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第31回:燃料電池とは



水素を供給し続けることで、長時間の使用が可能

 燃料電池は、一次電池(乾電池)や二次電池(充電池)と同様、化学反応を利用して電気を発生させる装置です。ただし、燃料電池は“長く使える”という特徴があります。

 一次/二次電池では化学反応を起こす物質は電池内部に充填されているものを利用するため、物質が終わると電気を取り出せなくなります。それに対して燃料電池は、化学反応を起こす物質を外部から供給することで発電するので、物質を供給し続ける限り継続して発電が行なえます。つまり、一次電池のように使い捨てではなく、また二次電池のように充電することなく発電できるという点が、燃料電池の大きな特徴です。

 燃料電池で発電する原理は、水の電気分解の逆の化学反応です。水は電気を流すと、水素と酸素に分解されます。小学校や中学校の理科の実験ではお馴染みですが、燃料電池ではこの逆で、水素と酸素を反応させることで、水と電子(電気)を発生させます。これが燃料電池の発電の仕組みとなります。


家庭用の給湯・発電装置「エネファーム」。燃料電池の仕組みを応用している 「エネファーム」で電気を発生する仕組み。都市ガスから取り出した水素を酸素と反応させて発電する

有害物質やCO2を発生しないクリーンな発電システム

 燃料電池を利用した発電時には、電気とともに排出されるのは水のみとなります。窒素酸化物などの有害物質はもちろん、二酸化炭素(CO2)も一切発生しません。そのため、非常にクリーンで環境に優しい発電システムと言えます。

 そこで注目されているのが、電気自動車での利用です。燃料電池を利用した電気自動車は、走行時に水しか排出されませんので、非常に環境に優しい「究極のエコカー」として期待されています。

 また、燃料となる水素を供給するだけで発電が行なえますので、電源の取れない場所での長時間利用を想定した、ノートパソコンや携帯機器の電源としての利用も研究されています。液体水素を封入したカートリッジがコンビニなどで扱われるようようなれば、まさに乾電池感覚で利用できるようになるでしょう。

 家庭用としては「エネファーム」があります。これは、家庭で利用する給湯・発電装置として各地のガス会社が展開するシステムで、燃料電池の原理を応用したものです。正式名称は「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」というもので、2009年4月より一般販売される予定です。


燃料電池は地球環境にやさしい“エコカー”としての利用が期待されている(写真はトヨタの燃料電池ハイブリッド車「FCHV-adv パナソニックが10月に発表した、燃料電池のマルチ充電器。燃料としてメタノール水溶液を200cc含んでいる

エネファームでは都市ガスから水素を取り出む。省エネ、CO2の削減に貢献

エコプロダクツ2008にて展示された、エネファームのカットモデル(パナソニックのブースより)
 燃料電池を利用して発電するには、外部から水素と酸素を供給する必要があります。酸素は空気中に存在していますので、そちらを利用することになりますが、水素は空気中から取り出すことはできませんので、どこかから持ってくる必要があります。

 水素の供給方法としては、電気自動車では水素スタンド(ガソリンスタンドのような水素供給施設)からタンクに液体水素を充填したり、携帯機器やノートパソコンなどのモバイル機器では、水素の代用となるメタノール(CH4O)が入ったカートリッジを利用する、ということが想定されています。

 それに対しエネファームでは、都市ガスから水素を取り出すという方法が利用されます。都市ガスの主成分として利用されているメタン(CH4)は、1個の炭素原子に4個の水素原子が結合した物質です。そして、メタンと水を反応させると、水素と一酸化炭素(CO)または二酸化炭素(CO2)に変化します(CH4+H2O=3H2+CO、CH4+2H2O=4H2+CO2)。このような反応によって、ガスから取り出した水素を発電に利用しています。ちなみに、この時に発生するCOは、水や酸素と反応させ、最終的にCO2として排出します。

 エネファームではまた、ガスから水素を取り出したり発電するときに発生する熱を利用して、給湯や暖房を行なう仕組みも盛り込まれています。エネルギーの利用効率は80%近く、非常に高効率を実現するとされています。エネルギーの利用効率が高いほど省エネルギーにつながりますので、エネファームは省エネ性にも優れたシステムと言えるでしょう。

 加えて、CO2発生量も削減できると言われています。メタンから水素を取り出す過程でCO2が発生しますが、発電時にはCO2が発生しませんので、火力発電所で発電した電気を使用する場合と比較して、CO2の発生量を45%も減らせるとされています。実際には、原子力発電や太陽光・風力・水力発電など、CO2を発生しない発電システムもありますので、トータルではそこまでの差はないと思われますが、石油や石炭を燃焼させて発電する場合と比較すると、大幅なCO2の削減につながることは間違いありません。


エネファームは電気とともに熱も発生。家庭の電気と給湯の両面で貢献する 発電効率の高さもエネファームの特徴 CO2発生量の大幅な削減にも貢献できる

水素の扱いやインフラ整備、コストなど課題が山積み

燃料電池ユニットのカットモデル。エネファームの心臓部となるこのユニットも製造コストが高く、販売価格に反映されてしまっている
 省エネかつCO2の削減に貢献できる燃料電池ですが、現状では課題も多く残されています。

 まず、燃料となる水素の扱いです。水素は非常に燃えやすく、簡単に発火・爆発する危険があるために、特殊な貯蔵タンクやボンベを利用しなければなりません。また、水素スタンドなど水素を供給するインフラもまだほとんど整備されていません。さらに、燃料電池自体の耐久性にも改善の余地が残されています。

 そして、最も大きな課題となるのがコスト面です。特殊な貯蔵タンクやボンベを使用しなければならないことや、化学反応を起こして電気を取り出す心臓部分の製造コストが高いことなどから、導入コストも非常に高くなってしまうのです。例えば、燃料電池車は一部市販されているものもありますが、ごくわずかの台数がリース販売されただけで、そのリース料も非常に高額です。もし価格を付けて販売するとしたら、1台1億円ぐらいになるのではないか、と言われているほどです。

 エネファームはより一般販売が予定されていますが、開発メーカーのひとつであるパナソニックは、初期導入費用について「まずは100万円以下をターゲットとし、将来的(2015年くらいを目安)には60万円以下を実現したい」としています。やはりかなりの初期導入コストがかかると言えます。

 燃料電池は、多くの課題が残されていることから、普及にはまだ時間がかかるでしょう。しかし、効率やエコの観点から、非常に有望な発電システムであることは間違いありません。



【燃料電池】の、ここだけは押さえたいポイント

・「水の電気分解」の逆の反応で電気を発生
・水素を供給し続ければ長い間使える
・発電時に水しか発生しない、クリーンな発電システム
・一般家庭では、給湯・発電に利用できる「エネファーム」がある
・水素スタンドなどインフラの整備、装置自体のコスト削減など、課題が多い

2009年1月9日 初版


URL
  現代家電の基礎用語 バックナンバー
  http://kaden.watch.impress.co.jp/cda/word_backnumber/

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2009/01/09 00:03
平澤 寿康
1968年、香川県生まれ。1990年代前半にバイト感覚で始めたDOS/V雑誌のレビュー記事執筆を機にフリーのライターとなる。雑誌やWeb媒体を中心に、主にPC関連ハードのレビューや使いこなし、ゲーム関係の取材記事などを執筆。基本的にハード好きなので、家電もハード面から攻めているが、取材のたびに新しい製品が欲しくなるのが悩ましいところ。

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