産したパーツの数で金型の製作費用を割った金額を単価に加える必要がある。そのため、金型を使って生産すればするほどトータルのコストは下がるが、生産数が少ない場合、金型そのものの製作費用がコスト負担になることもある。生産数が少ないハードウェア・スタートアップにとって、削り出しで筐体を作るのか、それとも長期的に見て金型を起こすのかは非常に重要な判断だ。

 加えて、先に述べたアルミニウム素材の質感とダイキャスティング金型成形との相性問題もある。金型を起こして単価を下げたいが、ダイキャスティング用合金ではアルミらしい表面質感が出ないというケースでは、素材を樹脂等に変更するか、削り出しを選択せざるを得なくなる。一般的にはここで樹脂が選ばれるのだが、質感と金属の剛性の両取りを狙ってアルミ削り出しを選んだ、と言われるのが前述のアップル社の事例である。

 また、素材としてのメリットとデメリットを考慮することも重要。アルミは電波を遮断する特性があるため、携帯電話や無線LANといった電波を使用する機器で採用した場合、設計によっては電波強度を下げてしまうことにもなる。一方でこの特性は電子機器から発せられるノイズ(EMI、Electro-Magnetic Interference)を防ぐという役割も持つため、EMIの各国規制をクリアするためには、アルミ削り出しが有利となる。

 アルミ削り出しの業者は国内外に存在。国内に比べると中国の業者は非常に安価で、成人男性の手のひらに乗る程度のサイズであれば、500個生産時で1個あたり10~20ドル程度で製作できる。

 なお、アルマイトは以前に理化学研究所が登録していた商標であり、日本以外では通じない用語。できるだけ「アノダイジング/アノダイズ」と覚えておいたほうがいい。

この記事は、2017年10月17日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

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