【第6回国際水素・燃料電池展】
モバイル充電用小型燃料電池や次世代エネファームなどに注目が集まる

 燃料電池に関する世界最大の展示会「第6回国際水素・燃料電池展(FC EXPO 2010)」が3月3日~5日の日程で東京ビッグサイトの東展示棟で開催されている。当日入場料は5,000円だが、web上で招待券をプリントアウトして持参すると無料になる。

 家電Watchでは、モバイル用燃料電池や住宅用燃料電池などの一般消費者向けの製品を中心に紹介する。

第6回国際水素・燃料電池展会場の東京ビッグサイトと最寄り駅である国際展示場駅(りんかい線)の間を、燃料電池バスが結んでいた

ストラップサイズの充電用小型燃料電池

 モバイル用燃料電池では、2009年10月に東芝がモバイル機器の充電用小型燃料電池「Dynario(ディナリオ) PF60A000001」を発売したことが最近では最大のトピックスだろう。残念ながら東芝は今回出展しておらず、実物は見られなかった。

 しかし東芝の次を狙う技術ベンチャーがモバイル機器の充電用小型燃料電池を出展しており、来場者の注目を集めていた。燃料電池ベンチャーのアクアフェアリー(本社は京都市、2006年6月設立)が小型燃料電池「FC-STICK」シリーズを実物出品した。

小型燃料電池「FC-STICK」を使って小型扇風機を動かしているようす。手前の携帯電話機を充電しているのは超小型モデルの「micro FC-STICK」。なお側面に細かな穴のアレイがあるのは酸素を取り入れるため。アクアフェアリーの展示ブースで撮影

 「FC-STICK」シリーズは外形寸法および出力の違いでいくつかの品種がある。標準モデルであるFC-STICKは携帯電話機やPDAなどの充電用を想定して開発されたモデルで、大きさが19×19×58mm(幅×奥行き×高さ)で柱状をしており、重量は26gと軽い。出力電圧は5.0V、出力電力は1.5~2.0W、出力エネルギーは3Wh。

 超小型モデルの「micro FC-STICK」はモバイル機器のアクセサリとしてストラップで吊るして使うことができるタイプだ。大きさは14×14×36mm(同)、重量が10gと小型軽量で、出力電圧は5V、出力電力は0.6~0.8W。出力エネルギーは0.8Whである。

 展示ブースでの説明によると、標準モデルの出荷を2010年夏には始めたいとしている。価格は燃料電池本体が2,000円前後、燃料カートリッジが100円前後と相当に安い。

 「FC-STICK」シリーズで採用されている燃料電池技術は固体高分子型(PEFC)。燃料カートリッジは水と水素発生剤で構成されている。水素発生剤が重要なノウハウとなっているようだ。燃料カートリッジが発生した水素を燃料としてPEFCが発電する仕組みである。副生成物は水だけであり、東芝が発売したDynario(直接メタノール型燃料電池(DMFC))と違って炭酸ガスは発生しない。

直接メタノール型燃料電池の試作品で小型扇風機を動かしているようす。フジクラの展示ブースで撮影

 モバイル機器の充電用燃料電池ではほかに、大手ケーブルメーカーのフジクラが試作品を参考出品していた。大きさは150×90×35mm(同)で、重量は300g。平均出力電力は4Wと大きめ。燃料電池技術は直接メタノール型(DMFC)である。

燃料電池で電動アシスト自転車の走行距離を延ばす

 燃料電池の自転車応用では、燃料電池を搭載した電動アシスト自転車を開発したとLPガスの大手ベンダーである岩谷産業が2009年10月に発表していた。同月から、関西空港で実証実験(実際の使用による評価)を進めている。岩谷産業は第6回国際水素・燃料電池展に出展するとともに、この電動アシスト自転車「水素自転車」を参考出品した。

 水素自転車は独自開発の燃料カートリッジ(水素吸蔵合金によるカートリッジ)を使い、固体高分子型燃料電池(PEFC)で発電する。発電した電力をDC-DCコンバータを介してリチウムイオン二次電池に充電する。リチウムイオン二次電池でモーターを回し、自転車のペダルを踏む力をアシストする。

 開発した水素自転車の全長は1,563mm。重量は31.0kgとかなり重い。航続距離は45kmである。燃料電池の連続発電時間は最大3時間。前照灯と尾灯を備えており、リチウムイオン二次電池の発生電力を利用して点灯する。尾灯が点灯するのは、夜間の視認性を高める上で有効だろう。

燃料電池を搭載した電動アシスト自転車。後部に燃料電池と燃料カートリッジを載せている。岩谷産業の展示ブースで撮影展示ブースでは、水素吸蔵合金の燃料カートリッジを来場者に見せていた。岩谷産業の展示ブースで撮影

 このほか衛星放送機器メーカーであるマウビックが、燃料電池を搭載した電動アシスト自転車を参考出品していた。市販の部品を調達して組み立てた試作品である。ロードタイプの自転車をベースにしたモデルで、ホイール・イン・モーター(車軸内にモーターを装備)に改造するともに電池を取り付けてある。燃料電池の出力を二次電池に蓄えてモーターを動かす仕組みで、二次電池(バッテリー)は12V出力品を直列につないで24V出力とし、モーターを駆動している。燃料電池技術は不明。

燃料電池を搭載した電動アシスト自転車の試作品。マウビックの展示ブースで撮影サドルの後部に燃料電池、フレームに二次電池を取り付けてある。マウビックの展示ブースで撮影

次世代の「エネファーム」が実証実験中

 住宅用給湯/発電装置「エネファーム」関連では、次世代の燃料電池である固体酸化物型燃料電池(SOFC)を使った住宅用給湯/発電システムの展示が目立っていた。SOFC給湯/発電システムの実証実験が産官共同プロジェクトとして進められているからである。

 エネファームは都市ガスあるいはLPガスを燃料として水素を取り出し、燃料電池で発電するとともに、発電にともなう排熱を利用して水を暖める。燃料電池を内蔵する発電ユニットと、温水を貯蔵する貯湯(ちょとう)ユニットで構成される。2009年春に一般家庭向けの販売が始まった

 現行のエネファームは燃料電池に、固体高分子型燃料電池(PEFC)を使っている。PEFCは動作温度が70~90℃と低く、起動と停止が簡単だという特徴を備える。ただし発電効率はそれほど高くなく、35%~45%にとどまる。また触媒として高価な白金(Pt)を必要とすることと、一酸化炭素が白金を傷めるので燃料ガスから一酸化炭素を除去する工程が必要なため、システムのコストが増加してしまう。

 これに対して固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、発電効率が45%~55%と高く、触媒を必要としない。発電効率が高いことは、同じ電力を発生するために必要な燃料が少なくて済むことを意味する。すなわち燃料コストが下がる。ただしSOFCには700℃~1,000℃の高温で動作させるために、起動と停止に時間がかかる、電解質(固体酸化物セラミックス)の劣化が生じるといった課題がある。

 SOFCを使った住宅用給湯/発電システムの構成そのものは、既存のエネファームとほとんど変わらない造りで、発電ユニットと貯湯ユニットで構成される。

 第6回国際水素・燃料電池展では、住宅用SOFC給湯/発電システムの実証実験を紹介する展示ブースが設けられ、システムの実物が展示されていた。展示したのはガスター/リンナイの共同グループ、京セラ、新日本石油、TOTO、トヨタ自動車/アイシン精機の共同グループである。

ガスター/リンナイの共同グループが開発した住宅用SOFC給湯/発電システム。左手前が発電ユニット、右奥が貯湯ユニット。出力700W、目標発電効率42%、使用燃料は都市ガス。貯湯タンク容量は80L、貯湯温度は75℃。新エネルギー財団の展示ブースで撮影京セラが開発した住宅用SOFC給湯/発電システム。左手前が発電ユニット、右奥が貯湯ユニット。出力700W、目標発電効率45%、使用燃料は都市ガス。貯湯タンク容量は70L、貯湯温度は80℃。新エネルギー財団の展示ブースで撮影新日本石油が開発した住宅用SOFC給湯/発電システム。左手前が発電ユニット、右奥が貯湯ユニット。出力700W、目標発電効率45%、使用燃料は専用灯油。貯湯タンク容量は70L、貯湯温度は70℃。新日本石油の展示ブースで撮影
TOTOが開発した住宅用SOFC給湯/発電システム。左手前が発電ユニット、右奥が貯湯ユニット。出力700W、目標発電効率45%、使用燃料は都市ガス。貯湯タンク容量は70L、貯湯温度は75℃。新エネルギー財団の展示ブースで撮影トヨタ自動車/アイシン精機の共同グループが開発した住宅用SOFC給湯/発電システム。使用燃料は都市ガス。左手前が発電ユニット、右奥が貯湯ユニット。出力700W、目標発電効率45%、使用燃料は都市ガス。貯湯タンク容量は70L、貯湯温度は70℃。新エネルギー財団の展示ブースで撮影




(福田 昭)

2010年3月4日 13:59